『Hi(拝)』はどうやら自作楽器を用いてに収録されたようで、Atari系グリッチとサンプリングのエクスペリメンタルなコンポジションで形成される奇妙な世界観は不穏なようで整然と佇む素晴らしき矛盾を孕んでいる。例えるのであればそれは日常のなかで突然超芸術トマソン(by 赤瀬川原平)に対峙したときに覚える感覚に近いかもしれない。
開花するカラフルな前衛性。一音に込めたこだわりが随所に散りばめられた、ichionサウンドの真髄。
ichion は2008年に惜しくも活動を休止した、京都のインディー・バンドtoricoのフロントマン荒石亮のソロ・プロジェクト。ギター、サックス、自作楽器など、様々な楽器を用いて作り出すカラフルな前衛性をサウンドの特長としている。現在は神奈川を拠点として音楽制作、ライブ活動を行う。また音響をテーマにしたZINE、FUTURE SOUND LOVERS(現在vol.4まで発行)を制作。音響への探究心がうかがえる内容となっている。
本作は過去にデモ盤として発表した貴重な音源を再編集/リマスターし、新たに楽曲を追加したアルバム。ノイズジェネレーターなど、自作楽器を用いていることからもわかるように、一音に込めた並外れたこだわりが感じられる。
無音の中にユニークな音が響く印象。フェイドするフィードバックと、弦楽器からアタック音だけを除いたような伸びのある音が生み出す浮遊感。この2つのコントラストを軸に、全編を通してヴィヴィッドなイメージのサウンドが繰り広げられる。
本作リリース後も、ブルガリア民謡調のヴォーカルをフューチャーしたCD-R作品をリリースするなど独自の路線を突き進んでいる。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)
倉本 諒