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Home >  Columns > 日本語ラップ最前線- ──2019年の動向から占う日本のヒップホップの現在(前編)

Columns

日本語ラップ最前線

日本語ラップ最前線

──2019年の動向から占う日本のヒップホップの現在(前編)

談:吉田雅史、二木信 聞き手:小林拓音 Jan 31,2020 UP

ラップ~ビート~音響、それぞれの変質

マンブル・ラップの多様性もそうですし、そうやって自分のスタイルやイメージを規定せず、自分のなかに多様なスタイルを持つのもいまのラッパーのあり方だと思うんです。(二木)

二木:今年の1月に入ってから SANTAWORLDVIEW が出した『Sinterklass』も良かったですね。YamieZimmer のビートのヴァリエーションも面白かった。

吉田:それから SANTA や Leon、あと Moment Joon も “ImmiGang” で披露しているトラップビート上の32分音符基調の早口フロウにしても、Miyachi の『Wakarimasen』収録の “Anoyo” や JP The Wavy らが乗りこなす三連フロウにしても、近年のトラップとの格闘を通じて再発見された、日本語のラップ表現にとって大きな財産だと思います。オンビートの早口は子音と母音がセットになるいわゆる開音節言語の日本語とすごく親和性が高いし、Leon はサウンド重視と自分でも言っているけど、例えば『Chimaira』収録の “Unstoppable” なんかは早口であっても非常にメッセージが伝わってくる楽曲になっている。これは90年代の終わりにチキチキビートが世を席巻したときに、日本語でどうやって倍速の譜割でラップを乗せるか格闘した時期にもダブるものがありますね。

二木:わかります。TwiGy が『FORWARD ON TO HIP HOP SEVEN DIMENSIONS』(2000)というアルバムでいち早くサウス・ヒップホップにアプローチしたのとも被りますね。“七日間”、“GO! NIPPON”、“BIG PARTY”、“もういいかい2000”、特にこの4曲は TwiGy の先駆性を如実に示している。彼は日本のトラップ・ラッパーのパイオニアですね。スリー・6・マフィアなどのサウスのラップだけではなく、倍速/早口ラップの参考にしたのは、『リズム+フロー』にも登場していたシカゴのトゥイスタやUKのダンスホールのディージェー、ダディ・フレディだったという主旨の話も ele-king のインタヴューでしてくれました。もうひとつ、Leon Fanourakis の『Chimaria』から、自分のような世代の人間が個人的に連想するのは、DABO の『PLATINUM TONGUE』(2001年)でした。それは Leon が DABO を意識しているとかそういう意味ではなくて、セルフ・ボースティングの手数の多さで猪突猛進するスタイルという点において、ですね。DABO の “レクサスグッチ” を久々に聴きましたけど、この曲が20年前に切り拓いたものってでかいなとあらためて痛感しました。

吉田:当時 DABO のバウンスビートへのアプローチは早かったし、地声ベースの低音ヴォイス中心のアプローチも共通するところはありますよね。

二木:SANTAWORLDVIEW、Leon とともに、YamieZimmer がプロデュースを手掛ける Bank.Somsaart も素晴らしいラッパーですよね。さっき GRADIS NICE & YOUNG MAS “THE FIRST” について日本語と英語の発音のそれぞれの特性を活かして同居させていると話しましたけど、『Who ride wit us』の Bank はむしろ日本語と英語それぞれの発音やアクセントの境界線を消滅させて、ウィスパー・ヴォイスで呪文のようなフロウをくり出していく。さらに彼のルーツのひとつであるタイ語も含まれるということなのですが、正直に告白すれば、タイ語の部分がどこなのかまだ自信をもって聴き取れていない側面もあります。ただ、こんなにささやくようにラップしてリズミカルなのがすごいな、と。

吉田:Bank もまさにそういう境界を曖昧にするスタイルですよね。彼のラップがマンブル的かどうかという問題は別としても、マンブル・ラップの解釈もすごく多様になってきている。「日本語」ラップといっても、例えばブッダ・ブランドの頃から英語をミックスするラッパーたちは、もともとマンブル性というか、何を言っているかわからないところがあった。バイリンガル・ラップの系譜に Bank のようなラッパーもいるとして、日本語を徹底的に崩すという点では、釈迦坊主もそうですよね。最初は脱構築された日本語の発音に阻まれて、全然言っていることが分からないんだけど、歌詞を見ると間違いなく日本語だし、意味が途端に入ってくるという。かつて LOW HIGH WHO? 時代の Jinmenusagi や Kuroyagi がやっていたことにも近くて、曖昧母音を多用したり、あるいは開音節から母音を引いて閉音節にしてしまったりと、子音や母音のレヴェルで発音を英語的なものに近づけているわけですよね。5lack や冒頭で触れた LEX もそのような系譜にあると思います。でも釈迦坊主がとてもユニークなのは、日本語のアクセントや子音母音の仕組みを壊しているけど、だからといって個々の語の発音自体を英語に近づけているわけではないところです。日本語には聞こえないけど英語に空耳するわけではないという、まるで架空の言語を創造しているような。Tohji が “Hi-Chew” で聞かせるようなマンブル的発語なんかとも合わせて、これまでの日本語と英語の対立軸を超えているし、それは釈迦坊主が時々見せるインドへの目配りやエスニックなサウンドやスケールの導入ともリンクしている。最新EP「Nagomi」でも独特のメロディセンスが突き抜けてるのは勿論、ラップの声が持つパーカッシヴな側面をそれこそミーゴス並みに引き出してると思います。

釈迦坊主「NAGOMI」

二木:僕は釈迦坊主の「NAGOMI」のなかで、UKブレイクス×ラップ・シンギン×ニューエイジと言いたくなるような “Alpha” がとても好きでした。でも全曲良いですよね。ここですこし補足しますね。マンブル・ラップをざっくり定義すれば、歌詞の意味よりもリズムやノリを重視するラップとなります。それゆえに、マンブル・ラップは一部では否定的な意味合いを込めて使われる。これは FNMNL の記事で知りましたが、チーフ・キーフが自分がマンブルを発明したと主張する一方、ブラック・ソートのようなベテランまで自分が元祖だと主張したりもしているという。ただここで僕と吉田さんはマンブルだから良いとか悪いとかそういう価値判断をしたいわけじゃない、そういうことですよね。Bank が去年の11月にサンクラにアップした “you're not alone” という曲はこれまでとガラリとスタイルが異なり、前向きなメッセージを日本語の発音を明瞭にすることで伝えようとしていた。マンブル・ラップの多様性もそうですし、そうやって自分のスタイルやイメージを規定せず、自分のなかに多様なスタイルを持つのもいまのラッパーのあり方だと思うんです。

吉田:じゃあそういうマンブル的な状況でラッパーがどう表現していくかというと、やっぱりフレージングが重要になりますよね。先ほどの「RASEN」のサイファーでいえば Tohji や LEX が顕著ですが、フリースタイルでいかに2小節や4小節の印象的なフレーズを次々と繰り出すかということを競っている。従来のフリースタイルは2小節ごとに踏む韻を変えながらひとつの物語を作っていった。でもいまは2小節ごとに異なったリズムやメロディのフレーズを切り替えて、それでいかに耳をひけるかを追求する。韻ではなくてフレーズが牽引するという。USのトラップ以降のラップ・ミュージックは、いかにこのフックでリスナーを掴めるかの戦いですよね。かつてのヒップホップ・ソウルの時代はフィーチャーしたR&Bシンガーがコーラスを歌ったけど、ドレイク以降はラッパーが自分で歌う。より音楽的になったとも言えるし、メロディだけじゃなくてリズムの解像度も高くて、トラップのような隙間の多いビートを彩る新しい解釈が求められる。

従来のフリースタイルは2小節ごとに踏む韻を変えながらひとつの物語を作っていった。でもいまは2小節ごとに異なったリズムやメロディのフレーズを切り替えて、それでいかに耳をひけるかを追求する。韻ではなくてフレーズが牽引する。(吉田)

二木:“USのトラップ以降のラップ・ミュージック” というラインが出ましたが、Leon、SANTAWORLDVIEW、Bank.Somsaart、そして YamieZimmer にふたたび話を戻すと、彼らは FNMNL の磯部涼のインタヴューで特に YamieZimmer がサウス・フロリダのヒップホップを熱心に聴いていると語っていましたね。ただ、その発言ももう2年前ぐらいのことですから、そのあいだに本人たちのなかにもいろんな変化があったとも推測できます。それはそれとして、僕が最初に彼らの音楽に惹かれたのは、ダーティ・サウスのファンクネスを継承する音楽に通じるものを感じたからなんです。彼らの音楽を聴いて2000年前後の TwiGy や DABO を連想したのもそういうことかもしれない。ちなみに、スモークパープが昨年出した『Dead Star 2』というアルバムに入っていたデンゼル・カリーとの “What I Please” のMVが今年に入って公開されましたね。

吉田:スモークパープがようやくアングラから浮上してまるで新人のように扱われていることに複雑な思いもありつつ(笑)、フロリダはアトランタと比較しても洗練されていなくて、歪んでいて、ときに不穏で、ときにユーモラスという、ダーティ・サウスになぜ「ダーティ」という形容詞がついていたかを体現しているようなサウンドですよね。スキー・マスクやデンゼル・カリーは、トラップコア的な冷たい暴力性や、ウィアードな音を多用するところに作家性を感じます。Leon のアルバムはロニー・J 的というか、BPMもトラップ以降の遅さで統一されてるけど、一方で Bank のアルバムはドレやマスタードのファンクをもっとダーティでロウなサウンドで更新するようなBPM速めのビートも多くて、YamieZimmer の懐の深さを感じますよね。

二木:実際に、Leon の『Chimaria』に収録された “Keep That Vibe” はサウス・フロリダのベース・サンタナのビートです。ここから語るのは多少強引な極私的解釈ですが、スヌープ・ドッグとファレルの大名曲 “Drop It Like It's Hot” をサンプリングしたスキー・マスクの『STOKELEY』(2018)収録の “Foot Fungus” は、少ない音数と音色でファンクを捻り出すいわば “ミニマル・ファンク” です。そして、そういうファンクの源流にはスライ&ザ・ファミリー・ストーン『暴動』(1971)があるのではないかと。YamieZimmer が作り出すファンクの律動とグルーヴはその最先端を行っているのではないか。そんなことを考えたりしました。ちなみに彼は Bank の “Who ride wit us” という曲では、80年代後半のマーリー・マールを彷彿させる原始的なブレイクビーツ、それこそブーム・バップと言ってもいいようなビートを作っています。そういう柔軟性も YamieZimmer の魅力だと思います。彼が前述したインタヴューで Budamunk について言及していたのがまた印象的でした。「今の日本語ラップは全く聴かない」と前置きした上で、Budamunk のビートを称賛している。そういう日本のヒップホップの聴き方もある。例えば、Budamunk が90年代、00年代のヒップホップやR&Bのインストをミックスする『Training Wax』というミックス・シリーズが昨年2枚出ましたよね。

吉田:あれめっちゃいいよね! 完全に音響の世界に行ってて、元のハイファイ寄りの音源をいかにかっこよくローファイに汚せるかということをやっている。「あの曲がこういうふうに聞こえるのか!」という驚きがある。

二木:まさにそう! 吉田さんがあのミックスを聴いているのが、めちゃうれしいですし、信頼できます(笑)。フィジカルでこっそり流通していただけですもんね。あまりにもあの音響が衝撃的で、Budamunk 本人に「あの音響はいったい何なんですか?」って訊いたんですよ。これは、僕の記憶が間違っていたら謝るしかないんですけど、「EQをいじっているだけですよ」って答えてくれたと記憶しています。EQいじるだけでこんなにも独創的な作品を作れるのかとさらに驚いた。

吉田:当時多かった「ヒップホップ・ソウル」とも呼ばれていたような、ヒップホップマナーのサンプリングループでビートが作られたR&B曲を、単にDJミキサーのEQでモコモコにフィルタリングするだけで彼の色にしてしまうという。ヒップホップ的な価値転倒が全編で表現されていて最高です。

二木:そう。ヒップホップ・ソウル色が強かった『Training Wax VOL.1』も素晴らしかった。たとえば、セオ・パリッシュのDJが好きな人にはぜひ聴いてもらいたいし、絶対気に入ると思う。それと、これは、僕のいささかロマンチックな歴史認識のバイアス込みで語りますが、『Training Wax』は Budamunk のオリジナルのビートではないものの、DJ KRUSH の『Strictly Turntablized』のリリースから25年つまり四半世紀のときを経た2019年のビート・ミュージックのひとつの成果を示している、それぐらい重要な作品だと感じています。

吉田:Budamunk は基本サンプルを使うんだけど、ミニマルで音数が少ないから、空間が多くて、リズムと同じく一音一音のテクスチャーというか、音質にも凄く耳がいきますよね。2019年は仙人掌の『Boy Meets World』の傑作リミックス盤が出たけど、そのなかの “Show Off” の Budamunk リミックスは音響的にかなりこだわっていて、中央で鳴るサブベースにリヴァーブの効いたコードのスタブに、ざらついたスネアが少し右のほうで鳴っている。このスネアは中央で鳴るハットと位相がズレていて、さらにそのスネアの残響音は左の方から聞こえるという確信犯的な立体感。終盤ではさきほど話した得意のEQフィルタリングも聞こえてきます。ミニマル・テクノやアンビエントを聴く耳で、細かい音の肌理やテクスチャーを追うと全然違う楽しみ方ができると思います。ひとつひとつの音の追い込み方と、その結果生まれている快楽がずば抜けている。

仙人掌 “Show Off - Budamunk Remix”

日本という地域のローカルな言語で表現されるラップ。その2019年の代表格である舐達麻が、グローバルに耳を刺激するビートメイカーと組む。こういうことがいま起きている。(二木)

二木:『Boy Meets World』のリミックス盤の制作の相談役が Budamunk でしたからね。彼はLA、ニューヨーク、中国のヘッズにも知られていると聞きます。SoundCloud や Bandcamp を通したビート・ミュージックの世界的なネットワークのなかにいる、日本のビートメイカーの先駆的存在じゃないでしょうか。

吉田:Bugseed にしても GREEN ASSASSIN DOLLAR (以下、GAD)にしても海外のオーディエンスがたくさんついてますよね。Bugseed は『Bohemian Beatnik』の衝撃からもう10年なのか……ウィズ・カリファにビートを使われた事件で脚光を浴びたりしましたが、SoundCloud でワールドワイドに認知度を上げて Bandcamp で作品を販売する日本のビートメイカーの先駆けとなった感がありますよね。

二木:いま GAD の名前も出ましたが、彼が2019年に大躍進した埼玉・熊谷のグループ、舐達麻の作品における主要ビートメイカーである事実は忘れてはならないですよね。彼はドイツのレーベルから作品を発表していますね。対談の冒頭で吉田さんから、ガラパゴス的な日本語ラップという言葉が出ました。つまり日本という地域のローカルな言語で表現されるラップということですね。その2019年の代表格である舐達麻が、グローバルに耳を刺激するビートメイカーと組む。こういうことがいま起きている。この話の流れで付け加えておくと、冒頭で触れた星野源が PUNPEE を客演にむかえた “さらしもの” のトラックを作ったのは、チャンス・ザ・ラッパー “Juke Jam” (『Coloring Book』収録)のビートを手掛けたり、『ブラック・パンサー』のサントラに収録された “I AM” という曲にもクレジットされているドイツ人のプロデューサー、ラスカルでした。ということで、次は舐達麻の話からはじめましょうか。

(後編へ続く)

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Profile

二木 信二木 信/Shin Futatsugi
1981年生まれ。音楽ライター。共編著に『素人の乱』、共著に『ゼロ年代の音楽』(共に河出書房新社)など。2013年、ゼロ年代以降の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした単行本『しくじるなよ、ルーディ』を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社/2015年)の企画・構成を担当。

Profile

吉田 雅史 吉田 雅史/Masashi Yoshida
1975年、東京生まれ。異形のヒップホップグループ8th wonderを中心にビートメイカー/MCとして活動。2015年、佐々木敦と東浩紀(ゲンロン)が主催の批評再生塾に参加、第1期総代に選出される。音楽批評を中心に文筆活動を展開中。主著に『ラップは何を映しているのか』(大和田俊之氏、磯部涼氏との共著)。Meiso『轆轤』プロデュース。

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