ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Various - Funk.BR: São Paulo
  2. interview with tofubeats 自分のことはハウスDJだと思っている  | トーフビーツ、インタヴュー
  3. Columns 5月のジャズ Jazz in May 2024
  4. Schoolboy Q - BLUE LIPS | スクールボーイ・Q
  5. Bianca Scout - Pattern Damage | ビアンカ・スカウト
  6. Iglooghost - Tidal Memory Exo | イグルーゴースト
  7. R.I.P. Steve Albini 追悼:スティーヴ・アルビニ
  8. Columns E-JIMAと訪れたブリストル記 2024
  9. Sisso - Singeli Ya Maajabu | シッソ
  10. Claire Rousay - Sentiment | クレア・ラウジー
  11. bar italia ──いまもっとも見ておきたいバンド、バー・イタリアが初めて日本にやってくる
  12. Adrian Sherwood presents Dub Sessions 2024 いつまでも見れると思うな、御大ホレス・アンディと偉大なるクリエイション・レベル、エイドリアン・シャーウッドが集結するダブの最強ナイト
  13. Tomeka Reid Quartet Japan Tour ──シカゴとNYの前衛ジャズ・シーンで活動してきたトミーカ・リードが、メアリー・ハルヴォーソンらと来日
  14. みんなのきもち ――アンビエントに特化したデイタイム・レイヴ〈Sommer Edition Vol.3〉が年始に開催
  15. Pet Shop Boys - Nonetheless | ペット・ショップ・ボーイズ
  16. Gastr del Sol ──デヴィッド・グラブスとジム・オルークから成るガスター・デル・ソル、アーカイヴ音源集がリリース
  17. Cornelius ──コーネリアスがアンビエント・アルバムをリリース、活動30周年記念ライヴも
  18. Overmono ──オーヴァーモノによる単独来日公演、東京と大阪で開催
  19. interview with Yui Togashi (downt) 心地よい孤独感に満ちたdowntのオルタナティヴ・ロック・サウンド | 富樫ユイを突き動かすものとは
  20. interview with I.JORDAN ポスト・パンデミック時代の恍惚 | 7歳でトランスを聴いていたアイ・ジョーダンが完成させたファースト・アルバム

Home >  Reviews >  Album Reviews > Bruno Major- To Let A Good Thing Die

Bruno Major

FolkPopSoul

Bruno Major

To Let A Good Thing Die

July / ビート

Amazon

小川充   Aug 25,2020 UP

 コロナ禍によってミュージシャンの活動もいろいろ制限を受け、それによって音楽制作や表現方法も変わらざるをえない部分がある。ロックダウン下にあるときはスタジオに行くこともできないし、人と会うこともままならないので、自宅にスタジオがある人はひたすらそこに籠ってひとりで曲を作る。ブルーノ・メジャーのセカンド・アルバム『トゥ・レット・ア・グッド・シング・ダイ(素敵なことを終わらせるために)』の1曲目の “オールド・ソウル” は、恋人と別れた直後に自己憐憫の情から3週間も家にこもり、一日3食すべてウーバーイーツで済ませるときのための曲ということだが、図らずもコロナの状況下にとてもマッチする内省的な曲である。この曲に限らず『トゥ・レット・ア・グッド・シング・ダイ』に収められた曲はどれも内向きで、またギターやピアノの弾き語りなどシンプルな演奏に乗せて切々と飾り気のない心情を吐露していくものが多い。もちろんラヴ・ソングとかもあるけれど、もっとシリアスに自分の内面に向き合い、己の存在について問いかけているのが『トゥ・レット・ア・グッド・シング・ダイ』である。こうしたアプローチもコロナの状況下ならではかもしれない。

 ジェイムズ・ブレイク、サム・スミス、サンファトム・ミッシュなど、ここ10年ほどを振り返ってもイギリスは優れた男性シンガー・ソングライターを生み出してきた。そしていま、その新たな1ページに付け加えられようとしているのがブルーノ・メジャーである。かつて〈ヴァージン〉とレコード契約を結ぶもののうまくいかず、不遇を囲うなかでシェイクスピアの劇中音楽を作るなど、とにかく曲を書きまくった。2016年からの2年間で400ほどの曲を書いたそうだが、そうやって2018年にファースト・アルバムの『ア・ソング・フォー・エヴリー・ムーン』を発表する。部分的にはトム・ミッシュ、ジェイムズ・ブレイク、サム・スミスなどに通じるところも感じさせるというのが世間一般の評価だが、もっとも近いと感じさせるのは伝説的なシンガー・ソングライターの故ニック・ドレイクだろうか。『ア・ソング・フォー・エヴリー・ムーン』から2年ぶりの『トゥ・レット・ア・グッド・シング・ダイ』でも、ギターの弾き語りに薄っすらとストリングスを絡めた “フィグメント・オブ・マインド” などにニック・ドレイクの影を見ることができる。実際のところニック・ドレイクの『ピンク・ムーン』を聴いてブルーノはソングライターになろうと思ったそうだ。

 『トゥ・レット・ア・グッド・シング・ダイ』の制作はロサンゼルスに赴き、ビリー・アイリッシュの兄でもあるプロデューサーのフィネアス・オコネルとの共同作業で行なわれた。フィネアスが主にリズム・トラックを手掛け、“ザ・モスト・ビューティフル・シング” のようなカントリー調の曲を生み出している。アコースティック・サウンドと歌とリズムのバランスという点では、“タペストリー” に顕著なようにジェイムズ・ブレイクのプロダクションに影響を受けた曲作りも見られる。でもそれだけでなく、シンガーとしてはチェット・ベイカーやエラ・フィッツジェラルドから、ギターはジョー・パスからとジャズ・ミュージシャンからも影響を受けている。アマチュア時代はジェローム・カーンやコール・ポーターら往年のジャズの作曲家をいろいろ研究し、それを現代風に再構築して SoundCloud にアップするということもやっていた。今回のアルバムでは “リージェント・パーク” がまさにそうした作りの曲で、歌い方もチェット・ベイカー風である。プーマ・ブルーやジェイミー・アイザックなど、いまのサウス・ロンドンのアーティストはチェット・ベイカーの影響を受けている人が多いのだが、“オールド・ファッションド” のレトロで枯れた味わいもまさにそんな感じである。

 ブルーノはほかにもランディ・ニューマン、ビリー・ジョエル、ポール・サイモンからの影響を口にしていて、今回はランディ・ニューマンの “シー・チューズ・ミー” をカヴァーしている。2017年発表のアルバム『ダーク・マター』に収録された曲のカヴァーで、本家ランディのスタンダードなアレンジをモダンに換骨奪胎したユニークなものだ。レトロさと現代性をうまく融合させて新しいものを作るという点では、FKJ あたりとも比較されるべき才能を持っている。『トゥ・レット・ア・グッド・シング・ダイ』に関するインタヴューでブルーノは、「マーティン・スコセッシ監督の映画『ディパーテッド』の冒頭で、ジャック・ニコルソンの “I don't want to be a product of my environment. I want my environment to be a product of me” (俺は環境に左右されたくない。環境を俺の手で生み出したいんだ)という台詞がある。まさに真理とも言える言葉で、ひとつの音楽だけでなく、自分が影響を受けてきたすべてのものをインスピレーションにしながら、自分自身の環境、音楽を作り出すことが大事だと思うんだ」と述べている。ジャズ・スタンダードや古典的なポピュラー・ソングなどベーシックな作曲方法を土台とした上で、いろいろな影響を糧に自身の歌や声を編み出していく、そんな彼らしい発言だ。レトロななかにもモダンな佇まいを感じさせる、そんなタイムレスさがブルーノ・メジャーの音楽にはある。

小川充