ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Bullsxxt 国家なんかいらねぇ (interviews)
  2. Ibeyi - Ash (review)
  3. interview with Okada Takuro 眠れぬ夜のために (interviews)
  4. ぼくはこんな音楽を聴いて育った - 大友良英 (review)
  5. Sugai Ken - UkabazUmorezU (不浮不埋) (review)
  6. Matthew Herbert Brexit Big Band - @Blue Note Tokyo (review)
  7. East Man ──ベーシック・リズムが新名義で〈プラネット・ミュー〉よりアルバムをリリース (news)
  8. 打楽器逍遙 4 ノスタルジア (columns)
  9. Quit Your Band! ──イギリス人ジャーナリストによるJポップ批評、『バンドやめようぜ!』刊行のお知らせ (news)
  10. Mura Masa - Mura Masa (review)
  11. AFX - London 03.06.17 [Field Day] / AFX - Korg Trax+Tunings for falling asleep / AFX - Orphans (review)
  12. Nicola Cruz ──エクアドルの電子音楽家、ニコラ・クルース初来日決定 (news)
  13. yahyel - ──この一風変わった名前のバンドをきみはもう知っているか? ヤイエルが500枚限定の初CD作品をリリース (news)
  14. パーティで女の子に話しかけるには - (review)
  15. Hardfloor ──アシッドハウスの雄、ハードフロアが新作をリリース (news)
  16. Kaitlyn Aurelia Smith - The Kid (review)
  17. interview with Cosey Fanni Tutti スロッビング・グリッスルを語る (interviews)
  18. interview with YungGucciMane宇宙を渡るヤンググッチメン──インタヴュー (interviews)
  19. 対談:MIKUMARI x OWLBEATS ルードなRAP/実験的なBEAT/生きたHIP HOP (interviews)
  20. Columns ハテナ・フランセ 第11回 フレンチ・エレクトロニック・ミュージック;メジャー編 (columns)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Cavanaugh- Time & Materials

Album Reviews

Cavanaugh

Hip Hop

Cavanaugh

Time & Materials

Mello Music Group

HMV Amazon

三田格   Jun 02,2016 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 J・G・バラードのことを久しぶりに思い出したのはジャム・シティ『クラシカル・カーヴス』を聴いた時だから4年も前のことになる。それはそれだけのことかと思っていたのだけれど、去年になって『マッドマックス 怒りのデスロード』はJ・G・バラードの世界観をストレートに映像化したものだという批評を目にしたり、B級映画しか撮らないと思っていたベン・ウィートリーが『ハイ・ライズ』をクローネンバーグばりにみっちりと映画化したりということが続くと、さすがにそれだけのことではないのかなという気分になってくる。そこへキャバノーである。

 スフィアン・スティーヴンスらとシジファスを組んでいたことでも知られるセレンゲティが同じシカゴのオープン・イーグル・マイクと新たに結成したヒップホップ・ユニットのデビュー作。これがまたタイトルからしてそれである。「時間と物質」が無尽蔵の記憶として蓄積された砂漠に緩慢な速度で向かうこと。いわばエントロピーの増大がエロチィシズムと結びつく時、J・G・バラードの「生」は異様な歓喜とともに呼び覚まされる。冷戦時代の再来とともに「終末感」も更新されつつあるということなのか。だとすれば、それは核戦争の予感なしに現代人は生きられないということであり、世界がフラットではなくなりつつあることを示唆しているのかもしれない。現代は「自由」ではなく「監視」、「平等」ではなく「格差」、「博愛」ではなく「ヘイト」だと指摘したのは西部邁だったけれど、「監視」も「格差」も「ヘイト」も生前のバラードがすでに作品のテーマとしていたことである。

 キャバノーのサウンドは妙に快楽性を伴っている。トラップをスクリュードさせたシカゴ南部のサウンドはチーフ・キーフ以降、ドリル・ミュージックと呼ばれるようになり、彼らはこれにもう少しヒネリを加えていく(セレンゲティもオープン・マイク・イーグルもソロではここまでトリップ・モードではなかった)。それによって与えられるニュアンスは逃避というよりセラピー的だとする評もあり、歌詞は断片的にしかわからないので、サウンドに的を絞ると、思い出すのはやはり〈アンチコン〉である。セレンゲティは〈アンチコン〉のホワイ?ことヨニ・ウルフともほぼ同時期にジョイント・アルバム『テスタロッサ』をリリースしていて、〈リーヴィング〉から新作を放ったオッド・ノズダムといい、マイク・パットンらと新たにネヴァーメンを組んだドーズ・ワンといい、少なくともセレンゲティが〈アンチコン〉のセカンド・レイズに歩を揃えていることは間違いない。スモーカーズ・デライトというよりはモゴモゴと燻るハッパが燃え尽きるのを見守るかのように、どこか儚く、何もかもが簡単に視界から消え去っていく(全部で26分しかないし)。

 ゼロ年代初頭に〈アンチコン〉と連動していたのもシカゴ周辺のアトモスフィアだった。カニエ・ウエストが去ったシカゴはここ数年、チーフ・キーフやチャンス・ザ・ラッパーによって新時代を迎え、ここにまたオープン・マイク・イーグルとセレンゲティがオルタナティヴの橋頭堡を築こうとしている。ミック・ジェンキンズも同じくで、こちらはもっと展開が派手。こういう人もいる。シティーズ・エイヴィヴ、フロストラダムス、ミック・ジェンキンズ、マンマンサヴェージ……実験的過ぎてもうひとつ浮上できなかったクウェルやモールメンといった過去の亡霊とイメージがダブるほど彼らの試行錯誤はどこまでも果てしない。シカゴという街はどうしてもそういう場所なのだろう。

三田格