「モントリオールは不正な行政の不正な都市であり、多くの狂った計画と同時に、しかし、多くのマイナーな奇跡がある美しく腐った町だ」と、GY!BEは語っているが、その「多くのマイナーな奇跡」は、モントリオールからずっと東の小さな小さな町、日本人のほとんどが記憶にないであろう、ハリファックスでも起きている。その小さな小さな町からさら東に離れた、北大西洋沿いの小さな小さな小さな村のシェゼットコックには、20年以上も続いているレーベルがある。名前は〈ダイヴァース〉、昨年末リリースされたユール・ネヴァー・ゲット・トゥ・へヴンのデビュー・アルバムが都内のレコード店で話題となったことで、ささやかながら注目を集めている。
〈ダイヴァース〉のレコードを手にして、鼻を近づければ、潮のにおいがするかもしれない。いや、気のせいだろう。だが、レーベルを主宰するダーシー・スパイドルが、近場の海でサーフィンをやりながら、作品を出していることは本当だ。その合間に彼は、地元のライヴやフェスティヴァルに協力している。
それにしても、ウェットスーツを着たごつい男が、ティム・ヘッカーやグルーパーを愛聴するというライフスタイルは、趣味の良い日本人からすると奇妙に見えるかもしれない。波に乗ったあと部屋に戻って、マイ・キャット・イズ・アン・エイリアンを聴くなんて。
しかし、波の音とドローンはミックスされ、北海道よりも緯度が高い場所で暮らしながら、サーフボードはエレクトロニック・ミュージックの海を浮かび、レイドバック音楽を背後に、ピエール・バスタインやエイメン・デューンズを聴いている。それは、インターネットが普及したとんに、わざわざ限定のアナログ盤やカセットのリリースが拡大したこととも関連しているだろう。つまり、「多くのマイナーな奇跡」が起きたことで切り崩され、創出された。それがいま我々が接しているDIY文化、いわゆるアンダーグラウンド(インディではない)・シーンなのだ。
多くの、そして小さなレーベルがカナダにはある。それらレーベルはこの国に、強いシーンを育てようとしている。君が知っているようなカナダのアーティストは、最初はみんなカナダの小さなレーベルからデビューしている。この数年で、カナダの音楽シーンはとんでもない成長を遂げている。
■あなたのバックボーンについて教えてください。
D:もともとは、自分の音楽を発表するために〈ダイヴァース〉をはじめた。僕はまだ若く、地元の音楽産業をちょっと経験したぐらいだった。でも、産業は僕のものではなかった。僕の求めているものではなかったんだ。そのとき、僕は、音楽ビジネスの怖さを覚えたと言っていい。
僕は自分の作品を出して、それをひとりでやりたかった。最初はCDRのリリースからはじめた。初期のリリースは、まったくの手作りだった。リリースのスケジュールを守るために、ずいぶんと労力を要したものさ。
やがて、僕はディストリビューターや製造業者と付き合うようになった。そして、自分以外のアーティストの作品のリリースもはじめる。だけど、基本は変わっていない。僕は、ブラック・フラッグの〈SST〉から大きな影響を受けている。80年代前半、アメリカのパンク・ロックは、北米におけるインディペンデント・レーベル文化の基礎を築いた。その流れで生まれたモンリオールの〈エイリアン8〉というレーベルからもインスピレーションを受けた。日本のメルツバウ、マゾンナ、中嶋昭文など、素晴らしい実験的な音楽をたくさん出していたからね。
■レーベルは何故〈ダイヴァース〉(別離/離婚)と名付けられたのでしょう?
D:僕がメインストリームの音楽産業から離れたかったからだ。僕は、本当に産業を嫌悪した。〈ダイヴァース〉は、絶対的な「別離」の試みだった。レーベルをはじめたばかりの週末のことだった。僕は自分の住んでいる町のポストにこんなフライヤーを投函してまわった。「音楽はゴミだ。音楽と絶縁せよ(Music is Garbage.DIVORCE Music)」。ずいぶん愚だったけれど、それがそのときの僕だった。

シェゼットコックにあるこの家で暮らしながら、レーベルを続けている
■この10年、カナダのアンダーグラウンド・シーンは他国との交流も盛んで、とてもたくさんの成果を生んでいると思います。
D:まさにその通り。この10年はカナダの音楽にとってとても重要な時期だった。大きな都市のシーンはそれぞれ特徴を持って発展している。また、インターネットによって、アンダーグラウンドの音楽家たちは10年前より自由な活動をなしえるようになった。また、ここカナダには、若干とはいえ、適切なアート資金提供プログラムがある。カナダの才能ある人がアーティストでいられることは現実的なオプションのひとつなんだ。
といっても、それは簡単なことではない。ライヴ・シーンは、アンダーグラウンド・ミュージックをサポートするにはまだ小さい。本当に成功するためには、アメリカとヨーロッパに進出しなければならない。いくつかの実務業務と財政のため、それは多くのカナダのアーティストにとって大きなタスクとなっている。
■あなたは、レーベル活動のため、音楽が盛んなモントリオールに引っ越しませんでしたよね?
D:モントリオールはたしかにカナダでもっとも栄えた音楽都市だ。多くの友人、バンド仲間もモントリオールに移住している。しかし、僕はモントリオールに行かなかった。ノヴァスコシアに留まって、ここを離れるつもりはない。
■ハリファックスがもっとも近い地方都市ですが、そこには音楽シーンがありますか?
D:ハリファックスには、強い音楽シーンがつねにある。ホントに小さな町だけれど、そこには、何百ものバンドとアーティストがいる。アンビエント、エレクトロニック、それからハードコア・パンクまで、あらゆるジャンルがある。
レーベルもいくつもある。たとえば〈Electric Voice〉や〈Snapped in Half〉なんか。しかも、たくさんの国際的なフェスティヴァルもある。「Halifax Pop Explosion」、我々が関わっている「OBEY Convention」。いろいろある。
僕たちの町は小さいから、カナダの大都市からもアメリカからも孤立しがちになる。そこからバンドを連れてくるのも難しい。だからこそ逆に、地元のオーディエンスとバンドは互いに深くインスピレーションを与え、支え合っていると言える。それが音楽コミュニティの形成に役立っているんだ。

USのフリー・ジャズ・ドラマー、Jerry Granelliも〈ダイヴァース〉から作品を出している。
ハリファックスでの演奏
(photo by Pierre Richardson)

アルバムを控えているJfm@OBEY Convention 5 in Halifax (photo by Pierre Richardson)

Darcy and Courtney@Electric Voice in Halifax
大量生産の果てに生まれたCDは、いまや無限に複製されるデジタル音楽となっている。ゆえに、アナログ盤とカセットが限定盤(有限)としてリリースされることには意義がある。リスナーにとっても、100個しか作られないカセットのひとつを買うことは、急進的で、冒険的な行為なんだ。
■グルーパー、USガールズ、ゲイリー・ウォーなどといった僕らの大好きな実験的なアーティストと〈ダイヴァース〉はとても友好的な関係にあるようですね。
D:僕はハリファックスでその人たちがやるときはいつもサポートしている。その人たちの演奏を聴いたときは、本当にぶっ飛ばされた。彼らはすでに世界的クラスのアーティストだった。
僕が彼らの音楽を好きな理由は、音楽のなかで自分の本当の感情を伝えるために実験的な手法を取っているというところにある。進歩的な考えと感情との組み合わせが、僕は彼らの音楽のなかでもっとも惹きつけられる点だ。
■いままでどのくらいリリースしているんですか?
D:正確な数はもう憶えていない。カタログ上では、いま52枚リリースしたことになっている。そこには、2~3のデジタル・リリース、アナログ盤、カセット、それからジンも含まれる。あともうすぐ発表される『Lowlife』という映画との関連作品もある。

映画『Lowlife』から
■インターネットの普及がいろいろなものを破壊的なまでに変えてしまいました。カナダはいかがでしょうか?
D:カナダも日本と同じだと思う。ほとんどの音楽はネット上にある。音楽リスナーにとっては良い時代だと言えるだろう。アーティストにとっても自分の露出が増えたわけだから、ポジティヴな効果もあると言えばある。だが、供給は増え、需要は減少している。しかも、多くのリスナーは、アルバムが商品だった時代にくらべて、音楽にありがたみを感じていないかもしれない。
とはいえ、こうしたなかで前向きな活路を見いだしているアーティストもいる。たとえばティム・ヘッカー。ツアーをして、限定盤を発表する。グルーパーもそういうタイプだ。彼らは実験的なやり方で生計を立てている。10年前、彼らのような規格外のアーティストが世界的な支持を得ていたとは思えない。これは、自分たちが本当に尊重したいアーティストとレーベルを自分たち自身でサポートするという、リスナーの純粋な気持ちがもたらしている事態だ。実際、多くのリスナーはその選択を選んでいるし、ますますそのようになると僕は思っている。
■オンライン・マガジンの『Weird Canada』を見ると、多くのレーベルやアーティスト、たくさんのカセットのリリースも見つけることができます。カナダのアンダーグラウンド・シーンは健康な状態だと言えますか?
D:そう思う。多くの、そして小さなレーベルがカナダにはある。それらレーベルはこの国に、強いシーンを育てようとしている。君が知っているようなカナダのアーティストは、最初はみんなカナダの小さなレーベルからデビューしている。『Weird Canada』は、アンダーグラウンド・コミュニティを育て、そして繋ぐ役割をしている。この数年で、カナダの音楽シーンはとんでもない成長を遂げている。
■今日、アンダーグラウンド・シーンでは、アナログ盤とカセットでのリリースが主流になっています。こうした傾向に対するあなたの意見を聞かせてください。
D:デジタルの飽和状態が続くなか、アナログ盤のリリースは有益だと思う。単純な話、音楽リスナーにとって本当に好きな盤であるなら、手元に置きたいと思うだろう。そして、アナログ盤があって欲しいと願うと思う。大量生産の果てに生まれたCDは、いまやデジタル音楽として無限に複製されている。ゆえに、アナログ盤とカセットが限定盤(有限)としてリリースされることには意義がある。リスナーにとっても、100個しか作られないカセットのひとつを買うことは、急進的で、冒険的な行為なんだ。
作品とリスナーとの関与の仕方についても、こうしたリリースには考えさせられるものがあるんじゃないかな。デジタルに複製され、ばらまかれたものを「黙って買え」と言われるより、よほど身体的な関係性が生まれるわけだから。
■あなたが昨年出したYou'll Never Get To Heavenのデビュー・アルバムがとても気に入りました。あなたは彼らのどこが好きなんですか?
D:YNGTHは、その実験性と感情へのアクセスがスムーズなところが良いと思う。実に珍しい混合の仕方をしている。初めて聴いたとき、瞬く間にその世界にハマってしまった。従来のポップス構造の範囲内で、彼らのような合成の仕方でアンビエントの組成物を利用することは、珍しいと思っているんだ。彼らは大きなバンドだと思っている。この先、将来、彼らといっしょに何かできると良いと思っている。
■この先の予定について教えてください。
D:4月は、トロント電子音楽とヴィジュアル・アーティスト、JfmのためのLPを控えている。そして我々は、ベルリン/トロント作曲家エイダン・ベーカーによるとびきり重たいドローンのLPも出すよ。
■最後に、あなたのオールタイム・トップ10を教えてください。
D:それはタフな質問だ。以下、大きな影響をもらった作品を挙げておく。これらの作品はつねに聴いている音楽ではない。しかし、明らかに自分が取り憑かれたように聴いた作品だ。僕に新しい世界の扉を開けてくれた作品なんだ。
Alice Coltrane - Journey in Satchidananda
Kraftwerk - Radio Activity
Ornette Coleman - The Shape of Jazz to Come
John Fahey - Days Have Gone By Vol. 6
Black Flag - In My Head
Pharoah Sanders - Karma
The Boredoms - Vision Creation Newsun
Merzbow - Pulse Demon
Discharge - Hear Nothing See Nothing Say Nothing
Peter Brötzmann - Machine Gun

ダーシー・スパイドル

















