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East Man

GrimeRap

East Man

Red, White & Zero

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米澤慎太朗 Mar 19,2018 UP

音とともに紡がれるロンドンの今

 アントニー・ハートがイースト・マン(East Man)名義で〈プラネット・ミュー〉から『レッド、ホワイト&ゼロ』を送り出した。長年ドラムンベースのシーンで活躍してきた彼だが、近年は140BPMを軸としたベーシック・リズム名義でグライム、ジャングル、テクノのサウンドスケープを発展させてきた。イースト・マン名義での今作では、ロンドンのグライムMCとのコラボレーションによって、さらにミニマルな音を追求し、硬質かつラフなグルーヴに溢れた一作を生み出した。
 彼が「ハイテック(Hi-Tek)」サウンドと名付けた自身の音は、ジャングルのブレイクビーツのリズムを、ミニマルなドラムマシンとベースで再構築したサウンドに聞こえる。緻密にプログラミングされたドラム、パーカッションとサイン波は、UKハードコアの長い歴史を感じさせながら、ときに緊張感、ときに静寂を生み出す。特に静寂を感じさせるタイミングには、独白的にスピットするグライムMCの声がより際立って聞こえる。
 アルバムでコラボレーションしているのは、ロンドンのあらゆるエリアのMCである。北ロンドンのグループYGGからセイント・ピー(Saint P)、リリカル・ストラリー(Lyrical Strally)など新世代のグライムMC、東ロンドンよりクワム(Kwam)、エクリプス(Eklipse)、南ロンドンからはキラ・ピー(Killa P)、アイラ(Irah)といった、長年シーンで活躍するMC。彼らはアントニー・ハートのサウンドに対して、明確なメッセージを与える。例えば、ダーコ・ストライフ(Darkos Strife)は日常の言葉で自分のアティチュードを表明する。

Trying to better myself, still need to make improvements,
So when it's that time there'll be no time for snoozin',
Life can be quite difficult, but I still keep it moving, stop myself from being useless,
Smooth sailing from here on, ima carry on cruisin'.

己を磨こうと心がけ、まだまだ足りない
時は来た、居眠りしてる暇はないんだ
生活はハードだが、動き続けよう
用なしのやつになるのはやめな、
ここからスムーズに帆をあげて、クルーズを続けよう

“Cruisin'”

 都市での生活はハードであり、「useless」=用なしの人間になることは容易い。都市のもうひとつのリアリティは、地下鉄でインタヴューに答える男のスキット“Drapesing(ドレイプシング)”で描かれる。「drapesing」とは、スラングで強盗という意味だと彼は説明する。彼は強盗を起こし、捕まったあと3ヶ月警察に拘留された。仕事も手につかず、週16ポンドの社会保障に頼っている。「週16ポンドじゃ生きていけない」と呟く。追い込まれた、あるいは自分自身を追い込んでしまった彼の疲れ切った話ぶり。つづいて、インタヴューワーは「仕事をしないのか?」と男に少しキツいトーンで聞く。ここで映し出される風景全体が、内面化された新自由主義的な自己責任の倫理、あるいはロンドンの空気を象徴している。「金払いがちゃんとしてて、楽しめる仕事なら。(お前らとは)住む世界が違うんだよ」、男は力なく答える。このスキットは、ポジティヴでアグレッシヴなMCが口にしなくとも、常に隣り合わせにしている人種や資本の問題が絡んだ都市の現実を巧みに描き出している。

 やけっぱちにすらなれないほどに疲れ果て、また追い詰められてしまう都市の苛烈さに身を置きながらも、いや置かれてもなお、グライムMCはビートの上で活き活きと自分を表現する。MCのユーモア、自己主張、そして自由さが感じられる。そして、音楽を拠り所にして、なんとか出口の見えない現実を生き抜こうとする姿が聞こえる。MCのクレバーで攻撃的な勢い、イースト・マンの静けさを感じさせるダンス・ミュージック、差し込まれるフィールド・レコーディングは物語を紡ぎ、アルバムを通してロンドンの一瞬を切り取っているのだ。

米澤慎太朗