ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Aaron Cupples - Island Of The Hungry Ghosts (OST) (review)
  2. Godspeed You! Black Emperor - G_d's Pee AT STATE'S END! (review)
  3. My Bloody Valentine ──マイ・ブラッディ・ヴァレンタインが NTS Radio 10周年企画でキュレイターを担当 (news)
  4. 食品まつり a.k.a foodman が〈Hyperdub〉と契約!! (news)
  5. The Caretaker ──ザ・ケアテイカーが新作、並びに故マーク・フィッシャーへ捧げられたアルバムの再発盤をリリース (news)
  6. The Caretaker - Everywhere At The End Of Time - Stage 6 (review)
  7. Meemo Comma - Neon Genesis: Soul Into Matter² (review)
  8. interview with ERA 「LIFEの中の4小節」に込められたERAのソウル (interviews)
  9. Seefeel ──シーフィールのリイシュー・プロジェクトが始動、完全未発表曲も (news)
  10. Dialect - Under~Between (review)
  11. Godspeed You! Black Emperor - Allelujah! Don't Bend! Ascend! (review)
  12. Lost Girls - Menneskekollektivet (review)
  13. Madlib - Sound Ancestors (review)
  14. interview with Gilles Peterson (STR4TA) 行方不明の歴史に光を当てる──ジャイルス・ピーターソン&ブルーイによるブリット・ファンク賛歌 (interviews)
  15. interview with Tune-Yards チューン・ヤーズが語る、フェミニズム、BLM、トランプ、アリエル・ピンク…… そしてこの社会に希望はあるのか (interviews)
  16. MYSTICS ──マーカス・ヘンリクソン × Kuniyuki Takahashi × J.A.K.A.M. (JUZU a.k.a. MOOCHY) によるディープな一枚 (news)
  17. susumu yokota ──横田進の後期代表作『symbol』がリイシュー (news)
  18. R.I.P. 横田進 (news)
  19. Tohji, Loota & Brodinski ──破竹のラッパー2人とアトランタのブロディンスキによる共作 (news)
  20. こんにちでもなお ガイガーカウンターを手にすれば「ラジウム・ガールズ」たちの音を 聞くことができる - ──映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』、アルバム『Radium Girls 2011』 (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > August Greene- August Greene

August Greene

August Greene

August Greene

August Greene LLC

Amazon

小川充   Apr 24,2018 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 今年の頭にロバート・グラスパーがふたつの新プロジェクトを開始しているというニュースが入ってきた。ひとつは「R+R=NOW」というもので、クリスチャン・スコット、デリック・ホッジ、ジャスティン・タイソン、テイラー・マクファーリンによるバンド。こちらは今年の『東京JAZZ』での来日も予定されている。
 そしてもうひとつはオーガスト・グリーンというもので、コモンとカリーム・リギンズとによるユニット。グラスパーはコモンと旧知の仲で、いままでもいろいろと共演しており、ロバート・グラスパー・エクスペリメントの『ブラック・レディオ2』(2013年)にもコモンは参加していた。カリーム・リギンズは1990年代よりコモンの数々の作品の共同プロデューサーを務め、またJ・ディラやエリカ・バドゥなどの作品に関わる一方でジャズ・ドラマーとしても活動するなど、グラスパー同様にジャズとヒップホップ/R&Bを繋ぐような存在である。
 この3者が集まったオーガスト・グリーンは、そもそも2016年10月3日(※オバマ政権時代)にホワイトハウスで行われたセッションが発端となる。当時「サウス・バイ・サウス・ローン」というアート・イベントが米大統領官邸で開催され、その一環で〈NPRミュージック〉によるライヴ配信シリーズの「タイニー・ディスク」の特別篇が図書室で行われ、そこにコモンが出演した。バックで演奏したのはグラスパー、リギンズほか、キーヨン・ハロルド、デリック・ホッジ、エレネ・ピンダーヒューズで、ビラルもゲスト出演していた。コモンが『ブラック・アメリカ・アゲイン』(2016年)をリリースする11月4日の1ヶ月ほど前のことで、このアルバムから数曲が披露された。『ブラック・アメリカ・アゲイン』にもグラスパーとリギンズはプロデューサーとして参加しており、リリースから4日後の11月8日は米大統領選の投票日だった。『ブラック・アメリカ・アゲイン』は「ブラック・ライヴズ・マター」に触発されたアルバムで、ドナルド・トランプへの対抗姿勢が示されたものだったが、結局コモンたちの願いとは裏腹にトランプ政権が誕生することになる。

 そうした観点から、『オーガスト・グリーン』は『ブラック・アメリカ・アゲイン』のその後を描いたアルバムとなる。「もし、俺が黒人のケネディだったら」と歌う“ブラック・ケネディ”に示されるように、黒人たちのアメリカの夢を再びというメッセージがここでも繰り返される。コモンによると、ケネディ一族はアメリカの富や権力、影響力の象徴であり、それを黒人の流儀でやったのが“ブラック・ケネディ”となる。
 そして、グラスパーはこの曲に黒人たちの不屈の強さを込めている。ブランディがゲスト参加した“オプティミスティック”は、ゴスペル・グループのサウンド・オブ・ブラックネスのカヴァー。原曲がリリースされた1991年はR&Bやハウス・シーンも巻き込んでのヒットとなったのだが、今回のカヴァーに際しては映像作家のB+を監督に迎え、キング牧師記念日にミシシッピ州のジャクソンでPVが撮影された。コモン、グラスパー、リギンズ、ブランディらに加え、ミシシッピの人権活動家らが登場する内容となっている。
 なお、“レッツ・ゴー”と“プラクティス”に参加しているサモラ・ピンダーヒューズはラッパー兼ピアニストで、前述のホワイトハウスのセッションに参加していたフルート奏者エレネ・ピンダーヒューズの兄にあたる。“レッツ・ゴー”や“フライ・アウェイ”はフォーキーで枯れた味わいが印象的で、“アヤ”はグラスパーらしいジャズ感覚が表われた曲。演奏にはギターやフルートなども加わっていて、クレジットはないがエレネ・ピンダーヒューズがフルートを吹いていたりするのではないだろうか。“ノー・アポロジーズ”はブロークンビーツ的なジャズ・ファンクで、コモンのラップはラスト・ポエッツ風。この曲に顕著だが、リギンズのズレてよじれたドラミング・ビートがアルバムの聴きどころのひとつでもある。

 本作はオーガスタス・グリーンの自主制作となり、いまのところCDなどの発売はなく、配信もアマゾン・ミュージックのみと限定的な形でのリリースとなっている。どのような理由でこうした形態となったのかはわからないが、政治的な問題なども絡んで大手のレコード会社などからはリリースできなかったのだろうか。ただ、リリースにあたって前述のPVや「タイニー・ディスク」でのライヴ披露などプロモーションが行われ、そうした話題性とともに作品そのものは非常に内容が濃い。2018年のブラック・ミュージックの重要作として記されるべき作品である。

小川充