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Linear S Decoded

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三田格   Oct 03,2014 UP
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 2作めでかなり雰囲気が変わった。あまり暗くなくなった。ヨーロッパ全体のテクノを見てもこれはめずらしい(ムーンバトンのようなバカっぽいものはもちろん除きますよ)。ラスティは底抜け脱線的な例外だとしても、最近だとパッテンぐらいしか知的な面もあるのに「暗くない」というムードを表現していたプロデューサーはいなかった。「明るい」ではなく「暗くない」である。抑制は充分に効いているし、センチメンタルな様相ももちろん覗かせる。ただし、〈モダン・ラヴ〉やロシアから東欧にかけて支配的な美学とは一線を画するものがある。そういったインダストリアル・リヴァイヴァルに取り巻かれながらも、そのようなフォースにさまざまなフェイズで抗っているという感じだろうか。昨年のデビュー作『Strgths』が〈モダン・ラヴ〉の影響下にあったことは明白だったけれども、ここにはもはやミニマルやインダストリアルのクリシェは薄らぎ、どこか雲をつかむような感じで自分たちのオリジナリティへとそれなりの一歩を踏み出している。いや、ここまで変わるとは。

 スウェーデンからSHXCXCHCXSH……「Hは発音しない、後はそのまま読めばいい(The Hs are silent. Except that, you do it like it’s written)」ということはSXCXCCXS…エス・エックス・シー・エックス・シー・シーエックス(エス)と読むのだろうか? サウンドクラウドを開くと、何もアップされていなくて、ただ「曲のシェアなんかしない(SHXCXCHCXSH hasn’t shared any public sounds.)」と書かれているだけ(Dazed Digitalが全曲アップしているけど)。当然、ふたりの名前もわからないし、ラーメンの好みなどもわからない。あるのは音とヴィジュアルだけで、これまでに2枚のテクノ・アルバムとシングルが5枚。そのほとんどはシフティッド&ヴェントレスによる〈エイヴィアン〉からのリリース――ガイ・ブルーワーがドラムン・ベースのコミックス(Commix)から脱退してテクノに「シフト」したレーベルで、ブルーワー自身も昨年はシフティッド名義の2作め『アンダー・ア・シングル・バナー』がインダストリアル方面で高い評価を得ている。ちなみにコミックスという名義はポケモンに由来するらしい。

 なぜか2014年は誰かと音楽を共有したいとはなかなか思えなかったので(レヴューも1枚しか書かなかったなー)、このような(かつての〈アンダーグラウンド・レジスタンス〉を思わせる)頑なな姿勢には絶大な興味を掻き立てられてしまった(それこそマッド・マイクによる編集盤『デプス・チャージ1』(93)に記されていた「我々は絶対に浮上しない(We Will Never Surface)」という宣言が頭をよぎったり)。どれぐらい続くかはわからないけれど、プライヴァシーを隠すことがある種の表現と化しているのは事実だし、それが可能になってしまったがゆえに誰とでもはつながりたくないというのはむしろ普通の感覚に思える。おもしろいのは彼らが言語(と水)に興味を持っていること。アルバム・タイトルの『Linear S Decoded』は、「S」が「A」だと「古代ギリシア語解読」という意味になるので、暗に「SHXCXCHCXSH語」というものがあるという想定なのだろう(“螺旋状の対話”とか“雄弁”のミス・スペルのような曲名もある)。エイフェックス・ツインがデビュー・アルバムとなる『セレクティッド・アンビエント・ワークス』のタイトルをギリシア語でつけていたのも似たようなことだったのか、異なる言語体系を持つということは、それによって成立するコミュニティを考えざるを得ないから、現在とは異なる集団性を(無意識にでも)夢想していることはたしかだろう。それも含めて“ジ・アンダー・ショア”や“サブ・ミッション――ジ・アトランティック・ヴィジョン”のような曲は若さに任せたような実験性が小気味よく、まだまだどちらにでも転がる可能性を感じさせる。移民問題を意識しているのか、ジェフ・ミルズが延々とブレイクビーツを操っているような“ザ・リぺリング・オブ・ザ・クォンタイテイティヴ・インヴェイジョン”からスウェーデンの大先輩にあたるカリ・レケブッシュをグルーヴィーに煮込み直したような側面まで、全体の完成度にはもう少しあるかなという時期が僕にはいちばんおもしろい。

三田格