Home > Columns > ロンドンで感じた熱いヴァイブス- ──Tohji も出演した NTS Radio~Eastern Margins の盛況
文:米澤慎太朗 Sep 03,2019 UP
■ 2019年8月16日 午前7時
トランジットのバンコクから12時間のフライトを経て、ヒースロー空港に到着した。バンコクの30度超えと高湿度から、ダウンが必要な寒さへ。寒暖差による疲労と、その前の中国ツアーの疲れもあって、空港ホテルで仮眠をとることにした。
今回のメイン・イベントは、Bussey Building で開催されるサウンド・クラッシュだ。ジャンルを超えた異種格闘技のようなクラッシュに、日本からは Eastern Margins として Tohji、Taigen Kawabe (Bo Ningen / Ill Japonia) と僕が参加することになった。
Whatsapp と LINE を使いながらサウンド・クラッシュについて連絡を取り合う。事前にオンラインでの打ち合わせのみだったものの、Double Clapperz の相方の UKD の制作と Taigen さんのアイディア、Tohji のラップが噛み合い、準備はなんとか間に合った。
その日の午後には最終の打ち合わせのため、東ロンドンのダルストンに向かった。サウンド・クラッシュのヘッドライナーの Tohji とは、2年半ほど前にメールをもらって以来の付き合いだ。拠点としているのが西東京の近いエリアだとわかり、色々遊んだり制作したりしていた。また、Taigen Kawabe さんはこの機会で初めてお会いすることができた。
■ 2019年8月16日 午後5時
(左:てぃーやま、右:Yaona Sui)
打ち合わせのためダルストンで Taigen さんと、Tohji と Tohji チームのてぃーやま(@k11080)と Yaona Sui(@llllllll.llllllll.llllllll)と合流。打ち合わせがひと段落したところで、Taigen さんからダルストンの移り変わりの激しさを聞いた。古くはレイヴの街として知られており、The Albi や Birthdays、Dance Tunnel といった小さなクラブも軒を連ねていたが、再開発等の理由で閉店してしまったという。確かに昨年訪れたときに比べて、新しい建物が増えて街並みのカラーが変わってきたなと感じた。
その足で、NTS Radio のスタジオがある Gillet Square に向かった。NTS Radio はロンドンを拠点とした、アンダーグラウンドからメインストリームまで、さまざまなアーティスト、ミュージシャン、ラッパーに開かれたラジオ局だ。Aphex Twin が特別番組をやったり、Mixpak、Denzel Curry、Onra、Bone Soda などさまざまなジャンルのアーティストがレジデントを担当するなど、ロンドンの音楽シーンの中心的なラジオ局である。
スタジオの目の前はスケートができる公園になっていて、オープンな場所になっている。公園でたむろする人びとを横目に、ロンドンに帰ってきたなと感じながらスタジオに入った。
(Photo from NTS Radio)
https://www.nts.live/shows/guests/episodes/tohji-16th-august-2019
ラジオでは Tohji が制作にインスパイアを受けた曲や Twitter でファンが作ったマッシュアップ動画を紹介していた。いい意味で肩の力が抜けていて、ふざけながら放送をしていて、あっという間の時間だった。
放送中なによりも驚いたのは、日本時間では深夜3時の放送にもかかわらず多くの日本のファンがリアルタイムで聴いていたことだ。彼が起こしている熱狂を感じた。
■ 2019年8月16日 午後11時
ラジオが終わった足でそのままサウンド・クラッシュが開かれるペッカムに向かう。パーティを主催した Eastern Margins は、Lumi が主催するロンドンのレギュラー・パーティだ。以前紙版の ele-king コラムでも紹介させていただいたが、ロンドンに住むアジア系の人々に対してスペース・居場所を作るというコンセプトでスタートしている。今回はスペシャルな一晩としてサウンド・クラッシュが開催された。会場となった南ロンドンのペッカムの Bussey Building にはサウンド・クラッシュを楽しみにした約500人のお客さんが来場した。ロンドンの普通のクラブでない場所でおこなわれたイベントで、この規模はかなり驚きだ。
(Photo by @asiangirrlfriend)
お客さんの中にはアジア系を含め、セクシュアリティやエスニシティの多様なお客さんがいて、Eastern Margins が実践する「セーファー・スペース・ポリシー」に則って、みんなが居やすい場所となっていると感じた。以前ベルリンのクラブ OHM でプレイしたときの空気に近かった。
クラッシュの内容は、TT (fka Tobago Tracks) がグライム・ベースラインをプレイし、ICEBOY VIOLET や M.I.C といったMCが口撃すると、〈Warp〉からデビューした Gaika が率いる The Spectacular Empire がクラシックなダンスホール・スタイルで応戦。Kamixlo 率いる Ángeles y Demonios はハードコアな4つ打ちで盛り上げるなど、ジャンルを超えたサウンド・クラッシュが熱を帯びた。お客さんもそれぞれのジャンルを受け入れつつ、ダブやMCに盛り上がっていった。
(Photo by @asiangirrlfriend)
Taigen Kawabe のソロ・プロジェクト ILL JAPONIA のラフなライヴと、Tohji のUKデビュー・ライヴでは満員のフロアの注目を集めた。Tohji の英語の「俺たちはモールからやってきた、わかるだろ、俺はモール時代のリーダーなんだよ」という言葉はお客さんにも刺さったように見えた。確かにショッピングモールは世界中のどこにでもあるし、そのバックグラウンドから生まれるヴァイブスは、国境を越えて共有できるものだ。シンプルな彼のメッセージが海を越えてロンドンの若者と共鳴している感じがした。
3時間に及ぶサウンド・クラッシュを制したのはMCが入り乱れて盛り上げた地元のクルー TT。彼らの優勝をフロアが拍手で称えた。お互いを認め合う雰囲気が溢れた素晴らしい一晩だった。
長い1日の疲労感と達成感を感じつつ、Uber を捕まえてホテルに帰ったのは朝の7時だった。
■ 2019年8月24日 午後5時
サウンド・クラッシュで出会った M.I.C は、TT の一員としてエネルギー溢れるMCを披露していた。そんな彼が、Reprezent ラジオでのショーに招待してくれた。Reprezent ラジオは Brixton Pop という場所にある。蒸し暑い地下鉄を乗り継いで、Brixton に向かった。
ジャマイカ系やアフリカ系のルーツを持つ人びとが多く暮らすこのエリアでは、翌日から開催予定のカーニヴァルを前にして賑わいにあふれていた。Reprezent Radio のラジオ局がある Brixton Pop でも屋台やサウンドシステムのステージが大盛況で、そんな街のエネルギーに押されてか、M.I.C と 237 mob の KIBO との2時間セッションも熱に溢れたセットとなった。ライヴセットやサイドMCで鍛えられたフリースタイルとふたりのエネルギーには感嘆するばかりだった。
約1週間のロンドン滞在の端々で感じたのは、他のクルーに対するリスペクトだ。例えばセッションした M.I.C が「言葉はわからないけど Tohji は凄くよかったよ、(対戦相手ではなくて)お客さんとして見たかったよ」と言ってたように、お互いが違う生まれ育ち、違う言語を話すことをリスペクトして、言語や違いを超えたヴァイブスを共有するという姿勢が感じられた。
言葉やバックグラウンドの違いを認め合い、それぞれをリスペクトした上で、共有できるヴァイブスを掴みにいく。インターネットで分断された時代に、感性を通じて繋がれる。そんなアイディアをロンドンで見つけたような気がした。