MOST READ

  1. Alan Vega - IT (review)
  2. interview with Subarashika この素晴らしか世界 (interviews)
  3. Okada Takuro ──岡田拓郎が思考を重ねに重ね、その果てに完成させたソロ作品とは? (news)
  4. Adam Rudolph's Moving Pictures - Glare Of The Tiger (review)
  5. Random Access N.Y. vol.93:ブルックリンのインディ・ロックは死なず Pill, Bambara, Weeping icon, Hubble @Alphaville 7/15/2017 (columns)
  6. 電気グルーヴ - TROPICAL LOVE (review)
  7. Loke Rahbek - City Of Women (review)
  8. Aphex Twin ──エイフェックス・ツインが新曲“korg funk 5”を公開 (news)
  9. interview with Shingo Nishinari 大阪西成人情Rap (interviews)
  10. 打楽器逍遙 1 はじめにドラムありき (columns)
  11. WWWβ ──これは尖っている! 渋谷WWWの最深部に新たな「場」が誕生 (news)
  12. KANDYTOWN - ──キャンディタウンがついにメジャー・デビュー (news)
  13. Mount Kimbie ──マウント・キンビーがニュー・アルバムをリリース (news)
  14. ドメニコ・ランセロッチ/Domenico Lancelotti - オルガンス山脈 (review)
  15. interview with IO - KoolBoyの美学 (interviews)
  16. Washed Out - Mister Mellow (review)
  17. Special Talk:OLIVE OIL×K-BOMB - 福岡ー東京、奇才語り合う (interviews)
  18. yahyel - ──この一風変わった名前のバンドをきみはもう知っているか? ヤイエルが500枚限定の初CD作品をリリース (news)
  19. 〈The Trilogy Tapes〉 ──C.Eショップだけで買えるTTTのTシャツ (news)
  20. ele-king vol.20 ──夏だ! 踊るにはいい季節。紙エレ最新号はThe XXと「クラブ・ミュージック大カタログ」 (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Dexter Story- Wondem

Album Reviews

Dexter Story

JazzPsychedelic

Dexter Story

Wondem

Soundway / Pヴァイン

Tower HMV Amazon

小川充   Jan 13,2016 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 フライング・ロータスにはじまり、とくに最近はカマシ・ワシントン、サンダーキャット、ブランドン・コールマンらジャズ系ミュージシャンの活躍もあり、活況を呈するロサンゼルスの音楽シーン。そもそもこうしたLAシーンが2000年代に形成されていく上で、重要な働きをなしたのがカルロス・ニーニョ率いるジャズ集団のビルド・アン・アークである。最初はカマシ・ワシントンのようなスピリチュアル・ジャズにはじまり、次第にフォークトロニカ的な方向へ向かっていったのだが、そうした音楽性を左右するキーマン的存在がヴァイオリンをはじめとしたマルチ演奏家/作・編曲家のミゲル・アトウッド=ファーガソンで、彼はいまも前述したアーティストたちの作品に参加し、その辣腕ぶりを発揮している。ビルド・アン・アークは他にも多くの才能を輩出したが、ドラマーのデクスター・ストーリーもそのひとり。2000年代半ばの彼は並行してカルロス・ニーニョといっしょにライフ・フォース・トリオというユニットもやっていたが、それはもう少しエレクトロニカ~ヒップホップ寄りのもので、LAのビート・シーンとジャズ・シーンを繋ぐ先駆的存在と言えるだろう。

 デクスター・ストーリーはドラムだけでなく、ピアノ、ギター、ベースなどあらゆる楽器を演奏するマルチ・ミュージシャンであり、作曲、編曲、指揮、音楽監督、プロデュースと何でもこなす才人だ。そのあたりはミゲル・アトウッド=ファーガソンにも通じるが、そもそもLAにはこうしたマルチな人間がひしめきあっている。そして、デクスター・ストーリーがその才を発揮したのが2012年のファースト・ソロ作『シーズンズ』だった。カルロス・ニーニョと共同制作したこのアルバムは、ドワイト・トリブルなどビルド・アン・アーク人脈から、ジメッタ・ローズ、エリック・リコらさまざまなシンガーも参加し、印象としてはビルド・アン・アークがソウル寄りになったピースフルなフュージョン・アルバムだった。そうした中にマリンバやパーカッションなどを多用したアフロ~カリビアンなモチーフも多く見られ、スピリチュアル・ジャズから初期アース・ウィンド・アンド・ファイアあたりに通じる面も見せていた。

 それから3年ぶりの新作『ウォンデム』は、レーベルをUKの〈サウンドウェイ〉に移籍してのリリースである(ちなみにビルド・アン・アークの諸作と『シーズンズ』はオランダのキンドレッド・スピリッツからだった)。〈サウンドウェイ〉といえば、クラブ・サウンドの中でも本格派ワールド・ミュージックに特化したレーベルとして名高い。従って『ウォンデム』も一気に民族指数が高まっており、根底では西欧音楽が基盤となっていた『シーズンズ』とはかなり趣も異なっている。エリトリア、スーダン、ソマリア、ケニアなど東アフリカ諸国の音楽にインスパイアされているが、とくにその中でも顕著なのがエチオピアのジャズからの影響だ。エチオピアン・ジャズを世界に広めた最大の貢献者はムラトゥ・アスタトゥケだが、近年はLAを拠点に演奏活動を行っており、モチーラの『タイムレス』企画をはじめミゲル・アトウッド=ファーガソンらLA勢との共演も行っている。おそらくそうしたところからデクスター・ストーリーも直接的に感化されたと推測される。なお、参加ミュージシャンはミゲル・アトウッド=ファーガソン、マーク・ド・クライヴ=ロー、ニア・アンドリュースなどLA人脈から、スーダン出身の女性シンガー・ソングライターのアルサラー(フランス人トラックメイカーのドュブリュイとのコラボが有名)など。

 アルサラーが歌う“ウィズアウト・アン・アドレス”はエキゾ・グルーヴという言葉がピッタリで、近年の世界的な規模での辺境音楽の盛り上がりを示す好例だ。“ザマール”“ア・ニュー・デイ”“チャンガムカ”は、民族的モチーフをうまくフュージョンやファンク的な方向へもっていったナンバー。“イースタン・プレイヤー”は沖縄民謡に通じるような感もあり、まさに音楽の越境を体現するような1曲。“モワ”にも古代中国風の旋律が流れる。“サバ”は典型的なエチオ・ジャズで、一方“ビー・マイ・ハベシャ”や“ラリベラ”はサイケなテイスト。LAと言えばサイケ発祥の地でもあるので、デクスター・ストーリーにもそうした血は流れているのだろう。“シデット・エスケメッシュ”もエチオ・ジャズなのだが、心なしかサイケと隣接した味わいを感じさせる。そうした観点で聴くと、“メルカト・スター”などはタイのサイケ・ロックあたりに連なる曲ではないだろうか。そういえば、かつてムラトゥ・アスタトゥケはマルコム・カット率いるヒーリオセントリックスと共演したことがあるが、そこでエチオ・ジャズとサイケデリック・ファンクの融合が試みられていた。『ウォンデム』の随所からもそれに通じるサウンドが見出せることだろう。LAはストーンズ・スロー/ナウ・アゲインのイーゴンを筆頭に、民族音楽やサイケにも強い人が多い。本作はデクスター・ストーリーのアルバムではあるが、もっと広い目で見ればLAシーンの幅広さ、奥深さを象徴する作品と言えよう。

小川充