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映画:フィッシュマンズ

映画:フィッシュマンズ

監督:手嶋悠貴 企画・製作:坂井利帆
出演:佐藤伸治 茂木欣一 小嶋謙介 柏原譲 HAKASE-SUN HONZI 関口“dARTs”道生 木暮晋也 小宮山聖 ZAK 原田郁子(クラムボン) UA ハナレグミYO-KING(真心ブラザーズ) こだま和文
配給:ACTV JAPAN/イハフィルムズ
2021/日本/カラー/16:9/5.1ch/172分
©2021 THE FISHMANS MOVIE

現在上映中
<公式HP> https://fishmans-movie.com
<公式Twitter> https://twitter.com/FishmansMovie
<公式Facebook> https://www.facebook.com/fishmansmovie
<公式Instagram> https://www.instagram.com/fishmansmovie/
ジェイムズ・ハッドフィールド水越真紀   Jul 27,2021 UP
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ジェイムズ・ハッドフィールド(江口理恵・訳)

 『映画:フィッシュマンズ』の終盤で、こだま和文は故・佐藤伸治が残した、この映画を一刀両断する批評のような気のきいたしゃれを思い出す。「お腹いっぱいって嫌だね」
 フィッシュマンズの進化は、より少ないことから多くを成し遂げる方法を探る、着実な蒸留のプロセスにあったといえる。佐藤が歌詞を極限のむき出しの状態にまで削ぎ落す一方、グループの音楽は、メンバーが縮小されるほど、可能性の広がりを見せた。監督の手嶋悠貴はそれに倣うことなく、小野島大の巨大な便覧のような『フィッシュマンズ全書』に近い、膨大な全能のデータを書き出すような映画を生み出した。3時間近くにおよぶこの作品は、ハードコアなファンが待ち望んだ、DVD『男達の別れ98.12.28@赤坂BLITZ』や『記憶の増大』を補完するような、徹底したオーラル・ヒストリー(口述歴史)である。それほど熱心ではないファンには、長い苦行のように感じるかもしれないが、そもそも彼らが3時間のドキュメンタリーをわざわざ観るとも思えない。
 映画の大部分が年代順の形をとっており、大学時代から1999年の佐藤の早すぎる死まで、バンドの歴史を丁寧に追い、最後に佐藤のいないフィッシュマンズの控えめな継続活動を描くコーダで終わる。手嶋は大量のVHSテープのアーカイヴを使用して、メルボルン(デビュー・アルバム『Chappie, Don’t Cry』のレコーディングを行った)での観客の少ないライヴから、1998年12月28日のライブの最終曲まで、バンドの軌跡の様々な場面での親密な姿を垣間見せている。
 しかし、この映画の真骨頂は、生き残ったメンバーやプロデューサーのZAKを含む重要人物たち、マネージャーの植田亜希子、音楽ライターの川崎大介、(さらに、UA、ハナレグミ、YO-KINGなど、定番の有名人の知人たちも登場)などのインタヴューの数々だ。映画の最初では茂木欣一が佐藤との出会いの場である大学のキャンパスの音楽室を再訪し、最後のほうでは日比谷野外音楽堂も訪れる。続く柏原譲が奥多摩の川辺の通路で話すシーンは、『LONG SEASON』 のジャケット写真が撮影された場所で、2019年の台風19号ハギビスで崩壊してしまったところでもあり、非常に痛切に心に迫ってくる。このシーンは、映画の、微かにへこんだような空気感を捉えている。手嶋は祝祭に乗り出すつもりだったのかもしれないが、ときにレクイエム(鎮魂歌)のようにも感じられる。

 『映画:フィッシュマンズ』はバンド内の力学を上手に捉えており、ときに記録を正そうと意識的に努力しているようにもうかがえる。ギタリストの小嶋謙介とキーボーディストのHAKASE-SUNが辞めることになった経緯やフィッシュマンズがポリドールとの契約によって──もっとも永続的な音楽を残した結果があるにもかかわらず──事実上、破滅してしまったことなどについて、深く、ときにどうでもよいディテールに延々と入り込む。佐藤が投影していた、自由奔放な性格というペルソナを考えると、フィッシュマンズのキャリアの初期に、最初の大ヒットを出すためにやるべきことの詳細なリストを記した手書きの日記を見るのは興味深い。ポリドールが彼らを次のスピッツにしたがっていたと、いま驚くのは容易だが、フィッシュマンズ自身がそのわずか数年前に、同じようなメインストリームの観客を獲得しようと試みていたのだ。
 佐藤のダークサイドについても示唆されてはいるのだが、彼を悲運の人物に見せようとはしていない。しかし、手嶋は、ミュージシャン佐藤の最後の1年が肉体的かつ精神的にも脆い状態になっていたことについて、真剣に議論する機会を逃してしまったのかもしれない。植田が、『男達の別れ』ツアーの頃には、佐藤がいかに疲労困憊し、酸素吸入をしなければならなかったことを明かしており、彼を助けるためにもう少し何かができたのではないかと思わずにはいられないのだ。

 本作で明らかになったことの多くは、熱心なファンにとっても新鮮なものだろう。手嶋は、フィッシュマンズを故人のフロントマンと同一視してしまう一般的な傾向を正してくれたことでも評価できる。エンドクレジットで流れる再結成されたフィッシュマンズの演奏に合わせて流れる佐藤の声のように、佐藤自身は映画のなかの、どこにでもいて、どこにもいない。『Orange』のロンドンでのレコーディング中、カフェテラスでのんびりとギターを弾いているような、もっともくつろいだ瞬間にも、その何気ない物腰とは対照的に強烈な存在感を放っている。(映画に出てくるインタヴュイーのなかでもっとも辛辣なHAKASEは、実際の佐藤は、ナイーヴなファンが想像したがるような、天真爛漫な楽天家のイメージとはかけ離れていたと語っている)

 正直なところ、私は『映画:フィッシュマンズ』が彼らの音楽の手法や完璧なダブ・ホップ・コンボがいかにして世田谷三部作のような崇高な高みに到達したのかについて、もう少し洞察を与えてくれるのではないかと期待していた。映画に収められているライヴの記録映像は、ほとんどがかなりお粗末なクオリティで、カムコーダーで撮影されたギグのヴィデオやスーパー8の映像、写真などのモンタージュの音楽の断片には度々アルバムからの音源が当てられている。ようやく曲の完全なパフォーマンスを見ることができるのは、映画の最後の1時間になってからで、1998年12月に赤坂ブリッツで行われたコンサートのローファイなヴィデオが登場する。この映像は露出度が高すぎてハレーションを起こしている状態で、彼らのキャリアのなかでもっとも多く記録されているライヴの映像にしてはあまり貢献していない。それよりも佐藤の自虐的なMCのクリップの方が、はっきり言って輝いている。

 映画のクラウドファンディングのキャンペーンで手嶋は、日本の自主製作による音楽ドキュメンタリーは、音源や記録映像のライセンスを取得するための莫大な費用にぶち壊されることが多いと説明した。同情を禁じ得ないが、そのような制約があるからこそ編集により有効な厳格さが求められ、本作でもインタヴューと音楽そのものの満足できるバランスが保たれるべきだった。もしも『映画:フィッシュマンズ』の意図が鑑賞者にオリジナル・アルバムへの回帰を促すことだとしたら、文句なしの成功といえるだろう。しかし、単独の映画としては過ぎたるは及ばざるがごとしであるがゆえに物足りなさも残る。

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