Home > Columns > ハテナ・フランセ- 第10回 フランソワ・リュファンはフランスのジェレミー・コービンか
現在日本では衆院選の真っ最中ですが、フランスでは9月24日に議会上院の選挙が行われたばかり。とはいえ上院は直接的な国民投票ではなく議員による投票なので、国民の関心も薄い。そんなわけで今回は6月の選挙で約2/3が初当選の議員が占めることになったフランスの下院議会、そして個人的に注目している議員フランソワ・リュファンのお話をしたく。
先の下院選でマクロン大統領率いる新党、「共和国前進」は協力政党の「民主運動」と合わせると国民議会の6割に上る議席を獲得し大勝利を納めた。与党が過半数を占める議会となった選挙ではあったが、議員の顔ぶれは大きく変わった。これまでの2大政党の共和党は113議席、社会党は29議席史上最低の数字を記録。大統領選の最終決戦に残ったマリン・ルペンの率いる国民戦線は、大統領選時のルペンのディベートが振るわなかったせいで勢いを削がれたが、それでも前回の4倍に当たる8議席を獲得。そんな中で大統領選にも出馬したジャン=リュック・メランションの左派新政党、「屈しないフランス」がフランス議会で会派を形成できる15議席をからくも超えた17議席を獲得して健闘した。この党の中でも抜群の好感度を誇るのが先に触れたフランソワ・リュファンだ。
現在42歳のリュファンは左寄りの季刊新聞Fakirの創刊者でありジャーナリスト。マイケル・ムーアに影響を受けて「メルシー、パトロン!(社長さま、ありがとう)」というドキュメンタリー映画を撮り50万人を動員する大ヒット記録した。ディオールやルイ・ヴィトンなどを傘下に持つLVMHのCEOにして世界で5本の指に入る大富豪、ベルナール・アルノーに、リストラされた工場労働者の老夫婦とともに立ち向かう様をユーモアたっぷりに描いた本作。世界最大とも言われるファッション・グループから送られてくる百戦錬磨な社員たちを相手に、職を失い家も失う危機に瀕した下層労働者階級の老夫婦を、弁護士などの援護なしにアイデアのみで窮地から救っていく様は「スターウォーズ ジェダイの帰還」でイウォークが帝国を工夫と団結力で倒したような爽快感だ。そして全編に散りばめられたベルナール・アルノー=富と冷酷な資本主義の象徴に対する、徹頭徹尾ふざけたおちょくり&反抗精神が、観る者に「何もできないと諦めていたけど、本当は自分でも何かできるかもしれない」という希望と政治参加を喚起した。この映画をきっかけにフランスではNuit Debout(夜、立ち上がれ)というデモ運動が始まり、パリならばレピュブリック広場で夜を徹して資本主義に偏った社会をどうしたら変えられるか討論が行われている。その活動はフランスだけでなくスペイン、ベルギー、ドイツ、イギリス、イタリアなど、ヨーロッパ中に広がってさえいる。その運動の中心となったフランソワ・リュファンが今年6月の下院選で初当選したのは当然の流れと言えるかもしれない。
当選してからもリュファンの姿勢はジャーナリストそのもので、いわゆる社会の底辺で困難にあえぐ人たちの話を聞きに足を運び、徹底して大企業や政治家の不正や不誠実さを調べ上げ議会で追求する。例えば8月末に政府が発表した労働法改定案は、雇用者が今よりも解雇をしやすくしたり、賃金交渉が労働組合を通さないでも行えるような抜け道を誘導するような法案で、経営者、雇用者側に有利で市場原理主義のマクロンそのものといえるものだ。その法案に反対するべく、リュファンは大手スーパー、オーシャンの例を上げる。「売上を14%伸ばし株の配当も75%伸ばし、経営者のジェラール・ミュリエは260億ユーロの資産を持っているにもかかわらず、870人もが解雇された。この意識の高いみなさんの集まる議会で、我々はどうやって経済的弱者が経済的強者から搾取されることを防げるのか。共和国前進の議員諸君教えてくれ給え!」と、時に笑いを誘いながら正確なリサーチに基づきリュファンはしつこく問いかけ続ける。また最新のエピソードとしては、フランス最大の精肉会社ビガーの社員への不当な扱いを非難し、調査委員会で口座開示を求めた。もちろん企業側はのらりくらりと返答を避け、当然口座開示も拒否。それに対抗して民主運動の議員とともに正式な口座開示要請の手紙を送りつける様をもちろんSNSで公開。ただリュファン始め「屈しないフランス」などの議員たちが提出する修正案や法案などはことごとく「共和国前進」の議員たちの反対にあい、残念ながら通ることはないのだ。少なくとも今のところは。このように現在のフランス議会は既成の政治への否定に始まり、市場原理主義の「共和国前進」に対し彼らの行きすぎた資本主義を大きく引き戻そうと「屈しないフランス」などが抵抗する場になっている。「屈しないフランス」党首のジャン=リュック・メランションは、今後「共和国前進」の議員たちの造反が少しずつでも増えてくることを密かに狙っているようだが、どうなることやら。
ただ個人的には野心と私利私欲に駆られた誠実さのかけらもない政治家ばかりなのだろうかと絶望しつつある今日この頃、社会の底辺で困窮する人々を救うために何をするべきかという使命感のもとに活動する政治家を目にすると、ちょっと希望を抱かされるし自分なりに社会貢献をしてみたくなったりするのだった。頑張れリュファン! SNSフォローし続けるからね!