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三田格   Oct 13,2016 UP
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 人と音楽の話をするのは苦痛でしかない。感じ方がこうも違うかと思うと、言葉もあんまり出てこない。流行の音楽というのはとてもありがたいもので、現象だけをとりあげて適当にバカにしていれば、その場はたいていやり過ごせる。そして家に帰って、まったく違う音楽を聴いている。昨日も今日もそんな感じだった。明日もきっと同じだろう。この世界にそうじゃない人がいるとは思えない。いるとしたら、それは流行の音楽を聴いている人だろう。そんな人になれたらよかったのに。第一、音楽を探す必要がない。

「大人に気に入られたい子ども」のような感じがしてしまい(偏見!)、どうしてもチャンス・ザ・ラッパーに心が動かない。「はい、よくできました」という感想が脳のそこかしこから湧いては消え、消えてはISのテロリストのようにまた現れる。そう、チャンス・ザ・ラッパーは類まれなる破壊力に満ちている。シカゴ市長に表彰されてしまうなんて、とてもサウス・サイドのラッパーたちにはできないことである。主婦2.0のように育ちを活かして何が悪いのかと。しかも、そのあげくに彼はノーネーム・ジプシーをフック・アップし、この世界に解き放ってしまったのである。図書館で詩を朗読していたファティマ・ワーナー(Fatimah Warner)をその気にさせてしまい、同じシカゴのミック・ジェンキンズやマイアミのジェシー・ボーイキンズ3世のアルバムに参加してきたノーネーム・ジプシー改めノーネームは7月にフリーでデビュー・ミックステープ『テレフォン』のダウンロードを開始した。

http://mixtapemonkey.com/1914/noname-telefone

 これが、なんというか、どうもラップを聴いている気がしない。最初に思い出したのはアリソン・スタットンで、YMGやウイークエンドがミニー・リパートンをダークにカヴァーしたら、こうなるかなと。繊細なピアノとザイロフォンがその儚げなムードをさらに引き立てる。何度か聴いていると、彼女の声は実に醒めていて、そのせいで温度が上がらないのかなとも思えてくる。挑発的なところもまったくなくて、自分の声に酔っていないというのか、ソウル・ミュージックの様式性を嫌っているとさえ思ってしまう。小さい頃からハウリン・ウルフやバディ・ガイを聴いて育ったというファティマ・ワーナーは、しかし、複数のヒップホップMCやソウル・シンガーを起用する一方、ニーナ・シモンをサンプリングしたりも。

「あなたがイーザスになれた時は……」などという歌詞はやはりカニエ・ウエストを皮肉っているんだろうか。そして、自分の葬式だったり、中絶される赤ちゃんの視点でラップしたりと、全体に死を多く扱った歌詞は(genius.comなどで)読めば意味はわかる。しかし、英語だというだけで、その中に深く入り込んでいく感覚は得られない。いくつかのレヴューで、母と、そして祖母の物語を彼女は織り込んでいるとも書かれている。そこで、意訳のつもりで、藤本和子『ブルースだってただの唄 黒人女性のマニフェスト』(朝日新聞社)を読みながら聴いてみる。ただひたすら北米に住むアフリカ系の女性たちに聞き取り調査を行った本で、教育のある女性に始まり、色が薄くて苦労した女性や刑務所に入った女たち、最後は奴隷時代の記憶がある老婆に身の上を語ってもらっているだけ。これはちょっと妙な体験だった。「もっとも戦慄すべき側面は、わたしたちがこの社会の主流文化の側に移動したときに、ぽっかりと口を開けて待っている空隙を見ることだと思う。……わたしたちを養ってきたもの、わたしたちを生かしつづけてきたものとの断絶こそが恐怖なのよ」(P12)。マルチカリチャリズムを選択したのが誰で、その時に恐れていたことが実際にいま、ここで起きているかのような……。

『電話』というタイトルは、ちなみに初めて知り合う人は電話を通じて知り合うことが多いからだそう。ノーネームはチャンス・ザ・ラッパーの新作でも“Finish Line / Drown(フィニッシュ・ライン・ドラウン)”でやはり醒めた声を聴かせていた。

三田格