ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Wool & The Pants - Wool In The Pool (review)
  2. Columns FKA Twigs スクリュードされた賛美歌 (columns)
  3. Adrian Sherwood, Roots Of Beat & Exotico De Lago ──エイドリアン・シャーウッドの来日公演にオーディオ・アクティヴ、ドライ&ヘヴィの面々からなる新バンドが出演、エキゾティコ・デ・ラゴも (news)
  4. Grischa Lichtenberger - Re: Phgrp (Reworking »Consequences« By Philipp Gropper's Philm) (review)
  5. interview with BBHF 歓びも、悲しみも痛みもぜんぶ (interviews)
  6. Hair Stylistics ──2004年のファーストが初めてヴァイナルでリリース (news)
  7. Mall Boyz ──Tohji 率いる Mall Boyz が全国ツアーを開催 (news)
  8. Danny Brown ──ダニー・ブラウンがまもなくリリースされるアルバムより新曲のMVを公開 (news)
  9. マスターズ・アット・ワーク来日直前特別対談 時代を越える存在──DJ NORI と Dazzle Drums が語る MASTERS AT WORK (news)
  10. Anna Calvi - Anna Calvi (review)
  11. Columns Stereolab ステレオラブはなぜ偉大だったのか (columns)
  12. interview with KANDYTOWN 俺らのライフが止まることはないし、そのつもりで街を歩く (interviews)
  13. Daichi Yamamoto - Andless (review)
  14. The Art Ensemble of Chicago - We Are on the Edge: A 50th Anniversary Celebration (review)
  15. Columns Kim Gordon キム・ゴードン、キャリア史上初のソロ・アルバムを聴く (columns)
  16. Madame Gandhi - Visions / Various Artists - Manara International Presents: The Ultimate Spice Mix (review)
  17. Neue Grafik Ensemble - Foulden Road (review)
  18. クライマックス - (review)
  19. interview with Floating Points ストリングスと怒りと希望のテクノ (interviews)
  20. Nightmares On Wax ──ナイトメアズ・オン・ワックスが来日 (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Stine Janvin- Fake Synthetic Music

Stine Janvin

Experimental

Stine Janvin

Fake Synthetic Music

Pan

Bandcamp

三田格   Nov 05,2018 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 このところ「もっとも暮らしやすい国」とか「高齢者の住みやすい国」といったアンケートでは必ず1位になるノルウェイからジェニー・ヴァルに続いてキュートな実験音楽を。大所帯のジャズ・バンド、キッチン・オーケストラやフィールド・レコーディング主体のネイティヴ・インストゥルメンタルとして活動してきたスティーン・ジャンヴァン・モットランド(現ベルリン)がソロ3作目にして、ついに〈パン〉にリクルート。メデリン・マーキー『Scent』(12)と同じく、すべて声を加工しただけでつくられたサウンドは(もちろん、そうとは思えないけれど)、女性特有のソプラノを断片化し、ループさせたり、ブリープ化することで、タイトル通り「フェイク・ミュージック」として成立させている。ノルウェイではもはやヴェテランともいえるスパンクのマラ・S・K・ラジェが地鳴りのような吠え声に挑んだり、広い音域を駆使するのとは対照的にソプラノだけにフォーカスし、キラキラと光り輝くイメージを構築していく。ニューヨークのエントリーレイディオの解説によると、黎明期の電子音楽にインスパイアされ、レイヴを脱構築したものだということになるそうだけれど、この場合の「レイヴ」は「怒鳴る」とか「わめく」という元の意味を指しているのだろうか。ということはヒステリックに叫んだ声を「素材」にしたということで、それはそれで合点が行くほど「高い声」しか使われていない。ずっと聴いていると、ちょっと気が遠くなってきたり。

 メレディス・モンクやオノ・ヨーコなど声だけでパフォーマンスしてきた女性は多い(なぜ女性ばっかりなんだろう)。それが声だけでつくられているとはすぐにはわからないほど加工してしまうようになったのはごく最近のことで、ダイアマンダ・ギャラスもシーラ・シャンドラもここまでではなかった。ポップ・ミュージックなどでも盛んにオート・チューンなどが使われ、肉声というものに対する愛着が薄れていたりするのだろうか。スティーン・ジャンヴァンの場合、どれだけ声を変調していても、ライヴなどでは息切れや疲れなどが伝わってくることも多く、身体性というのはどこからでも漏れ出してくるものだななとは思ったりするけれど、1枚のアルバムとしてまとめられた『Fake Synthetic Music』にはそういった破綻はなく、見事なほど現在形の「人工性」がパッケージされている。彼女が「フェイク」と表現する方法論には、実際には肉声も混ぜられており、それらが不可分のコンポジションになっているところも上手いとしか言いようがない。合成音には倍音が含まれることはなく、それが合成音のいいところだったりするけれど、いわばシンセサイザー・ミュージックのように聞こえるにもかかわらず、倍音がどこで出てくるかわからないとういう意味では二重にフェイクなのである。

 そもそも女性の声は社会的に高くなってしまう傾向にあり、必要以上に人工的なのだという考え方もある。スティーン・ジャンヴァンはそれを誇張して変形させることによって女性が置かれている位置を戯画して見せているともいえる。かつてローリー・アンダーソンは自分の声を男性の声に変えてパフォーマンスしていた。日本青年館で観たライヴはいまだにインパクトが薄れていない。ローリー・アンダーソンとスティーン・ジャンヴァンがもしも裏表の価値観で結びついているとしたら、誰か、ふたりの共演を実現させてくれないだろうか。滝沢カレンのヒューマン・ビートボックスを加えて(ウソ)。

三田格