ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Tohji - angel (review)
  2. Haruomi Hosono ──細野晴臣のドキュメンタリー映画が公開 (news)
  3. Kali Malone - The Sacrificial Code (review)
  4. Undefined ──注目のダブ・ユニットがUSの〈ZamZam Sounds〉から初のリリース (news)
  5. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第8回 電車の中で寝転がる人、ボルタンスキーの神話 ――2019年8月11日に見たものの全て (columns)
  6. New Order ──すでに話題のニュー・オーダー来日情報 (news)
  7. Battles ──バトルスが新作を引っさげ来日 (news)
  8. Calexico / Iron & Wine - Years To Burn (review)
  9. Inoyama Land & Masahiro Sugaya ──イノヤマランドと菅谷昌弘の編集盤が、スペンサー・ドーランのレーベルからリリース (news)
  10. Ninjoi. - Masayume (review)
  11. アナキズム・イン・ザ・UK 第20回:ヤジとDVとジョン・レノン (columns)
  12. Laura Cannell - The Sky Untuned / Laura Cannell, Polly Wright - Sing As The Crow Flies (review)
  13. Solange - When I Get Home (review)
  14. Tunes Of Negation ──音楽にまだ未開の領域はあるのか、シャックルトンの新プロジェクトがすごい! (news)
  15. interview with Yutaka Hirose よみがえる1986年の環境音楽 (interviews)
  16. Tohji ──いま若い世代から圧倒的な支持を集めるラッパーが、初のミックステープをリリース (news)
  17. interview with South Penguin サイケデリック新世代が追い求める「美しさ」とは (interviews)
  18. interview with Vityazz インスト・バンドをなくしたい (interviews)
  19. Craig Leon, Jennifer Pike - Bach to Moog (review)
  20. R.I.P. Ras G (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Letha Rodman Melchior- Shimmering Ghost

Letha Rodman Melchior

AmbientDroneElectronicNoise

Letha Rodman Melchior

Shimmering Ghost

Siltbreeze

iTunes

橋元優歩   Jan 29,2015 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 昨年秋に癌によって55歳の生涯を閉じた音楽家、リーザ・ロッドマン・メルシオ。晩年はとくにノイズ、アンビエント、ドローンと、アブストラクトなサウンド・アートを追求し、際立った作品を遺した。ベスト盤でも発掘音源のコンピレーションでもなく、前作『ハンドブック・フォー・モルタル(Handbook For Mortals)』(2013)に次ぐオリジナル作としてリリースされた本作『シマリング・ゴースト』は、その名のとおりきらきらと──グルーパーやジュリア・ホルターや、メデリン・マーキーにエラ・オーリンズなど、アンダーグラウンドの突端の強く瑞々しい才能たちとまるで違わぬ輝きを放っていて、驚きと悼みの念に打たれてしまう。
 
 過剰なコンプによって結界のように展開されるメルシオの音響世界には、なるほど人ならぬ影ばかりが息づく。先述のエラやグルーパーばかりではなくハウ・トゥ・ドレス・ウェルの初期のプロダクションにも近い。「ウィッチ」と呼ぶかどうかはともかく、“Metius Fabricius”や“Taurus Mountains”のように、一方に電子音楽の黎明期を彷彿させる曲がある一方で、昨今トレンドの諸ワードを当てはめたくなるその現役感は、彼女の年齢を考えずとも畏敬すべきものだ。闘病生活は2011年からつづいたというが、ソロ名義でのリリースはその少し前からはじまり(2008年にハンドメイドのカセット作品などをリリースしている)、ちょうど2000年代末からいまにいたるアンビエントやドローンのモードが浮かびかがっている。そもそもが柔軟な人なのか、計算があるのか天然なのかと判じることはできないが、とても自然にいまという時間を受け入れておられたのだろう。この作品に刻まれているのは、年輪や円熟ではなく、またその否定でもなく、まして回顧や悔恨などでもありえず、時間が生きて動いたり止まったりする、その所作、その音だ。そんなふうに感じられる。

 メルシオ自身はピアノに管にギター、テルミンなどなんでもこなすマルチ・インストゥルメンタリストだが、ハープについては、ハープ奏者のメアリー・ラティモア(Mary Lattimore)を招いている。ハープはピアノとともに、彼女の音のテクスチャーを場面場面で色づける変数として大きな役割を負うもので、これらが出てくると、とくに彼女の肉声を錯覚する。旋律やハーモニーを成すものとしても、それは彼女のなかの線的な感情──メッセージに近いものとして感覚される。死期を自覚する中で作品を生む、遺作になることがわかっていて作品を編むというのはどんな心持ちだろうか。そんなことは音に接する上では不要な情報で、むやみに劇的な解釈によって作品をゆがめるなという向きもあるだろうけれど、筆者が最終的に本作を購入したのは、ひとえにその想像のなかに愉しみと悦びとを得ようと思ったからだ。フィジカルで手に入れたい作品とそうでもないものとの差は、私にとって装丁や作品の格の問題というよりも、その他人に寄せる曖昧な空想をすこしでも確信し悦びにするための補助となる、遺物のようなものかどうかということかもしれない。趣味のいいことだとはいわない。けれど『シマリング・ゴースト』には、たしかに彼女のゴーストとしての感触と、彼女の未来としてのフィジカルを感じられた。

橋元優歩