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Rat Boy

Indie Rock

Rat Boy

Scum

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近藤真弥   Sep 22,2017 UP
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 ラット・ボーイは、英エセックス出身のジョーダン・カーディー率いるバンドだ。ライヴやプレス対応はジョーダンを含めた4人でおこなうが、作品の制作にはジョーダンのみが関わるという、変則的な活動形態を特徴としている。ちなみに作品でのジョーダンは、ほぼすべてのパートを自分で演奏する。ケンドリック・ラマーが“Lust”でラット・ボーイの曲をサンプリングしたりと、外側ばかり注目されがちなジョーダンだが、アーティストとしても確かなスキルを持っているようだ。

 そのスキルは、デビュー・アルバム『Scum』でも遺憾なく発揮されている。ブラーやスーパーグラスあたりのブリットポップを想起させる“Ill Be Waiting”もあれば、“Revolution”や“Laidback”では軽快なラップも披露してみせるし、“Boiling Point”なんて、ゴスペル風のコーラスにハードなギター・サウンドとヒップホップが交わるカオスで満たされている。しかし、筆者がもっとも驚かされたのは“Move”だ。ジョーダンがラップしている背後で聞こえるのは、なんとビッグ・ビート。1990年代のイギリスでブームになったこの音楽を、1996年生まれのジョーダンがピックアップするという面白さに、筆者は瞬く間にやられてしまった。本作のサウンドには、ブラー、スーパーグラス、ザ・ストリーツ、ファットボーイ・スリム、ザ・スペシャルズ、アークティック・モンキーズといった、英国ポップ・ミュージック史の欠片が至るところで見られる。

 こうした本作を聴いてまっさきに思い浮かんだのは、ブラーが1993年に発表したアルバム『Modern Life Is Rubbish』だ。このアルバムでブラーは、T・レックスやジュリアン・コープなど、英国ポップ・ミュージック史の欠片をかき集めた。さまざまな影響源が詰め込まれたそれは、ブリットポップ・ブームに先鞭をつけた作品のひとつとして、いまも多くの人に愛されている。全英アルバム・チャートのトップ10入りを逃すなど、商業的には大成功と言えなかったが、1990年代の英国ポップ・ミュージックを語るうえでは欠かせない傑作だ。
 本作は、そんな『Modern Life Is Rubbish』の2010年代版と言いたくなる作品だ。もちろんそう思わせるのは、本作にブラーのデーモン・アルバーンとグレアム・コクソンが参加していることもあるが……。かつては歴史をかき集めたブラーも、いまはかき集められる歴史になったのだなと、感慨に耽ってしまう。

 ラット・ボーイのトレードマークである、バーバリー仕様の車とスクーターも見逃せない。バーバリーといえば有名なファッション・ブランドの名前だが、筆者からするとチャヴを連想させるものでもある。チャヴとは、イギリスで増加している粗野な下流階層を指す言葉。バーバリーの偽物を身につけているという“イメージ”で人々に伝えられ、清掃員、工事現場作業員、ファストフードの店員として働いてることが多いそうだ。また、イギリスではチャヴが差別の対象になっており、“Chav Scum”でネット検索してみると、チャヴに対する胸糞悪い差別的書きこみがいまも見られる。
 ジョーダンがバーバリー仕様の車やスクーターを用いるのは、そうしたイギリスの現況を表現するためだ。その表現がもっとも明確に見られるのは、“Revolution”のMVだろう。このMVは、バーバリー仕様の車に乗って登場するラット・ボーイの面々が、工事現場作業員やファストフードの店員に扮するというもの。これはあきらかに、チャヴの“イメージ”を意識している。

 だが当然、その“イメージ”を利用して、チャヴをあざ笑うのがジョーダンの目的ではない。本作で言えば、“Revolution”には不安定な世界情勢に向けた疑問が込められているし、“Sign On”は失業がテーマだ。くわえて、“Trumptowers Interlude”というド直球な小品まである。ここまで書けば、本作の言葉がどの視点から紡がれているかは明白だろう。ジョーダンは、日々の生活で抑圧されている人々や、辛い目にあってる者たちの視点から音楽を鳴らしている。だからこそジョーダンの音楽は、騒がしく楽しそうな雰囲気を醸しつつ、その裏に哀しみと怒りが宿っているのだ。本作を聴いて、“辛い日々の中でも楽しく生きていこうというアルバム”と感じたとしたら、それは少々的外れだと思う。確かに本作は、楽しい瞬間もたくさん描いている。しかしそれは、“辛い日々の中でも楽しく生きていこう”という柔なものではなく、“楽しまなきゃ生きていけない”という切羽詰まった想いが根底にあるからだ。そうした想いをジョーダンは、健全なシニシズムと鋭い批評精神を通して表現する。

 それにしても、現在の社会を見つめたアーティストのデビュー・アルバムが同じ年に、しかもイギリスから出たというのはなんとも興味深い偶然だ。社会問題についても積極的に発言するデクラン・マッケンナの『What Do You Think About The Car?』や、現在の社会で生きることの難しさを繊細な言葉で描いたロイル・カーナーの『Yesterday's Gone』など、これらの作品はすべて今年リリースされたものだ。こうした状況を見ていると、イギリスの音楽に新しい声が多く入ってきたと感じる。そして、その声は近いうちに世界中の人々に注目されるのではないか。そんな素晴らしい時代の前兆を本作に見いだしてしまうのだ。


近藤真弥