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キューバの新世代ジャズ・ピアニスト、ロベルト・フォンセカは、イギリスのDJジャイルス・ピーターソン(今回も2曲で共同制作)のプロジェクトや、そこから派生したMALAのアルバムに参加し、クラブ系の音楽のファンにも知られるようになってきた。彼は90年代末には、世界的な話題を呼んだキューバの長老ミュージシャンたちのプロジェクト、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにも関わっていた。しかしこの最新作は彼のこれまでの仕事とは大きく異なっている。
アルバムはトライバルな打楽器類が鳴り響く中にジャズ/フュージョン的なピアノやオルガンやベースが合流してくるテンポの速い「80's」からはじまる。いささか国籍不明なこの曲に続く"ビビサ"はマリ共和国の歌姫ファトゥマタ・ジャワラの歌をフィーチャーした曲で、マリのマンデ系の音楽色が強い仕上がりだ。途中ひょうたんハープのコラの透明感のある演奏がフィーチャーされ、ロベルトのピアノもリズミカルなアルペジオのフレーズでそれを支える。しかもやたら抒情的なピアノ演奏で終わる。
その後もアメリカ南部のゴスペル風のピアノやコーラスに地球環境に思いをはせた英語詩の朗読がのっかる"ミ・ネグラ・アベ・マリア"、マンデ系の演奏とキューバ風の演奏が並行したまま進んで行く"7ラジョス"、アルジェリア系フランス人歌手フォーデルがうたう変拍子の"チャバニ"、マンデ・ジャズ/フュージョンな演奏のなかでベースがモロッコの音楽グナワ風のフレーズを弾く"グナワ・ストップ"、ドラムンベースを意識したリズムにフュージョン的なキーボードがからまる"ラチェル"、キューバのグァヒーラのリズムにサンタナのようなひずんだギターが入る"JMF"、キューバ系のリズムに西アフリカ風の哀愁味のある歌がのっかる"キエン・ソイ・ジョ"......など、ロベルト・フォンセカはキューバの音楽と北・西アフリカの音楽のパッチワークに終りのない情熱を燃やしているように見える。いちばんスムーズなジャズ/フュージョンの"エル・ソニャドール..."ですら、キューバのコンガの隣で西アフリカのトーキング・ドラムが鳴っている。
新大陸やカリブ海の音楽とアフリカの音楽の接点を探る動きは21世紀のジャズ/ワールド・ミュージックの潮流のひとつで、このアルバムもその歴史の流れに身を投じようとしたものだろう。模索の過程を作品化したような作品も多いが、豊富なアイデアが楽しめるし、完成は音楽にとっては袋小路に入ることでもあるから、この試行錯誤、行方を見守る価値は十分にある。
北中正和