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デンシノオト Mar 13,2018 UP

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 山口美央子のオリジナル・アルバムは『夢飛行』(80)、『NIRVANA』(81)、『月姫』(83)が、ついにCDでリイシューされた。このほかにベスト・アルバム『ANJU』(85)があるが、今回リイシューされたのは、3枚のオリジナル・アルバムの方だ。

 最初の2作、つまり『夢飛行』と『NIRVANA』は、まるで『ソリッド・ステイト・サバイバー』などの初期YMOを思わせるオリエンタルな旋律とシンセ主体のバンド演奏による楽曲を多く収録したアルバムだ。いわば「YMO・ミーツ・女性歌唱の歌謡曲版」といった仕上がりで(当時は「シンセの歌姫」と宣伝されたらしい)、スーパーバイザー/アレンジャーは井上鑑、シンセサイザー・プログラミングは松武秀樹という鉄壁の布陣で制作されている。とくに山口のデビューを決めたという“東京LOVER”(『夢飛行』収録)は、まるで細野晴臣のエキゾチック三部作を80年のシンセポップ化したような曲で、初期の作風を象徴する楽曲である。一度聴いてしまうとサビのメロディが頭から離れなくなるほどの名曲だ。

 とはいえ単にオリエンタルムードだけではない。80年代初頭の「東京」のイメージが、山口美央子によって作詞・作曲された上質なメロディによって描写されているように思える。とくに山口と井上による作曲と編曲は、楽器の配置やコード感などは過剰にならずに実にセンスが良く、繊細な機敏を情景を上手く捉えている。“恋のエアプレイ”(『夢飛行』収録)など、いまならシティ・ポップ文脈での再評価も可能ではないか。じじつ『夢飛行』の演奏には、林立夫、斉藤ノブ、マイク・ダン、今剛とパラシュート、さらには海外レーベルから再発され話題となったマライアの土方隆行と山木秀夫、橋田”ペッカー”正人、ジェイク・コンセプション、砂原俊三らが参加している。
 セカンド・アルバム『NIRVANA』は、前作と同様にスーパーバイザー/アレンジャーは井上鑑、シンセサイザー・プログラミング松武秀樹と、『夢飛行』に参加したミュージシャンに加えて、田中章弘(鈴木茂&ハックルバック)、長岡道夫(ゼロ戦、ロスオノデラス)、岡沢章(吉田美奈子 & THE BAND)などの複数のベーシストや京琴の名手である山内喜美子らも参加し、より色彩豊かな演奏・編曲を実現している。伝説のファーストと傑作のサードに挟まれた『NIRVANA』だが、エキゾチック・ポップ“チャンキー・ツアー”、AOR/ディスコ調のキラー・チューン“風に吹かれて”が収録されているので、やはり聴き逃せないアルバムである。

 さて、サード・アルバム『月姫』だ。ファーストとセカンドの井上鑑に代わって、82年に“すみれ September Love”でヒットを飛ばしていた一風堂の土屋昌巳がサウンド・プロデュース/アレンジャーを担当している(コーセー化粧品のCMソング“恋は春感”のみ後藤次利が編曲を担当)。
 この土屋昌巳の仕事によって、『月姫』は明らかに前作二作とは違うサウンド・スケープを獲得しているように思えた。曲によってアンビエント・ポップとでも形容したいほどに独自の音楽性に仕上がっている(シンセサイザー・プログラミングは前2作から続いて松武秀樹!)。そのやわらかい電子音のシェルターに包まれたかのようなサウンドは、まるでデヴィッド・ボウイの『ロウ』のインスト・パートを日本的叙情でコーティングしたような音楽性に思えた(この場合、土屋昌巳=ブライアン・イーノ?)。
 むろん山口のメロディが異様なまでに素晴らしいことも重要である。繊細なテンションコードを用いた和声感覚が聴き手の耳と心に切ない感覚を残すのだ。アルバム以降、作曲家に転身し、今井美樹、CoCo、斉藤由貴、高井麻巳子、渡辺満里奈などの曲を提供し、作曲家として名を成す彼女のメロディメイカーとしての力量が前2作以上に十二分に発揮されている。
 風鈴のような音、夕立のようなサウンドからピアノの旋律が流れ、シンセと電子音によるサウンドに包まれた山口歌唱の日本的メロディが重なる“ 夕顔 〜あはれ〜”からして前作までとムードが違う。続く、日本の夏の記憶をシンセサイザーと少し湿ったボーカルで描き切った“夏”も屈指の名曲だ。
 とはいえ本作から1曲を挙げるとすれば、やはりクリスタルなシンセサイザーのドローンとオリエンタルなシンセとメロディが零れ落ちそうなほどに美しい“白昼夢”になるだろうか。この曲はどうやら海外音楽マニアにもアンビエント・ポップとして高い評価を獲得しつつあるようだが、サウンドの質感からして当然といえる。たとえばヴィジブル・クロークスや〈ミュージック・フロム・メモリー〉などの音源を追いかけているニューエイジ/アンビエントのマニアックなリスナ-にも訴求できる曲ではないか。

 もちろん、『夢飛行』『NIRVANA』ともに、リイシュー盤のリマスタリングも良好なので昔からのファンの方で、とっくにオリジナル・アルバムをお持ちもぜひとも手にとって頂きたい。作曲、編曲、歌唱など、完璧に磨き抜かれた日本の80年代ポップ音楽の宝石がここにあるのだから。

デンシノオト