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HAIIRO DE ROSSI

Conscious Jazzy Hip Hop

HAIIRO DE ROSSI

The Time Has Come

forte

小林拓音   Dec 13,2021 UP
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 キイワードのひとつはジャジーだ。ファイヴ・ディーズのファット・ジョンや Olive Oil をプロデューサーに迎えたファースト・アルバム『TRUE BLUES』(2008)から、HAIIRO DE ROSSI はそれを自身の音楽の旗印としてきた。メロウでレイドバックした心地良い曲も多く、今日のいわゆるロウファイ・ヒップホップ好きのリスナーにもおすすめできるアーティストと言えよう。だがその音楽は、ロウファイ・ヒップホップほど無難ではない。
 リリシストとして知られる彼のもうひとつの特徴は──大胆なジェイムズ・ブレイク・ネタで幕を開ける5作め『KING OF CONSCIOUS』(2014)のタイトルが示しているように──そのコンシャスネスにある。モス・デフから影響を受けた彼は2010年、台湾系日本人ラッパーの TAKUMA THE GREAT とともに反中デモに応答する曲を発表。あの時点で明確にアンチ・レイシズムの旗を掲げたのは、ラッパーとして圧倒的に早かった(そのときの経緯や背景についてはこちらの二木信によるインタヴューを参照。ちなみに同記事ではドラッグ全般にたいする忌避感が明かされてもいる。医者から処方される精神安定剤もまた身体を蝕むドラッグでしょうとの見方は、のちにUSのエモ・ラッパーたちがザナックスなどでぼろぼろになっていくことを考えると、これまた早かったと言わざるをえない)。

 ジャジーとコンシャスの二刀流は、昨年リリースされた7作め『HAIIRO DE ROSSI』でもみごとな太刀筋を見せている。わが子への愛を歌い上げる “Flower” は DJ Mitsu the Beats による感傷的なピアノが印象深い曲で、同曲に代表されるように『HAIIRO DE ROSSI』は全体としては優しくあたたかい空気をまとっていたわけだけれど、他方で “Think Twice” のような見過ごせない曲も収めていた。「過激きわめりゃファンは増える/再生数稼げば飯は食える〔……〕SNS経由で火災発生/明日急ぎスーツで謝罪会見」「集団心理がもたらす思考停止/140字取り合うマウント/弱ったところ容赦無えパウンド/レフェリーは大衆10カウント」。このリリックは、多くの人びとが外出を控え液晶画面をにらみつけていた昨春の、暴風雨のようなタイムラインを思い出させる。だれも彼もがネット上のあれこれに振りまわされている、現代のリアルをえぐった1曲と言えるだろう。

 9月に配信でリリースされ、この12月にCD盤の発売を控える8枚めの新作『The Time Has Come』も、HAIIRO DE ROSSI の魅力を大いに伝えてくれる1枚だ。
 まず注目すべきは、「芸術は生きる為に必要」との宣言が耳にのこる冒頭表題曲と、自信にあふれたリリックが炸裂する2曲めの “Broken Jazz”。いずれもひさしぶりに Olive Oil がトラックを手がけた曲で、絶妙なビートの揺れを堪能させてくれる。ジャジー・ヒップホップの担い手としての貫禄を聴かせる2曲だ。終盤のメロディアスな曲たちも聴き逃せない。そこでは HAIIRO DE ROSSI の抒情性が爆発している(トラックの多くは盟友 Pigeondust によるもの)。
 他方、彼のコンシャスネスがもっともよくあらわれているのは、シンガーソングライターの壱タカシをフィーチャーした “Attitude” だろう。1Co.INR によるドラム使いがかっこいいトラックのうえを、格差問題や人種差別、ポリス・ブルータリティ、香港の暴動といった社会的なトピックが駆け抜けていく。「俺たちはこのまま権力に殺される」──。そんな状況をあくまで「music」で超えていこうとする姿からは、彼のラッパー/音楽家としての矜持を感じとることができる。

 興味深いのは、政治的・社会的な問題に切りこんだ曲でも、彼がただ怒りをあらわにしたり、やみくもに反抗的な態度を見せたりしているわけではないところだ。HAIIRO DE ROSSI は本作のいたるところで、オトナとしてどう振る舞うべきかをほのめかしているような気がしてならない。
 たとえば “Broken Jazz” の「街にはポリスマン/権力に屈することはしないが 無駄に立てるミドルフィンガーは持ち合わせない」や、ダースレイダーを招いた “Knowledge” における「バイオレンスはもういい ODももういい」といったフレーズ。サグとは対極の、成熟がある。そして椿──他ジャンル以上に男性優位のヒップホップ界で果敢に闘ってきたラッパー──を招いた “Island Gospel” では、悲惨な現状の指摘は彼女に任せ、彼自身は「讃美歌」を求めている。音楽への厚い信頼。「去ってく人や腐ってる奴が/音楽の力を思い出してくれたら」(“Goodbye to sadness”)。
 スタイル面で言えば、これまでの彼の作品からドラスティックに変化しているわけではない。けれどもここには深化がある。かつていち早くアンチ・レイシズムを唱えた先駆者が、うつ病を経験し、子を授かり、歳を重ねることで到達した境地。ジャジーとコンシャスの組み合わせだけでもじゅうぶん現行シーンにたいするオルタナティヴな気がするけれど、オトナのあり方を示すのはさらに重要なことのように思える。なぜなら今日のラップ・ミュージックは、ほかのジャンル以上に若者の音楽であるからだ。そんなシーンに本作が投げ落とされたことの意義は大きい。

小林拓音