「Noton」と一致するもの

Idris Ackamoor & The Pyramids - ele-king

 シャバカ・ハッチングスや彼の参加するサンズ・オブ・ケメットヌビア・ガルシア(ヌバイア・ガルシア)モーゼス・ボイドら、ザラ・マクファーレンらの作品には、アフロ、カリビアン、ラテン、レゲエなど第3世界の音楽とスピリチュアルなジャズが結びついたモチーフが頻繁に登場する。こうしたディアスポラなアイデンティティとアフロ・フューチャリズム的な方向性が、彼らサウス・ロンドンのジャズの柱にあると言えるのだが、そうした活動を1970年代からおこなっているのがアイドリス・アカムーアと彼の率いるザ・ピラミッズである。以前『アン・エンジェル・フェル』(2018年)がリリースされたときに彼らのプロフィールや活動の軌跡については触れているので今回は省略するが、カマシ・ワシントンやサウス・ロンドン勢の近年の活躍に触発され、アイドリス・アカムーアのようなスピリチュアル・ジャズのレジェンドやベテランが、彼らが1970年代にやっていたような音楽をいまの時代に再び更新するような動きを見せている。ゲイリー・バーツとマイシャの共演アーチー・シェップとダム・ザ・ファッジマンクの共演、エイドリアン・ヤングとアリ・シャヒード・ムハマドの『ジャズ・イズ・デッド』シリーズもそうした流れから生まれたものだし、最近では1970年代にニューヨークのロフト・ジャズの一翼を担ったアラン・ブラウフマンが、なんと45年ぶりの新作を発表した。

 『アン・エンジェル・フェル』に関しては、アイドリス・アカムーアの共同プロデューサーにマルコム・カット(ヒーリオセントリックス)がつき、彼のミキシングを生かしたアフロ・ダブ的な手法が印象的だった。また、2014年に起こったマイケル・ブラウン射殺事件を取り上げた楽曲も収録するなどブラック・ライヴズ・マターとも結びついた作品だったが、今年もジョージ・フロイド事件など白人警官による黒人市民の射殺事件がアメリカで起こり、世界中で抗議運動が広まるなかでアイドリス・アカムーア&ザ・ピラミッズの新作『シャーマン!(祈祷師)』が発表された。
 今回もマルコム・カットがプロデュースを担当したロンドン録音で、ピラミッズのオリジナル・メンバーであるマルゴー・シモンズ(マーゴ・アカムーア)や前作にも参加したサンドラ・ポインデクスターは参加するものの、そのほかはピラミッズを刷新した編成となっている。ヒーリオセントリックスのメンバーのジャック・イグレシアスほか、ルベン・ラモス・メディーナ、ジオエル・パグリアッツィアなど、ラテンやヒスパニック系のミュージシャンが多く参加していて、やはりラテンやアフロ的なリズムが肝となっている点は変わらない。そうしたラテン・リズムという点では “タンゴ・オブ・ラヴ(愛のタンゴ)” のようにアルゼンチン・タンゴを用いた楽曲があり、ここでは往年の『ラスト・タンゴ・イン・パリ』のガトー・バルビエリを彷彿とさせるアイドリス・アカムーアのサックス・ソロが聴けるほか、サンドラ・ポインデクスターのヴァイオリンやマルゴー・シモンズのフルートが印象に残る演奏を繰り広げる。

 アルバムは4部構成で、それぞれ「懺悔の火の儀式」「永遠の片鱗」「我々を支える肩(大地)の上で」「クロティルダ号の400年」というサブ・タイトルが付けられる。宗教的で観念的なタイトルだが、このうちクロティルダ号とは19世紀の南北戦争直前に使われた最後の奴隷船である。このパートには “ザ・ラスト・スレイヴ・シップ(最後の奴隷船)” や “ドゴン・ミステリー(ドゴン族の神秘)” とアメリカの奴隷制度について言及した曲があり、自身のルーツであるアフリカに思いを馳せ、現在の人種差別反対運動へとリンクしている。“ヴァージン” とはアフリカの処女なる大地のことを示しているのだろうが、これぞピラミッズと言うべき土着的で雄大なアフロ・ジャズとなっている。現在のマリ共和国の先住民族についての “ドゴン・ミステリー” もアフリカ民謡を下敷きとした楽曲で、ボビー・コッブによるムビラやマルゴー・シモンズによるバンブー・フルートが素朴な音色を奏でる。“ザ・ラスト・スレイヴ・シップ” は瞑想的でサイケデリックな味わいで、クルアンビンあたりの音楽性に通じるものもある。

 表題曲の “シャーマン!” は自然による治癒について述べられており、フォーキーなサウンドにアイドリス・アカムーアによるポエトリー・リーディングが交わるイントロダクションを経て、ジャズ・ファンクへと突入していく12分超えの大作である。中間はアフロビートに合わせてヴォーカルとバック・コーラスのコール&レスポンスが繰り返される展開で、ギル・スコット・ヘロンのようなフォークとスピリチュアル・ジャズ、フェラ・クティのようなアフロビートが融合したような楽曲である。この “シャーマン!” と “タンゴ・オブ・ラヴ” による「懺悔の火の儀式」を経て、「永遠の片鱗」は “エタニティ(永遠)” と “ホエン・ウィル・アイ・シー・ユー?(いつ君に再会できるの?)” の2曲で構成される。“エタニティ” は古代文明をイメージさせる荘重かつエキゾティックな楽曲で、フォーク・ロック調の “ホエン・ウィル・アイ・シー・ユー?” は世界中を旅するジプシー・バンドのピラミッズの歌である。「我々を支える肩(大地)の上で」は “サルヴェーション(救済)” と “テーマ・フォー・セシル” から成る。アイドリス・アカムーアによるフリーキーで重量感のあるテナー・サックス・ソロが展開される “サルヴェーション” では祖先への敬意を示し、“テーマ・フォー・セシル” はアイドリスがメンターとして慕うセシル・テイラーに捧げられている。
 なお、『アン・エンジェル・フェル』のアルバムのアートワークも非常に秀逸だったが、今回のアルバムはジョージア・アン・マルドロウシャフィーク・フセインマーク・ド・クライヴ・ローユナイティング・オブ・オポジッツなどを手掛けるトキオ・アオヤマによるもので、これまた素晴らしいペインティングとなっている。

ZOMBIE-CHANG - ele-king

 もちろん終電前の話だ。ぜんぜんひとがいない。ちらほらとなにか炭火のようなものはくすぶっているにもかかわらず、その熱をすくいとる主体がいないのである。4月7日にはじまり5月25日までつづいたあの奇妙な空間は、当然ある種の不穏さもはらんでいたわけだが、誤解を恐れずに言えばとにかく、ただただ美しかった。
 わかりやすいビジネス活動の多くが停滞し、しかし広告だけは煌々と光を放ちつづけ、ふだんなら人混みに埋もれて視界に映し出されることのない数百メートル先のアスファルトを照らし出している。あんな渋谷の、あんな東京の光景を目撃することはおそらく、もう二度とないだろう。ずっとここにいたいと、そう思わせさえする強度を持った風景が、たしかにあの時間、あの空間には広がっていた。

 2010年代初頭~前半、yukinoiseさんから聞いた話によれば、男に媚びない原宿系ファッション雑誌のブームが終焉に向かい、インスタが流行しはじめたころに登場してきた(元)モデル/シンガーソングライターのゾンビーチャングことヤン・メイリンは、当時わんさかいたモデル兼DJのようなひとたちのなかで頭ひとつ抜けた印象だったという。ルーツがパンクにあるからだろうか、たしかに彼女の表現からは、「頭よすぎてバカみたい」(“なんかムカツク”)のように、ふつうなら見落としてしまいそうなことに気づける感度の高さがうかがえる。
 ファースト(2016)とセカンド(2017)で独自のインディ電子ポップ路線を確立、サード・アルバム(2018)でバンド・スタイルに挑戦した彼女は、4枚目となる本作『TAKE ME AWAY FROM TOKYO』で心機一転、大いにクラブ・ミュージックの要素をとりいれている。

 まずは非常事態宣言発令にともない公開された冒頭 “STAY HOME” を再生してみてほしい。「トイレットペイパーどこ?」と笑いを誘う、しかし現実的にはまったく笑えないフレーズが、ぶりぶりのベースラインのうえを転がっていく。海外とは異なり、日本からはなかなかパンデミックを踏まえた表現が出てこなかったが、それをやるのがゾンビーチャング、というわけだ。
 先行シングル曲 “GOLD TRANCE” によくあらわれているように、303と808の音色がこのアルバムの方向性を決定づけている。なかでも目覚まし時計の脅威がユーモラスに歌われる “SNOOZE” のエレクトロは際立っていて、もっとこのラインを攻めればいいのにとも思うが、ほかにもコーヒーとタバコのリラックス効果に着目した “CAFFEINE & NICOTINE” やフランス語で「知らん」「わからん」と繰り返される “JE NE SAIS PAS”、シューティング・ゲームから着想を得たという “RESPAWN” など、ダンス・ミュージックから影響を受けたトラックが数多く並んでいる。

 きわめつきは “TAKE ME AWAY FROM TOKYO” だろう。レイヴィなシンセが疾走するこの表題曲は、ひとまずは都会生活のなかにふと訪れるさびしさを描いているんだろうけど、他方で二人称の「あなた」は未知のウイルスやいいかげんな政体を指しているようにも聞こえる。「諦める時間はないさ/駆け抜ける時間もないから/どこにいてもおなじならば/考えてもしかたないさ」。ゆえに、東京から連れ出してほしい、と。つまりそれは逆に、そうやすやすとはこの状況から抜け出せないことを物語ってもいる。翻弄された東京の虚無?
 この曲の放つ情感は、あの日のスクランブル交差点に似ている。無数のネオンが照らし出していたのは、一部の人びとの意識にくすぶるこのアンビヴァレントな「連れ出してくれ」の怨霊でもあっただろう。ゾンビーチャングはその怨霊たちにいま、声を与えようとしているのかもしれない。すべてではないにせよ、2020年の東京のリアルのひとつがたしかに、ここには描き出されている。

RMR - ele-king

 トラップで飽和しつつあるUSのヒップホップ・シーンに彗星の如く現れたアノニマス・ラッパー RMR の正体を知る者は、いまだ誰ひとりとしていない。名を Rumor (発音:ルーモア)と読む彼がデビューしたのは今年のはじめ、2020年2月に遡る。それから半年ほど過ぎたいまも、アトランタ出身、現在はロサンゼルスを拠点に活動するおおよそ23~24歳くらいの青年といった基本的なプロフィールしか明かされておらず、素顔やバックグラウンドはすべて金色の刺繍が施された黒いスキーマスクの下に覆い隠されたまま。昨今の世界的なパンデミックの影響で、ライヴ等のリアルなパフォーマンス経験もほとんどしたことがない新人ラッパーがリリースしたEP「DRUG DEALING IS A LOST ART」は、自身が決してただ者のアノニマスではないという揺るぎない真実をしかと見せつけた作品である。

 謎多き RMR について語りえる唯一のことは、彼は甘く優しい歌声の持ち主だということ。本作のラストを飾る7曲目 “Rascal” は、カントリーバンド・Rascal Flatts の名曲 “Bless The Broken Road” のメロディーラインを奏でるピアノと共に、その見事な歌唱力を初披露した記念すべきデビュー・シングルである。ゴリゴリのギャングスタそのものでしかない見た目とは裏腹の甘い歌声が描くリリックはというと、「F**k 12, F**k 12, F**k 12……」と薬物取引にかけつけた警察官や麻薬捜査官を意味するスラングが繰り返されるいたってハスリンな内容。ここまでくると、一見強烈な第一印象とはちぐはぐの楽曲かと思いきや、裏の裏は表であるように、実は最初に抱いたイメージこそが正しかったのかとも思えてくる。目と耳が混乱してしまいそうな演出がなされた同作のMVも迫力満点で、噂という意味のワードを冠したその名の通りバイラル・ヒットしたのも納得の仕上がりだ。

 昨年のUSヒップホップ・シーンにて、同じくバイラル・ヒットしたカントリー・トラップ作品 Lil Nas X “Old Town Road” 以降の波を感じさせるスタイルで、抜群の歌唱力とリリシストとしての実力を発揮した本作には、Westside Gunn や Migos の Future、Lil baby、Young thug といった、現在のヒップホップ・シーンを語るには欠かせないアーティストがゲスト参加。1st EP にもかかわらず大物ラッパーたちが出揃ったことで、RMR という人物はアンダーグラウンドのいち若手ではなく、シーンではかなりやり手のゴリゴリな業界人、もしくは誰かのプロジェクトなのでは? なんて考えがふと頭をよぎる。憶測が憶測を呼ぶかのような本作の見どころならぬ聴きどころは、作品中盤に位置するソロ曲の5曲目 “SILENCE” だ。酩酊状態特有のぬるりとしたハイがじわじわと伝わってくるリリックに、浮遊感漂う壮大でありながらもどこか心地の良いトラック、そして本作全体に響き渡るかのような美しい歌声が重なったこの楽曲は、ドラッグやフレキシンでハスリンなネタを含むいわゆるトラップらしい楽曲が並ぶ中で、群を抜いて際立っている。

 「目ではなく、耳で音楽を聴いて欲しい」と、アノニマスとして活動する理由を明かす RMR の匿名性は、多少業界臭さはあれど本作でさらに度を増し、覆面の下に潜む実力と信念をたしかに裏付けた。だが、作品全体を通し描かれているのは、前述のようにトラップ・ミュージックあるあるな要素が点在する普遍的なストーリーと主張のみで、彼を知る手がかりや糸口はどこを探しても一切見当たらない。そのせいか、はたまた際どいタイトルのせいか海外では軒並み低評価を喰らっている。正直なところ、自分も多少拍子抜けした節はあるし、トラップは好きでもシーンに蔓延するドラッグ・カルチャーや、ましてや薬物取引に対して肯定的ではない。それでもなぜか惹かれてしまうのは、あえて素性を隠しつつありふれたこと(ヒップホップ、トラップの中では)をしっかりと確立したスタイルで表現し、ストレートでありながらも聴きこむごとに様々な解釈もできるといった、耳で音楽を聴かせる力が作用しているからであろうか。やはりは RMR はただ者ではなさそうだが、はたして彼は一体何者なのか?
 そしてこれからどのような作品を生み出していくのだろうか、いつの日か正体を現すのだろうか。今後も彼の活動からは目と耳が離せない。

photo gallerly - ele-king

 バンクシーだけではない、コロナ禍のロンドンではグラフィティ、ストリート・アートが盛ん(?)。以下、坂本麻里子さんが送ってくれた写真をシェアします。


庶民のみなさん、前方、政治家にご注意を。


こんなでかでかと書かれてしまっては警官もたまったものではないですな。


これはマスク姿がインパクトありのカマール・ウィリアムスのポスターです。

ちなみにこれはエレキング臨時増刊号『コロナが変えた世界』の表紙候補だった写真、「コロナ・フューチャリズム」です。

WATERFALL - ele-king

 ハウスやテクノが好きなファッション・ブランドの〈WATERFALL〉が吉祥寺PARCOの4Fでポップアップショップを現在展開しています。10/3(土)までの開催なので、近くに行ったら寄ってみよう。ちなみに「ELECTRIC FLOWER SOUND」のロンTがいま女子に受けているそうです!

Oscar Jerome - ele-king

 サウス・ロンドンのジャズ・シーンでは、ジャズだけでなく他の分野のミュージシャンとの交流もいろいろあり、たとえばシンガー・ソングライターやラッパーとのコラボも頻繁におこなわれる。今年リリースされたトム・ミッシュとユセフ・デイズのアルバム『ワット・カインダ・ミュージック』などが代表例だが、オスカー・ジェロームもそうしたジャズと他分野の境界線にいるアーティストだ。オスカー・ジェロームはギタリストであり、アフロ・バンドのココロコのメンバーとして知られる。ジョー・アーモン・ジョーンズとは学生時代からの友人で、『イディオム』(2017年)や『スターティング・トゥデイ』(2018年)などの作品でも演奏している。サウス・ロンドンのギタリストではマンスール・ブラウンやシャーリー・テテなどもいるが、テクニカルなプレイでギターの可能性を追求するマンスール・ブラウンに対し、オスカー・ジェロームはシンガー・ソングライターとしての立ち位置に重きを置くギタリストであり、どちらかと言えばトム・ミッシュに近いスタンスかもしれない。

 最初にオスカーがソロEPをリリースしたのは2016年のことで、ジョー・アーモン・ジョーンズ、ヌバイア(ヌビア)・ガルシアモーゼス・ボイドらと共演するものの、“ギヴ・バック・ワット・ユー・ストール・フロム・ミー” のようなヒップホップ・ソウルも披露していた。ギル・スコット・ヘロンとモス・デフを足して2で割ったような印象で、トム・ミッシュやロイル・カーナーなど同世代のアーティストに通じる作品だった。2018年の “ホエア・アー・ユー・ブランチズ?” はさらにアコースティックな要素が強く、アフリカ音楽の要素を感じさせる点は彼の参加するココロコにも通じるところだった。この曲が収録されたEPではウー・ルー(最近ではザラ・マクファーレンのアルバム『ソングス・オブ・アンノウン・タン』をプロデュースしていた)をプロデューサーに迎え、ポッピー・アジュダーなどさらに多彩な面々と共演している。そのほかではヒドゥン・スフィアーズのディープ・ハウス系トラックにも参加するなど、いろいろ幅広い活躍を見せていた。

 アルバムとしては2019年に『ライヴ・イン・アムステルダム』を発表し、これは文字通りオランダでのライヴ録音で、“ギヴ・バック・ワット・ユー・ストール・フロム・ミー” や “ドゥ・ユー・リアリー”など、これまでシングルやEPで発表してきた曲を演奏していた。そしてこの度リリースした『ブレス・ディープ』は、初めてのスタジオ・アルバムとなる。ミュージシャンにはジョー・アーモン・ジョーンズなどこれまでのEPやライヴ盤でも演奏してきた面々に加え、ココロコのメンバーからディラン・ジョーンズ、トム・スキナー、トム・ドライスラー、ファーガス・アイルランド、サム・ジョーンズ、ベン・ハウク、ブラザー・ポートレイトらサウス・ロンドン勢、さらに先日ニュー・アルバムをリリースしたばかりのシンガー・ソングライターのリアン・ラ・ハヴァスまで参加する。リアンのアルバムにはブルーノ・メジャーも参加していたが、プロデューサーのベニ・ジャイルズとエンジニアのロバート・ウィルクスがオスカーのアルバムとも共通していて、いろいろな繋がりが見えてくる。

 収録曲は “ギヴ・バック・ワット・ユー・ストール・フロム・ミー” をテンポ・アップして再演し、“グラヴィテイト” は『ライヴ・イン・アムステルダム』でもやっていたナンバーだが、ほかは全て新曲となっている。“サン・フォー・サムワン” はファンク調のトラックだが、レゲエやダブから来たレイド・バックしたフィーリングと風変わりなリズムがアクセントとなっている。オスカーの歌もちょっとスティングを感じさせるところがある。“ユア・セイント” はアコースティック・ギターの弾き語りではじまり、やや調子外れの歌はキング・クルールやプーマ・ブルーを彷彿とさせる。途中からリズム・セクションが入ってくるが、演奏はココロコのメンバーが中心となっていて、アフリカ音楽からの影響も感じさせる曲だ。“コイ・ムーン” にもムビラやカリンバ(親指ピアノ)のような音色が流れ、アフリカ的なムードを感じさせる。こうしたムードは、ほかのR&Bアーティストやシンガー・ソングライターにはないオスカー独自のテイストと言える。

 ジャズ・ファンクとブロークンビーツが混ざったような “グラヴィテイト” はベン・ハウクとの共作で、いまのサウス・ロンドンらしいクロスオーヴァーな魅力に溢れたクラブ・トラック。インストの “ファッキン・ハッピー・デイズン・ザット” はギタリストとしてのオスカーを映し、ジャズとファンクとブルースとカリプソが一緒になったような曲になっている。そしてリアン・ラ・ハヴァスとのデュエットで聴かせるオーガニック・ソウルの “タイムレス”、バックはファーガス・アイルランドのベースのみというシンプルなギターの弾き語り曲 “ジョイ・イズ・ユー” と、アルバムの最後はフォーク・シンガーとしてのオスカーの魅力が詰まった曲で締めくくられる。ジャズ、ソウル、フォーク、アフロなどの中間点に位置するシンガー・ソングライター、それがオスカー・ジェロームである。

Vol.130:閉店するバー、開店するレストラン - ele-king

 NYでは COVID-19の検査を無料で受けることができるので、私はアンチボディを1回、PCR検査を3回受けた。最初に受けたPCRは陽性と出たと前回のこのコラムで書いたが、その2日後に受けた検査では陰性と出た。
 こういったミスはよくあるという。私のまわりでも、症状のあった人が陰性で、まったく症状はないが陽性と出た人がいる。抗体も3ヶ月で消えるとのことなので、頻繁に受ける方がいいらしいが……

 仕事も再開されないので、8月は日本に行った。日本の空港では乗客すべてに唾液検査があり、テスト結果が出るまで空港を出られない。公共交通機関は使えないし、結果が陰性でも、2週間の自粛生活を強いされる。毎日電話で体調や家族に具合の悪い人は出ていないかをチェックされる。NYに戻ってきたときは、空港では検査どころか税関検査もされなかった。何事もなくNYに入れる。もちろん2週間の自粛生活もなし。8/31のNY州の死者は1人、NY市は6人と、COVID19の死者数は減り、感染者数はNY州は656人、NY市は268人。かなり減ってはいるが空港がこんな対処ではまた増えそうだ。

 いままで後ろのドアから乗っていたバスが、前からの乗車になり、料金も取りはじめた。まだ在宅ワークが多いので、地下鉄はいつもの50%ぐらいの乗車率。レストラン、バーなどでハングアウトしていても、人々はマスクをしている。
 NYのバーは、7/17からドリンクオーダーの際には食べ物も一緒にオーダーしなければならないルールができた。サラダ、ウィング、ホットドッグなどは大丈夫で、チップス、キャンディ、ナッツはだめ。ブルックリンではキッチン装備のバーが少ない。先日、シークレット・プロジェクト・ロボットがやっているバー、ハッピーファン・ハイダウェイに行ったらマルちゃんのインスタントラーメンが一袋出てきた(どうやって食べろ、と)。レベッカズに行くと食パンにチーズを挟んだ冷たいチーズサンドが出てきた。ほかにもカップラーメン、ポップタート、餃子など、お腹がすいていなくてもドリンクを頼むとフードがもれなくついてくる。その辺をうろうろしないで椅子に座らせようという意図なのだが……。
https://bushwickdaily.com/



 以前は朝の5時までオープンしていたバーが11時に閉まるので、NYの夜は早く終了するのかと思えばテイクアウトして公園などでたむろする人が増えている。女子にとってはトイレ問題と蚊が多いのが難点。
 8/21にはブルックリンを代表をするクィアーバーのハウス・オブ・イエスがリカーライセンスを取り上げられクローズした。近くのシスターレストランのファラフェル・レストランからフードをオーダーするシステムを取っていたからである。早く問題を解決して、再オープンしてほしい。

 パンデミックでクローズしたレストラン、バーは数知れない。そのなかのひとつ、レズビアン・カップルがやっているウィリアムスバーグのトロフィーバーが、8/30に13年の歴史に幕を閉じた。ブルックリンのヒップスターたち、クリエイティヴな人たちが集まるバーで、ここで出会ったカップルは数知れない。フレンドリーなバーで、フードも美味しく値段もリーズナブルだった。いまどきチーズバーガー+フライが$8だ。最後の日には、懐かしいたくさんの人が別れをいうためにやってきた。オハイオから10時間かけてやってきたファンもいた。最後はスタッフ全員にドリンク、ピザ、そして最後のバースデーケーキを振る舞い、別れを惜しみながら、エアハグでなく本当のハグをした。https://trophybar.com

 チャイナタウンには、このパンダミックのなかカラオケレストランがオープンした。で、行ってみたらすでにカラオケは市に取り上げられたらしい。そりゃそうですよね。料理はオーナーの出身地、北海道を代表するメニューで、ジンギスカンが食べられるのはNYでもここしかないかも。ドリンクには酎ハイ、ウーロンハイ、ハイボールなど日本の居酒屋で見られるメニューがずらりと並んでいた。https://www.drclarkhouse.com/

 こんな感じで、音楽ショーはまだまだだがアウトドアダイニング事情は工夫を凝らして、楽しみを作っている。今年はサマーフェスも祭りも野外映画もない。9月に入れば学校もオープンする。パンデミックのなか、この先の毎日の生活はどう変わるのだろうか。

Walearic - ele-king

 大好評の『和レアリック・ディスクガイド』から井上鑑の『カルサヴィーナ』がリイシューされましたが、和レアリックの再発、さらに続きます。
 この度あらたに再発されるのは、トゥデイズ・ラテン・プロジェクトによる同名アルバム。これもまたディガーたちに発掘された名盤の1枚であります。

 ニューウェイヴ末期の、1983年にリリースされた『トゥデイズ・ラテン・プロジェクト』は、あまりにも先駆的であったがゆえ当時は時代となかなかリンクしませんでしたが、しかしそこに記録されている音楽は、時代や国境を超越したラテン音楽でした。
 戦後からラテン音楽を紹介してきた重鎮、東京キューバン・ボーイズの見砂直照、そして70年代からラテン音楽の魅力を伝え続けている竹村淳の2人がプロデュースを手掛け、また、世界的な再評価の著しい清水靖晃、SHOGUNの大谷和夫といった実力者が参加、最高に優れたメンツで制作された珠玉のエレクトロニック・ラテン・ジャズ・サウンドなのです。スリリングかつ心地良い、ダンサブルかつチルな1枚、中古でも1~2万はするので、この機会を逃さないようお願いします。

プロデュース:見砂直照 / 竹村淳
アレンジ:大谷和夫 / 植原路雄 / 清水靖晃

TODAY’S LATIN PROJECT / トゥデイズ・ラテン・プロジェクト
Today's Latin Project / トゥデイズ・ラテン・プロジェクト
P-VINE
2020年11月4日(水)発売
監修・解説:松本章太郎

East Man - ele-king

 順序が逆になってしまったけれど、7月に入って聴いたアルバムで後半期のトップを飾ると思ったのがイースト・マンのセカンド・アルバムだった。1ヶ月以上経ってもそのインパクトは揺るがない。ザ・フォールの曲名からつけたというアルバム・タイトル「プロレタリアによるアートの脅威」は労働階級出身のマーク・E・スミスが独学であれだけの言語感覚を身につけたことに敬意を表したものらしい。日本と違って芸能界から労働階級がいなくなってしまったと言われるイギリスで(役者でいうとジャック・オコンネルが久しぶりに現れたワーキング・クラス・ヒーロー)、労働階級が文化的な表現で脅威になると宣言することはザ・フォールが活躍できた80年代とも違う意味を持つ。アントニー・ハートは自分が起用したMCたちの言葉によほど感銘を受け、自信を持ったのだろう。

 イースト・マンことアントニー・ハートについてはこれまで当サイトでは何度も触れられている。そのほとんどは米澤慎太郎のレヴューによるもので、編集部の原稿などと合わせてこれまでの経過を簡単にまとめると、アンソニー・J・ハートはまず2010年代にイマジナリー・フォースというインダストリアル・テイストを含んだドラムン・ベースのプロジェクトで10枚近いアルバムをリリース。それらはドローンやミュジーク・コンクレートとも親和性を持つようになり、彼のサウンドはどんどん抽象化していく。実験音楽の牙城とも言える〈アントラクト〉からリリースされた『Low Key Movements』(15)はその道に詳しいデンシノオトの耳に止まっている→https://www.ele-king.net/review/album/004805/

 しかし、パイレーツ・ラジオでDJを務めた経験が彼をストリート・サウンドへと引き戻したようで、現在までのところイマジナリー・フォース名義で最後となるアルバムがリリースされる前に、ベイシック・リズムという新たなプロジェクトがスタートし、彼の表現はベース・ミュージックやグライムをメインとするものに様変わりする。ここからは米澤慎太郎の独壇場である。米澤いわく「初期ジャングルの感覚を現代にアップデートし、140bpm に落とし込んだアルバム」だと→https://www.ele-king.net/review/album/005653/

 ベーシック・リズムとしていままでのところ計3枚のアルバムをリリースし、その3枚目からハートは〈プラネット・ミュー〉にレーベルを移している。そして、恐らくはインストゥルメンタル主体のベーシック・リズムと並行して複数のMCを大々的にフィーチャーしたイースト・マンも始動させる。デビューから9年目にして言葉を表現の核としたのである。ロンドンのあらゆるエリアから集まったMC陣もさることながら米澤が詳細に紹介している地下鉄のインタビュー“Drapsing”はとても興味深い。一読を→https://www.ele-king.net/review/album/006189/

 また、同アルバムのライナーノーツをポール・ギルロイが書いていると編集部が興奮気味に伝えるニュースも→https://www.ele-king.net/news/006029/

 イースト・マン名義のデビュー・アルバムはとても意義深いものだったし、MCをフィーチャーしたせいなのか、ベーシック・リズムまでははっきりとサウンドに残っていたインダストリアル・テイストが表面的にはほとんど消えていたことも僕は印象深かった。言葉をきっちりと届けたいという判断からだったのだろうか。ベーシック・リズムではいまひとつインパクトに欠けていたサウンドが確実に蘇ったことはたしかで、そのひとつはダンスホールの導入による効果だったと考えられる(“War”ではゴムを取り入れている)。ベーシック・リズムで音数を減らしていたことがMCと絡み合う上では大きな成果につながったということもあるだろう。ロンドンのイースト・エンドが再びライズしてきたのである(イースト・マンというのはそういう意味かなと?)。

 2作目となる『プロル・アート・スリート』はひと言でいえばMCたちとの絡み合いがさらに有機的となり、勢いが増しているということになるだろう。オープニングからアフリカン・ドラムにあっさり持っていかれる。サウンドはスッカスカ。確信を持って音数は減らされたまま。残酷で分断された都市を底辺から描いていくという視点はロンドンだけではなく、ブラジルのMCフェルナンド・ケップを“Ouroboros”で起用することで「インターナショナル」な現実として膨らませていく。途切れ途切れに入っているとしか思えないドラムはまるでMCの合いの手である。♩ウロボロス・ボラ・パラ・デ・オンダ プカ・エ・ボア・ノス・パサ・ナ・ロダ……って何を言ってるかまるでわかりません。「私は誰?」とシンプルに問いかけるのはフィメールMCのナイ・ナイ(♩ナイ・ナイ、フー・アム・アイ?と少年隊みたいに韻を踏んでいる)。ストリーマ、マイクロフォン・タイソン、イクリプス、ワッカイ……名のあるMCはリリカル・ストローリーことYGGぐらいしかいない。前作から引き続き参加しているのはダーコス・ストライフぐらいで、アントニー・ハートはいわば都市のエピソードをラップというフォーマットで取集している面もあるのではないだろうか。

 後半は少し勢いが落ち、“Machine Gun”ではクラウトロックみたいにただマシンガンみたいなサウンドを鳴らすだけ。ロンドンで起きているギャングの抗争はナイフの斬り合いがほとんどなので、これはさすがにリアリティがない。バイリ・ファンキ(ファベーラ・ファンク)が一時期、銃声をスネアの代わりに使うという流行りを見せたことがあったけれど、そのような痛々しさもなく、これだけはよくわからない(ポーティスヘッドの“Machine Gun”とかなり似ているし……)。ハードは自らの音楽をイマジナリー・フォースの頃から一貫して「ハイ・テック」と称していて、最後はすべてのキャリアをまとめたということなのか、“Hi Tek Theme”というタイトルが付けられていて、これが“Machine Gun”パート2のような曲になっている。う~む。最後の2曲だけ、ちょっとわからないのであった。

Tatsuhisa Yamamoto - ele-king

 ジャズ、実験音楽、ロック、エレクトロニック……などなど、あらゆる尖っている音楽シーンで引っ張りだこの前衛ドラマー、山本達久。石橋英子、坂田明、ジム・オルーク、青葉市子、UA、七尾旅人などのバックも務め、カフカ鼾のメンバーとしても活動している。
 先日、9月/10月と山本達久が自身初となるソロ・アルバムを2枚連続でリリースすることが発表された。
 まずは9月18日にオーストラリの実験派オーレン・アンバーチの〈Black Truffle〉から『ashioto』。
 10月7日には日本の〈NEWHERE MUSIC〉から『ashiato』。

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