ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  2. Robert Del Naja ──マッシヴ・アタックの3D、二度目の逮捕
  3. Malaria! ——80年代初頭の西ベルリンから、ポスト・パンク/アヴァンギャルド・シーンを象徴する最重要バンド、マラリア!再発
  4. Black Marble - Life in Small Spaces | ブラック・マーブル
  5. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  6. Klara Lewis - Opening | クララ・ルイス
  7. Columns 9月のジャズ Jazz in September 2026
  8. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  9. Horse Lords - Demand to Be Taken to Heaven Alive!  | ホース・ローズ
  10. Columns ♯17:もしもパンクがなかったら ——その基礎知識と『パンク50周年記念号』刊行のお知らせ
  11. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  12. 食品まつり a.k.a foodman - HIKARIGASASHIKOMU
  13. Arca - XXXXX
  14. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  15. interview with Toshimaru Nakamura 世界を魅了する、類い稀なる電子音響 | ──中村としまる、待望の初期ベスト盤リリースと超ロング・インタヴュー
  16. Cornelius - Refractions | コーネリアス
  17. Dusty - Dusty & Friends / Commodo - Deep Harbour ft. Alfa Mist / Untold - False Vacuum
  18. ボカロが世界に与えた衝撃 一億回再生の意外な背景
  19. Stones Taro ──京都のハウス・プロデューサーによる新作
  20. R.I.P. 鷲巣功

Home >  Reviews >  Album Reviews > ZOMBIE-CHANG- TAKE ME AWAY FROM TOKYO

ZOMBIE-CHANG

Synth-pop

ZOMBIE-CHANG

TAKE ME AWAY FROM TOKYO

Roman Label / BAYON PRODUCTION

小林拓音   Sep 16,2020 UP

 もちろん終電前の話だ。ぜんぜんひとがいない。ちらほらとなにか炭火のようなものはくすぶっているにもかかわらず、その熱をすくいとる主体がいないのである。4月7日にはじまり5月25日までつづいたあの奇妙な空間は、当然ある種の不穏さもはらんでいたわけだが、誤解を恐れずに言えばとにかく、ただただ美しかった。
 わかりやすいビジネス活動の多くが停滞し、しかし広告だけは煌々と光を放ちつづけ、ふだんなら人混みに埋もれて視界に映し出されることのない数百メートル先のアスファルトを照らし出している。あんな渋谷の、あんな東京の光景を目撃することはおそらく、もう二度とないだろう。ずっとここにいたいと、そう思わせさえする強度を持った風景が、たしかにあの時間、あの空間には広がっていた。

 2010年代初頭~前半、yukinoiseさんから聞いた話によれば、男に媚びない原宿系ファッション雑誌のブームが終焉に向かい、インスタが流行しはじめたころに登場してきた(元)モデル/シンガーソングライターのゾンビーチャングことヤン・メイリンは、当時わんさかいたモデル兼DJのようなひとたちのなかで頭ひとつ抜けた印象だったという。ルーツがパンクにあるからだろうか、たしかに彼女の表現からは、「頭よすぎてバカみたい」(“なんかムカツク”)のように、ふつうなら見落としてしまいそうなことに気づける感度の高さがうかがえる。
 ファースト(2016)とセカンド(2017)で独自のインディ電子ポップ路線を確立、サード・アルバム(2018)でバンド・スタイルに挑戦した彼女は、4枚目となる本作『TAKE ME AWAY FROM TOKYO』で心機一転、大いにクラブ・ミュージックの要素をとりいれている。

 まずは非常事態宣言発令にともない公開された冒頭 “STAY HOME” を再生してみてほしい。「トイレットペイパーどこ?」と笑いを誘う、しかし現実的にはまったく笑えないフレーズが、ぶりぶりのベースラインのうえを転がっていく。海外とは異なり、日本からはなかなかパンデミックを踏まえた表現が出てこなかったが、それをやるのがゾンビーチャング、というわけだ。
 先行シングル曲 “GOLD TRANCE” によくあらわれているように、303と808の音色がこのアルバムの方向性を決定づけている。なかでも目覚まし時計の脅威がユーモラスに歌われる “SNOOZE” のエレクトロは際立っていて、もっとこのラインを攻めればいいのにとも思うが、ほかにもコーヒーとタバコのリラックス効果に着目した “CAFFEINE & NICOTINE” やフランス語で「知らん」「わからん」と繰り返される “JE NE SAIS PAS”、シューティング・ゲームから着想を得たという “RESPAWN” など、ダンス・ミュージックから影響を受けたトラックが数多く並んでいる。

 きわめつきは “TAKE ME AWAY FROM TOKYO” だろう。レイヴィなシンセが疾走するこの表題曲は、ひとまずは都会生活のなかにふと訪れるさびしさを描いているんだろうけど、他方で二人称の「あなた」は未知のウイルスやいいかげんな政体を指しているようにも聞こえる。「諦める時間はないさ/駆け抜ける時間もないから/どこにいてもおなじならば/考えてもしかたないさ」。ゆえに、東京から連れ出してほしい、と。つまりそれは逆に、そうやすやすとはこの状況から抜け出せないことを物語ってもいる。翻弄された東京の虚無?
 この曲の放つ情感は、あの日のスクランブル交差点に似ている。無数のネオンが照らし出していたのは、一部の人びとの意識にくすぶるこのアンビヴァレントな「連れ出してくれ」の怨霊でもあっただろう。ゾンビーチャングはその怨霊たちにいま、声を与えようとしているのかもしれない。すべてではないにせよ、2020年の東京のリアルのひとつがたしかに、ここには描き出されている。

小林拓音

RELATED