ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Lucrecia Dalt & Aaron Dilloway - Lucy & Aaron (review)
  2. Abstract Mindstate - Dreams Still Inspire (review)
  3. interview with Jeff Mills + Rafael Leafar 我らは駆け抜ける、ジャズとテクノの向こう側へ (interviews)
  4. Marisa Anderson / William Tyler - Lost Futures (review)
  5. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第6回 笑う流浪者、あるいはルッキズムに抗うための破壊 (columns)
  6. Cleo Sol - Mother (review)
  7. Columns 「実用向け音楽」の逆襲 ──ライブラリー・ミュージックの魅力を紐解く (columns)
  8. 地点×空間現代 ——ゴーリキーやドストエフスキー、ブレヒトや太宰の作品を連続上映 (news)
  9. Lucrecia Dalt - No Era Sólida (review)
  10. Wolf Eyes - I Am A Problem: Mind In Pieces (review)
  11. Tirzah - Colourgrade (review)
  12. Lawrence English - Observation Of Breath (review)
  13. P-VINE & PRKS9 Presents The Nexxxt ──ヒップホップの次世代を担う才能にフォーカスしたコンピがリリース (news)
  14. interview with BADBADNOTGOOD (Leland Whitty) 彼らが世界から愛される理由 (interviews)
  15. Columns Electronica Classics ──いま聴き返したいエレクトロニカ・クラシックス10枚 (columns)
  16. Little Simz - Sometimes I Might Be Introvert (review)
  17. Politics 消費税廃止は本当に可能なのか? (1) (columns)
  18. Saint Etienne - I've Been Trying To Tell You (review)
  19. Soccer96 - Dopamine (review)
  20. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第3回 映画『金子文子と朴烈』が描かなかったこと (columns)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Matthew Halsall & Gondwana Orchestra- Into Forever

Matthew Halsall & Gondwana Orchestra

Contemporary Jazz

Matthew Halsall & Gondwana Orchestra

Into Forever

Gondwana

Tower HMV Amazon

小川充   Oct 20,2015 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 マンチェスターのジャズ・レーベルの〈ゴンドワナ〉は、ナット・バーチャル、ゴー・ゴー・ペンギン、ママル・ハンズと、UKの新世代ジャズを牽引するアーティストを生み出してきた。中でもトランペット奏者のマシュー・ハルソールは、2008年のレーベル設立第1号アーティストであり、現在はレーベルを離れたサックス奏者のナット・バーチャルとともに、レーベルの屋台骨を背負ってきた。デビュー作の『センディング・マイ・ラヴ』を皮切りに、これまでに5枚のアルバムを発表しており、そこにはテナー・サックスのバーチャルが参加していた。一方、バーチャルの〈ゴンドワナ〉時代のアルバムにはハルソールが参加し、同時にプロデュースも手掛けるなど、両者は名コンビの間柄だ。このコンビは、英国ジャズの伝説的な楽団であるドン・レンデルとイアン・カーの双頭クインテットを現代に置き換えた存在と言え、彼らが1960年代中盤から後半にかけて行っていたモード奏法を咀嚼した演奏スタイルだった。そんなモーダル・ジャズが開花したのが2011年の3作め『オン・ザ・ゴー(On The Go)』である。

 ハルソールのバンドのもうひとつの特徴として、女性ハープ奏者のレイチェル・グラッドウィンの存在が挙げられる。彼女は2009年のセカンド・アルバム『カラー・イエス』から参加しており、これまた昔のミュージシャンにたとえるならアリス・コルトレーンのような存在だ。次第にハルソールの楽曲には東洋的なモチーフの作品が増えていくのだが、そうした場面では彼女のハープが琴や箜篌(中国のハープにあたる楽器)のような役割を果たしている。2012年の『フレッチャー・モス・パーク』ではヴァイオリンやフルート奏者も加わり、2014年の『ホェン・ザ・ワールド・ワズ・ワン』はゴンドワナのミュージシャンが結集したゴンドワナ・オーケストラとの共演。実際はオーケストラ編成ではなくセプテットを基本に、邦人の琴演奏家も交えて「清水寺」「嵯峨野竹林」のような和をテーマとした楽曲があり、アリス・コルトレーンに捧げた作品も披露している。ハルソールは作品を重ねるごとにディープでスピリチュアルな色彩を強めていったが、そんな彼の集大成と言える作品だ。

 それから1年ぶりの新作『イントゥ・フォーエヴァー』は、基本軸としては『ホェン・ザ・ワールド・ワズ・ワン』の延長線上にあるスピリチュアル・ジャズとなっている。バーチャルは不参加だが、ママル・ハンズのジョーダン・スマートがトランペットを演奏し、ハープと琴に加えてチェロ、ヴァイオリン、ヴィオラと弦楽器が厚みを増し、パーカッションも加わるなどして、今回は本当にオーケストラに近い編成へと進んでいる。そして、最大の特徴はシンガーをフィーチャーしている点だ。いままでは完全なインスト作品のみだったが、今回はジャマイカとリベリアをルーツに持つ女性シンガー・ソングライターのジョセフィーヌ・オニヤマ、ウェルカの作品にも参加する女流画家/インスタレーション作家/シンガーのバイロニー・ジャーマン=ピントをフィーチャー。ジョセフィーヌはもともとファンクなどを歌っており、“バッダー・ウェザー”や“オンリー・ア・ウーマン”に顕著だが、楽曲自体もソウルフルな歌声を生かしたものへと変化している。レイチェル・グラッドウィンのハープもアリス・コルトレーンと言うより、〈カデット〉時代のドロシー・アシュビーに近いイメージだ。全体の雰囲気としては、ノスタルジア77が2007年に残した傑作『エヴリシング・アンダー・ザ・サン』を思い起こさせる。また、US産ジャズとは異なるダークな雰囲気、品格の髙さが英国ジャズの伝統を引き継いでいる。カマシ・ワシントンの『エピック』を2015年のUS産スピリチュアル・ジャズの最高峰とするなら、本作はUK産のその最高峰となるだろう。

小川充