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butaji

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木津毅   Jul 27,2018 UP
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 一橋大学で起きたアウティング事件は、性的指向を本人の意思によらず明らかにしてしまうことが人権侵害にあたるということを世に知らしめたという点で、報道されたことにじゅうぶんな意義があったものだ。ほんの数年前まで性的指向がテレビでとくに疑問もなく笑いのネタとされていたような国で、だ。が、同時に報道やそれを巡る言説からどうにも痛ましさが消えなかったのは、それがある「恋心」の問題でもあったからだと思う。人権やカウンセリングにまつわるガイドラインを作る手助けにはなるだろう、しかし、彼の想い自体は永遠に行き場を失ってしまった。わたしたちはSNSや何やらで事件に対する自分の意見を述べながら、じつは、その行き場のなさに立ち尽くすしかないことを忘れているのではないか。
 butajiは本作に収録されたスロウなソウル・バラッド“秘匿”において一橋大のアウティング事件から影響を受けたと表明し、そして、死んでしまった彼の「恋心」の内側にたどり着き、そこに留まろうとする。歌のなかで。「まっすぐに声も出ないほどの拒絶をどこか求めている/何もかも 暴かずにいれたら/愛は特別なまま/君は特別なまま」……ファルセットを駆使しながら、情感のこもった歌を聴かせながら、そしてbutajiは混乱を隠さない。“秘匿”はそして、「認められたら」と何かを切望するように繰り返して終わる。それはつまり、いわゆるLGBTマターが社会に「認められたら」、だろうか。いや……。

 七尾旅人の大ファンだったというシンガーソングライターbutajiのセカンド・アルバム『告白』。いわゆる素朴なSSW作を想像して再生ボタンを押したリスナーは、いきなりの重たいビートの連打に面食らうだろう。やがて重ねられるファンキーなブラス・セクションと女声コーラス、シンコペートするメロディをなぞるセクシーなヴォーカル。オープニング・トラック“I LOVE YOU”は誤解を恐れずに言えば、昭和時代の歌謡曲のテレビ・ショウのような煌びやかなアレンジだ。もちろんプロダクション自体はモダンなので近年の「オルタナティヴR&B」とのシンクロを感じるひとも多いだろうが、なんと言うか、華やかな衣装を着たシンガーがオケを従えているイメージが浮かぶのである。ドゥワップ風のコーラスが導入となる2曲めの“奇跡”もハンド・クラップがアクセントになるエレクトロニック・ソウルで、得意のファルセットからときにかすれる低音までヴォーカルが自在に行き来する艶やかなポップ・ナンバーだ。ファーザー・ジョン・ミスティがアメリカのショウビズ文化を参照しているように、どこか日本の歌謡曲文化を遡っているように聞こえると書けば伝わるだろうか? J-POPのリスナーにもリーチするキャッチーさと色気でもって、まずはbutajiが華美なポップ・ソングの名手であることを『告白』はアピールする。

 ところが、先述の“秘匿”を過ぎたころから、このアルバムがじつは非常に内省的なアルバムであることがわかってくる。“Over The Rainbow”を想起させるピアノ唱歌の小品“someday”、柔らかいアコースティック・ギターの調べと誠実な歌があくまで中心にある“花”。ピアノの和声にどこか日本風のメロディが寄り添う“あかね空の彼方”やフォークトロニカ~ポスト・ロックのアンサンブルを思わせる静謐な“予感”といった比較的長尺の楽曲は、歌にじっくり浸ることを聴き手に要求するバラッドである。そうしてbutajiはゆっくりと時間をかけながら、自分だけの抽象的な感傷や心の揺らぎをひとつずつ解き放っていく。「予感」というのは彼の歌が醸す感情をよく表した言葉で、つまり、はっきりとした形を取らない心象風景を繊細に立ち上げるのがbutajiの歌だ。「じっと目を見る/その顔にある迷いも/幾ばくかの優しさの 予感がする」。ふと日々のなかに現れる慈しみや愛情に似た何か。ここまで来ると、“I LOVE YOU”や“奇跡”のようなゴージャスなポップ・ソングも、butajiの内面の奥から絞り出されたものであることが伝わってくる。どれもが生々しく、官能的だ。

 『告白』はファースト『アウトサイド』で提示したシンガーとしての表現力の豊かさを保ったままトラック・メイカーとしてのbutajiの音楽性の広さを示したアルバムだが、強いて言うならこれはソウル・ミュージック集だろう。それも、とてもパーソナルでデリケートな。「認められたら」と彼が懸命に歌うとき、その歌が願うのは恋心がその行き着く場所を見つけることだ。彼自身がその感情を「認められたら」。これは恋なんかに苦しんでしまうか弱い男の子による(/のための)ソウル音楽であり、ということは、フランク・オーシャン『チャンネル・オレンジ』からのそう遠くない反響である。このラヴ・ソング集は弱さや迷いを隠さないがゆえにこそ、とても勇敢に響いている。

木津毅

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