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小林拓音   May 19,2017 UP
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 いつまでも忘れられない人がいる。でももう二度とその人に会うことはできない。なぜなら、その人は死んでしまったから。
 大切な人を失ったとき、僕たちはとても奇妙な行動に出る。亡くなってしまった彼や彼女のことを、僕たちはいつまでも覚えていようと努力する。でも、なんで僕たちはそんな不思議なことをしてしまうのだろう? べつに試験があるわけでもなければ面接があるわけでもない。死んでしまった人のことをきれいさっぱり忘れてしまったところで、日常生活にはなんの支障もきたさない。なのに、どうして僕たちは死者のことを思い出してしまうのだろう?
 いつまでも君を忘れない。君はいつまでも僕のなかで生き続ける。そして君は永遠になる――Jポップならきっとそう歌うだろう。でも、本当にそうすることが良いことなんだろうか? それって、永遠に喪が明けないってことじゃない? それはつまり、死んでしまったはずの君を死んでいないと見做すことであり、要するに「死体蹴り」である。死者に対してそれ以上に暴力的な行為があるだろうか?
 思い出は、冒瀆である。じゃあ、すでに彼岸へと旅立ってしまった者に対して、いまだ此岸に留まらざるをえない者たちが為すべき最善のことって何だろう。死者に対して、愚かにも生き残ってしまった者たちが為しうる最良のことって何だろう。いずれは同じように死んでいく者たちが、先に存在しなくなってしまった者たちの、その「存在しなささ」を最大限に尊重する方法って何だろう。
 それは、忘れることだ。ちゃんと、忘れてあげることだ。

 トリッシュ・キーナンが亡くなってから6年が経つ。チルドレン・オブ・アリスは、かつてブロードキャストで彼女の相棒を務めていたジェイムス・カーギルが、同じく元ブロードキャストのロジ・スティーヴンスおよびザ・フォーカス・グループのジュリアン・ハウスとともに、2013年に開始したプロジェクトである。「チルドレン・オブ・アリス」というバンド名は、キーナンが好んだ小説『不思議の国のアリス』から採られており、そこには彼女へのトリビュートの念が込められている。感傷的なネーミングだが、まさにこのバンド名こそがかれらの音楽を決定づけてしまっていると言っていいだろう。「アリスの子どもたち」――それはキーナンをはじめとするキャロルの読者たちのことであり、そしてキーナンに先立たれたメンバー3人のことでもある。チルドレン・オブ・アリスは、そのはじまりからすでに死者にとり憑かれている。おそらくカーギルも他のメンバーも、キーナンのことをちゃんと忘れられていないのではないか。
 当たり前の話ではあるが、かれらの記念すべきこのデビュー・アルバムに、キーナンは参加していない。その不在はまずサウンドに表れ出ている。

 1曲めの“The Harbinger Of Spring”は20分を超える大作で、フォークロアを探求するレーベル〈Folklore Tapes〉のために2013年に作られた曲である。そこではさまざまな民俗的音塊が展示されていて、ミュジーク・コンクレートからの影響を聴き取ることもできるが、件のバンド名から連想するなら、これは穴に落っこちてしまったアリスが遭遇する摩訶不思議な世界、ということになるのかもしれない。しかし他方でこの曲はジョン・ウィンダムのSF小説『呪われた村』からも影響を受けているそうで、となれば次々と転がってくるそのフォーク・サウンドを、宇宙人(=西洋や近代や科学)によって侵略される村(=民俗的なもの)のメタファーとして捉えることもできる。が、曲の仕上がり自体はけっして重々しいものではなく、それぞれの音の連なりを単にフェティシズムの対象として消費することも可能だ。
 他の3つのトラックも〈Folklore Tapes〉のために2013年から2016年のあいだに作られたもので、いずれもフォーキーな音の数々を陳列している。そういう要素はブロードキャストにもなかったわけではないが、本作における民俗的なものへの志向はよりコンセプチュアルだ。カーギルが『クワイータス』に語ったところによれば、これらの曲は「ペイガン(pagan)=異教」というテーマに基づいているのだという。そんな話を聞くと、この3曲も先の『呪われた村』の喩えと同じように、侵略的な蒐集欲に突き動かされているように見えるが、それぞれの音の配置のしかたは非常にコラージュ感覚に溢れており、その遊び心はおそらくシュルレアリスムに由来している。同じ記事のなかでハウスはアンドレ・ブルトンに言及しているが、かつてブルトンはシュルレアリスムのルーツのひとつとしてルイス・キャロルの名を挙げ、『黒いユーモア選集』に『不思議の国のアリス』を収録したのだった。シュルレアリスムもまた「アリスの子どもたち」のひとりだったのである。

 でもたぶん、このアルバムの核心はもっと別のところにあるんだと思う。全4曲のなかでもっとも耳に残るのは、民俗的な要素とは別に妖しげな躍動感を携えた2曲め“Rite Of The Maypole”で、その微かなサイケデリアにはどこかブロードキャストの楽曲を思わせるところがある。この回想力・喚起力こそが本作の肝だろう。『Children Of Alice』は、全体としてはかつてブロードキャストが鳴らしていたサウンドとは異なる雰囲気を漂わせているが、その部分にはブロードキャストを想起させる音の数々が埋め込まれている(そしてそれはおそらく意図して生み出されたものではないのだろう)。それゆえ僕たちはこのアルバムを聴いたときに、トリッシュ・キーナンのことを思い出してしまうのである。もしこれらのフォーク・サウンドに、キーナンのメロディと歌声が乗っかったらどうなるのだろう、と。けれど彼女はもう、存在しない。ブロードキャストとは別の試みを実践しているはずのチルドレン・オブ・アリスは、しかし、不可避的にかつての良き日々を、あの頃の思い出を滲み出させてしまうのである。

 僕たちはいつも、忘却に失敗する。僕たちはちゃんと死者のことを忘れてあげることができない。僕たちはいつまでも、喪に服し続ける。それが良くないことだと知りながら。

小林拓音

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