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Mount Eerie

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Mount Eerie

A Crow Looked At Me

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木津毅   May 18,2017 UP
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  死は現実
  誰かがそこにいて それからいなくなってしまう
  それは 歌うためにあるんじゃない
  アートにするためにあるんじゃない
  現実の死が家に入ってくれば あらゆる詩は沈黙する

 このアルバムはそんな風にして、現実の死に対して歌とアートと詩の否定から始まる。だが、“リアル・デス”と題されたこの「歌」は──そう、歌でありアートであり詩である。『ア・クロウ・ルックト・アット・ミー』はその矛盾に絡み取られた、音楽の姿をした生々しい問いだ。現実の残酷さを前にして、弱々しくうずくまるしかないわたしたちがどうやって生きていくか、についての。

 この胸をえぐられるフォーク・ソング集は、90年代のローファイを引き継いだザ・マイクロフォンズからマウント・イアリへと改名し、その誠実で地道な活動が静かに評価され続けてきたフィル・エルヴラムの新作にして、昨年癌で夭折したアーティストの妻ジュヌヴィエーヴ・カストレイの死そのものをテーマとした作品だ。自ら所有するスタジオではなく、妻を看取った自宅に機材と楽器を運んで録音されたという。マウント・イアリを特徴づけてきたローファイながらも厚みのあるサウンド構築はなく、シンプルなギターのアルペジオと幾分重々しいピアノの和音、それに不安定なエルヴラムの歌ばかりがあり、そしてその部屋の妻の生前の気配までもを残そうとするかのような生々しい録音が施されている。インナースリーヴには妻ジュヌヴィエーヴが描いた絵が印刷されていて、裏ジャケットには幼い娘を抱きしめるエルヴラムの姿が見える。近年の音楽作品においてもっとも近いのは母の死について歌ったスフィアン・スティーヴンスのフォーク・アルバム『キャリー&ローウェル』だろうが、それよりももっとももっと弱々しく、痛ましい。音楽の雰囲気としてはボニー“プリンス”ビリーの『アイ・シー・ア・ダークネス』辺りに近いと言えるかもしれない。
 (1週間後)の副題がついた“リアル・デス”はそして、なお妻の死の渦中に留まる「僕」の呟きを綴っていく。すると死んだ妻の名前で小包が届く。なかには1歳半になるふたりの娘のための秘密の贈り物が入っている――娘が成長して、学校に通うときのためのバックパックが。「僕」は玄関で泣き崩れる。「僕はこのことから何も学びたくない/僕は 君を愛している」。飾らないギターの演奏と、頼りない歌が聞こえる。

 身近な人間の死に際して、何かアートを生み出す例は珍しいことではない。だが、これほど率直なものがどれほどあっただろうか? 昨年は息子の死を描いたニック・ケイヴや母の死を思い返した宇多田ヒカルもあったが、自分に連想されるのは、むしろ音楽作品よりもアメリカで話題になったインディペンデント・ゲーム『That Dragon, Cancer』だ。これはゲーム・クリエイターの父親が幼くして癌で亡くなった息子の記憶をゲームにしたもので、プレイヤーは無邪気な赤ん坊と遊んだり、父親と母親になって息子の病気の告知を受けたり、家族の記憶のなかを漂ったり、泣き叫ぶ息子を看病したり、あるいは赤ん坊になって癌の化身であるドラゴンと闘ったりする(ドラゴンを倒すことはできない)。プレイヤーは死から逃れることはできず(つまり通常のゲームとまったく逆のことが起こっている)、しかし死んでいった息子の記憶がそれでも生き続けることを体験する。
 『ア・クロウ・ルックト・アット・ミー』でも似たことが起こっていて、アルバムは(2週間後)(1ヶ月後)(1ヶ月半後)と妻の死後から時間を進めながら「僕」(=エルヴラム)の身の周りで起こることや考えたことを赤裸々に描写していく。夕陽を前に「君」の遺灰を撒き、「悲しみに浸るために」幼い娘を連れて森に行く。アルバムを通して、自分に言い聞かせるように「死は現実だ」という言葉が繰り返される。(2ヶ月後)の副題がついた“スウィムス”では、「今日娘が訊いてきたんだ お母さんは泳いだりするのかなと/僕は答えた 「うん泳ぐよ、いまはそれしかしていないんじゃないかな」と/かつて君だったものがいま 波を越えて運ばれていく/蒸発し消えていく」と歌われ、柔らかいピアノの調べとともに悲痛な会話が詩的な瞬間へと変容していく。詩の沈黙を知りながら、それでも詩を求めてしまうその矛盾、その業――が、このアルバムを特別なものにしている。マウント・イアリはひとりのシンガーとして、死をドラマティックなものとする代わりに、現実としての死の前に立ち止まり、それでもか弱い呼吸で詩をどうにか吐き出そうとしている。わたしたち、すなわちこの歌の聴き手はこの世を去っていった妻の気配を「僕」とともに感じることができる。そこではなにか、悲しみを超えた感情がたしかに息づいている。
 (7週間前)と生前にまで記憶を遡った“ソリア・マリア”を挟んで、(4ヶ月後)との副題がついた終曲“クロウ”(“カラス”)は、娘とともに過ごす時間に捧げられた穏やかな1曲だ。眠る娘との会話を描写し、そしてアルバムは「そこに彼女はいた」という言葉で終わる。「不在が在る」ということ──その深い悲しみとともに生きていくこと、ひとが喪失を乗り越えられないことを、そっと抱擁するかのようにこの歌たちは響いている。

[5/24追記:固有名詞に誤りがあったため訂正いたしました(編集部)]

木津毅

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