ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Mansur Brown - NAQI Mixtape (review)
  2. Loraine James - Building Something Beautiful For Me (review)
  3. Natalie Beridze - Of Which One Knows (review)
  4. TAAHLIAH and Loraine James ──ロレイン・ジェイムズの新曲はグラスゴーの新人プロデューサーとのコラボ (news)
  5. 김도언 Kim Doeon(キム・ドオン) - Damage (review)
  6. Soundwalk Collective with Patti Smith ──ブライアン・イーノ、ルクレシア・ダルト、ケイトリン・オーレリア・スミス、ロティックなどユニークな面子が参加したリミックス盤が登場 (news)
  7. Kukangendai ——エクスペリメンタル・ロック・バンドの空間現代による新たな試みに注目 (news)
  8. 幾何学模様 - クモヨ島 (review)
  9. 追悼:キース・レヴィン R.I.P. Keith Levene (news)
  10. interview with Dry Cleaning 壊れたるもののテクスチャー (interviews)
  11. Cholie Jo ──沖縄のラッパーCHOUJIとOlive Oilによるデュオがアルバムをリリース (news)
  12. rei harakami ──レイ・ハラカミ、デビュー前の貴重な音源がリイシュー (news)
  13. Mansur Brown - Shiroi (review)
  14. Khruangbin - Con Todo El Mundo (review)
  15. Sun Ra Arkestra - Living Sky (review)
  16. Crack Cloud Japan Tour 2022 ——インディ・ロック好きがいま大注目しているバンド、Crack Cloudが初来日 (news)
  17. Lucrecia Dalt - ¡ay! (review)
  18. bar italia - bedhead (review)
  19. Kazufumi Kodama & Undefined - 2 Years / 2 Years In Silence (review)
  20. Koshiro Hino (goat & KAKUHAN) ──勢いづく日野浩志郎、12月にgoatの5年ぶりの国内公演、さらに今月は強力なアルバムをリリースしたばかりのKAKUHAN初の単独公演も (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Cavanaugh- Time & Materials

Cavanaugh

Hip Hop

Cavanaugh

Time & Materials

Mello Music Group

HMV Amazon

三田格   Jun 02,2016 UP

 J・G・バラードのことを久しぶりに思い出したのはジャム・シティ『クラシカル・カーヴス』を聴いた時だから4年も前のことになる。それはそれだけのことかと思っていたのだけれど、去年になって『マッドマックス 怒りのデスロード』はJ・G・バラードの世界観をストレートに映像化したものだという批評を目にしたり、B級映画しか撮らないと思っていたベン・ウィートリーが『ハイ・ライズ』をクローネンバーグばりにみっちりと映画化したりということが続くと、さすがにそれだけのことではないのかなという気分になってくる。そこへキャバノーである。

 スフィアン・スティーヴンスらとシジファスを組んでいたことでも知られるセレンゲティが同じシカゴのオープン・イーグル・マイクと新たに結成したヒップホップ・ユニットのデビュー作。これがまたタイトルからしてそれである。「時間と物質」が無尽蔵の記憶として蓄積された砂漠に緩慢な速度で向かうこと。いわばエントロピーの増大がエロチィシズムと結びつく時、J・G・バラードの「生」は異様な歓喜とともに呼び覚まされる。冷戦時代の再来とともに「終末感」も更新されつつあるということなのか。だとすれば、それは核戦争の予感なしに現代人は生きられないということであり、世界がフラットではなくなりつつあることを示唆しているのかもしれない。現代は「自由」ではなく「監視」、「平等」ではなく「格差」、「博愛」ではなく「ヘイト」だと指摘したのは西部邁だったけれど、「監視」も「格差」も「ヘイト」も生前のバラードがすでに作品のテーマとしていたことである。

 キャバノーのサウンドは妙に快楽性を伴っている。トラップをスクリュードさせたシカゴ南部のサウンドはチーフ・キーフ以降、ドリル・ミュージックと呼ばれるようになり、彼らはこれにもう少しヒネリを加えていく(セレンゲティもオープン・マイク・イーグルもソロではここまでトリップ・モードではなかった)。それによって与えられるニュアンスは逃避というよりセラピー的だとする評もあり、歌詞は断片的にしかわからないので、サウンドに的を絞ると、思い出すのはやはり〈アンチコン〉である。セレンゲティは〈アンチコン〉のホワイ?ことヨニ・ウルフともほぼ同時期にジョイント・アルバム『テスタロッサ』をリリースしていて、〈リーヴィング〉から新作を放ったオッド・ノズダムといい、マイク・パットンらと新たにネヴァーメンを組んだドーズ・ワンといい、少なくともセレンゲティが〈アンチコン〉のセカンド・レイズに歩を揃えていることは間違いない。スモーカーズ・デライトというよりはモゴモゴと燻るハッパが燃え尽きるのを見守るかのように、どこか儚く、何もかもが簡単に視界から消え去っていく(全部で26分しかないし)。

 ゼロ年代初頭に〈アンチコン〉と連動していたのもシカゴ周辺のアトモスフィアだった。カニエ・ウエストが去ったシカゴはここ数年、チーフ・キーフやチャンス・ザ・ラッパーによって新時代を迎え、ここにまたオープン・マイク・イーグルとセレンゲティがオルタナティヴの橋頭堡を築こうとしている。ミック・ジェンキンズも同じくで、こちらはもっと展開が派手。こういう人もいる。シティーズ・エイヴィヴ、フロストラダムス、ミック・ジェンキンズ、マンマンサヴェージ……実験的過ぎてもうひとつ浮上できなかったクウェルやモールメンといった過去の亡霊とイメージがダブるほど彼らの試行錯誤はどこまでも果てしない。シカゴという街はどうしてもそういう場所なのだろう。

三田格