ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. R.I.P. Tom Verlaine 追悼:トム・ヴァーレイン (news)
  2. Boys Age - Music For Micro Fishing (review)
  3. interview with Young Fathers 日本はもっとヤング・ファーザーズを聴くべき | アロイシャス・マサコイ (interviews)
  4. Columns ギラ・バンド、ガールズ・バンド、そして音楽的不快感 (columns)
  5. Loraine James - Building Something Beautiful For Me (review)
  6. Ben Frost - Broken Spectre | ベン・フロスト (review)
  7. Thomas Bangalter ——元ダフト・パンクのトーマ・バンガルテルのソロ・アルバムが面白そうだ (news)
  8. Sun Ra ——生涯をかけて作り上げた寓話を生きたジャズ・アーティスト、サン・ラー。その評伝『宇宙こそ帰る場所』刊行に寄せて (news)
  9. R.I.P. Yukihiro Takahashi 追悼:高橋幸宏 (news)
  10. Columns 高橋幸宏 音楽の歴史 (columns)
  11. R.I.P. Terry Hall 追悼:テリー・ホール (news)
  12. Sama' Abdulhadi ──テクノは越境する。パレスチナのDJ、サマ・アブドゥルハーディーに注目しよう (news)
  13. Jeff Mills ——社会は階層化され、垂直にビルというビルが伸びるこの世界で、いまなぜジェフ・ミルズが『メトロポリス』を更新したのか (news)
  14. Marcel Dettmann - Fear Of Programming | マルセル・デットマン (review)
  15. 坂本龍一 - 12 (review)
  16. The Drums - Summertime! (review)
  17. LEX ──「若者の政治離れ」なんて言ったのはだれだ? エレキング注目の若きラッパーが5枚目のアルバムをリリース (news)
  18. Personal Trainer - Big Love Blanket | パーソナル・トレイナー、ウィレム・シュミット (review)
  19. イニシェリン島の精霊 - (review)
  20. Aaron Dilloway ——USのノイズ伝説、アーロン・ディロウェイが10年振りの来日 (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > MAN ON MAN- MAN ON MAN

MAN ON MAN

PopRock

MAN ON MAN

MAN ON MAN

Polyvinyl

木津毅 May 28,2021 UP

 マン・オン・マンのデビュー・シングル“Daddy”のミュージック・ヴィデオには笑った。それは年の差ゲイ・ベア・カップル(「ベア」はゲイ・コミュニティにおいて肉づきがよくて毛深い男性のセクシーさを表現する意味で使われます)が半裸でイチャイチャしているだけのもので、イケてるダディ(「ダディ」はゲイ・コミュニティにおいて中高年男性のセクシーさを表現する意味で使われます)との性的な体験の期待がパンデミックによって邪魔されることの不安を歌った歌詞といい、いま世のなかは大変だけど、こんなに朗らかに過ごしているゲイ・カップルもいるんだな……とちょっと励まされたのだった。
 しかし微笑ましく思っていた数日後、このヴィデオが「過度に性的である」という理由でYoutubeから消されてしまう。え!? いや、ヘテロセクシュアルのものでもっと過激にエロティックなものはいくらでもあるし、ゲイものでも(いわゆる)美青年のものだったらそう簡単に消されないでしょう。「ホモフォビアだ」とゲイのリスナーから抗議が出てしばらくするとヴィデオは復活したが、ダイヴァーシティ・マーケティングが当たり前になった現在、Youtube側にも悪気があったわけではないだろう。ただ、ゲイ度が濃すぎたのだ。ゲイを含め性的マイノリティの表現の受容において世界はこの10年で本当に進んだけれど、世のなかはまだ、ブリーフ姿のおじさんふたりがイチャイチャしているのは見たくないのかもしれないな。だけど僕は子どもの頃から、それがずっと見たかった。本当に。

 ともあれ、当人たちは激しく抗議することもなく、自己隔離のなかでクリエイティヴィティを保つために作ったという音楽をたんたんと発表していく。セカンド・シングルのタイトルは“Baby, You're My Everything(ベイビー、きみはぼくのすべて)”だ。ヴィデオはやっぱり、ゲイ・ベア・カップルが半裸でイチャイチャしているだけのものだった。
 マン・オン・マンはフェイス・ノー・モアのキーボーディストであるロディ・ボッタムが彼氏のジョーイ・ホルマンと組んだユニットで、これがデビュー作だ。ボッタムはハード・ロックやメタル・シーンのなかでは珍しくかなり早くからカミングアウトしており、『アダム&スティーヴ』とのタイトルのゲイ・ラブコメ映画のサウンドトラックを担当するなど、長年飄々とゲイ・コミュニティに貢献してきた人物だ。ただ、ロックのなかでもとくにマッチョなシーンに身を置いてきたために、ホモフォビックな言動は数多く目にしてきたし、実際、カミングアウトは多くのひとに止められたという……ファンを失うことになるぞ、と。それでもボッタムは堂々と「ゲイであり続けた」。元ハスカー・ドゥのボブ・モールドといい、いま60歳前後のゲイ・ロッカーたちが元気に活動していることには、いちゲイとして素直に尊敬の念を抱かずにはいられない。
 アルバムはもっとシンセ・ポップ寄りになるのかと思っていたら、オープニング・ナンバー“Stohner”がもろに90年代オルタナ・ロック調なのを皮切りにして、かなりギター・ロック然とした1枚である。ホルマンは何でもクリスチャン・ロック・バンドのメンバーだったそうで、彼もまた同性愛嫌悪が強いシーンに身を置いていた人物なのだが、彼の音楽的嗜好が反映されたものなのだろう。エレクトロニックなダンス・ポップはゲイ・ポップスとしてはいまやクリシェになっている側面もあるので、ゲイネスをたっぷり表現したロック・ミュージック──1980年代からクィアコアと呼ばれてきた──はいま、かえって新鮮だ。いや音としては新しいものではないが、クィア性があまり目につかなかった90年代のハード・ロックやオルタナティヴ・ロックを新しい価値観から再訪しているようにも見える。そこにはボッタムをはじめとして、少なくないセクシュアル・マイノリティが存在したのだと。

 だから、基本的にボッタムが年下の彼氏のことが好きで好きで仕方ないということが伝わってくるだけの本作は、他愛もないと言えばそうだが、その他愛のなさによってこそセクシュアル・マイノリティの生を祝福する。フワフワとした曲調で素朴に歌われる“It's So Fun (To Be Gay)(ゲイでいることはすごく楽しい)”はそして、21世紀の“Glad to Be Gay”だ。トム・ロビンソン・バンドによるアンセムのように闘争的な姿勢はこの曲にはないが、とにかく楽しく生きることで、マン・オン・マンはセクシュアル・マイノリティの現在と未来をエンパワーメントしているのだ。
 同性愛を「不道徳」だとかトンチキなことを言う人間は残念ながらいつでもいるし、ゲイ度を濃くすると消去されることもまだまだあるだろう。だからこそ、僕たちは自分たちの性と生を謳歌しよう。彼氏のことが大好きなら、人前でイチャイチャしたってかまわない。ゲイ・シーンのパイオニアはかく語りき──It's so fun to be gay!

木津毅