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最初にヘッドフォンで聴いて、数分後、このアルバムにすっかり魅せられた。イエバによる『Il Etait Une Fois(昔々)』は、聴覚による想像的景色の万華鏡だ。まどろみを誘い、夢と記憶の茂みをかき分け、日々の生活では忘れている感情の蓋を開ける。アンビエント・ミュージックはこの10年で、より身近な音楽となった。ただ、そう、ただ耳を傾けさせすれば、景色は広がる。そして、フィールド・レコーディングとミュージック・コンクレートも、アンビエントにおいてより効果的な手法として普及している。クリスチャン・フェネスやクリス・ワトソン、グレアム・ラムキン、あるいはドルフィン・イントゥ・ザ・フューチャー......本作もこうした時代の新しい静寂に連なっている。女性ヴォーカルの入った最高に美しい曲が2曲あるが、それらは歌ではなく、あくまで音。フィールド・レコーディング(具体音)の断片たちが奏でる抽象的で想像的な音楽のいち部としてある。まったく、なんて陶酔的な1枚だろう。
フィールド・レコーディングにより切り取った日常の情景と音楽を重ねたアンビエント・アンサンブル。
ieva(イエバ)ことSamuel Andréはフランス出身の音楽家、作曲家、映画作家。2000年からコンピューター・インターフェイスのデザイン研究を開始し、音楽と映像に関するクリエイティヴな活動を続けてきた。これまでにアメリカ、ポルトガル、フランスなどのレーベルから音源を発表している。映画作家としては2002年にthe Aquitain Film Music Competitionの実験映画部門を受賞。現在は京都を拠点にライブ及び創作活動を行っており、過去に自身のレーベルPollen Recから、京都で集音した素材を用いたアルバムをリリースしている。 サウンドワークでは、フィールド・レコーディングにより切り取った日常の情景と音楽を重ねることで、ノスタルジックな感情や、謎めいたイメージを想起させるような作品を制作している。 本作でも車の走る音、鳥の鳴き声、シンセやヴォーカルのフレーズなどによる繊細なアンサンブルが、穏やかな朝の情景を描き出す"a wind away"、ブランコが揺れるような音、人の声、ノワール調の音楽が物語性を呼び込む"an empty swing"など、様々なイメージをもつ楽曲を堪能することができる。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)
野田 努