「All We Are」と一致するもの

interview with Lust For Youth - ele-king

 何をきいても、きくだけ野暮になるのだ──。リズムボックスの規則正しいビートを無視して、右に左に奇妙に揺れながら、モリッシーを彷彿させるヴォーカリゼーションでオーディエンスを威嚇するハネス・ノーヴィドは、強くひとを惹きつけながらも近寄りがたいような緊張感をみなぎらせている。若く固く純粋で、土足で入ってくるものを許さない。こんなにロマンチックでドリーミーな曲なのに……いや、そうした曲でこそ彼の憮然とした表情と固い動作は美しく、聴くものの胸を打つ。

 4月某日、原宿のアストロホールでは、彼の一挙手一投足が意味を持ち、熱を生み、ひとびとの心を煽っていた。煽るといってもそれは威勢のいい掛け声やメッセージによってではない。そこで歌われていた言葉は、君に会いたいとかそんなような、きわめてささやかな、あるいは内省的なものにすぎない。音はきわめてロマンチックなシンセ・ポップ、生硬なポスト・パンク。
 そしてハネスはといえばリズムにもメロディにも、ホールの空気にすら乗ろうとしない。散漫に客を眺め、どうでもいいことのように歌い、拍を外して動く(踊るというより動き)。それは、自分の外にあるものすべてに向けての威嚇や挑発であるようにも感じられるし、ガーゼにくるまれた、純粋で傷つきやすいものを想像させもする。──わたしたちを強い力で陶酔させ、高揚させ、我を忘れようとさせていたものは、そんな繊細な姿をしていた。

 ロックにこんなふうにひりひりとしたものを聴き取るのは久しぶりだった。素晴らしく攻撃的で、ピュアで、ロマンチック。小器用なリヴァイヴァリストたちではない。ロックが説得力を失う時代を真正面から踏み抜いて、ブリリアントな曲を聴かせてくれる。ラスト・フォー・ユースは本当に特別なバンドだ。年長者が聴けば、なんだ、ニューオーダーやジョイ・ディヴィジョンのミニチュアじゃないかと言うかもしれないが、残念ながらそんなことは知らない。わたしたちが見ているのはそれではなく「これ」なのだ。そして、そこにいた人たちみなが切実に、かけがえのないものとして「これ」を感じていたからこそ、異様なほどの熱が生まれていた。わたしたちはいまここに、2016年にいるのだ。

 ラスト・フォー・ユース。ハネス・ノーヴィドを中心とする3人組。「いいバンドがいる地域」として数年来注目を浴びているコペンハーゲン・シーンの顔ともいえる存在だ。活動を開始した2009年当初はハネスの一人シンセ・プロジェクトともいえるスタートだったが、2014年の前作『インターナショナル』から現体制になっている。自分たちでレーベル活動も行う一方で、彼ら自身のアルバムはイタリアのノイズ・レーベル〈Avant!〉やエクスペリメンタルなサイケ・レーベル〈セイクリッド・ボーンズ〉などからもリリースされており、実際のところ、後者のように2010年代のシーンを賑わせたレーベル経由で世界に広く知られるところとなった。


Lust For Youth
Compassion

Sacred Bones / ホステス

Indie RockSynth Pop

Tower HMV Amazon

 先月、彼らは新作『コンパッション』を携えて来日した。先に述べた様子を思い浮かべていただければおわかりかと思うが、筆者が言葉でたずねるべきことなど本来なにもない。そこには、語らずにすべてを伝えてしまう、ハネス・ノーヴィドという名の心があるばかりだった。ライヴのあとに取材していたら、質問が変わっていたか、あるいは何もしゃべれなかったかもしれない……。

 しかしともかくもお伝えしよう。彼らはわずか30分足らずのインタヴュー中、注意力のない男子中学生のようにずっとふざけていたけれど、それはおたがいへの照れ隠しのようにも見えた。不真面目なのではない。真面目だからこそ言葉を接げないのだ。嬉々としてロックがアーティストの口からプレゼンされねばならない時代は不幸である。ジャケットには点字がならんでいる。


■Lust For Youth / ラスト・フォー・ユース
スウェーデン出身、ハネス・ノーヴィドによるシンセ・ポップ・プロジェクト。2011年にデビュー・アルバム『ソーラー・フレア(Solar Flare)』を発表。2011年に発表した2作め『グローイング・シーズ』はメンバーの脱退がありソロ・プロジェクトとして発表されたが、2014年リリースの前作『インターナショナル』よりマルテ・フィシャーとローク・ラーベクがラインナップに加わっている。自身のレーベルからの他、イタリアのノイズ・レーベル〈Avant!〉や、つづく作品はUSの〈セイクリッド・ボーンズ〉等からもリリースされている。2016年4月にニュー・アルバム『コンパッション』を発表、同月来日公演を行った。

掘り下げて掘り下げて、だんだんポップになっていった(笑)。 (ハネス・ノーヴィド)

ラスト・フォー・ユースは、歌詞が英語であることがほとんどですよね。スウェーデン語で歌わないのはなぜなんですか?

ローク:僕らの中でも2つの母国語があるからね。スウェーデン語とデンマーク語。でも世界から見れば、両方合わせてもごく少数の人数が話している言葉にすぎない。そんな中でより多くの人とコミュニケーションをしたいと思ったら、よりビガーな言葉を使うほうがいいよね。そして、僕らが知っているビガーな言葉といえば英語しかないんだ。

マルテ:英語はデンマークでも小さな頃から学校で教わるからね。

ハネス:音楽的な点からいっても、英語はいちばん通じやすいよね。ポップ・ミュージックの言葉だと思う。

マルテ:前のアルバム(『インターナショナル』2014年)は、イタリア語の曲が入っていたり、スウェーデン語の曲が入ったりもしているから、使ってはいるんだよね。でも歌うことにおいては圧倒的に英語ということになるかな。

なるほど。〈アヴァン・レコーズ(Avant! Records)〉からいくつかリリースがありますね。『サルーティング・ローマ(Saluting Rome)』(2012年)あたりはずいぶんダークで、ノイズやインダストリアル的な要素も強いかと思いますが、そこからくらべて現在はずいぶんポップなかたちになったとも言えるかと思います。そうなったことに何かきっかけや理由はありますか?

ハネス:あの頃も十分ポップだったと思うよ。

ローク:いや、最初につくっていたテープなんて、ただのノイズだったじゃん(笑)。

マルテ:ハネスがひとりでつくっていた頃でしょ? 初めて聴いたとき、「マジで?」って思ったもん。ほんとにこれをポップとして解釈することかできるのかなって。

ははは。とくにハネスさんだと思いますが、そういうノイズ・ミュージックに最初に触れたのは何がきっかけだったんですか?

ハネス:ウルフ・アイズ(Wolf Eyes)から入って、掘り下げていったかな……。10代の頃だから、何がきっかけだったかなんてあまり覚えてないんだけど。で、掘り下げて掘り下げて、だんだんポップになっていった(笑)。

僕にとってシンセ・ポップとか80年代の音楽のイメージは、「パンクのショウの後でかかってた、みんなで踊れる楽しい音楽」なんだ。(ローク・ラーベク)

それがラスト・フォー・ユースのポップの真実なんですね(笑)。一方で、ニュー・オーダーに比較されたりするように、ポスト・パンクだったりシンセ・ポップのような音楽は何が聴きはじめだったんでしょうか。それから、みなさんの国の同世代にとってそれらはポピュラーなものなんですか?

マルテ:いまでこそかからないけど、あの頃はラジオとかでかかっていたよね。ニュー・オーダーとかは。

ローク:僕にとってシンセ・ポップとか80年代の音楽のイメージは、当時僕が好きで通っていたパンクのショウ、それが終わったあとに飲みにいくところでかかってるって感じかな。パンクのショウではみんな暴れたりしていたけど、その後クラブのダンスフロアなんかに行くと、そっちから打ち上げで入ってきた男子がテーブルの上にのぼって、シャツを脱いで騒いだりしていた。そういう、みんなで盛り上がって楽しい時間を過ごしたっていう思い出が、あの手の音楽を聴くとよみがえってくるよ。「パンクのショウの後でかかってた、みんなで踊れる楽しい音楽」なんだ。

そうはいっても、みなさんは80年代当時がリアルタイムではないですよね。たとえばニュー・オーダーならどのアルバムから聴きはじめたんですか?

ローク:僕は映画『ブレイド』(1998年)のサントラとして収録されている“コンフュージョン”のリミックスだね。完全にレイヴの音楽って感じで……ニュー・オーダーの曲ですっていう感じではないけど、ニュー・オーダーの最初の思い出とかインパクトといえばそれなんだ。

マルテ:僕は「ブルー・マンデー」かな。ラジオでよくかかってたよ。

ハネス:僕は「クラフティ(Krafty)」(2005年)かな。その後は『ムーヴメント』に出会うまで気にならなかった。

私もそのアルバムが最初だと思います(『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』2005年)。同世代ですね(笑)。でも、“ブルー・マンデー”がラジオでよくかかってたというのはなんなんでしょうね。さすがにオリジナルが出た当時じゃなさそう。

マルテ:そうだね。僕は32歳だから。

それは生まれたかどうかくらいですね。

実際には仲はいいんだよ。メディアが言うように、みんなオシャレな服を着て、みんなハンサムで、みんな才能があって……なんてことはないし、そうやって十把ひとからげにされるのは違和感があるっていうだけで。

コペンハーゲンのバンドについて、英米のメディアや日本でも話題になったりしたんですが、実際にシーンを呼べるようなつながりとか盛り上がりはあるんですか?

ハネス:僕らとしては、あまり「シーン」という実感はないんだけど、それぞれのバンドに友だち関係っていう結びつきはあると思うよ。

ローク:長くやっているバンドも多いから、そこには自然に友情みたいなものはできてくるかな。

なるほど。でもメディアがそう言っているだけってことでもない?

ローク:まあ、間違いなくコミュニティ的なものはあると思うよ。でも、(お菓子を食べてふざけあいながら)僕らが集まってやることなんてこんなことばっかりで、音楽の話なんてしてないよ(笑)。そんなふうに騒がれる前にとっくに僕たちのコミュニティはできてしまっていたから、いまさらって感じはあったけどね。だから「みんな仲がいいんでしょうね」っていうような質問を受けると、あえて「いや、仲良くないよ」「きらいだよ」って言いたくなっちゃうんだ。
 でも実際には仲はいいんだよ。メディアが言うように、みんなオシャレな服を着て、みんなハンサムで、みんな才能があって……なんてことはないし、そうやって十把ひとからげにされるのは違和感があるっていうだけで。それぞれに個性があるし、みんな音楽以外の興味も大きいから。

マルテ:それにみんなの音楽性もどんどん広がっているから、まとめて語るのはますます無理が出てきているだろうね。

基本的にはパンクとかロックとかって音楽が多いんですか? クラブ・ミュージックみたいなものとは混ざっていない?

ハネス:バンドが多いのは間違いないね。

マルテ:でも、テクノもわりとある気がするな。たしかに僕らのまわりではないけど、でもいろんな音楽があるよ。なんでも。ユニークなことをやっている人も多いし、そういう人たちもゆるやかにつながっているとは言えるんじゃないかな。

ミニマリズムを愛する感覚とか、歴史の古さとか。日本への共感みたいなものはあるよ。(マルテ・フィッシャー)

へえ。たとえばハネスさんはゴーセンバーグご出身かなと思うんですが、ゴーセンバーグは一時期、エレクトロニックなバンドやユニットがいくつも出てきて注目されていましたよね。JJとか、エール・フランスとか、タフ・アライアンスとか。彼らなんかとは交流があるんですか?

ハネス:ゴーセンバーグは以前しばらく住んでいただけなんだけどね。いや、友だちじゃないよ彼らは。じつは僕らのイヴェントに来たいってタフ・アライアンスのメンバーが言ってきたときに、断ってしまった経緯があるんだよね。僕は彼らが好きなんだけど、僕の友だちが、ああいう人たちを呼ぶのは日和ってるみたいなことを言って断ってしまったことがあって。
 じつのところスウェーデンの音楽はそんなにマジメに聴いてないんだ。スウェーデンは昔から、自分たちがいちばんの音楽の国だっていうようなことを外に向けて言ってきた。たしかに90年代にそういうことはあったかもしれないけど、いまはそんなことないと思うし、とにかくスウェーデンの人っていうのは、視線が内側に向いていて、外の音楽に対して無知なんだ。僕はそう思う。

マルテ:でもやっぱり、ポップ・ミュージックは強いよね。アバにはじまってさ……。あと、音楽の学校がすごく充実しているんだよ。デンマークだって、普通の学校に通っていてもけっこう音楽の教育はしっかりしていると思う。

北欧……と一括りにするわけにはいきませんけど、スウェーデンもデンマークも、福祉国家であり、合理的で進歩的な考え方を持つ国というふうなイメージがありますけれども、実際にみなさんもそう感じますか?

ローク:合理的っていうのはどうかなって思うところもあるけど、ほかの2つはそうだね。美意識みたいなところでは、スカンジナビアは日本と共通するところがあるんじゃないかって思うよ。

マルテ:そうだね、ミニマリズムを愛する感覚とかね。あとは歴史の古さとか。日本への共感みたいなものはあるよ。

基本的には音楽で生活できている人が多いよ。ただ、ひとつ言えるのは、音楽でリッチになっているやつはいない(笑)。(ローク)

なるほど、意外なものの造形が似ていたりもしますからね。……でも、若い人が絶望していたりしないんですか?

ハネス:それは世界中、みんなそうだと思うよ。

ははは、それは反論しにくいですね。

ローク:未来ってことを考えると、すごく恐ろしい場所のような気がする。もしかするとすごく楽しいこともいっぱいあるのかもしれないけど、不安の方が大きいよね。

ハネス:だから考えないでおくことにしたほうがいい。

あはは。金言です。でも、みなさんやお友だちは、みんな音楽で食べているんですか? それとも何か別に職業を持ちながら?

ローク:基本的には音楽で生活できている人が多いよ。個人差はあるけど。ただ、ひとつ言えるのは、音楽でリッチになっているやつはいない(笑)。なんとかやっていけてるってだけでね。

ハネス:僕らは例外だけどね。

では、いま聴いている音楽で刺激的だと思うものはどんなものですか?

マルテ:ブリアルとか。

へえ、意外なようで、みなさんにも相通じるようなダークさがあるかもしれませんね。

ローク:僕はコペンの仲間がつくっているのを聴くだけで手一杯だよ。

ハネス:僕も。


Lust For Youth “Sudden Ambitions”


ゴシックは嫌い。(ローク)

なるほど、音をシェアしているんですね。ところでLFYの作品は近年は〈セイクレッド・ボーンズ〉から出てたりしますけど、あのレーベルにはどんな印象を持っていますか? みなさんはカタログの中ではやや異質ですよね。

マルテ:たしかに僕らは異色かもしれないね。でもそれがいいことだとも言える。

ハネス:僕は同じくらいの規模の別のレーベルからのリリースの経験もあるけど、いい感じなんじゃないかな。必ずしも有名レーベルではないけど、おもしろいバンドのものを出してると思う。僕らからデヴィッド・リンチまでね(笑)。あとファーマコンとか。

ファーマコンはいいですよね。〈セイクレッド・ボーンズ〉の中には、特異な形でではありますけど、ゴシックの要素もあると思います。みなさんは自分たちの音楽の中にゴシックを感じることはありますか?

ローク:ゴシックは嫌い。

ハネス:ははは。

ローク:でも時間はかかったけど、僕らの音楽を理解してくれるレーベルが出てきたことはうれしいことだよ。僕も自分でコペンハーゲンでレーベルをやっているわけだし、やろうと思えば自分たちでも出せるけれど、そんな中で出そうと言ってくれる人がいるわけだから、いいことだよね。

そうですね。こうやってお会いしてみると、みなさんずいぶんやんちゃな印象なんですが、曲のなかで歌われていることはわりとどれもラヴ・ソングというか。それがちょっと意外でした。これはわざと意識しているというか、ポップ・ソングは恋愛を歌うものというような考えがあったりするんですか?

ローク:やんちゃはいまだけだよ(笑)。

ハネス:嘘をつくのがうまいというだけじゃないかな。

マルテ:曲の雰囲気にインスパイアされて歌詞を書くことが多いから、それで影響されるのかもしれない。曲自体がそんなムードを持ってるんだよ。

ローク:それがまあ、ゴスが嫌だっていうことにつながるんじゃないかな。もちろんラヴ・ソングを書いている人が恋愛をしているかといえばそうとは限らない。ゴスのひとたちもきっとそうで、彼らがつねにメランコリックでウィザラブルな自分たちを演じていて、それを見て周りの人も同じ気分になってしまうということがあるんだとすれば、僕たちも自分たちの世界を曲で提示して、聴く人たちをそんな気分にさせているということなのかなと思うよ。

点字って、つねづねおもしろいものだなって思ってたんだよ。デザイン的にとっても美しいものなのに、それを読める人には見えなくて、見える人には読めなくて、っていうのがね。(マルテ)

世界といえば、ジャケットの点字のモチーフはどこから?

ローク:まず、もとになる風景はあったよ。ハネスとマルテは同じアパートに住んでいたことがあって、そこが今回のレコーディングの場所でもあるんだけどね。それで、煮詰まってくると海を眺めて──海の色か空の色かちょっと区別がつかないような色をしてたよね──それを眺めて散歩したりしてたんだ。いい気分転換になった。

マルテ:で、点字については、僕がツアー中に飲んでいた薬があるんだけど、それについていた点字がヒントになってるんだ。その海か空かわからない色みたいに、何かがはっきり見えないひとのための字を使うというのは、おもしろいと思って。点字って、つねづねおもしろいものだなって思ってたんだよ。デザイン的にとっても美しいものなのに、それを読める人には見えなくて、見える人には読めなくて、っていうのがね。

それは、音楽も似たようなところがあるかもしれませんね。

マルテ:その通りだね。



Oneohtrix Point Never - ele-king

 2015年11月13日。その日は『Garden Of Delete』の発売日だった。フランスの〈Warp〉のレーベル・マネージャーはツイッターで、OPN宛てに「ハッピー・リリース・デイ!」とリプライを送った。その夜、事件は起こった。ポップ・ミュージックのグロテスクな側面を暴くというある種のメタフィクション的な試みは、図らずも凄惨な現実のサウンドトラックとなってしまったのである。
 事件発生後、LAにいたコールドプレイは公演の予定を変更し、「イマジン」を演奏した。また、現場であるバタクランには名もなきピアニストが訪れ、「イマジン」を弾いて帰っていった。1か月後にレピュブリック広場を訪れたマドンナもまた「イマジン」を歌い、当地の人々に寄り添おうとした。猫も杓子も「イマジン」だった。それはあまりにも惨めな光景だった。テロのような出来事を前にして無難に適切に機能してくれる曲が「イマジン」をおいて他にないということ、すなわちいまだ「イマジン」に取って代わる曲が生み出されていないということ、それゆえ皆が同じように「イマジン」を持ち出さざるをえないということ。そこには、人は音楽を通して何かを共有することができるのだ、人は音楽を通してユナイトすることができるのだという、あまりにも不気味なイマジネイションが見え隠れしていた。
 昨年のパリでの出来事のもっとも重要な点のひとつは、ライヴ会場=音楽の「現場」がテロの標的となったということである。たしかに、これまでにもポップ・ミュージックが攻撃されることはあった。けれど、クリミナル・ジャスティス・アクトにしろ風営法にしろ、それらはいつも決まって「体制」側からの「弾圧」だった。カウンター・カルチャーとしての音楽は、そのような「弾圧」に抗い「体制」と闘う人びとと手を取り合うものであった。だが今回は違う。音楽それ自体が「体制」側のものであると見做されたのである。テロリストたちが攻撃したのは、まさに上述したような偽善的なイマジネイションの横溢だったのではないか。そしてそれは、まさにOPNが切り取ってみせようとしたポップ・ミュージックの醜悪な側面のひとつだったのではないか。

 『R Plus Seven』以降のOPNの歩みを、叙情性からの撤退およびポップへの旋回として捉えるならば、『Garden Of Delete』はそれをさらに過激に推し進めたものだと言うことができる。『Garden Of Delete』ではメタルという意匠や音声合成ソフトのチップスピーチが採用され、かつてないダイナミックなエレクトロニック・ミュージックが呈示されていたけれど、それは一言で言ってしまえば「過剰な」音楽だった。そこには、ともにツアーを回ったナイン・インチ・ネイルズからの影響よりもむしろ、アノーニのアルバムで共同作業をおこなったハドソン・モホークからの影響が色濃く反映されていた。
 それともうひとつ『Garden Of Delete』で重要だったのは、メタ的な視点の導入である。ポップ・ミュージックの煌びやかな装いを過激に演出し直してみせることでOPNは、通常は意識されることのないポップ・ミュージックの醜い側面、そしてそれによって引き起こされる不気味なイマジネイションを露わにするのである(おそらくそれは「思春期」的なものでもあるのだろう)。OPNはアラン・ソーカルであり、彼は自作のでたらめさが見破られるかどうかを試しているのだ、とアグラフは言い当てていたけれど、これはいまのOPNのある部分を的確に捉えた指摘だろう。
 過剰さの獲得およびメタ的視点の導入という点において、いまのOPNは、かつてのいわゆる露悪的とされた時期のエイフェックスと極めて似た立ち位置にいるのだと言うこともできる。では彼は、ポップ・ミュージックの醜さや自作のでたらめさを呈示してみせて、一体何をしようとしているのか? OPNの音楽とは一体何なのか?

 今回リイシューされた3作は、彼がそのような過剰さやメタ的視点を取り入れる前の作品である。とくに『Drawn And Quartered』と『The Fall Into Time』は彼のキャリアのなかでもかなり初期の音源によって構成されたものであるが、それらの作品からも、後の『Garden Of Delete』にまで通底するOPNの音楽的な問いかけを聴き取ることができる。

 通算5作目となる『Replica』では、彼にとって出世作となった前作『Returnal』で呈示された叙情性が引き継がれつつも、そこに正体不明のノイズや謎めいた音声など、様々な音の素材が縦横無尽にサンプリングされていく。実際には体験したことがないはずなのに、どこかで聞いたことがあるようなマテリアルの埋め込みは、今日インターネットを介して断片的に集積される膨大な量の情報と対応し、聴き手ひとりひとりの生とは別の集合的な生の記憶を呼び覚ます。OPNは、美しいドローンやメランコリーで聴き手がいま生きている「ここ」のリアリティを浮かび上がらせながら、そこに夾雑物を差し挟むことで「ここ」ではないどこか別の場所を喚起させようとする。それによって生み出されるのは、どこか遠くの出来事のようで、いま目の前の出来事のようでもあるという絶妙な距離感だ。それゆえ聴き手は決して彼の音楽に逃避することができない。そのようにOPNは、聴き手がいま立っている場所に揺さぶりをかけるのである(それと『Replica』のもうひとつの特徴は、彼の声への志向性が露わになったことだ。それは後に『R Plus Seven』において大々的に展開され、『Garden Of Delete』にも継承されることになる。先日のジャネット・ジャクソンのカヴァーなどはその志向のひとつの到達点なのではないだろうか)。
 このような「ここ」と「どこか」との境界の撹乱は、ひとつ前の作品である『Returnal』でも聴き取ることができたものだ。『Returnal』においてOPNは、その冒頭で圧倒的な強度のノイズをぶちかましておきながら、それ以降はひたすら叙情的なアンビエントで聴き手の薄汚れた「ここ」を呈示する。要するに、『Returnal』冒頭のノイズが果たしていた役割を、『Replica』では様々な音のサンプリングが果たしているのである。

 『Drawn And Quartered』と『The Fall Into Time』の2枚は、かなりリリースの経緯がややこしい。
 OPNは2007年に1作目となる『Betrayed In The Octagon』を、2009年には2作目『Zones Without People』と3作目『Russian Mind』をそれぞれLPでリリースしているが、他にも2008年から2009年にかけてカセットやCD-Rで様々な音源を発表している。それら最初の3枚のアルバムと、散発的に発表されていた音源とをまとめたのが、〈No Fun Productions〉からCD2枚組の形でリリースされた『Rifts』(2009年)である。
 その後4作目『Returnal』(2010年)と5作目『Replica』(2011年)を経て、知名度が高まった頃合いを見計らったのか、2012年にOPNは『Rifts』を自身のレーベルである〈Software〉からリリースし直している。その際、〈No Fun〉盤ではCD2枚組だったものがLP5枚組に編集し直され、LPのそれぞれ1枚がオリジナル・アルバムとして機能するように組み直された(ジャケットも新調されている)。その5枚組LPの1枚目から3枚目には最初の3枚のアルバムが丸ごと収められ、4枚目と5枚目にはカセットなどで発表されていた音源がまとめられている。その際、4枚目と5枚目に新たに与えられたのが『Drawn And Quartered』と『The Fall Into Time』というタイトル(とアートワーク)である。因みに後者は〈No Fun〉盤の『Rifts』には収録されていなかった音源で構成されているが、それらはすべてすでに2009年に発表されていた音源である。
 そして翌2013年には、LP5枚組だった『Rifts』から4枚目『Drawn And Quartered』と5枚目『The Fall Into Time』がそれぞれ単独の作品として改めてLPでリリースし直された。今回CD化されたのはその2枚である。なお、LP5枚組だった〈Software〉盤『Rifts』はCD3枚組としてもリリースされているので(『Drawn And Quartered』と『The Fall Into Time』のトラックは、各ディスクに分散されて収録されている)、音源自体は今回が初CD化というわけではない。
 とにかく、『Drawn And Quartered』も『The Fall Into Time』も、時系列で言えば、すべて『Returnal』(2010年)より前に発表されていた音源で構成されているということである。

 このようにややこしい経緯を経て届けられた『Drawn And Quartered』と『The Fall Into Time』だが、単に入手困難だった音源が広く世に出たということ以外にも注目すべき点がある。それは、それまでばらばらに散らばっていた音源に、曲順という新たなオーダーが与えられたことだ。
 テクノ寄りの『Drawn And Quartered』は、メロディアスな "Lovergirls Precinct" で幕を開け、シンセサイザーが波のように歌う "Ships Without Meaning" や、怪しげな音階の反復する "Terminator Lake" を経て、おそらくはデリック・メイのレーベルを指しているのだと思われるタイトルの "Transmat Memories" で前半を終える。後半は、蝉や鳥の鳴き声を模した電子音が物悲しい主旋律を際立てるノスタルジックな "A Pact Between Strangers" に始まり、16分にも及ぶ長大な "When I Get Back From New York" を経由して、唐突にロウファイなギター・ソングの "I Know It’s Taking Pictures From Another Plane (Inside Your Sun)" で終わる。
 アンビエント寄りの『The Fall Into Time』は、海中を散策するかのような "Blue Drive"で幕を開け、RPGのBGMのような "The Trouble With Being Born" を経て、透明感の美しい "Sand Partina" で前半を終える。後半は、反復するメロディが印象的な "Melancholy Descriptions Of Simple 3D Environments" に始まり、叙情的な "Memory Vague" を経て、一転してきな臭い "KGB Nights" で幕を下ろす。
 この2作に共通しているのは、1曲目から続く流れが最後の曲で裏切られるという構成だ。冒頭から音の中へと没入してきた聴き手は、最後に唐突に違和を突きつけられ、「ここ」ではない「どこか」へと意識を飛ばされる。ここでもOPNは、聴き手の居場所を揺さぶるという罠を仕掛けているのである。

 貧困が深刻化し、差別が蔓延し、テロが頻発し、虐殺が横行する現代。自身の送る過酷な生と自身とは直接的には関係のない世界各地の戦場とが、インターネットを介して直にリンクし合い、同一の強度で迫ってくる時代。そのような時代のアクチュアリティをOPNは、聴き手の立ち位置をかき乱すことで呈示してみせる。近年のOPNはスタイルの上ではアンビエントから離れつつあるけれど、「ここ」と「どこか」との境界を攪乱するという意味で、いまでも彼はアンビエントの生産者であり続けている。あなたがいる場所はどこですか、とそのキャリアの初期から彼は、自身の作品を通して問いかけ続けているのだ。聴き手が、音楽産業が用意したのとは別の仕方で、世界を「イマジン」できるように。

OPNはどこからきたのか? - ele-king

 電子実験音楽家、ひとまずはそう呼ぶとして、もはやその存在をどう位置づけていいかわからないほど鋭く時代と交差するこのプロデューサーについて、興味深いリイシューが3作届けられた。

 ジャネット・ジャクソンにルトスワフスキにナイン・インチ・ネイルズ、ソフィア・コッポラにANOHNIにFKAツイッグス……一つ一つの作品には緻密に詰められたコンセプトがあるものの、コラボもカヴァーも交友も、多彩にして解釈のつけにくい軌跡を描くOPNは、その旧作のカタログにおいてもかなりの整理しづらさを見せている。しかしそれもふくめて『Garden Of Delete』(2015年)――削除のあとに楽園があるのだと言われれば、なんとも居心地悪く笑うしかないが、この感覚はOPNを聴く感覚でもあるだろう。ともあれその複雑さを整理する上で、今回のリイシューは無視できない3枚である。

それでは簡単にそれぞれの内容説明を。

ライナーがどれもすばらしくおもしろいので、お買い上げになるのがよろしいかと思います。

 〈ワープ〉からリリースされ、ワールドワイドな出世作となった2013年の『R Plus Seven』、その同年に制作された『The Fall Into Time』は、初期のエッセンスが抽出されたものとして注目だ。

これは、2009年当時のシングルやライヴ音源などを含めたアンソロジー的内容の5枚組LPボックス作品『Rifts』を構成する1枚であり、コンパクトなアンソロという意味でも、また、純粋にノスタルジックなアンビエント作品を楽しむという意味合いでも、手にしておきたい再発である。

 じつは、その初期集成『Rifts』を構成する5枚のうち、3枚はそれぞれ独立した作品としてすでにリリースされている(『Betrayed In The Octagon』『Zones Without People』『Russian Mind』)。今回は先ほどの『The Fall Into Time』に加え、残りの『Drawn and Quartered』もリリース、これで5枚すべてがバラで買えるかたちとなった。これには“Transmat Memories”といった曲なども収録され、彼のやって来た道がほの見えるとともに、OPNによる「テクノの源流へと遡る旅」(ライナーより)とさえ言えるかもしれない。

 そして、今回の再発の中ではもっとも馴染みの方が多いであろう『Replica』。歯医者で聴こえるの摩擦音にTVゲームにイージーリスニングなど、雑多で儚いマテリアルを幽霊のように拾うプレ・ヴェイパーウェイヴ――いまやOPNの特徴のひとつとしてよく知られるようになった音が生まれた作品だ。

 リイシュー作品一挙3タイトル同時リリースを記念し、特典CDや〈Software〉のエコ・バッグがもらえるスペシャル・キャンペーンも開催される。特典CDの内容は下記をチェック!


Oneohtrix Point Never
The Fall Into Time

Software / ビート

■amazon
https://goo.gl/LjxosM

収録内容
1.Blue Drive
2.The Trouble With Being Born
3.Sand Partina
4.Melancholy Descriptions Of Simple 3D Environments
5.Memory Vague
6.KGB Nights



Oneohtrix Point Never
Drawn and Quartered

Software / ビート

■amazon
https://goo.gl/KIiaMu

収録内容
1.Lovergirls Precinct
2.Ships Without Meaning
3.Terminator Lake
4.Transmat Memories
5.A Pact Between Strangers
6.When I Get Back From New York
7.I Know It's Taking Pictures From Another Plane (Inside Your Sun)




Oneohtrix Point Never
Replica

Software / ビート

■amazon
https://goo.gl/oKcY6F

収録内容
1.Andro
2.Power Of Persuasion
3.Sleep Dealer
4.Remember
5.Replica
6.Nassau
7.Submersible
8.Up
9.Child Soldier
10.Explain


特典CD内容

1.Replica [ft. Limpe Fuchs] (Matmos Edit) (Bonus Track For Japan)
2.Replica [ft. Roger Robinson] (OPN Edit) (Bonus Track For Japan)
3.Remember (Surgeon Remix) (Bonus Track For Japan)
4.Nassau (Richard Youngs Remix) (Bonus Track For Japan)
5.Replica [ft. Roger Robinson] (Falty DL Remix) (Bonus Track For Japan)

GLOBAL ARK - ele-king

 DJ MIKUは90年代世代にとっては司祭。この男が、1992年から1995年のあいだの都内のアンダーグラウンド・テクノ・パーティにおいて、どれほど多くの人間を踊らせたことか。この時代の関東在住のテクノ好きで、彼がレジデントを務めたウェアハウス・パーティ「キーエナジー」で踊っていない人間はまずいない。「キーエナジー」で朝まで踊って青山マニアック・ラヴのアフターアワーズに行くというのが当時のお決まりのコースだった。
 その東京オリジナル・レイヴ世代の司祭と有志ある仲間のDJたち、ミュージシャンらが集い、「GLOBAL ARK」という本格的な野外レイヴ・パーティがはじまっている。今年でもう5回目になるそうだ。
 簡単な話だ。昔はクラブもレイヴも安かった。だから音楽を楽しみたい金のない若者は(コンサートよりも)クラブやレイヴを好んだ。DJ MIKUがいまやりたいのはそれで、しかもあの頃のパーティはみんな手作りだった。その手作り感もじつはものすごーーーく重要だった。誰も金のかかった内装を欲しかったわけではないから。
 (マニアック・ラヴなんか照明も手動でやったり、ぼくたちも自分たちでDJパーティを企画したときは、当然自分たちで場所を借りて、掃除から機材の運搬まで何から何までぜんぶ自分たちでやった。DIYをそれで学んだといったら格好良すぎだけど、いい意味でいまよりハードルが下だったし、いい意味で商売気がなかった)

 以下は、「GLOBAL ARK」の開催主旨の原稿からの抜粋です。

 「本来の野外ダンス・パーティの基本形である、近い・安い・楽しい! を実現する野外パーティはどうだろうか? 最近ないな……。(略)誰もが気軽に楽しめるFEEと都心からも近いキャンプ場。ピースフルな雰囲気。踊りに行くのに貯金しなくても大丈夫! 選ばれしリッチマンじゃなくても大丈夫! ひとりで来ても大丈夫! そんなパーティがまた復活したらいいな。という単純なきっかけで開催を決意したのが5年前でした」

 6月4日昼から6月5日までのあいだ、奥多摩をずうっと進んで山梨県に入るとある【玉川キャンプ村】にて「GLOBAL ARK」は開催される。入場は、前売りで5千円、当日で6千円。儲けるとか考えない。なによりもオリジナル・レイヴの精神によって生まれたこの野外レイヴ・パーティ、とくに「レイヴっていったいどんなものなの?」という若い人たち、梅雨入り前のいい季節だし、行ってみる価値は大いにありです!

■GLOBAL ARK

2016.6.4.sat - 6.5.sun at Tamagawa Camp Village(Yamanashi-ken)
Gate Open:am11:00 / Start: noon12:00
Advance : 5,000 yen Door : 6,000 yen
Official Web Site : https://global-ark.net

■ Line up

- Ground Area -

Eduardo de la Calle (Analog Solution / Cadenza / Hivern Discs / SPA)
Nax_Acid (Aconito Records / Phorma / Informa / Kontrafaktum / UK, ITA)
ARTMAN a.k.a. DJ K.U.D.O.
DJ MIKU
KAORU INOUE
HIDEO KOBAYASHI
GO HIYAMA (Hue Helix)
TOMO HACHIGA (HYDRANT / NT.LAB)
MATSUNAMI (TRI-BUTE / EXPECTED)
NaosisoaN (Global Ambient Star)

Special Guest DJ :
DJ AGEISHI (AHB pro.)

- River Area -

DJ KENSEI
EBZ a.k.a code e
DJ BIN (Stargate Recordings)
AQUIRA (MTP/Supertramp)
R1(Horizon)
DJ Dante (push..)
DJ MOCHIZUKI (in the mix)
Shiba@FreedomSunset - Live
山頂瞑想茶屋
ENUOH (ΦΤΦ / THE OATH)
OZMZO aka Sammy (HELL m.e.t)
Kojiro + ngt. (Digi-Lo-t.) - Live
SHIGETO TAKAHASHI (Time and Things)
NABE (Final Escape)
KOMAGOME (波紋-hamon-)
PEAT (ASPIRE)
VMIX (Twinetrax)
AGBworld (INDIGO TRIBE)
TMR Japan (PlayGroundFamily / CANOES BAR TAKASAKI)
Nao (rural / addictedloop / LivingRoom)

- Wood Lounge -

TARO ACIDA (DUB SQUAD)
六弦詩人義家 - Live
Dai (Forte / 茶澤音學館)
ZEN ○
Twicelights (ADSR) - three-man cell - Live
DJ Kazuki (push..)
ALONE (Transit / LAw Tention)
Yamanta (Cult Crew / Bio Sound)
TORAgon (HIPPIE TWIST / NIGAYOMOGI)
DUBO (iLINX)
MUCCHI (Red Eye)

Light Show : OVERHEADS CLASSIC - Ground Area -

Vj : Kagerou - River Area -

Sound Design : BASS ON TOP

Decoration : TAIKI KUSAKABE

Bar : 亀Ba

Food :
Green and Peace
Freewill Cafe
赤木商店
Food Studio ODA家
Gypsy Cafe

Shop:
Amazon Hospital
Big ferret
UPPER HONEY

FEE :
前売り(ADV) 5,000円 当日(DOOR) 6,000円
駐車場(parking) : 1,000円 / 場内駐車場1,500円
(場内駐車場が満車になった場合は
キャンプ場入口から徒歩4-5分の駐車場になります)
テント1張り 1,500円
Fee: Advanced Ticket 5,000yen / Door 6,000yen /
Parking(off-track)1,000yen /(in the Camp Site)
1,500yen
Tent Fee 1,500yen

【玉川キャンプ村】
〒490-0211 山梨県北都留郡小菅村2202
TEL 0428-87-0601
【Tamagawa Camp Village】
2202 Kosuge-mura, Kitatsuru-gun, Yamanashi-ken,
Japan

● ACCESS
東京より
BY CAR
中央自動車道を八王子方面へ→八王子ジャンクションを圏央道青梅方面へ
→あきる野IC下車、信号を右折して国道411号へ→国道411号を奥多摩湖方面へ約60分→奥多摩湖畔、深山橋交差点を左折7分→玉川キャンプ村

BY TRAIN
JR中央線で立川駅から→JR青梅線に乗り換え→青梅駅方面へ→JR青梅駅で奥多摩方面に行きに乗り換え→終点の奥多摩駅で下車→奥12[大菩薩峠東口経由]小菅の湯行バス(10:35/13:35/16:35発)で玉川停留所下車→徒歩3分

Tamagawa Camp Village
2202 Kosuge-mura, Kitatsuru-gun, Yamanashi-ken, Japan
Shinjuku(JR Chuo Line) → Tachikawa(JR Ome Line) → Okutama → Transfer to the Bus to go Kosuge Onsen.Take this bus to Tamagawa Bus Stop

Okutama Bus schedule:10:35 / 13:35 / 16:35
(A Bus traveling outward from Okutama Station)
(Metropolitan Inter-City Expressway / KEN-O EXPWY)
・60 minutes by car from KEN-O EXPWY "Hinode IC"Metropolitan Inter-City Expressway
・60 minutes by car from KEN-O EXPWY "Ome IC"(Chuo Expressway)
・60 minutes by car from CHUO EXPWY "Otuki IC"Chuo Expressway
・60 minutes by car from CHUO EXPWY "Uenohara IC"

● NOTICE
※ ゴミをなるべく無くすため、飲食物の持ち込みをお断りしておりますのでご協力お願いします。やむおえず出たゴミは各自でお持ち帰りください。
※ 山中での開催ですので、天候の変化や、夜は冷え込む可能性がありますので、各自防寒着・雨具等をお忘れなく。
※ 会場は携帯電波の届きにくい環境となってますのでご了承ください。
※ 違法駐車・立ち入り禁止エリアへの侵入及び、近隣住民への迷惑行為は絶対におやめください。
※ 駐車場に限りがあります、なるべく乗り合いにてお願いします。
※ お荷物・貴重品は、各自での管理をお願いします。イベント内で起きた事故、盗難等に関し主催者は一切の責任をおいません。
※ 天災等のやむ終えない理由で公演が継続不可能な場合、アーティストの変更やキャンセル等の場合においてもチケット料金の払い戻しは出来かねますので何卒ご了承ください。
※ 写真撮影禁止エリアについて。
GLOBAL ARKではオーディエンスの皆さまや出演者のプライバシー保護の観点から各ダンスフロアでの撮影を禁止させていただいております。 そのため、Facebook、Twitter、その他SNSへの写真及び動画の投稿、アップロードも絶対にお控えくださるようお願いします。尚、テントサイト、フードコートなどでの撮影はOKですが、一緒に来た友人、会場で合った知人など、プライベートな範囲内でお願いします。

RAINBOW DISCO CLUB 2016 - ele-king

 いきなり昔話から始めてもいいですか? 90年代の中頃だったかな、ロンドンのKings Cross駅の近くのダンジョンみたいなハコでやってる渋いパーティがあったんですよ。日曜なのにやけに豪華なDJが出てた。その日は、メインがアンドリュー・ウェザオールで、セイバーズ・オブ・パラダイスとかでガンガン活躍してた時代だったから、もう喜んで行ったわけ。前の晩も朝まで遊んでてヘロヘロだった気がするけど、ウェザオールがやるなら行かなきゃって。
 その日はたしかワールドカップの予選でイングランドの大会出場がかかってる大事な試合があって、ロンドン中がそのことで沸き立ってた。クラブに早めに着いたら、驚いたことに客が全員フロアに座って、テレビでサッカー観てるんですよ。当時の日本だとサッカーなんてマイナーなスポーツだったしワールドカップで国中大騒ぎなんて理解できなかったんだけど、ウェザオール自身も試合中はDJなんてやってらんねぇって感じだったのかね(笑)。試合が終わったら、おもむろにDJが始まって、試合の熱狂を引きずるようにウェザオールもすごくいいプレイを聴かせてくれて、最初は「なんでクラブに来たのにサッカーの中継観させられるんだよ」ってちょっと頭来たけど、やっぱりウェザオールすげえぜ! って踊り狂ったのを覚えてる。ハッピー・マンデーズやプライマル・スクリームのプロデュースで台頭した頃から何度も彼のDJは聴いてるけど、このときのプレイがすごく印象に残ってるのは、非日常的な雰囲気だったからかなと思ってる。いいDJはやっぱり、ロケーションとかクラウドの持ってるポテンシャルを最高に引き出すワザを持ってると思うんだよね。選曲とか技術だけじゃなくて、場の雰囲気を掴んでそれをぐぐっと持ち上げるというか。

 そんなウェザオールが、伊豆に移って2年目のRAINBOW DISCO CLUBにヘッドライナーとして登場するのは、ほんと楽しみだ。自身のオーガナイズするフランスの古城でのフェスには敵わないかもしれないけど、4年ぶりの日本で、しかも広々とした東伊豆クロスカントリーコースでの、音楽フリークたちを前にしてのプレイは絶対彼だってあがるはず。さらに、ナイトメアーズ・オン・ワックス、ムーヴD、ジャイルス・ピーターソン、瀧見憲司、井上薫といったエクレティックで頼もしい大ベテランたちがメイン・ステージを盛り上げる。今年の夏、ヨーロッパのフェスで引っ張りだこな日本人アーティスト2人がスペシャルな組み合わせで登場するのも楽しみだ。ハウス・レジェンド寺田創一は、昨年彼をフックアップしてスポットライトを当てたアムステルダムのラッシュ・アワー・チームの一員として登場。また、DJ NOBUは、シカゴの伝説的クラブのレジデントDJザ・ブラック・マドンナとの超レアなB2Bセットで登場する。それとそれと、レッドブルのステージにDJファンクとエジプシャン・ラヴァーとサファイア・スロウズっていうひと癖ある個性的な連中がまとめて出るのも嬉しい。たぶん、最近フェス行きはじめたとかアゲアゲでビキビキなのだけがエレクトロニックなダンス・ミュージックだと思ってる層には「誰?」って感じのDJ/アーティストたちかもしれないけど、とにかく騒げればOKみたいなノリじゃない大人な(元)パーティ・ピープルにはグッと来るはずだ。
 ただ、どこにでもある夕方から翌日昼までみたいなフェスだと、いくらラインナップが魅力的でも、全然メインのアクトを見れない! って悩む人も多いと思う。うちもそうなんだけど、子供がいるファミリー層がまさにそれ。なんせ夜は子供と一緒に寝ないとだから、深夜が一番盛り上がるタイムテーブルだと、高い入場料払っても一番美味しいところは寝てるかテントで遠くから残響音が聞こえるくらいで楽しめないっていう。その点、RDCがすごくいいのは、夜は音が止まるかわりに、3日間たっぷり楽しめるってところ。豊かな自然の中でキャンプしながらゆったり贅沢に音楽とプチ・アウトドアな週末が楽しめる。
 晴海でやってた頃から、RAINBOW DISCO CLUBはクラブ界隈のトレンドとか流行りの音とかでパーティを作ってないなというのが伝わってきた。だから、音に関しては信頼してるんだけど、いくら海辺と言っても都心で寝転がっても下がコンクリだったりするとどうしてもしっくりこない部分があった。それが、伊豆になったでしょ。実は僕は、去年すごくたくさんの友人知人から誘われていたにも関わらず行けなくて、後でとっても楽しげな写真を見たり話を聞かされたりして悔しい思いをした。つまり、この会場は今年が初体験。フェスやレイヴの楽しみの結構でかい部分は、知らないところに行って初めての環境で踊るってことでしょう。わがままだけど、何年もずーっと同じ場所で同じように開催してるイヴェントに段々興味が薄れていくのはそういう理由。だから、去年パスした僕と同じように、今これを読んで今年初めて「行ってみようかな」なんて思った人はすげーラッキーなんじゃないかな。2年目で運営面もさらに改善してきてるだろうし、ファンクション・ワン使ってかなりよかったというサウンドももっとよく鳴るだろう。それでこのラインナップだからね。あとは天気さえよければ、それこそパラダイスじゃない? (渡辺健吾/Ken=go→)

interview with Hocori - ele-king


Hocori - Duet
Conbini

J-PopSynth PopHouse

Tower

 Hocoriのふたりの話には、「(笑)」が多い。
かたや聞き手への気づかいや持ち前のエンターテインメント精神から。かたや謙虚さや韜晦、自分たちへの客観的な視線から。心地よく笑いが差し挟まれ、空気がほぐされていく。とても自然で落ち着いた間合い。Hocoriの音楽の魅力もちょうどそんなふうだ。

 現在の音楽にかつてほどのカルチャー的な求心力はないかもしれないが、それでもポップ・ミュージックにはまだまだ役割がある。10代のめちゃくちゃさや20代の機動力ではなく、少し引いたような落ち着きの中に、苦みもけだるさも熱もとけているHocoriのダンス・ナンバーは、イヤホンの中でふと筆者を我に返らせ、ときおり忘れがたいフレーズをあたまの中に繰り返しては帰路の足取りを軽くしてくれる。ちょうどいい音で、ちょうどいい距離感で、少し深めに間合いに入ってくる。それは年齢が近いせいもあるかもしれない。本で読むものとも映像として入ってくるものともちがうやりかたで、日常の中にとけこみながら、その風景を少し揺すぶって弾ませてくれる。彼らの息づかいを通して、いま生きている場所へのシンパシーの回路が開いていく。

 桃野はモノブライト、関根はgolf、それぞれ別にバンドの活動があり、彼らはそれらと並行して、つくりたいときにつくり、やりたいことだけをやり、出せそうになったら盤を出すというこの「ホコリ」を積み上げている。そうした緩やかなスタンスに、彼らの音の気持ちよさと鋭さのヒントがあるだろう。ガツガツいくだけが能ではなく、ただ続けるだけが吉でもない。このたびリリースされた5曲入りEP『Duet』を題材に、彼らのありかたについて訊ねてみよう。

■Hocori / ホコリ
ロック・バンドMONOBRIGHTのフロントマン桃野陽介と、エレクトロ・ポップ・バンドgolf、映像グループSLEEPERS FILMにて活動する関根卓史による音楽デュオ。2014年に結成され、2015年7月、ファースト・ミニ・アルバム『Hocori』を発表。アパレル・ブランド〈ユキヒーロープロレス〉とのコラボ盤『Tag』などにつづき、2016年3月、モデルの田中シェンを迎えた企画盤『Duet』をリリースした。

以前お話をうかがってから、少し時間が経ちましたね。Hocori自体はとてもマイペースにご活動されているユニットだと思うんですけれども、この間、おふたりはそれぞれどんなことをされていたんですか? 桃野さんはバンド(モノブライト)のほうが動き出したりしましたよね。

桃野陽介(以下桃野):そうですね。バンドのほうの曲をつくったり、レコーディングのタイミングも近かったので、Hocoriと並行してかなり引きこもり気味に集中していました。引きこもるのは珍しいんですけどね。でも、ライヴもなかったですし。

ああ、年内はなかったですもんね。

桃野:ただ、今回は関根さんがトラックをまるまるやっているので、僕はメロディとか詞だけというか──バンドではけっこう頭を使ってデモをつくっていたけど、こっちのほう(Hocori)では関根さんのトラックに感じたものを乗せていく、というやり方になりましたね。

関根卓史(以下関根):より合作っぽくなっているかもしれないですね。『Hocori』は半分くらい桃野くんのデモから起こした曲があったけど、今回は一からつくっていったんですよ。僕から投げて桃野くんから返してもらう……そういう曲しかないんで。

それは大きくちがいますね。今回の盤を考える上で根本的なことかなと思います。関根さんはSLEEPERS FILMのほうでお仕事として映像をつくったりという時間が長かったんですか?

関根:そうですね。あとはミックスとか、そういう仕事もわりとやっていました。自分のgolfのほうの音源も作っていましたが……、ついに出せなかったですね(笑)。

桃野:ついに(笑)。

ははは。きっと、このHocoriっていうプロジェクトは、その意味ではやりやすいんでしょうね。リラックスしてつくれるというか。

関根:停滞しないっていうか。いい感じに責任が分担されるので(笑)、重くないんですよ。

桃野:そう、重くない。

関根:すごくいいですね、それが。健全って感じ。

あはは。縛られずに、やりたいことだけやれると。

関根:そうですね、やったことのないことをやれたりとか。かなり貴重なことだと思います。

そうやって自分たちのペースを保てるのは、このユニットの肝かもしれないですね。ほんとに、のびのびつくられている感じがします。

今回はもうちょっと「聴かせたくて」つくった感じがあるかなと思います。目の前にいるひとたちに。(関根卓史)

さて、リリースなどを読むかぎりだと、今回の作品はかなりはっきりコンセプトが掲げられていますね。「聴いて見てオシャレになれる新しい1枚の続編」。

桃野:ははは。

とすれば、この一枚の中におふたりの「オシャレ」の観念とか基準が反映されているというふうに読めますが、どうですか? 

桃野:まずは、好きなことをやってますよね。それから、デュエットということを意識しているので、コラボレーションの要素は強いです。あと、以前は曲をつくってから──つまり盤を出してからライヴをやるという順番でしたけど、今回はライヴをすることで「こんな曲も欲しいな」という必要が生まれてきたことも大きいかもしれません。僕だけで歌ってるのもなあ……って。いっしょに歌おうよというノリが出てきましたね。

ライヴのプロセスは今作にとって大きい、と。

関根:それは大きいですね。むしろ、その雰囲気がいちばん先にあるかもしれません。

なるほど、そう言われてみれば『Hocori』はもっとベッドルーム感が強かったかもしれないですね。

関根:そう、それに比べれば、今回はもうちょっと「聴かせたくて」つくった感じがあるかなと思います。目の前にいるひとたちに。

前に向ける感じ、一歩出る感じはよくわかります。まず関根さんにおうかがいしたいんですが、今回も総じてファンキーなシンセ・ポップで、そのあたりは前作の延長上にあるものかと思います。一方で、たとえば音色的にトレンドとして意識したものなんかはありますか?

関根:ああ……トレンドとはけっこう無縁かもしれないです。でも僕の中のトレンドはあって、今回はLinn Drumの音をたくさん使いたかったのと、707(Roland TR-707)っていうリズムマシンも使いたかった。あとはエレキ・ギターを使いたかったですね。

ねえ! そこは印象深かったですよ。1曲目もそうですけど、その次とかも(“Game ft.田中シェン”)。

関根:そうそう、ロングトーンのエレキ・ギターが使いたかったんですよ。そういうふうに、やりたいもののキーワードはあって。自分でちょうどブギーっぽいものとかシンセ・ファンクとかをよく聴いていたので、その影響もあるかもしれないですね。あとは前回いただいたハウスの本(『HOUSE definitive 1974 - 2014』)をずっと読んでましたよ(笑)。

おおー、ありがとうございます。ブギーはやっぱり、ここしばらくは流れが来てたみたいですけどね。その意味では、トレンドは意識せずとも、時代とちゃんとリンクしている部分はあるんじゃないですか。

関根:ああ、自然とそういうところはあるのかもしれないですね。……そうできているのかわからないなあと思いながらつくっていたんですが。

でも、“Free Fall”はファッション・ブランド〈ユキヒーロープロレス〉さんのショーケースで使われるということですよね。それは流行とか世間とも無関係でいられない部分というか。この曲は、ショーケースのお話ありきでつくられた曲ですか?

“Free Fall”

関根:発端としてはそうですね。むしろ曲のイメージとかは向こうからいただきました。ミュージシャンの方ではないので、具体的にこうつくってほしいというような要望があったわけではなくて、印象だけですけども。「バーンといく!」みたいな。

桃野:感覚的なものを伝えてくださったわけです(笑)。

ははは。でもファッション・ショー的な場所でかかるわけですよね。ランウェイで鳴るっていうようなことを意識しました?

関根:プロレスとかだとオープニングが重要じゃないですか。入口の曲というか。それに相当するものをつくってほしいということだったので、僕らなりに考えまして。……本当にこれで合っているのかというのはわからないですが。

桃野:そもそも〈ユキヒーロープロレス〉の手嶋(幸弘)さんというひとが、ファッションの方ではあるんですが、プロレスとか特撮とか、ヒーロー的要素を取り込んでいらっしゃるんですよ。だから曲のイメージなんかも「闘いの前の男の気持ちを……」みたいにおっしゃって。でも、「闘いの前」といっても……僕は闘ったことがないというか、闘わずに生きてきたわけでして。

関根:30数年間ね(笑)。

あはは! 深夜の愛を歌ったりされているわけですからね。

桃野:そう。でもとにかく熱いものをお持ちの方なんですよね。レスラーのパッションがあるというか。だからファッションと僕らが交わるといっても、このかたがすでに変化球といいますか。ファッション業界において。

ああ、王道ではないと。

桃野:そう、言っていることもそうだと思うんですよね。僕は前の作品のときから、Hocoriでは夜の歌を歌いたいと思っていたところがあるので、その気持ちとうまく合わせられるようなものにしたいなと──言葉はプロレスっぽいものを意識しながらも、夜の男女の雰囲気やメッセージになっていればいいかなって考えていました。

なるほど。歌詞の冒頭のカウントダウンみたいな部分(「3.2.1 Are you ready?」)も、闘いの幕開けを告げるようなイメージだったり?

桃野:そうですね。格闘的な言葉を散りばめてやりたいなというところですよね。

関根:盛り上がっていく雰囲気を解釈するとこうなったという。

「そうでもないひと」代表として、こんなに楽しいことができるよというものを示せたらいいのかなと思います。何か……ポジティヴなものを。(桃野陽介)

なるほど。では「前に行く」雰囲気が感じられるのは、曲そのもののコンセプトでもあるわけですね。……しかし闘ってこなかったひとが考える闘いの曲というのはおもしろいです。

桃野:普通の家庭でしたしね。パンクの人でもないし……。

関根:怒ってない。

桃野:そう、怒れてない。だけど、どっちかというと僕のほうが怒っていると思います、関根さんと比較したら(笑)。

ははは。怒りが根本にある音楽もありますけれども、おふたりのモチヴェーションからは遠そうですね。

桃野:それに、何かに秀でる人生を歩んできたわけでもないので。「そうでもないひと」代表として、こんなに楽しいことができるよというものを示せたらいいのかなと思います。何か……ポジティヴなものを。

怒りを楽しいものに読み替えるというか。その感じはよくわかります。

桃野:いままでより明るい要素を考えようという気持ちは、わりとはっきりあったと思います。

関根:そうだね、すぐマイナーになっちゃうので。

たしかに(笑)。

関根:僕の中では勝手にハードロックっていうのもありました。すごく浅いハードロックだけど。

ギューンっていうのはね、ほんと今回チャーム・ポイントっていうか。すごくいいですよね。関根さんのすごく巧妙な……老獪といってもいいようなプロダクションづくりによって、なんともオシャレに仕上げられていると思います。

関根:ヤなかんじのギターをね……入れてるんですよ(笑)。

だからすごく楽しくつくられていつつ、攻めた曲にもなっていると思うんですが、一方では「お仕事」の作品でもあったわけじゃないですか。

関根:題材をもらってつくったという意味では、まあ、そうではありますね。

そういうのは、Hocoriとしては初めてになりますか?

関根:そうですね。

それは、クリエイティヴの上ではなにか作用があったと思います?

桃野:僕は、何かテーマをいただいてつくるというのが好きなので。マイペースにつくっているのとはちがう刺激があった気がしますね。「ない発想」をいただく、というか。

関根:僕らのプロジェクト自体がそういう発想の下に成り立っているから──

桃野:外部からの刺激でつくる、みたいなね。

関根:そう、もともとこのふたりの間での成り立ち方でもあるから、けっこう自然に受け入れられましたね。何の違和感もなく、Hocoriっぽい音楽として消化できているかなと思います。

ええ、ええ。お仕事というと「割り切る」ものというイメージがありますけど、ぜんぜんそんなふうな感じがないですね。

関根:むしろ楽しんでいるという感じですかね。とくに今回はそういうひととお仕事できている。あくまで僕らのスタンスを理解してくれた上でいっしょにやろうよと言ってくれているので。だから、「仕事」であるために何かができなかったというようなことはないですね。

桃野:そうですね。「男」とか「闘い」とかも、べつに押しつけられるわけではなかったですから。「Hocoriの中のそれをお願いします」というような。

絵を描いていたりとか、発想を楽しむひとなんだなあと思うところがあって、ものづくりを楽しむひとなのかなあと。(桃野)

なるほど。2曲目の“Game ft. 田中シェン”ですけれども。ピアノからはじまって、ファンキーなベースが入ってきて、シンセやらギターやらが入って……って音数が増えていきつつもミニマルな感じが崩れないですよね。抜き差しが絶妙です。これは田中シェンさんが入るということで、詞とかに影響はありました?

“Game ft.田中シェン”

桃野:もともとデュエットというか、コラボ的なものをやりたい気持ちはあって。それは最初のミニ・アルバムの頃からアイディアとしてはありましたね。田中シェンちゃんは、“Lonely Hearts Club”のMVに出てもらっていたので、そこからのきっかけです。インスタグラムとかを見ていても、絵を描いていたりとか、発想を楽しむひとなんだなあと思うところがあって、ものづくりを楽しむひとなのかなあと。歌は聴いたことがなかったんですけど……というか一回も歌ってないかもしれないですけど、そういう心意気のひとはいい声だろうと予想して。きっとお願いしても大丈夫だろう、なんとかなるだろうと思ってお願いしたら、「やってみたいです」ということになりました。

そうなんですね。お願いする前から曲はできていたんですか?

桃野:デモみたいのはありましたよね?

関根:そうですね、でも同時進行だったかな。「これを歌ってください」という感じではなかった(笑)。ちゃんと用意ができている段階ではないのに「やってくれよ」と言っている感じで、ちょっと無茶なお願いだったかもしれません。

でも、まさにそれこそインディ的なつながりというか。準備できたものの上に座ってもらうっていうのじゃなくて、ある意味理想的ですね。

関根:そうですね。いつになったらその曲が出てくるのかなって思われていたとは思いますが。やるって言ったけど、何をやるのかなーって(笑)。

桃野:何かやりたいなあというくらいでずーっと止まっていたので(笑)。

じゃ、田中さんがどんな声だったりヴォーカリゼーションだったりっていうことは何も知らずに進めていった?

桃野:まるで知らなかったですよね?

関根:そんなことありえるのかという。ほぼぶっつけ本番なかたちでしたね。

すごい(笑)。でも結果とてもハマりましたね。

関根:めちゃくちゃよかったですね。

桃野:やっぱりよかったじゃん! と。「ジャケ買い」に近いものがありましたけどね(笑)。やっぱいいジャケっていいアルバムなんだなという喜びに近いものが。

ははは。でも、それを曲でもって実証したわけですから、結果オーライというか。もともと歌い上げるようにはつくられていませんしね。どちらかというとコーラスっぽい感じで。

関根:そこはそうかもしれませんね。

では、彼女が歌ってくれるものとしてではなくて、いちおうご自身の曲のような感じで言葉をつくられているわけですね。

桃野:そうですね……二人称的なものを出した歌をHocoriでやりたいなと思っていたので、どっちみちハマるような気はしてましたかね。さすがに別のひとでもいいとは言いませんけれども、歌として「二人の関係」を歌うものであれば大丈夫かなあと。

二人称的というのは、二人の関係性に焦点があたるものっていう意味ですかね。なるほど。

桃野:そうなればいいなあと。“God Vibration”もそういう曲のつもりなんです。でも今回はとくに夜の営みっぽい曲なので……それはできたらかわいいひとがいいなあと。

ははは!

桃野:欲望が注ぎ込まれていますね(笑)。

かつけばけばしくないというか、少し中性的な雰囲気もあって、素敵な方ですよね。サウンドの点ではどうですか。とくにそういうことには左右されることなく?

関根:そうですね、これ自体はかなりミニマルにつくったもので……ベースラインだけで曲の展開を構成していく感じなので、どう料理してもいいトラックだなあと自分では思っていて。そこに桃野くんがおもしろいリリックとメロディを持ってきてくれたので、奇妙な感じで。これは成功だなあと感じました。

どんどん空気が入れ替わってもいいと思っているし、濃くなってもいいと思ってるし。さらに違和感を乗せられるひとをくっつけられれば楽しい、みたいな。(関根)

桃野さんも本当に桃野節というか、独特のフロウをお持ちですからね。ああ、これこれ、きたぁ! っていう。はっきり記名性を持った歌唱ですよね。しかも関根さんのトラックに対してこってりめというか……

関根:そうですね(笑)。こってりしたものが乗ってくるのが本当に楽しくて。

桃野:Hocoriはそれが売りですね(笑)。どんなに濃くしてもけっこうちゃんとマイルドに混ざるという。僕はけっこう安易なので、この曲なんかはトラックをもらったときに「ピアノではじまる曲かあ」と、すぐにホール&オーツを思い浮かべたので、じゃそういう感じにしようと思いまして。

関根:PVが送られてきましたね。“プライヴェート・アイズ”のPVが。

ははは!

関根:ぜんぜん思っているものがちがったんですけど、やっぱいいなと思いましたね。おもしろいです。

Hocoriはマインドもインディだし、音楽もわざわざポピュラリティにおもねるようなものじゃないのに、プロダクションが本当に整ってるんですよね。そこはあんまりインディ感がないというか。目立たないけどキメが細かい。今回は他のゲスト迎えられて、きっと手ごたえがおありだと思います。

関根:二人とも閉じたものにする気はなくて、どんどん空気が入れ替わってもいいと思っているし、濃くなってもいいと思ってるし。さらに違和感を乗せられるひとをくっつけられれば楽しい、みたいな。

この曲は現段階での、そのひとつの極点かもしれないですね。

関根:ああ、そうかもしれないですね。僕ら的にも。いちばんわからなかったかもしれない。最後まで。いったいどうなるのかが(笑)。

桃野:(田中シェンさんの)歌知らないでやってますからね。

関根:きっと良いに違いないということだけで、全員をつれていった。

ちゃんと駅に着きましたね。

関根:ほっとしたって感じです。

前回のインタヴューでも言っておられたとおり、桃野さんの独特の韻律と語呂合わせというか、意味はわからないんだけどこれでしかない、なぜかストンとはまる、というものがあるじゃないですか。フレージングふくめ。

桃野:ははは。いや、その、この曲の詞の場合は、行為をどう音楽的に伝えるかという問題もあったので……。

結果バンド名でそれをほのめかすという(笑)。
※(「a-ha ABBA リフレインしてAH-BA」“Game”歌詞より)

桃野:ABBAとかa-haという形で(笑)。

こういう奇蹟みたいなものがあるわけですよね、関根さん。

関根:これが来るとほんとに僕は楽しくて。なんだよこれ、と思って(笑)。

桃野:意味はないわけですから、「a-ha」とか言ってても。

あー、すごいエイティーズとか好きなんだなー、くらいにも聴こえますしね。

男二人組っていうと、どうしてもエレキ・ギターとヴォーカルみたいなスタンスですもんね。エイティーズって。(桃野)

“狂熱の二人”なんですけども。これはもう、最強感がやばいです。無敵感というか。男声コーラス最強ですね。

桃野:これはライヴで先にやってたんですよ。

関根:それがすごくよくって。ウケもよかったし、僕らも楽しいから。……僕と桃野くんの声って、ぜんぜん合わないんですよね。合わないというか、ちがうというか。だから録るとすごくおもしろいんですよ。

ヴォーカルの比重がわりと半々ですよね。

関根:曲名で「二人」って言ってるだけあって、かなり「デュエット」な曲になりましたね。

桃野:ライヴでよかったっていうこともありますけど、盛り上がるというか、明るいのもひとつやっとこうか、ということで。

関根:明るくなってるかは謎だけど(笑)。まあ、二人で歌えるいい感じのが欲しいということになって。

Hocoriでこんなにがっつり関根さんが歌われるのは──

関根:初めてですね。Cメロ歌っちゃってますよ。

ははは。私はこの曲がいちばん好きなんですよ。男性が二人で暑苦しく歌うっていうのがいいですよね。

関根:最近あんまりないですよね。そこは思いましたね。

ホール&オーツはちがうとはいえ、少しそういう気分もあったんですかね。

桃野:男二人組っていうと、どうしてもエレキ・ギターとヴォーカルみたいなスタンスですもんね。エイティーズって。

関根:(ギターに対して)オマエ、出てきちゃったな、みたいなパターンすごくあるもんね。ずっと後ろにいたのに(笑)。でもまあ、僕はどうせ出るならがっつり出ようと思って。そこはすごく意識しましたね。
 でも、僕と桃野くんの声が混ざると、びっくりするくらい僕の声が前に来ないんですよね。自分のをめちゃくちゃ前にしないとそろわない。ほんと、恐ろしいくらい出てこないんですよ。

いや、恐ろしい声をしていらっしゃいますから。それは単に声量の問題とかではなくて?

関根:たぶん占めてる音域が全然別だと思うんですよ。

桃野:僕は中域をずーん! とひた走るような声なので。

関根:僕のほうはもうちょっと上と、下に滲んでいるので……いくらやっても絡まないんですよ。

桃野:ドンシャリが(笑)。たぶんいちばん耳にくる中域を僕ががっつり占めちゃっているから。

関根:でも逆に言えば、うまくヴォーカルを配置できるんですよ。なので、音像としては一体になっていると思います。ミックスのイメージとしては真ん中が桃野くんで、まわりが全部僕、というような。そこはおもしろかったですね。

桃野:サビとかすっごい混ざりましたよね。

だからといって、強い個がひとつあって、それをもうひとつが包んでいるというよりは、ちゃんと競合しているというか。「狂熱の二人」っていう感じがしますよ。ということは、歌詞とかは自分の部分だけ分担して?

関根:そうですね、いちおう考えて。

桃野:でも掛け合いをしようというときは、関根さんが「こんなメロどう?」って投げてくれたものに歌詞をつけたりはしました。

音なりメロディなりを優先してつくられているということですよね。ものすごく複雑な詞というわけじゃないですから、もともとそこまで作りこむということはないのかなとは思いますが。

関根:そうですね。

それこそクラシックなヒップホップみたいな、みんなでワイワイやってる感じ、それでコーラスまでやっちゃうようなイメージをなるべく持てればいいなって。(関根)

この曲は本当に好きなんですよ。つくる上で、仮想のライヴァルというか、これに対抗しようというようなものがあったりしました?

関根:それは、まったくないんですよ。すごくオリジナルなものだと思います、その意味では(笑)。なにか、「できちゃった」という感覚がありますね。

桃野:『狂熱のライヴ』って意味ではレッド・ツェッペリンですが(笑)。

関根:名前だけね! 

桃野:あの雰囲気はすごくイメージしたんですけどね。「ギターがこっちは歪んできたぞ、どれどれこっちも……」みたいな。

関根:まあ、ノリはね(笑)。

ははは!

桃野:そう、ノリは(笑)。でも、いびつさ、ということだと、レッド・ツェッペリンはすごくいびつですよね。

関根:うまいのかうまくないのかよくわからない。

桃野:たぶん、どっちかの比較で言えばうまくないのかもしれない。でも、4人混ざったときのノリみたいなものがかっこいい。その意味ではこの曲もそういう揺れがあるような気がします。

関根:僕はHocori全般について、ポップス──も、そうなんですけど、わりとヒップホップに近いイメージを持ってつくっているところがあるんですよね。たとえば“狂熱の二人”とかも、それこそクラシックなヒップホップみたいな、みんなでワイワイやってる感じ、それでコーラスまでやっちゃうようなイメージをなるべく持てればいいなって。この曲もほとんどワン・ループでつくっているんですけど、それこそアフリカ・バンバータだったりとか、みんなでガヤガヤとやってるノリが出てたらいいなって思います。まあ、比較になっているかどうかはわからないですけど(笑)。

トラック自体が、そういう空気なりノリなりを乗せるための枠というか乗り物になっているというか。それはたしかに感じられますよ。

関根:そうですね、そういうものがあるようになればいいなというふうには思っています。気持ちとしてはカニエ・ウェストに近いというか(笑)。

ええ、ええ。曲がとても開かれたものだっていうのはわかります。趣味性はあるけどけっして閉塞しないし。

関根:やりたいことやりつつ、みんなと混ざって、それで新しいものにしようと考えているというか。ヒップホップのひとたちのそういうマインドが好きなんです。「いいよね」とか言いながら、ほんとにいいかどうかわからないものをみんなでつくっていっちゃう、みたいな。すごくシンプルなことをやっているんだけど楽しい、という感じ。

「作曲」ではなくて、なにか空気を混ぜていくというような考え方ですかね。

関根:そうですね。だから枠組はシンプルなほうがいいし、それでいて特徴がちゃんと出たほうがいいし、きれいにまとまらないほうがいいし。

でもほんとに、そのシンプルなベースラインがとても艶っぽかったり、とにかく洗練されているんですよね、関根さんのつくられる音っていうのは。しかし、いま「みんなと混ざる」っておっしゃいましたけど、実際は二人ですよね(笑)。二人だけど「みんな」って雰囲気は、言われればたしかに感じますね。

関根:二人だし、閉じた空間という気がするけど、でも何かいろんなものを巻き込んでつくっているイメージではあるというか。

桃野:想像はしていますね。いろんなひとを巻き込むような感覚は。しかし“狂熱の二人”っていう曲で、歌い出しが「狂熱の二人」っていうのは……

(一同笑)

桃野:もう、すごいベタな……。でもサビ始まりなんだ、みたいな(笑)。

関根:洒落たタイトルはなんだったんだ、って(笑)。

ツェッペリンを下敷きに感じさせつつ、でもすごいテンションのタイトルで素敵ですよ。普段使わない言葉じゃないですか。

関根:言い過ぎ感がありますよね。

そう、過剰さがいいですよね。邦題つけたひとはすごいと思うんですけど、「熱狂」はあっても狂熱ってふつう言いませんから。

桃野:マスタリングのとき、間違えられてましたからね、この曲。「熱狂の二人」になってました(笑)。普段使わない言葉だから、パッと見て「熱狂」ってインプットされちゃったんでしょうね。

その違和感は大事なものだと思いますよ。ほんとのところはどこから付いたタイトルなんですか?

桃野:先に詞ができていたんで……。でも、もともとは英語のタイトルで縛りをつけていたんですけど、1曲くらいは日本語もいいんじゃないかと。それに「狂熱の二人」でしかないという感じもあったので(笑)。ライヴでもずっと呼び名がない状態たったんですよ、この曲は。

あと、「の」の用法も特殊。『進撃の巨人』の「の」みたいな。どういう「の」なんだっていうところにもインパクトというか違和感があります。

桃野:それは、『狂熱のライヴ』だったので……。

いや、「ライヴ」ならわかるんですけど、「二人」っておかしなことになりませんか(笑)。そういう違和感が、詩ってものを生む。

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ちゃんと前に進んだ感じは僕らの中にもありました。まったく関係のない別のことをやったわけではなくて、前の作品を踏まえた上で、音楽的に前に進めたのかなと。(関根)

ではぜひ4曲目のお話も。これは「4曲目」というよりも“Intro”(『Hocori』収録)のリ・エディット的という……?

関根:そうですね。「リ・エディット」ということにしたんですけど、僕の〈Conbini〉ってレーベルにはもうひとり相方がいて、〈ENNDISC〉っていうレーベルをやってるひと(DEGUCHI YASUHIRO)なんですが、そのひとといっしょに前の作品の1曲をぐちゃぐちゃにして、再構築して。そしたらこうなったという感じです。

リ・エディットというかたちだからこそできたことかもしれないんですが、最初、わりと流行とは無縁のところでつくった盤だとおっしゃっていたじゃないですか。でも、この曲はある意味でいちばん流行を感じるというか。

関根:いまっぽい?

そうそう、いまっぽいと感じましたね。それこそオルタナR&Bみたいなものから〈PCミュージック〉みたいな音楽性までの間をとるような。

関根:たしかにそれは多少あるかもしれないですね。

それはやはり「リ・エディット」みたいなかたちだからこそできた実験、みたいなことでしょうか?

関根:そうですね、Hocoriらしさみたいなものを僕も出口さんもつかめているからこそ考えられることというか。もともと歌が入っていて、それもすごくよかったんですよ。もともとのアレンジに歌詞をつけていたものがあったんです。でもそのまま出してもおもしろくないということで、再構築しようと。それはわりと気軽な感じでやったんですけどね。

あ、気軽な感じで。唐突に終わる感じもありますね。やりかけ感というか。

関根:いい曲っぽいんだけど……みたいな(笑)。

そうそう、いい曲っぽいんだけどここまでなんだ? という感じ。5曲目を1曲としてカウントするかどうかはいったん措くとして(“Game”のインスト。コンセプチュアルな1曲と考えることもできる)、4、5曲というコンパクトなものなのに、けっこう多彩な音楽性が盛り込まれているんですよね。前作からは基本的な方向性は変わらないながらも、すごく異なった作品だと思います。

関根:そうですね。煮詰められた感じもしますしね。ちゃんと前に進んだ感じは僕らの中にもありました。まったく関係のない別のことをやったわけではなくて、前の作品を踏まえた上で、音楽的に前に進めたのかなと。

桃野:より混ざって、ちゃんと音をつくれる体制になったんじゃないかなという気がしますね。

世界中でいちばん僕が僕の声に飽きているんです! そこをどう楽しくやるか。(桃野)

関根さんに対して、前回から差別化してとくにやってほしかったこととかはありました?

桃野:一方的な要望はとくになかったですけど、いっしょに歌いたいというのはありましたよ。やっぱりgolfのフロントマンというのもあるし。Hocoriで関根さんの声を聴きたいなということは大きかったと思います。……僕の歌にいちばん飽きているのは僕なので。

関根:あはは!

桃野:たぶんそうなんですよ。世界中でいちばん僕が僕の声に飽きているんです! そこをどう楽しくやるか。音楽は自分が楽しい、大好きなものなんだけど、その音楽をやる上で自分の声をどう楽しむかという問題がありますからね。そのときに、コーラスだったりとか、ちがう声というものが僕にとってはすごく大事で。

声って、プロダクションというのとはまた別のレベルでも意味を持ちますもんね。

関根:そうですね、かなりのレベルで音楽の識別子になるというか。絶対的におもしろいものですし。絶対にそこがオリジナルになりますから。

桃野:最終的に、決定的にちがってくるものは声ですからね。

たしかにそうですね。ひとの声を聞くときは音楽的な耳で聞いてしまうものですか?

桃野:僕、けっこう誰の声か当てるの得意なんですよ。テレビっ子なんですけども。いつも当てっこしてるんです。「あ、いまの声は有村架純ちゃんだ」とか。……まあ、主にドラマです。

(一同笑)

桃野:CMの曲なんて、たまにわからないときは調べたりして。

テレビっ子のドラマ好きというのは以前もおっしゃっていましたけれど、言葉とか世界観にも影響ありますもんね(笑)。関根さんのことはヴォーカルとしてはどう見えます?

桃野:僕は好きですね。最初に聴いたイメージは、やっぱりバンド畑からすると、マシュー・スウィートの──

ああー! たしかに。

桃野:そう、ちょっとハスキーというか、なんというか。あの声の感じがあって、じつはギター・ポップとかはめっちゃハマるんだろうなとか思いながら聴いてはいて。……だからマシュー・スウィートだと思ってしゃべります。

ははは!

桃野:ははは! そういうイメージを、初めてしゃべったときにも持ちました。歌声のほうがいいですけども。

Hocoriのまわりには、どこかギター・ポップ的なものも感じられるかもしれないですね。直接的に参照する部分はないと思うんですけど、成分の中に含まれているというか。お二人ともそこは共通していますか?

桃野:もともとの立ち位置みたいなものにはあるかなと思います。

関根:僕自身はそんなに熱心に聴いていたわけではないんですけど、やっぱり言われることが多くて。

へえ。いまピンときました。

自分らからただ自然に流れ出しているものが、懐かしいものになっているというか……原体験が出てきているんでしょうね。(桃野)

桃野:僕はモノブライトとかで「いい曲」風にしたいなと思うときは、基本マシュー・スウィートの『ガール・フレンド』(1991年)を聴きますね。いい曲いっぱい入ってるんで。

ははは! でも、なるほどですね。「いい曲」の概念そのものになっていると(笑)。

桃野:あれはほんと、そうですよね。まずあのアルバムを聴いて、それで方向性を決めるんですよ。でも、そうやってつくっていくとだいたいコード感が近くなってしまって。

リアルタイム……じゃないですよね?

桃野:いや、僕その頃、小3ですもん。さすがにあんな毛皮のコートを羽織って「寒いね」みたいなことは……

(一同笑)

ちょっとませてますね。

桃野:まだしも『キミがスキ・ライフ』(2003年)とかなら、奈良美智さんのジャケットとか可愛いですけど。

それもまたちょっとませてるとは思いますが(笑)。でも流行云々は意識しないながらも、お二人ともちょっと古いものに気持ちが惹かれるんですかね。そういう、ある種「懐かしい」モードはこれからのHocoriにも基本的に引き継がれていくものです?

関根:どうなんだろう、わからないですね。たしかに言われてみればちょっと懐かしいものなんですけどね、全部。

桃野:自分らからただ自然に流れ出しているものが、懐かしいものになっているというか……原体験が出てきているんでしょうね。10代のときに刺激を受けたものが、リアルタイムではないにしろ、身体に染みついたものとして出てきている。

関根:でも、どうしたって懐かしくて哀しい感じになるんだよね、たぶん。

ああ、「どうしたって」そうなる。それはほんとにこのユニットの個性ですね。“God Vibration”のPVとか、あの駐車場のターンテーブルで外国人が踊っている感じ……あの切ない、夜が回って音楽が回ってっていう感じ。あそこには回るということが醸し出すノスタルジーみたいなものがありますよね。その上でHocoriの音楽はホログラムみたいに回るんですよ。

桃野:アナログ世代ではけっしてないんですけどね。でも、回るっていうのは何かあるかもしれないですね、音楽との間に共通するものが。

メリーゴーランドとか、懐かしいものは回る(笑)。

関根:繰り返す、とかね。それはあるかもしれないです。

どうしたって悲しくなるというのは、どうしたって懐かしくなるってことでもあるというか。

関根:意識しなくてもついて回るのかなあ。限りなく未来感を描いているつもりでも、僕らがやるとどこか懐かしくなってしまう。

桃野:未来っていうのはすでに懐かしいですよね。……これ、なんかカッコいい言葉じゃない?

ははは。でも、わかりますよ。『未来世紀ブラジル』とかっていうとほんとに懐かしくなってしまいますけども。

桃野:どのみち全部懐かしいものってことにもなっちゃうかもしれないですよ。自分たちが新しいものだと思ってつくっていても。ポストロックとかが出てきたときも、無理してんなって感じたりしましたもんね。これ、ジミヘンとかがセッションでやるようなことじゃない? 無理して新しくない? って。ジミヘンのライヴの余韻の部分を曲として出しているのがトータスみたいな感じがしてて。

ああ、なるほど。当時は「壁紙の音楽」って呼ばれていたくらいなので、当たっているんじゃないでしょうか。マイク前でエゴを剥き出しにして歌うのに対して、壁紙みたいな音楽がポストだという。

和感を大事にしているというのは、新しさを求めているということでもあって。毎回、新しいプロダクションをつくっているイメージではありますね。(関根)

では、本当に「狂熱のライヴ」をやることはないんですか?

関根:やりたいよね。

桃野:びっくりするほどライヴの予定が決まってないんですけどね(笑)。

いや、コンセプトの上だけでも(笑)。今回はぜったい哀しくしないぞ! とか。

関根:それは、ぜんぜんあり得ますね。

それでもどうしても哀しくなってしまうなら、それも素晴らしいですね。なんでしょう、お二人から考えつかないような音って。

桃野:なんだろう……。

関根:スタイルじゃないんだろうと思うんですけどね。ジャンルとかではない部分で新しさがあると、思いもよらないことになるかもしれない。

桃野:かといって、トム・ヨークみたいに工事現場の音を録って……っていうような方向もはたして新しさなのかどうか。本当に新しいものって、何なんでしょうか……。

そういう話になってきますよね。

桃野:新しいものなんて生まれうるのか、みたいな。

関根:僕の中では、Hocoriの作業というのは、「○○みたいに」っていうふうに思ってつくらないことが多いんです。本当に。違和感を大事にしているというのは、新しさを求めているということでもあって。毎回、新しいプロダクションをつくっているイメージではありますね。アウトプットとして新しい感じが出ていないのは、まあ、キラキラな音にしていないからですかね……。

ああ、なるほど。キラキラふうに想像させるところはあると思うんですけど、実際キラキラじゃないですよね。

関根:だから、新しい音楽という意味ではすごく意識してつくっているんですよね。自分たちでコントロールできないもの同士がぶつかったところに何かないかなあとずっと思っている、というか。

桃野:本当に新しいものを探すのはすごく大変なことなので、やっぱりいま新鮮な音を探すということになるかもしれないですね。それが違和感につながるものなんですかねえ。

Hocoriは、お互いが違和感を与えあっているわけですもんね。

桃野:そうですね。僕は、ソロで、ひとりで音楽活動をやるというのはぜんぜん考えられないタイプで。たとえば「関根さんがやろうとしてたのはこういうことか」って、発見することで何か新しい要素に出会いたいんです。そうじゃないと自分の楽曲が退屈に感じちゃうんですよ。

ただでさえご自身の声に飽きているのに(笑)。それで、違和感に出会いにくいソロ活動はあんまり考えられないと。

桃野:僕はそうなんですよね。予想しかつかない。予想通りでしかない(笑)。ソロってそうじゃないですか!?

(一同笑)

桃野:だから、予想通りを新しいと思ってやれる方というのがうらやましいです。それでユニットを組んだりバンドを組んだりということになりますね。

それはおもしろいですね。ソロだからこそほんとにやりたかったことがやれる、というわけではない。

桃野:そうですね。

Hocoriは新しい記号を準備するとかそういう派手な新しさを示すユニットではないと思うんですけど、「そういえばあまり聴いたことがない」という意味では攻めていますよね。ただ、趣味が良すぎて。すごく地味な差を突いてくるわけじゃないですか、関根さんなんて。けっしてわかりやすい新しさじゃないんですよね……。

関根:わかりやすくはないかもしれないですよね(笑)。

雑食的にいろいろなものを取り入れるけど、いまのプロダクションでやるし、流行もうまく入れるけど、最終的には強烈な個性に落とし込んでいく──そういう感じが好きなんです。(関根)

では、音楽にこだわらずにいまかっこいいな、おもしろいな、と感じるものは何でしょう? ポップ・ミュージシャンでもあるわけなので、流行と切れてはいても、何がかっこいいかという感度はバリバリ働いているわけじゃないですか。

桃野:テレビばっかり観てますね……。いまパッと思いつくのは、ハリウッドザコシショウですかね。去年、自分の中で大ブレイクした芸人さんなんですよね。最近は天変地異というか、こんなものが理解されるんだろうか、っていうようなものがボンボンと注目されていて、お笑いってすごいんですよ。僕はグランジが好きだったんですけど、なにか、そういうひっくり返されるような驚きがあるんです。ニルヴァーナみたいな。

ちょうど話題になっていますね。賞を取られた?

桃野:でも、新しいというよりは、スタンスはずっと一貫していて、時代のほうがはまったという感じなんです。

関根:僕、その賞を獲ったネタを見たんですけど、たぶんあれでもめちゃくちゃポップスに落とし込んだんじゃないかな。でも、それってすごく大事だなって思った。本当にアンダーグラウンドなんだけど。僕も昔からすごく好きだったんですよ。

桃野:ものまねってものを破壊して、めちゃくちゃ似てないことをやっているだけなんですよ。あえて言葉で説明するなら。ただの破壊活動なのに、それを成立させるものが何なのか……。

関根:漫☆画太郎だよね。

桃野:音楽でいうと誰だろう。レジデンツとか? ……それは音楽なのか? ってところまで行っているのに、ちゃんと音楽として成立させるっていう、ちょうどそんな感じなんですよ。

へえー。やっぱり、シーンが成熟しているからこそ賞をもらえる、みたいなところもあるんでしょうか。

桃野:それはあるんでしょうねえ。

関根:いろんなタイプのひとが出てオッケーな状態にはなっているのかもしれないですよね。

そこは音楽も難しいですよね。産業としては行くとこまで行ってどん詰まっているのに、それを破れるようなものを見つけて評価できるのかというと……。

関根:あそこまでバンっと出られるかというと、難しいかもしれないですね。

桃野:ジャンルももういっぱいあってよくわからないし。だから、そのひとの発想に触れるということになってくるのかな。

「ひと」はたしかに違和感の源泉ですよね。関根さんはどうですか? 最近カッコいいと思うものは。

関根:僕は、ベタですけど、去年はあれを聴いていたんですよ。ダニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスペリメント。

おお!

関根:すごく好きで。さっき言っていたようなことと重なるんですけど、とにかくみんなで何かおもしろくていいものをつくろうというムードがすごくあるんですよ。それで、雑食的にいろいろなものを取り入れるけど、いまのプロダクションでやるし、流行もうまく入れるけど、最終的には強烈な個性に落とし込んでいく──そういう感じが好きなんです。去年は本当に、そればっかり聴いてましたね。

へえー。関根さんの映像にもそういうムードはあるかもしれないですね。

関根:どこかちゃんとジャンクで、でもどこかリッチな部分が残っているという感じ。それが好きなんですよ。音楽ではそれが衝撃的にヒット作でした。僕の中では。

「ホコリまみれ」になった音楽を楽しめたらいいなと思いますね。(桃野)
いまの出会いの中に、きっと次の出会いが入ってるんじゃないかっていう感じ。そこでハプニングは起こると思うんですよね。(関根)

固有名詞がきけてうれしいです。Hocoriはプロジェクトをふたりで完結させるつもりでもないというお話でしたが、ここから考えられる展開としてはどんなことがあるんでしょうか?

桃野:この企画盤をつくって、「ホコリなもの」──プライドという意味ですけど──って、意外とひとつじゃないなと思ったんです。音楽一筋ではなくて、大なり小なり、みんな何か持っているじゃないですか。マンガでもテレビでも。誰かの中に、そういう「ホコリなもの」を感じたときに、コラボなんかをやっていければなと。ユキヒーロープロレスさんだったら、自分のファッションという土俵に特撮とかプロレスを持ってきたりしているし、シェンちゃんだったらイラストとか。そうやって「ホコリまみれ」になった音楽を楽しめたらいいなと思いますね。

わざわざ「どうコラボレーションするか」って、形から考える必要はない。

関根:ひたすらハプニングを期待していますね。

期待というのは、「ハプニングを獲りにいく!」という能動的な意味ではないですよね(笑)。

関根:どこかにいつも転がっているものなんですよ。きっと(笑)。

そのスタンスはいいですね。いまっぽいとすら言えるかも。獲りにいかなくてもあるじゃないか、出会えるじゃないかと。

関根:出会えるんじゃないかと思うし、いまの出会いの中に、きっと次の出会いが入ってるんじゃないかっていう感じ。そこでハプニングは起こると思うんですよね。何もないところに突然生まれるわけではないかなって。

音楽のありかたとしてすごく健康──健康というとヘンなニュアンスが混じりますけど、やりたいときにやって、出せるときに出すっていうのが、それが音楽だっていうところがあると思います。祝福すべきありかたじゃないですかね。

関根:気持ちのいい音楽のやり方、つくり方ですよね。そうじゃなきゃいけないって……やっぱりちょっと思います。

桃野:こういうことって、なかなか、意外と成立しないですから。あと、曲数的にはやっと8曲9曲ってくらいになるので、ようやくツーマン・ライヴができます(笑)。

関根:ようやく。これまでは30分以上できないっていうのがあったので。

ははは。でも、今回ライヴの中から発想された曲があったように、ライヴができるとまたいろいろ動いていきそうですね。

桃野:まだ決まってないですけど、そうですね。

音楽的には、「夜の音楽」が「昼の音楽」になったりという展開はないですかね? 4曲めなんて資料には「この曲を通して伝えたいことは『深夜0時、僕の電車で。走らなきゃいけない愛(レール)がある』」って書いてありますから。

関根:ははは! だからなんだよ、っていう。この曲は歌詞をCDに載せていないので、代わりに何が重要なのかを言おう、って(笑)。

桃野:簡潔に書こう、って(笑)。

ははは。その「夜感」ですよ。そのテーマはやっぱり不動なんでしょうか。

桃野:いや、昼に愛が落ちていれば、拾いにいきますよ。でも、何か、落ちてる感じがしないんですよね。それでやっぱり夜ばっかりになってしまう。

昼に愛が落ちていれば、拾いにいきますよ。(桃野)

では、何か年齢が上がるなりいろんな変化を迎えることで、昼の音楽が出てくるかもしれないですね。

桃野:高齢者になれば昼の愛が見つかるかもしれないですね。

それはきっと早朝ですね(笑)。

関根:早朝の愛。カロリー低そうでいいね。

桃野:でもまだこの年齢だと、みんな日中働いて……っていうサイクルになるじゃないですか。だからやっぱりまだ夜ですかね。

以前も言いましたけど、若いひとがポップスで夜の愛を歌うっていうのは、いまはけっこう珍しくないですか。夜の愛っていうテーマを歌うのは難しいんだなって。

桃野:昼にがっつりした愛があると、それは夜までがっつりつかっちゃうことになると思うので、10分以上の尺がないと歌いきれなくなると思いますね。

関根:そうなの(笑)?

桃野:夜だったらもう、バッと表現できるんですけど、昼はきっと尺が必要です。

ユニットのイメージが曲のテーマといっしょになって入ってくるというのは、すごくおもしろいことだと思います。Hocoriは夜の愛。──そんなふうに単純に考えてはおられないでしょうけど、突発的な人たちではないということは重要だなと。

関根:そうですね。そういう、何か同じものを見ているところはあると思います。そこがガラッと変わることがあるかどうかはわからないですけど。

桃野:バンドでやれないことをやっているという面もあるので、ひとつのテーマ性を持った歌詞をどこまで書きつづけられるのかというチャレンジもありますね。

なるほど。いつか切り干し大根のように低カロリーな愛を歌われるときにも、きっと関根さんは絶妙のトラックを準備してくださると思うので、年を経るのも楽しみにしています。

Seiho最新作は〈リーヴィング〉から! - ele-king

 年明けには、これまで大阪を拠点に自身が主催してきたパーティー「apostrophy」を東京で成功させ、その強烈なヴィジュアルやコンセプトからも新しいフェイズを予感させるプロデューサー、Seiho。かねて国内にとどまる存在ではなかったが、この程、最新アルバムをマシューデイヴィッドの〈リーヴィング(Leaving)〉からリリースすることが発表された。ワールド・ワイド・デビューとして注目され記憶されるはずのそのタイトルは『Collapse』。ともにSeihoが提示する「コラプス」を見届けよう。先行シングル「Peach And Pomegranate」も公開されている。

魅惑的なリズムが互いに絡み合いながら弾け、
時にまごつきながら光輝くサイリウム液に溶けてゆく。
春の息吹を感じる。 - Pitchfork

テン年代を代表するアンセム「I Feel Rave」発表以降、電子音楽~ダンス・ミュージックの領域を超えて破竹の勢いで活動を続けるビートメイカー/プロデューサー、Seiho。
フライング・ロータス主宰<BRAINFEEDER>にも所属する盟友マシューデイヴィッドのレーベル<LEAVING RECORDS>より、3年ぶりとなるオリジナル・アルバム『Collapse』がワールドワイド・リリースに先駆けて5/18に国内先行リリースされることが決定した。

アルバムより先行シングル「Peach and Pomegranate」が絶賛公開中!!
https://soundcloud.com/leavingrecords/seiho-peach-and-pomegranate

アルバムのリリースに先駆けてSeihoは、3月にSXSWやLOW END THEORYを含むUSツアーを敢行。“Collapse=崩壊”と意味深なタイトルを冠した本作は、すでに国内外のライブで披露され、音源化が熱望されてきたトラックの数々を含む全10曲を収録。さらに国内盤CDにはライナーノーツが封入され、ボーナス・トラックとして未発表の新曲「Ballet No.6」が追加収録される。また、iTunesでアルバムを予約すると、公開中の「Peach and Pomegranate」がいちはやくダウンロードできる。

artist: Seiho
title: Collapse

レーベル: BEAT RECORDS / LEAVING RECORDS
品番: BRC-509 価格: 2,200円+税
フォーマット: 日本盤CD(ライナーノーツ封入/ボーナス・トラック追加収録)

2016.05.18(水)発売

TRACKLISTING:
1. COLLAPSE (Demoware)
2. Plastic
3. Edible Chrysanthemum
4. Deep House
5. Exhibition
6. The Dish
7. Rubber
8. Peach and Pomegranate
9. The Vase
10. DO NOT LEAVE WET
11. Ballet No.6 (Bonus track only for Japan)

■Seiho
アシッドジャズが鳴りまくっていた大阪の寿司屋の長男にして、2013年、中田ヤスタカらと並びMTV注目のプロデューサー7人に選出され、SonarSound Tokyoに国内アーティストとしては初の2年連続出演(2012/2013年)を果たす。他にもMount Kimbie、2 Many DJ’s、Capital Cities、Disclosure、Flying Lotusらの日本ツアー・オープニングまたは共演、そして同郷Avec AvecとのポップデュオSugar’s Campaignでも注目度↑↑↑のビートメイカー兼DJ兼プロデューサー。自身が主催するレーベル<Day Tripper Records>より1stアルバム『Mercury』(2012)、2ndアルバム『Abstraktsex』(2013)をリリース。2014年2月にはブルックリン拠点Obey City(LuckyMe)とのスプリットEP『Shochu Sounds』を〈Perfect Touch〉よりリリースしている。またLes Sins(Toro Y Moi)、YUKI、矢野顕子、Ryan Hemsworth、LoFiFNK、東京女子流、パスピエ、さらうんど、KLOOZ、三浦大知などをはじめとする他アーティストへのプロデュースやリミックス・ワークほか、CM音楽やTV番組のサウンド・プロデュースなども多く手掛けている。2016年3月にUSツアー(SXSWやLOW END THEORY含む)、5月に米レーベル<LEAVING RECORDS>より約3年ぶりとなる最新アルバムをリリースする。

U.S. Tour Dates:
3/15 SAN FRANSICO Qrion, Seiho, iglooghost @ DNA Lounge
3/18 SXSW @ The Container Bar
3/19 SXSW @ Empire Control Room and Garage
3/20 Atlanta @ The Sound Table
3/22 NYC Seiho w/ Maxo, the Hair Kid @ Black Bear Bar
3/23 LOW END THEORY, LA  w/Traxman and Jlin
3/24 SEATTLE SOPHIE w/ Seiho and DJ Warlokk @ The Crocodile


高岡謙太郎(ライター) - ele-king

HD画質向けミュージック・ビデオ10選

interview with Mark Stewart & Gareth Sager - ele-king

 マーク・スチュワートにとって音楽とは、ひとつには、政治的声明を表すものだろう。それが革命運動の扇動者のように見えるのは、彼のヴォーカリゼーションに怒りで煮えたぎったものがあるからだ。激しく、ふつふつと燃える炎のような正義感がUSブラック・ファンクとフリー・ジャズ、ジャマイカのダブ──彼らはファンカデリックをコピーして、『オン・ザ・コーナー』とサン・ラーとプリンス・ファーライに心酔した──、そしてUKのパンクとの融合のなかで醸成される。1979年、ザ・ポップ・グループという名前で彼らが世界に登場したときのインパクトは相当なものだった。


The Pop Group
For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?

ビクターエンタテインメント

Post-PunkFunkDub

Amazon

 『ハウ・マッチ・ロンガー』は、ザ・ポップ・グループの『Y』に続くセカンド・アルバムで、『Y』と同様に必聴盤だ。ここには──For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?(我々はいつまで大量殺戮を見過ごすのか?)、We Are All Prostitutes (我々は売春婦)などなど、より挑発的な強い言葉が並べられている。アートワークは新聞のコラージュで、冷戦時代の核戦争への不安が露わにされている。サウンドは、『Y』のファンクがよりアグレッシヴに研ぎ済まれている。
 この度、このアルバムがリマスタリングによって再発される。近年、ブリストルへの注目──ピンチからヤング・エコーまで──がまたもや高まっているということもあるだろう。マーク・スチュワートの精力的なソロ活動の成果もあるだろう。もちろん、再結成したザ・ポップ・グループのライヴの評判の良さもあるだろう。そして、この音楽がいまだエッジを失わない、リズミックな躍動に満ちたダンサブルな音楽だからでもあるだろう。
 マーク・スチュワートは最近の作品で、現代人を、魂の抜かれたゾンビだと表現している。電車に乗っていると、車両に乗っている人の半分以上が、スマホに目も耳も首も手も、魂(ソウル)も、そして生きる世界までも支配されているように見える。『ハウ・マッチ・ロンガー』は、インドネシアのバリ島の合唱、ケチャのループからはじまるが、それは当時もいまも、世界における倫理を伴わないテクノロジーの更新への警鐘として機能する。挿入されるベース&ドラム、ギターと声は、戦いの狼煙のようだ。が……、しかし、取材の部屋で喋っているマーク・スチュワートとギタリストのギャレス・セイガー(ザ・ポップ・グループ~リップ・リグ&パニック)は、大声でバカ笑いをする、いたってファンキーなオジサンたちだった。

イギリスのコービンやアメリカのサンダースやギリシアのチプラスは、とくに若者たちの関心を政治へ向けさせている。それこそ『ハウ・マッチ・ロンガー』を作っていたときにザ・ポップ・グループがやっていたことだよ。

『ハウ・マッチ・ロンガー(For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?)』をリリースしてから35年の年月を経てからのリマスター盤のリリースとなるわけですが、オリジナル盤とはどこがどう違うのでしょうか?

ギャレス・セイガー(Gareth Sager、以下GS):新しいやつの方が音が抜群に良い。実はマスタリングの出来が最初はパッとしなかったんだ。リマスターによって音にパンチが出たし、現代的な感じになったよな。とくに歌詞の聞こえも良くなったと思う。まるでつい昨日書かれたみたいだぜ(笑)。

オリジナル・ヴァージョンの聞こえもいいと思いますよ。

GS:きゃははは。

『ハウ・マッチ・ロンガー』はジャケのインパクトもあったので、目と耳の両方に来ましたけど、とにかく最初のドラムとベースが入った瞬間にぶっ飛びました。

GS:サウンド自体は変わっていないから安心しろな。

マーク・スチュワート(Mark Stewart、以下MS):ああ、サウンドは変わっていないぜ。俺たちがやったのはリミックスじゃなくてリマスターだからな。俺たちは何時間も何時間もかけて、ライヴ感を出すために細かいところまでいじった。テクノロジーが進歩したおかげで、当時のサウンドが損なわれることがなくてよかったよ。

『ハウ・マッチ・ロンガー』においてとくに重要な曲はなんだと思いますか?

GS:毎日変わる(笑)。

MS:そのときの気分でも変わるよな。最近になってこのアルバムについて気づいたことがある。俺たちは何年も『ハウ・マッチ・ロンガー』に入ってる曲を演奏してこなかったんだが、これを作った当時の自分が曲のなかにいて、何かアドヴァイスをしているように感じるんだ。妙な気分だよ。若い頃の自分と隣り合わせなんて映画みたいだろ? 
 このアルバムには14歳ぐらいのときに実家のベッドルームで書いた歌詞も入っている。まさかその歌詞がいまになって社会情勢的な意味を持つなんてな。俺たちがまたいっしょにバンドをやるようになってから、ヨーロッパや中東ではヤバいことが起きるようになった。そういうことを35年前の俺の歌詞は訴えていて、似たような出来事がニュースから流れてくる。ファック……。恐ろしいことだ。

いま、9.11以降に生まれた歪みがものすごく恐ろしいものとして露わらになってきているし、また、ヨーロッパでは難民問題も大きいですよね。こうした情況も今回のリイシューに関係しているんですか?

GS:偶然だな。

MS:その通り。この前、ブライアン・ウィルソンの『ペットサウンズ』のドキュメンタリーを見ていたんだが、彼も似たようなことを言っていた。「昔書いていたことが、現実になりつつある」だったかな。俺たちは当時、バリ島のモンキーチャント(注:バリ島で行われる男声合唱。別名はケチャ)みたいなことをやっていた。音楽と芸術のシャーマン的な用法というのかな。存在する並行宇宙を音楽という儀式を通して覗き込んでいた。世界をツアーをしていてわかったんだが、俺たちのライヴはまるで教会みたいなんだ。いまではその状態のことを自分は「チャーチ・オブ・ウィンドウ(church of window)」と呼んでいる。音楽に合わせてひとびとが自身を解放すると、強い力に触れることができるというか……。前に俺たちがサマー・ソニックに出たときの演奏を見たんだが、ガレスが即興をやっているとき、俺は何もしないでぼーっと突っ立っているだけ。まるでステージの上に俺の「実存」があるようだった。エネルギーの球体がステージ上に浮かんでいる感じだ。

『ハウ・マッチ・ロンガー』の時代は、マーガレット・サッチャーという倒すべき敵がはっきりしていましたが、現在はいかがでしょか。そういえば、スコットランドの独立を求めるSNP(スコットランド国民党)が、先日の総選挙でイングランドの左派勢力からも高い得票率を得ていましたね。

GS:サッチャーは右傾化のはじまりだったな。SNPは政策的にはまっとうな左派だから、かつては労働党に投票していたイングランドの左派層からの得票率を上げたわけだ。

そして、労働党の党首にはベテランのジェレミー・コービンが就きましたよね。

MS:彼はずっとレフトと呼ばれてきた。彼のことばには希望のメッセージがあるから、支持政党を持っていない普通の人間からも支持を得られる。いまのイングランドには、バカなエリートが多い。そいつらは民衆は洗脳して、ひとびとから人生の舵を奪ってしまう。自分たちで何も考えられないゾンビを量産しようとしているってわけだ。でも、イギリスのコービンやアメリカのサンダースやギリシアのチプラスは、とくに若者たちの関心を政治へ向けさせている。それこそ『ハウ・マッチ・ロンガー』を作っていたときに自分たちがやっていたことだよ。
 俺は政治とは人生の活力だと思って積極的に政治に関わるようにしていた。核兵器撲滅デモにも協力したし、いろんな集会でもライヴをやった。そのひとつのトラファルガー広場での集会には、核兵器に反対するために50万人が集まった。若者たちは自分に政治と未来を変える力があると感じることができたんだ。詩人として俺はこう思う。ひとびとが世界について知れば知るほど、その情報が伝播していき、最終的には自分たちを取り巻いている幻想を壊すことができるとね。それではじめて、お互いの考えを交わすことが可能になるはずだ。

GS:俺にとって『ハウ・マッチ・ロンガー』は特定の政党の考えを代弁するものではないな。そういったものに固執せずに、マークの歌詞は様々な状況をどんどん告発していくだろ? そしてひとびとの目をグローバリゼーションや飢餓へと向かわせる。

MS:笑えるんだが、その数年後にバンド・エイドがはじまった(笑)。俺が“フィード・ザ・ハングリー”を歌った後だ。俺はジャーナリストのジョン・ピルジャー(John Pilger)のカンボジアに関するレポートに刺激されたんだけど、そのあとにマイケル・バーク(Michael Buerk)という別のジャーナリストがやったアフリカの飢餓報道がバンド・エイドに繋がったんだ。

ところで、『ハウ・マッチ・ロンガー』を作っているとき、バンドは解散寸前だったというのは本当ですか?

MS:そんなことが言われているのか。初耳だぜ。

バンド内で何か摩擦があったとか?

GS:そんなのいつものことだぜ(笑)。摩擦がなきゃ集団で良いものなんて作れっこないよ。

MS:仲が良くなかったらそれは全部ギャレスのせいだな(笑)。

GS:ぎゃははは。

マークのメッセージのラディカルさは、ギャレスにはいき過ぎているように見えませんでしたか?

GS:それはない。言ってしまえば全員ラディカルだからな。ブリストルは小さい街だから、みんな同じ本屋にいって、同じ本に影響を受けていたりした。メンバーで共有していた情報は同じだったんだ。ま。パラノイアの集団だったよな。ぎゃははは!

MS:ぎゃははは! いまは違うけどな(笑)。当時はいろんなものに飢えていた。エクストリームな音楽、クレイジーなアイディア……、自分の頭を肥やすためにいろんなものが欲しかった。狂ったコンクリート・ポエトリー、フリー・ジャズ、実験的な電子音楽……。シーンの裏側にあるあらゆるものを見ようと心がけていた。このアルバムは日本に大きな影響を与えたって聞いたんだけど、実際そうなのか?

ファーストもセカンドも同じように影響を与えましたよ。

MS:ケーケー・ヌル(KK NUL)がセカンドに影響を受けたって言ってたな。

実際どこまで影響受けたのかわからないけど、音楽を通して政治や社会を考える契機にはなったと思います。そういえば、当時、このアルバムが出た頃のUKのロックは、ただ単に音楽活動をするんじゃなくて、さっきマークが言ったように積極的に社会運動に関わっていましたよね?

MS:俺がポップ・グループをやめた理由のひとつは、バンドが嫌だったからではなくて、世界に存在する不平等を見つめることが難しくなったからだ。「芸術に何ができるのか?」、こんな質問を自分によくぶつけていたよ。この前、イギリスのジャーナリストに「最近恥ずかしかったのはいつ?」という質問をされた。子どもに見つめられたとき、その子どもの未来がどうなるのかを考えると思う。世界をこのままにしておくことはすごく恥ずかしいことだ。もし自分が何もしないゾンビだったら、子どもたちの未来は明るいものではないだろう。“ウィ・アー・オール・プロスティチューツ”では、他人を責めるのは偽善だと言ってる。だから『ハウ・マッチ・ロンガー』は俺にとってファーストの『Y』よりもパーソナルなものだ。ひとに説教を垂れるのではなく、自分の感じる苦悩を歌っているんだからな。

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マーク:あとさ……、スタジオには栽培中のマッシュルームがあったんだよな。
ギャレス:ああ、いまでもよく覚えているよ。空がきれいで流れ星がたくさん見えたことをな。あれはマジカルな体験だった。

どうして今回のリマスター盤でラスト・ポエッツとの“ワン・アウト・オブ・マネー”と“ウィ・アー・オール・プロスティチューツ”を入れ替えたんですか?

GS:“ウィ・アー・オール・プロスティチューツ”は、もともと入る予定だったんだよ。当時、急いで作業を進めていてマスタリングしたものが届かなかったから、ラスト・ポエッツとの曲を入れた。だからライセンスの問題で入れ替えたわけではない。

ちなみに、2014年に公開されたイギリス映画『プライド』はご覧になりましたか?

MS:マイナー・ストライキについて映画だろ? 見たよ。俺たちが若かったころを映している映画だ。マイナー・ストライキは1984年だから、ポップ・グループよりもちょっと後だけどね。ただね、ロンドンに比べて、ブリストルには階級の問題はそこまでなかったんだ。当時、ロンドンの労働者階級のひとびとのなかには、北部へ出稼ぎに行く者もいた。でもイングランドの地方都市だと規模が小さいから、階級のバリアは大して意味をなさなかった。当時、ブリストルにはナイト・クラブが一軒しかなかったから、いろんな階級や人種が1カ所に集まっていたよ。

なるほど。『ハウ・マッチ・ロンガー』制作時で、ふたりがよく覚えていることを教えてください。

MS:俺たちがこのアルバムを録音した場所は、ウェールズのド田舎だ。イギリスで『ザ・ヤング・ワンズ(The Young Ones)』というコメディ番組がやってたんだけど、たしか5人の登場人物が海に行く回があって、俺たちのノリはまさにそんな感じだった(笑)。ギャレスはいつも歯磨き粉を持ってくるのを忘れててさ(笑)。ダニエルのママは靴下にいつもアイロンをかけてくれた。俺はそれまで靴下にアイロンをかけるヤツがいるなんて思いもしなかったよ(笑)。

GS:ぎゃはは! 

MS:あとさ……、ふふふふ(笑)、スタジオには栽培中のマッシュルームがあったんだよな。

GS:ああ、いまでもよく覚えているよ。空がきれいで流れ星がたくさん見えたことをな。あれはマジカルな体験だった。

つまりあの作品にはマッシュルームが関係していると?

一同:ぎゃっっはははは!(大笑)

(ここで、マークは席を立って筆者にハイタッチ)

MS:サイケデリックな体験だったぜ(笑)!

それであの音響だったんですね……。

GS:いや、俺はマッシュルームを使わなかったぜ(笑)。

なるほど、あのミキシングは、本当にパーフェクトだと思いました。

一同:ぎゃっっはははは!(大笑)

MS:ありがとうよ。ふふふふ。

おところで、互いのどんなところが好きですか?

GS:ガハハハハ! こいつに好きなところなんかなんもないぜ(笑)!

はははは(笑)!

MS:当たり前だろ、俺たちはファッキンなバンクスだからな(笑)。イングランドのパンクスは成長してクラブへ行くようになると、他にアホなガキがいないか探しまわってケンカするんだよ。フーリガンやギャングは違う。ギャング同士が近所に住んでいても、決してケンカしたりはしないんだ。

はははは。ギャレスから見てマークはどんな人物ですか?

MS:おいおい、いつまで女性誌みたいな質問を続けるんだよ。

一同:ぎゃはははは!(大笑)

MS:次は俺の好きな食べ物を訊くんだろ(笑)!

はははは、いや、ギャレスから見てマーク・スチュワートはどんなアーティストなんでしょうか?

GS:『ハウ・マッチ・ロンガー』の歌詞がマークを表していると思うよ。メンバー全員が考えていた政治的な事柄や時事問題を代弁してくれてもいる。

ギャレスがとくに好きな歌詞はどれですか?

GS:“ウィ・アー・オール・プロスティチューツ”だね。

とくにどの部分ですか?

GS:どの母音の使い方が良いとか、どの発音が好きとかそういうことか(笑)? 

一同:ぎゃっはははは!

GS:いや、マジメに答えよう。「子どもたちは俺たちに刃向かい立ち上がるだろう(Our children shall rise up against us)」というフレーズを選ぶよ。

なるほど。今日はどうもありがとうございました。



Interview with METAFIVE - ele-king



質問:元をたどればここにいるO/S/Tの皆さんが……。

TOWA TEI:吸収合併されました。


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METAFIVE

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 昨年、ele-king編集部からMETAFIVEの取材をオファーされたとき、ぼくが手にしていた情報は、歌詞やクレジットなどの記載が皆無なアルバムの音源と、高橋幸宏、TOWA TEI、小山田圭吾、砂原良徳、ゴンドウトモヒロ、LEO今井からなる6人編成のバンドであるという、この二点のみだった。
 何も考えずに音源を再生した瞬間から、1曲目“Don’t Move”のインパクトにまずやられ、2曲目“Luv U Tokio”の遊び心いっぱいの仕掛けに思わず笑みがこぼれ、収録された12曲をすべて聴き終えたあとの心地よい興奮は、期待をはるかに超えていた。
 その期待値の超えかたは、ジョージ・ミラー監督やジョルジオ・モロダーといった、老境に入って久しいはずの巨匠が放った破格のカムバック作(前者は30年ぶりのマッドマックス・シリーズ最新作『マッドマックス/怒りのデス・ロード』、後者はソロ名義としては30年ぶりのニュー・アルバム『Déjà vu』)から受けた衝撃や驚嘆、あるいはデヴィッド・ボウイが癌と闘いながら珠玉の復帰作『ザ・ネクスト・デイ』(13年)に続いて、彼らしく尖鋭的な新作『★(ブラックスター)』(16年)を遺し、鮮烈な印象とともにこの世を去ったことへの深い感動とはまた別の意味合いで、伊達に年齢を重ねていない者たちの底力がどれほどのものかを思い知らせてくれた痛快事であった。
 平均年齢47歳のMETAFIVEは、日本のみならず世界のポップ・ミュージック史に大きな足跡を残した偉大なるバンドのメンバーを含む、一騎当千のミュージシャンの集合体である。楽曲制作に関してはプロダクションからポスト・プロダクションまでの全工程を担えるプロデューサー集団でもあり、ヴィジュアルの表現にも長けている。各人各様の才能と個性が見事に融合したMETAFIVEには、キャリアを重ねた者が自己の可能性をさらに拡張するための叡智がそこかしこに散りばめられている。そして、その進化の秘訣は、「メタ」という本作のタイトルにも使われたキーワードに集約される。
 “meta-”はギリシャ語に由来する接頭辞で、「後続」;「変化・変成」;「超越」「高次の」「抽象度を高めた」などの意を表わす。
 このバンドの言わば発起人となった高橋幸宏によると、METAFIVEというネーミングの由来は、“メタモルフォーゼ(変身、変態)”の「メタ」と、かつて細野晴臣がYMOのテーマとして提唱した“メタ(超)・ポップス”の「メタ」から来ているという。ちなみにYMOの2ndアルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』(79年)の仮タイトルは、「YMO の音楽は超突然変異のポップスである」という意味合いを込めた『メタマー』であった。

 これからの世の中は、ひとまず表面的なものは全部捨てちゃって、人間が変わってゆかなけりゃ、解決しないような危機感がある。だれも先が読めないし、否定的な世の中だ。そんなときに、売れればいいような音楽ばかり作っていたら、まず自分がダメになってしまう。
 イエロー・マジック・オーケストラのテーマはメタ(超)・ポップス。
トミー・リピューマ(※YMOと契約を結んだアメリカのA&Mレコーズの名プロデューサー)に、プロモート用のメッセージを送ったんだ。内容は、「自分としては、この音楽をメタ・ポップスと呼びたい。われわれの目標は、メタマー(変形態)」。
──細野晴臣『レコード・プロデューサーはスーパー・マンをめざす』(79年/CBS・ソニー出版)

 細野晴臣は、この「メタマー」というテーゼについて、「ディーヴォの逆なんだ」と前掲書の中で語っている。
 1972年にアメリカのオハイオ州ケント州立大学(※70年5月4日、同大学構内で開かれたヴェトナム反戦集会の参加者に対して、警備に就いていた州兵が発砲し、死傷者が出るという「May 4th事件」が発生。それをきっかけにニール・ヤング作詞・作曲によるクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングの名曲「オハイオ」が生まれたことで知られる)の美術学生、マーク・マザーズボーとジェラルド・V・キャセールが出会い、彼らが中心となって74年に結成されたディーヴォ(DEVO)は、「人間は進化した生き物ではなく、退化した生き物だ」という人間退化論に基づき、“De-Evolution”を短縮した“DEVO”をバンド名に冠し、コンセプチュアル・アートとしての音楽活動を開始した。
 ディーヴォはエレクトロニクスを取り入れたバンドの元祖的存在であり、クラフトワークとともにYMO に大いなるインスピレーションを与えたが、METAFIVEのメンバーをつなぐ接点となったロキシー・ミュージックやトーキング・ヘッズ、デヴィッド・ボウイらと、ブライアン・イーノを介してリンクしているといえる。つまりディーヴォの人間退化論を裏返した新たな人間進化論こそ、METAFIVEがめざす地平であり、しかもそれがけっして単なる理想論ではないことは、今作『META』の成果をみれば明らかである。

 《常に変化してゆくこと。ひとつひとつがすぐれていて、しかも際限なく、どんどんよくなってゆく。可能性が広がってゆくっていうのが、このグループ全体のコンセプトなんだ。このコンセプト以外に、レコーディング前に決まっていたのは、3人のメンバーが、それぞれ、3曲ずつ作品を書くこと、そして、レコーディング・スケジュールだけだった。》

 《考えてみたんだけど、音楽の魔術というのがあるんだね。もちろん、音楽だけで生きてゆくことはできないんだけど、人間の潜在意識に働きかけて、緊張させたり、悲観させたり、そういう現実的な力があることを思い出した。(中略)
 つきつめてゆくと、超感覚的なものを身につけてゆくようにしないと、ダメだと思った。すると、いまの自分じゃダメだ。病気じゃダメなんだ。歌を歌うにも、病気じゃ、それが聴いている人にうつってしまう。
 それくらい、音楽には力がある、と思ったんだ。だから、自分が健康なだけじゃダメで、もっと強い波動を持たなけりゃと思ったんだ。他人に売る曲を書くにも、無理に作ったんじゃなくて、ほんとうに自分の中から出てきたもの。何もいわなくても、必然的に人が動かされる、そういうものを作ろう。まず、そういうものを底辺に持とうと思った。》

 前掲書から引用した細野晴臣の思弁は、時を超えてMETAFIVEのメンバー全員の意識とおそらく共振するものであろうし、METAFIVEというスーパー・グループがYMOの根幹にあったコンセプトを引き継ぎ、発展させようという想いを内に秘めていることも、想像するに難くない。
 METAFIVEがYMOの再現ライヴを起点に誕生したことは、メタフィクション(※小説というジャンルそのものを批評する小説)のように「何かを取り込んだ何か」や「何かについての何か」といった自己言及的な方法論を用いているという意味で、最初からメタ的なはじまりかたであったが、理想的なメンバー構成のもと、正しき時と場を得ることで目覚めた理力(フォース)は、驚くべき「メタ(超越する、高次の)進化」をもたらすことを、今作で見事に証明してみせた。
 イエロー・マジック・オーケストラというバンドは、細野晴臣の構想によれば「ブラック・マジック(黒魔術)とホワイト・マジック(白魔術)、善と悪の対立ではなく、トータルな統合された世界」をめざすところからはじまったが、地球全体が当時危惧した以上の混乱に覆われ、文字通り存亡の危機に瀕しているいまとなっては、METAFIVEも、そしてぼくらも、「トータルな統合された世界」の実現は、少なくとも現実世界においてはほぼ不可能であろうというところからはじめざるをえないのではないか。
 ここにきて、ディーヴォの人間退化論がいよいよ真実味を帯びてきたといえるが、何が善で何が悪なのか判断不能な世の中においても、METAFIVEが示してくれたように、ひとりひとりが散り散りばらばらになるのではなく、有機的につながることで超えられるものは確かにあるのだ。
 今作を何度もリピートしながら原稿を書いていると、高揚のあまり、前説の範疇を超えて、話がスター・ウォーズ・サーガのようにめったやたらに広がってしまう。そろそろMETAFIVEの最年長(高橋幸宏)と最年少(LEO今井)の中間に位置する3人のメンバー、TOWA TEI、小山田圭吾、砂原良徳とのミーティングに移ろう。


TOWA TEI:幸宏さんが僕の家がある軽井沢にちょくちょく来て、いっしょにYMOのレコードを聴いたりするんです(笑)。

小山田:幸宏さん、YMO聴くの好きだよね。


METAFIVEのデビュー・アルバム『META』がいよいよ2016年1月13日にリリースされます。元をたどればここにいるO/S/T(Oyamada/Sunahara/TEI)の皆さんが……。

TOWA TEI(以下、TT):吸収合併されました。

M&Aの産物なんですね(笑)。では、その辺りから訊いてみたいと思います。お三方は、O/S/T名義で高橋幸宏さんのトリビュート・アルバム『RED DIAMOND 〜Tribute to Yukihiro Takahashi』(12年)に参加していますが 、O/S/Tはどのような経緯で結成されたのでしょう?

TT:結成とかそういう感じじゃないよね(笑)。はじめようとしていたのは、もう10年くらい前じゃない?

砂原良徳(以下、砂原):そうだね。オフィシャルなバンドっていうより、組合的な……っていうかレジスタンス的なもの(笑)。

TT:個人商店の組合ですよね。「3人で何かやれたらいいね」って10年くらい言ってたんですよ。幸宏さんにO/S/Tで(リミックスを)やってくれって頼まれる前に何かやったっけ?

砂原:やってないんですよ。でもテイさんのソロとかではあったよね。

TT:そうだったね。ふたりに「なんかやってよ」って声をかけて、「As O/S/T」として曲を出してたね(“SUNNY SIDE OF THE MOON”as O/S/T、6thアルバム『SUNNY』収録/11年)。

それが幸宏さんのトリビュートでいよいよ実体化されたわけですね。

砂原:打ち合わせとかやったよね。テイさんの事務所へ行ってさ、どういう風につくろうかって。

小山田圭吾(以下、小山田):あー、リミックスのときね。何を話したかあんま覚えてないけど。

楽曲は自分たちで選んだのですか?(“Drip Dry Eyes”O/S/T with Valerie Trebeljahr [from Lali Puna])

TT:そうですね。

ミーティングでは3人の意見は近かった?

TT:うん。でもぶっちゃけ、あれはまりんがたくさんやってたよね。それを僕と小山田くんで「いいね!」って言ってただけだし。「これもいいけど、ひとつ前のヴァージョンの方が良かったかな」とかね。

砂原:そんなことないよ(笑)。

TT:でも“Drip Dry Eyes”を選んだのはこのふたりで、僕じゃないんですよ。僕が提案したら決まっちゃいそうだったからね。O/S/Tでいつか6曲くらい作ろうと思っていました。そのくらいの曲数でもクラフトワークの初期を考えればアルバムといえるかなと。そうやって話していたんですが、全然具体化していなかったんです。まりんは「小山田くんは歌わない方がいいね」って言っていたよね。

砂原:そっちの方が3人でやりやすいと思ったんだよね。毎回フィーチャリングで誰かに歌ってもらって、僕ら3人がバックでやるのを考えてた。

TT:最初は誰に歌ってもらうか決まっていなかったんですが、幸宏さんとLEO(今井)くんに歌ってもらう方向で考えていました。幸宏さんからLEOくんとゴンちゃん(ゴンドウトモヒコ)とO/S/Tの3人で何かやろうと言われた時点で、「あ、吸収合併されたな」って思いました。それで良かったと思います。

その6人になってから最初の音源は、小山田くんがサントラを担当した『攻殻機動隊ARISE border:4 Ghost Stands Alone』(14年)のED曲、“Split Spirit”ですよね?

TT:そうですね。あの頃は、まだ名義は高橋幸宏&METAFIVEだったかな。

そのときの音源制作のやりかたは、最初に小山田くんがラフなデモを作って、みんなで回して、最後に小山田くんと幸宏さんとLEOくんとゴンドウさんで歌入れをしたという流れだったと。

小山田:うん。そういう意味では、バンドというよりは、まだ僕のプロデュースっぽかったかな。僕が言い出しっぺだったしね。だから一応、自分でやんなきゃなと。

ライヴも何回かやって、バンドが温まってきたから、フル・アルバムを作ることになったのですか?

砂原:最初はライヴだけをやっていて、そこからじょじょに曲も出来上がっていくんです。最後にライヴをしたのが去年(14年)の11月で、科学未来館というところなんですが、そのときは演奏も良かったし、映像も良かった。ライヴを録音してもらったんですけど、その状態もすごく良かったんです。だから、このままじゃもったいないと言いつつ、そこから活動をしていなかったんですけど。

TT:それで、その後の2月にメシ会を開くんです。

砂原:そこで誰かがアルバムを作ることを決めたんだよね。でも誰がアルバムを作るって言い出したのか覚えてないんですよ。

TT:水面下で幸宏さんのマネージャーの長谷川さんが動いているという話は聞いてたから、幸宏さんがそう考えていそうだとは思っていました。(当初の名義は)高橋幸宏&METAFIVEだったけれど、そこで幸宏さんは自分をM&Aして、6人のバンドにした。だからMETAFIVEに関しては幸宏さんありき、なんですよね。

砂原:ライヴをやるにしてもレパートリーがほとんどなかったので、YMOのカヴァーからはじめたんですよ。だからそこで持ち曲がほしいなと思っていました。

小山田:あとはテイさんのソロで、幸宏さんが歌った流れもあったよね。“RADIO”(TOWA TEI with Yukihiro Takahashi & Tina Tamashiro、7thアルバム『LUCKY』収録/13年)とか。

TT:そうだ。幸宏さんが“RADIO”をやりたいって言ってくれたんだ。(幸宏さんは)自分のコンサートでこの曲はやらないから、小山田くんがギターを弾いてこのメンバーでやれたらいいなと。最初は僕のヴァージョンでやっていたけど、途中からはまりんのリミックスを土台にして、ゴンちゃんのアレンジ、小山田くんのギター、LEOくんの歌を入れたらだいぶ変わった。

小山田:“Turn Turn”とかはテイさんがやっていたりするから(※細野晴臣と高橋幸宏によるSketch Showが02年に発表した1stアルバム『AUDIO SPONGE』に収録されたオリジナル・ヴァージョンの編曲にテイトウワが参加、07年の『細野晴臣トリビュート・アルバム-Tribute to Haruomi Hosono』にコーネリアス+坂本龍一によるカヴァーを収録)、いろんな曲が混じっているなかでMETAFIVEへの伏線があったりする。

その後、まとめ役は幸宏さんからテイさんへ移ったとか?

TT:全然そんなことないですよ(笑)。2番目に年長というだけで、幸宏さんとやりとりすることもあります。(幸宏さんが)僕の家がある軽井沢にちょくちょく来て、いっしょにYMOのレコードを聴いたりするんです(笑)。

小山田:幸宏さん、YMO聴くの好きだよね。

砂原:昔は聴けなかったと思うんだけど、時間が経ったから大丈夫なのかな。

TT:いつもは家でターンテーブルを2台触ることってめったにないんですよ。でも、(YMOの)“Ballet/バレエ”をかけて、幸宏さんの曲をそこに繋いだりとかしてました(笑)。けっこう面白かったです。プロダクションに関しては、METAFIVEの推進力はまりんだと思いますね。

砂原:いやいや。みんなが推進力になっている部分もある。でもLEOくんの存在はけっこう大きいですね。やっぱり若いやつが先頭を走るというか。そこにみんなが引っ張られているのもあると思うんですよね。

TT:LEOくんはプロダクションもやるし、詞も書けるからね。


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小山田:みんな一度バンドをやってるから、嫌なこともわかってるしね。

砂原:バンドを辞めた連中の集まりですから(笑)。


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今作は楽曲が粒ぞろいだから、1枚のアルバムとして本当に楽しめるんです。サンプル盤を何度もリピートして聴いていますが、LEOくんと幸宏さんのツイン・ヴォーカルの融合具合がとにかく素晴らしいと思いました。

TT:その組み合わせがみんな好きなので、それも推進力になっているというか、あのふたりに歌ってもらえる演奏をしようとする。話が戻りますけど、O/S/Tをやっていてもそうなった気はしますけどね。

リリースに先駆けてスタジオ・ライヴの映像が公開された“Don’t Move”は今作のオープニング・ナンバーですが、あれを1曲目に置くとか、シングル代わりになる曲だというのは、最初から決まっていたのですか?

TT:最初に聴いたときは難解すぎると思った。曲が全部揃ったときに“Luv U Tokio”もリード曲の候補だったんだけど、バンドとしての面白さを表現しているのは、“Don’t Move”の方なんじゃないかなと。

聴いていると、なぜかパワー・ステーションを思い出すんですよ。

砂原:あっ! それ、また言われた。

小山田:よく言われるんだよね。

LEOくんのヴォーカルの節回しがロバート・パーマーっぽいと思って。サウンドもけっこう近い。パワー・ステーション(※a)はデュラン・デュラン×シック×ロバート・パーマーだから、そういう意味では彼らも「メタ」なバンドですね。

※a デュラン・デュランのベーシスト、ジョン・テイラーと同じくギタリストのアンディ・テイラーがヴォーカリスト/ソロ・アーティストのロバート・パーマーとシックのドラマー、トニー・トンプソンを誘って結成したスーパー・グループ。85年にシックのバーナード・エドワーズのプロデュースにより同名のアルバムを発表、シングル第1弾の“Some Like It Hot”とT・レックスのカヴァー“Get It On”が大ヒットした。

砂原:それね、僕らまったく意識してなかったんですよね(笑)。ドラムの響きが強くて、LEOくんの声がそんな感じで、ちょっとファンクっぽくて、ゴンちゃんのホーンも入って、それでかなりパワー・ステーションに似たんです。でもそれで良かったと思いますよ。

TT:うん、全然OK。幸宏さんのアイディアで“Don’t Move”が1曲目になったんですが、それで良かったな。いちばんエクストリームだし。かと言って、この曲だけではこのアルバム全体を表現できているわけではないですけどね。

2曲目の“Luv U Tokio”もすごくキャッチーですよね。

TT:これは……スナック狙いです(笑)。

ちょっとひねったダンサブルなラヴ・ソングというか。日本語詞と英語詞の混合で、曲間に女性の語りが入ったり、「Tokio」というロボ声がシャレで入ったり(笑)、いろんなフックがある曲だなと。今作は1曲ごとにリーダーを交代しながら作ったのですか?

TT:ひとり2曲がノルマでした。“Don’t Move”は小山田くんの発動、“Luv U Tokio”はまりんからだし。

最初にどんな投げかけをしたのか教えてもらえますか?

小山田:“Don’t Move”は、(『攻殻機動隊ARISE』のために)“Split Spirit”を作ったときに1回やってるんだけど、メンバーが多かったから、回したデモが戻ってきたときには、けっこう(トラックが)埋まっちゃったんだよね。あと、前は僕があらかじめ作りこんでいたから、自分の色が強すぎたような気がした。今回はもうちょっとバンドっぽくやりたいと思っていて、ベースとドラムとギターくらいしか入っていない薄めのトラックをみんなに回したんですよ。最初のトラックには上モノが入っていたんだけど、それをカットした状態で回しました。そこにテイさんとLEOくんがヴォーカル・ラインと上モノを考えてくれて、次にまりんがオーケストラを入れてくれて、ゴンちゃんがホーンを入れて、幸宏さんがドラムを入れて。だから戻ってきたものは、ひとりの顔が見えないものというか、全員の感じがすごく出たかな。

TT:小山田くんが最後にバッサリ切ったもんね。たしかに、そうしないと音数がちょっと多かった。次作があるかどうか未定だけど、制約の美学を課すのはありかなと思います。ひとり担当するのは2トラックまで、とかさ。

小山田:そうだね(笑)。まんべんなく全部のトラックに音が入ってる必要もないし。入っていてもバランスは良い方がいい。

TT:ひとり4つでやったら、4×6で24トラックだね。昔は24トラックとか48トラックで十分に(曲が)できていたじゃないですか? いま200トラックとか使うひといるもんね(笑)。

小山田:まぁ、1stアルバムだったし、とくに何も決めずにはじまったので、みんな濃いものを最初に出していた。だから、こういうアルバムになったんだけど。

TT:“Albore”は僕が発動の曲で、はじまりのサビのメロディは僕が作りました。オケも作ったんですけど、ハネていたところをまりんが修正して、僕が入れたシャッフルを外して、もうちょっとスクエアにして、ドラムの音も全部変えたんです。鳴っている雰囲気はそのままなんですけどね。バンドっぽいですよね。小山田くんのギターがそこに入ってきて、どんどん変わっていきました。明るい曲が暗くなったということはないんですけど、曲の骨組みは残ったまま、面白い形になっていったかな。

“Albore”は幸宏さんとLEOくんのダブル・ハーモニーからはじまって、YMOのフィーリングもありつつ、踊れるテクノというか。

TT:僕はそれをアルバムの冒頭にもってくるのもありかなと思ったんですよ。だけど、“Don't Move”ではじまるのも、それはそれでいいなと。

たしかに、あのふたりのハモりでアルバムがはじまると、「おおっ!」というインパクトがありますからね。

TT:でも僕が発動したんだから、本来なら仕上げも僕がやるべきだったんですけど、やらなかったです。まりんにまかせっぱなし。僕は育ての親。生むだけ生んで、1歳ぐらいから会っていない、みたいな(笑)。

砂原:テイさんのアルバムでも作業をやっているし、他人の曲をいじるのは日常的にやっているので、自然にやれたといいますかね。

TT:僕は返ってきたものにさらに自分で手を入れることもするんですが、今回はそれがあんまりなかったよね。返ってきたものが良かったら、こっちでエディットする必要もないもんね。

たしかに全員の色が混ざって、そこがしっくりきて……という意味では、実にバンドらしい作品ですよね。

砂原:最初はこの6人が集まっても、各々がちゃんと役割をもったバンドになるのかどうか不安でした。でもちゃんとなるもんなんだなと。

TT:そういう意味では、ひとりだけガツガツしているひとはいないよね。

砂原:年齢的にもよかったのかもしれないね。もうちょっと若かったらこうはいかなかったかもしれない。

小山田:みんな一度バンドをやってるから、嫌なこともわかってるしね。

砂原:バンドを辞めた連中の集まりですから(笑)。

フリッパーズ・ギターだって最初は5人組だったでしょう。それが最近忘れられがちじゃない?

小山田:僕も忘れがちなんだよね(笑)、最初は5人だったって。

LEOくんはソロでやりつつ、向井(秀徳)くんとKIMONOSをやっている。

TT:でも、彼はバンドは初めてだって言いはってるよね。

彼には若いだけじゃない勢いも感じました。

TT:若いだけじゃないですよ。それに、そんなに若くもないでしょ(笑)。

小山田:若すぎないっていうのもよかった。

フロントマンとして様になっているし、独特の存在感がある。日本語と英語の両方で詞を書けるし、スウェーデン語もできるんでしょう?

小山田:LEOくんはスウェーデンと日本のハーフ。お母さんがスウェーデン人で、“Luv U Tokio”で喋ってるのはLEOくんのお母さん。

あのナレーション、LEOくんのお母さんだったんだ! 

TT:僕はLEOくんと話してると英語圏のひとと話してる感じがするけどね。ふたりで英語で話すことも多い気がするな。

彼が書く詞にはヴィジターの視点を感じます。常に外から見ているというか、ストレンジャーっぽい感覚だなと。

TT:ちょっと日本語がユニークだよね。

砂原:特徴ありますよね。「これワタシ」みたいな。

小山田:一人称がワタシだもんね。

砂原:「LEOくん、これってこうだっけ?」って訊いたら、「うん……」みたいな(笑)。

METAFIVEはスター・プレイヤーが集まって結成した、言わばスーパー・グループではあるけれど、単に「顔」で集まっていない独自のバンドらしさを感じるんです。

TT:AKBですかね(笑)。

テイさんは“Albore”と“Radio”の2曲を主導された?

TT:そう。僕と小山田くんには“Radio”と“Split Spirit”があったので、お互いあと1曲でよかったからノルマが低かった。

砂原:シード枠みたいに途中からトーナメントに参加した感じだったよね(笑)。

小山田:その2曲は僕とテイさんの曲だけど、アルバム・ヴァージョンに関してはまりんに育ててもらった(笑)。

砂原さんが各曲の土台を作った?

砂原:いやいや、そんなことないですよ。みんなそれぞれ2曲ずつ出してますからね。

小山田:でもプロダクションに関してはまりんがやっていて、後半はマスタリングやミックスも中心的に担当してたよね。

砂原さんが主導した2曲というのは?

砂原:僕は“Luv U Tokio”と、後ろから2曲目の“Whiteout”ですね。

“Whiteout”はメランコリックなメロディとLEOくんの内省的な歌声が相性抜群で、心に残りますね。エレクトロニカとかテクノの要素も少し感じます。

砂原:何っぽいっていうのかな。ヒップホップっぽいところもあるし、ファンクなところもあるし。音はちょっと黒っぽいんだけど、上に乗ってる要素は白いかな。
 僕、最初はみんなが曲を出すのを見てたんですよ。それである程度見えてきたところで、足りないものを出そうと思ってたんです。“Luv U Tokio”はテイさんから「リード曲らしいものを作るように」っていう指令が出たんですよ(笑)。

TT:僕のノルマは終わっていたので、言うだけなら言えるなと(笑)。

砂原:それで比較的わかりやすいものを作りました。ある程度できたところでテイさんに聴かせて、テーマとかをどんどん言ってもらったかな。全体的に勢いのある曲が多かったので、“Whiteout”はちょっとクールダウンさせるために作りました。

これは砂原さんがメロディを作ってから、LEOくんに詞を書いてもらった?

砂原:そうですね。とりあえず「立ちくらみの曲を作りたい」っていうテーマだけ考えて。

歌詞カードなしに聴いていて、「〜shades of gray」っていうフレーズに引っかかって、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』と何か関係があるのかと思ったんだけど、ここで歌詞カードをさっと見たら、“Shed some light on your shades of grey”(灰色だらけに少し明かりを点す)と韻を踏んでいる。ライミングしただけで別にあのベストセラー小説や映画とは関係ないのかもしれないけど、フックとして洒落てるなって。

TT:今回はひとつこだわりがあって、歌詞カードに英語詞と対訳を全部(シンメトリーに配置して)載せてるんですよね。(英語詞と日本語詞のパートを)まったく反転させて、アートワークも黒と白だったり……本当は予算の関係で黒と白しか使えなかったりして(笑)。

小山田:コンセプチュアルな感じで白黒反転させて、日本語と英語が反転してる。

砂原:でも、最近対訳が載ってる作品はあんまりないよね? 日本企画版とかならありそうだけど。

TT:読み応えはありますね。まだ読んでないけど(笑)。

このサウンドにあのふたりのツイン・ヴォーカルが載るとなれば、いったい何を歌っているのか興味を引かれて、歌詞を知りたくなりますよ。

TT:アナログ盤だと歌詞(を載せるスリーヴ)がもっと大きいんで、そのときにじっくり歌詞を見ながら聴こうかなと思います。

このなかですごく苦労した曲ってありますか?

TT :うちらの活動に関しては、ものすごく悩んだっていうのはないかな。

砂原:メールで曲を投げたあとに「どうしようかな」って悩んでいても、一周して曲が戻ってくると解決されてることが多かったですね。

たしかにそこはバンドの強みですよね。

砂原:ひとりだと作業が止まっちゃうので……。

TT:それで10年くらい作業が止まってたんでしょう?

砂原:ははは(笑)。いまも止まってます(笑)。

ぼくは全曲好きなんですが、ラスト・ナンバーの“Threads”はこのバンドならではのエッセンスが凝縮された曲に聞こえます。メロディは幸宏節が炸裂してるし、全員のテイストが見事に融合してる。これを最後に聴くと気分が上がりますね。

砂原:“Threads”はもっと幸宏さんっぽかったけど、テイさんはけっこう手を入れましたよね。

TT:そうですね。暇だったから(笑)。ただ、幸宏さんはご自分でおっしゃっているけど、けっこう幸宏さんとゴンちゃんの曲って、(はじめから)でき上がっちゃってたんですよ。

砂原:そうですよね。余白があんまりない状態で回ってきたから。

TT:アレンジもできてたから、そのまま進めばいいんですよ。幸宏さん主導の“Threads”と“Anodyne”のドラムをまりんに整理してもらって、そこからもうちょっと足したり引いたりしたんだよね。

“Anodyne”の日本語のサビが歌謡曲っぽくて、おそらく幸宏さんが書いたフレーズだと思いますが、歌謡曲の全盛時代を通過しているひとならではのものを感じました。

砂原:最初はもっと歌謡曲っぽかったと思いますね。テイさんのシンセが入ったら、突然ジャパンっぽくなって、ニューウェイヴ感が強くなった(笑)。

間奏はフリューゲル・ホルンですよね。ギター・ソロは小山田くん?

小山田:あれはLEOくんだね。

その味付けもすごく面白い。サビは歌謡曲っぽいのにニューウェイヴなアレンジで、そこに宙を舞うようなフリューゲル・ホルンとうねりまくるギターのソロが入る――このハイブリッドなミックスは新鮮でした。

TT:なるほど……それは評論家ならではの視点で、渦中にいるときはそうは思っていなかったですね。曲はできてるから、何かを入れたり、何かを引いたりすることしか念頭になかった。ゴンちゃんの“Gravetrippin'"では小山田くんのギターが炸裂してる。

それを聴いて、コーネリアスがリミックスした、Gotyeの“Eyes Wide Open”っぽいと思った。リズムはスカっぽい性急なテンポで、わりとコーネリアス・テイストだなと。

砂原:ギターがかっこいいよね。

小山田:ゴンちゃんにしてはずいぶんロックっぽい曲だと思ったけどね。デモの段階で良かった。

各曲のデモを聴くと面白そうですね。デラックス・エディションで再発するときにはぜひ……。

TT:出さないです(笑)。

“W.G.S.F.”は誰の主導ですか?

TT:これもゴンちゃんですね。

これもコーネリアスっぽい変拍子のニューウェイヴだなと思いました。

小山田:ファンキーっていうよりも、8ビートっぽいのがゴンちゃんの曲には多いね。

TT:LEOくんとゴンちゃんの曲は、素質的にロックっぽい気がしたね。幸宏さんはポップスというか。

全体的にダンサブルなトラックが多くて、そこはテイさんの味なのかな、と推測していたんですが。

小山田:最初にまりんが「踊れる感じがいいね」って言ってたんだよね。

砂原:なぜかというと、ライヴ先攻のバンドだったんで、体が動くような曲の方がいいんじゃないかと。

TT:かといって、EDMみたいな感じじゃないでしょう?

そういう感じはしなかったですね。ダンスといってもタテノリではなく横揺れのグルーヴで、ファンクなノリがあって、そこにニューウェイヴとか、ときどきノー・ウェイヴやポスト・パンクの要素も感じたり。でもR&Bのテイストもあって、すごく好きな感じでした。METAFIVEみたいなコスモポリタンが作るハイブリッドな音楽を気に入るひとは人種を問わず世界中にたくさんいると思うし、海外のひとたちに聴かせて感想を聞いてみたいですね。

TT:僕らのなかでは、ダンサブルなものが通奏低音としてあった上でのバンドを描いていました。でも、かといってEDMじゃない。だからクラブ・ミュージックっていうのは意識してないかもね。だけどクラブでたまにバイトしてるんで(笑)、要素としては入ってるんです。僕は自分のDJのときにMETAFIVEをかけますよ。“Don't Move”もずいぶん前からかけてるし。

砂原:“Don't Move”をかけてるとき、僕は客席に行ってちゃんと音をチェックしてます(笑)。

“Don't Move”は、テイさんのセットではどういう役割ですか?

TT:4つ打ちなんだけどロック、みたいな。EDM聴くくらいならロックを聴いてた方が楽しいですよね。

砂原:あとファンク色は強いですよね。

TT:そうですね。ファンクはいつも好き。あとロキシー(・ミュージック)。ジャケットはロキシー感が出てると思う。

砂原:とにかく引用だらけなんだよね。

ジャケットの絵を描いた五木田(智央)くんには何かキーワードを投げかけましたか?

TT:(アルバムを作ってる)途中で“Don't Move”と“Luv U Tokio”を聴かせたんですよ。幸宏さんが五木田くんの絵をけっこう好きなんだよね。五木田くんは小山田くんとまりんと同い年で、彼の兄貴が僕と同い年。それもあって音楽的なボキャブラリーが合うんです。それで五木田くんにMETAFIVEの印象を聴いてみたら、LEOくんと幸宏さんの声がブライアン・フェリーとかデヴィッド・バーンっぽいと。僕らが好きなロックとかニューウェイヴの感じを、五木田くんも音で解釈してくれたんで、(デザインの)内容は何も話さなかったんですよ。それで完成した作品を聴かせたら、「ロキシーっぽいね」と。それでロキシーってジャケットにバンド名しか書いてないからMETAFIVEもバンド名だけで、書体も細い方がロキシーっぽさが出るんじゃないか、とか。そこは幸宏さんも同意見でした。

そもそもバンド名は、最初はMETAMORPHOSE FIVEで、それをテイさんが縮めてMETAFIVEになったそうですね。

TT:でも、いずれにしろバンド名はMETAMORPHOSE FIVEにはならなかったでしょう。長いし、同じ名前のイベントがあるし。幸宏さんはイベントの「METAMORPHOSE」を知らなかったんじゃないかな。途中からMETAでもいいんじゃないかという説もあったよね。最近はみんなMETAって呼んでるけど(笑)。僕は、五木田くんは7人目のメンバーだと思っていますけどね。これだけ理解してくれる絵描きはいないんじゃないかなと。五木田くんは自分で作っている音楽も面白いんですよ。めちゃくちゃ多重録音していて、昔はバンドをやってたみたいですね。まりんがマスタリングしてあげなよ(笑)。

砂原:曲を送ってください(笑)。

最後にハンコを押すみたいに、アートには名前を付けてやることが必要なんですね。

TT:でもやっぱし、カラオケでは“Luv U Tokio”がいいんじゃないんですかね。

その曲名もいいですよね。

TT:あれはずっと“Tokio 2000”って言ってたよね。それで、「オリンピック、ちょっとまずくね?」って話すようになって(笑)。

砂原:「泥舟だ。逃げろ!」っていう(笑)。

「オリンピックまで日本はもつのか……!?」っていう。

小山田:“Luv U Tokio”ってちょっと歌謡コーラス系じゃないですか?

ロス・プリモスの“ラブユー東京”が元ネタでしょ?(笑)

小山田:METAFIVEになる前はCOOLFIVEとかって呼んでたんだよね。いまはおっさんばっかりだから、なんとなく歌謡コーラス的な感じもいいかなと(笑)。

たしかに「歌謡曲」と言うよりも「歌謡コーラス」ってピンポイントで言った方が気分だね(笑)。でも、そういう意味では「ちょっと女っ気がないな」とは思いました。例えばテイさんは、ご自身の作品を作るとき、必ず華やかな女性の存在を意識してフィーチャーされていますよね。そういうフェミニンな、もしくはグラマーな要素は、今回は必要ではないと思われたのですか?

TT:僕が若いときに衝撃的だったことのひとつが、YMOのメンバーのなかにいる矢野(顕子)さんの存在だったんですよ。あと“Nice Age”とかサビを女のひとが歌ってて、メンバーじゃねぇじゃん!みたいな(驚きがあった)。そういうときに、もちろん幸宏さんの歌も好きなんだけど、その対称に女性の声があると。これはいま分析するとしての発想ですが、幸宏さんを立たせつつ、何かがあった方がいいな、と考えていたかもしれないです。実は“Luv U Tokio”のサビのところはヒューマン・リーグ(※英国シェフィールド出身のシンセポップ・バンド。結成当初はボウイ、ロキシーとジョルジオ・モロダーを掛け合わせたような実験的な電子音楽を志向していたが、リード・ヴォーカルのフィル・オーキー以外の主要メンバーが脱退してへヴン17を結成。残ったオーキーらはディスコでスカウトした音楽歴ゼロの女子2人をヴォーカル兼ダンサーとして加入させ、「エレクトリック・アバ」と評される大胆な路線変更を行い、80年代初頭のMTV揺籃期に全英・全米チャートNo.1を記録した“Don’ t You Want Me”などの大ヒットを放った)のイメージでした。LEOくんが歌っているパートは女性のイメージだったんですよ。そしたらまりんに「外注はやめましょう」って却下された(笑)。

砂原:メンバーが豊富なんで、身内でやりましょうと。

TT:でもLEOくんと幸宏さんとで成立したんで、結果的にはこれで良かった。間奏のところに「かわいい娘(の声を)入れようよ」って言ったんだけど、またまりんに却下された。そこで「身内がいい」って言うから、LEOくんのお母さんになったんだよね(笑)。

砂原:でもLEOくんのお母さん、すごく良かった。60年代の(外国の)万博のソノシートに入ってるようなノヴェルティ感がある。そしたら、昔、NHKで本当にアナウンサー的なことをやってたみたいだね。

TT:独占契約して他のバンドでやるなって言わないと(笑)。


[[SplitPage]]


TT:僕らはクラブでDJをしてるから、いまどういう音が流れているかも知ってるけど、そういう耳で聴いても古くさくない自負がありますね。

砂原:マーケティングをやるとしたら、スネークマンショーみたいなギャグっぽい音楽は、逆にやれるかもしれないんですけどね。


META
METAFIVE

ワーナーミュージック・ジャパン

Synth-PopElectro FunkYMO

Amazon

2作目を作ることになったら、女性ヴォーカルを入れるのもありかな、と思うんですけど、却下ですか?

砂原:そのときにならないと全然わからないですね。テイさんの“LUV PANDEMIC”っていう曲があるんですけど、ライヴでそういう曲をやるときは女の子に出てもらったりしましたよね。

TT:そうですね。この前、まだ21の水原佑果ちゃんに出てもらったんです。

砂原:ライヴの最後に女の子に出てきてもらうと、ちょっといいなっていうのはありますよね。

ヒューマン・リーグとまではいかなくても、音楽的には女性の声が入っている方がカラフルだし、そういうMETAもちょっと見てみたい気がしました。

TT:まりんも自分の曲で女のひとのヴォーカルを使ってるよね?

砂原:そうですね。踊りと歌は女性の方がいいって、僕は思っているんですよ。

TT:そこで幸宏さんとLEOくんっていうのはどういうこと?

砂原:ああ……ちょっとわかんないですね(笑)。

TT:でも、「Radio〜」って言っている女性の声は今回生かしている(※“RADIO [META Version]”にはTina Tamashiro & Ema のコーラスがフィーチャーされている)。

小山田:あとゴンちゃんの娘の声だよね。最初の「メタ!」ってやつ。

まったく野郎だけというわけじゃないんですね(笑)。今作を作ってみて、かなりの手応えがあったと思うのですが、今後どうしたいか、目標みたいなものはありますか?

TT:まずはワンマンだよね。ライヴをやってもレパートリーがなかったのが、このメンバーだからこそできる曲が十分にできたので、美味しいものがある関西では優先的にフェスに出て(笑)。それでみんなの反応を見て手応えを確かめてから、これから何をやるのかを決める感じじゃないですかね?

砂原:次の作品を考えるよりも、ライヴの準備をしなきゃとか。

小山田:それにみんなそれぞれ(の活動を)やってるからね。若者が集まってバンドでやったるぜ、みたいな感じでもないから。

海外リリースをして、一回くらいツアーをやると面白い反応が来る気がするんですが、テイさんは海外ツアーはNGですか?

TT:そんなことないですよ。いまはインターネットもあるし、どこへ行ってもラーメン・ブームだし。僕は90年代から海外ツアーをやってるけど、海外は昔とはだいぶ違いますよね。ヨーロッパの方がいいかな。昔、アメリカをツアーで2周したけどギヴ(・アップ)でしたね。

砂原:すべての食い物がバターの味みたいな(笑)。

TT:すべての味はバターを基調に、肉か魚を食べるみたいな。肉だけのときもありましたからね。

砂原:いまって、ツアーを周るっていうよりも、フェスを周るって感じじゃないですか? そこも昔と変わりましたよね。でも向こうの反応は聴いてみたいね。行く行かないは別として。

TT:いま海外ではあんまり盤って作らないですよね? 

これだけ英語詞がフィーチャーされている作品だし、海外向きだと思いますよ。

砂原:英語と日本語の区別に対する認識も、昔とは変わってきていると思うんです。とあるアメリカの女の子の曲を聴いていたんだけど、最初は英語なんだけど、途中から完全な日本語になるんだよね。それで調べてみたら、その子が昔は日本にいて英語も日本語も両方喋れるみたいなんですよ。途中で日本語になるのは本当にびっくりして、なんかもう(英語とか日本語とか)関係ないなと思いました(笑)。

TT:僕も最初のソロを出したときに、英語の曲をもっと入れろとか、インストが多いとか言われましたね。“Technova”とかリード曲なのに、なんでポルトガル語なんだ、とかね(笑)。考え方、古いなーと思った。

そういう意味では、世界がグローバル化したことで良くなったところもあって、異文化を昔ほど抵抗感なく受け入れて楽しむ土壌ができて来たのかもしれない。

砂原:“江南スタイル”とかって、ことばは関係ないじゃないですか?(笑)

最近の韓国は、日本よりも先に音楽の新しいスタイルを躊躇なく受け入れて発信もするからすごいですよね。

TT:10年前にアジアへ行ったときは、日本のものをマネしていた感じだったんです。でも数年前に韓国やインドネシアへ行ったら、韓国がデフォルトになっていた。和食屋へ行ってもKポップが流れているんですよ。それを見て中国人とかがキャーキャー言ってる。

ここ数年疑問に思っていることのひとつが、日本における「歌の上手さ」の基準がかつて自分が思っていた基準と変わってしまって、それこそ三代目(J Soul Brothers from EXILE TRIBE)とか、ああいう歌い方がデフォルトになっているような気がして。ヴォーカル・スクールの先生をやっているミュージシャンの友だちに訊いてみたら、それはKポップの影響大なんだと。ここ最近のアメリカのチャートでヒットしている曲によくあるヴォーカルの発声のスタイルを日本より先に韓流が消化して、それを日本が後追いで取り入れているという説を聞いて、なるほど……と納得したんです。

TT:日本より韓国の方がアメリカに近かったですよね。韓国語の発音の方が英語に近いっていうのもあるのかもしれないですね。

砂原:韓国の音圧感も、日本じゃなくて、アメリカとかヨーロッパの感じなんだよね。アメリカに近いかな。

TT:そのテリトリーを取られちゃった感じですね。ウチらには関係ないけど。

砂原:Kポップはエンターテイメント性が強いのかな。遊園地ぽいっていうか。

テイさんやコーネリアスとはまったくクロスしない感じですよね。

TT:まったくしないですね。

リミックスもコラボレーションもしていないし。マーケットに合わせて音楽を作るということを、METAFIVEのメンバーは誰もやって来なかったという共通項はありますね。

砂原:この前、“Don't Move”のビデオを見たときに、それがないから良いと思いましたね。それがないからこその勢いがあるのかなと。

TT:三代目とか、それ以外のEDMみたいなトレンドを気にしていないというか。

ロック魂やファンク魂を感じて、すごく清々しかったですね。

TT:僕らはクラブでDJをしてるから、いまどういう音が流れているかも知ってるけど、そういう耳で聴いても古くさくない自負がありますね。

砂原:そういうマーケティングをやるとしたら、スネークマンショーみたいなギャグっぽい音楽は、逆にやれるかもしれないんですけどね。

たしかにMETAFIVEでスネークマンショーみたいなギャグをフィーチャーした作品はありかもしれない。だれか尖ったひとたちと組んだMETAFIVE版『増殖』はぜひ聴いてみたいですね。……野田さん、何か補足したいことはありますか?

野田(以下、△)ちなみにテイさんから見て、どういうところで、このふたりとは気が合うと思いますか?

TT:同世代にあんまりいないんですよね。64年生まれって高野寛くんくらいしか合うひとがいなくて。ふたりは5つ下だけどたまたま共通言語が多いっていうだけのことです。

△それは趣味が合うということですか?

TT:趣味が合うかはわからないですけど。他の趣味とか全然知らないので。

砂原:テイさんの世代だと、まだ生で楽器をやっているひとが多かったですよね?

TT:ケンジ・ジャマー(鈴木賢司)さんとか?

小山田:あー。僕、中学生くらいのときに、学生服を着た天才ギタリスト少年って言われて登場したのを覚えてるな。

TT:あとはパードン木村さんとか。

△小山田くんやまりんはバンドに参加していたので、複数の人間で音楽をやっていた経験はありますけど、テイさんは基本的にソロでやっていますよね。そういう意味で、テイさんが誰かといっしょにやるのはどういう感じですか?

TT:このふたりも、ひとりでやっていて停滞してるんだろうなと思ったから、気楽にO/S/Tやんないかって10年前に持ちかけたんですよ。有言不実行でしたけど(笑)。

O/S/Tという名前だから、映画のサントラからはじめる手もあったかなと。

TT:依頼があれば、ですけど。それ、いいですね。

砂原:いまはMETAFIVEが子会社になりましたもんね(笑)。

映画部門もぜひ。

TT:いや、でも僕一回やったことあるんですけど、きつかったですね。何曲か決めていた劇伴とかあったけど。

砂原:僕もやったことあります。小山田くんもやってますよね。

TT:ひとつの作品を全部やるのってきつくない?

砂原:僕の場合は制作サイドが優しくていろいろ言うことを聞いてくれましたね。けっこうサントラって(音楽を)ぶつ切りにされちゃうじゃない? 「えー! こんな使い方するの!」みたいなことはなかったな。

TT:坂本(龍一)さんとご飯を食べていて、「サントラっていうのは、画を見て音がないともたないな……っていうところからはじめるんだ」と言われて、「あ、そうなんですね!」って(笑)。知らなかったからね。僕が音楽を担当した『大日本人』(松本人志監督/07年)はテーマ曲から作った。それはすっと通ったんですけど、他は松本人志さんがピンとこないってことで、大変でしたね。二度とやんないって思いましたけどね。

砂原:僕も音が必要なところに(音を付ける)っていう考えなんですけど、もっとわかりやすくストーリーを感じて音を付けるパターンが多い気がするんですよね。だから解釈がひとつしかない。それはつまんないというか、考える余地はあった方が面白いと思うんですけど。

TT:個人的には、音が少ない映画は好きなんですけどね。使うべきところにバシッと入っているのがいいですよね。車に乗っていてカーステからラジオが流れて、カットが変わったときにそれがラインになって原曲の実音が流れたりとか。そのくらいの感じが好きなんです。数年前の『ドライヴ』(ニコラス・ウィンディング・レフン監督/11年)はすごく上手いなと思いました。使っている音楽はテクノだけでしょう?

『ドライヴ』は映像がすごく80年代っぽかったですよね。

TT:音楽はフレンチ・テクノのひと(クリフ・マルティネス)の曲で、どうしてここで「ズデデデ、ズデデデ」って鳴るのかなって思うんだけど、カットが変わったときに「あ!」と思う。伏線的にイントロのシーケンスを弾いたりするのが良かった。

砂原:小山田くんが言ってたけど、最近の映画は効果音が適当というか。

小山田:僕がやったのはアニメで画面の情報が少ないでしょう? だから音楽の量がけっこうあるんだよね。あとバトル・シーンとか効果音が多いからさ(笑)。規模が大きい映画だから、まず音響監督さんがいて、音効さんがいて、それから音楽があって、っていう感じで、楽曲を必要な場面で入れるのもその音響監督さんがやるんだよね。だから、とりあえず素材をたくさんくださいと言われて、それでバンバンと素材になる音を出して、そのなかから監督が選ぶような感じだったから、あんまり自分で考えて音楽をやれたという感じでもないんですよ。いま教育番組(NHK『デザインあ』)の音楽をやっているんだけど、それに関しては、もうちょっと狭いプロダクションで、僕も入っていっしょにできている感じがあるんだけどね。

砂原さんがサントラを担当した作品というと、“神様のいうとおり”(いしわたり淳治&砂原良徳+やくしまるえつこ、TVアニメ『四畳半神話大系』主題歌/10年)ですか?

砂原:それはエンディング・テーマですね。サントラは韓国と日本の合作で妻夫木聡とハ・ジョンウが出ていた映画(『ノーボーイズ、ノークライ』キム・ヨンナム監督/09年)を担当しました。わりと自由にやらせてくれました。

TT:昨日『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を2回観たんですけど、けっこうずっと音が鳴ってるんですよね。あれ、うるさかったですか?

ぼくはあれを観て、ジョン・ウィリアムズはさすがだな、と思いました。引き出しが広いし。

TT:僕も上手いと思うんですよ。足すだけじゃなくて引くことも上手だし。全部スコアの世界なんだけど、新しい登場人物のレイのテーマに、それまでの曲をアレンジしたものがミックスされていたりとか。2回見たので冷静に観察できたんですけど、とにかく自分には全く作れない世界だと思いました。教授のサントラの世界もすごいですけどね。いまディカプリオ主演の映画(『レヴェナント:蘇えりし者』アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督/16年1月全米公開)の音楽もやっているでしょう? けっこう重い感じの映画ですよね。そういうのじゃなくて、「音があってもなくてもいいから」という作品の依頼はO/S/Tへ(笑)。

例えばタルコフスキーの映画を観ると、劇中で使われる音楽よりも水の音が頭に残ったりするんです。「映画音楽」というものを音響的に捉えていて、そういう映画を初めて観たのでハッとさせられた記憶があります。武満徹もタルコフスキーが好きで、いちばん音楽的な映画作家だと評価していて、なるほどそういう見方もあるなと。

TT:(映画作家のなかには)音楽を効果的に使いたいという方もいると思うんですよね。音で(観客を)心理的に引っ張っていく劇伴的なアプローチと、逆に音を聴かせるだけじゃもたないから、そこで印象を付けるためには(既成の楽曲の)選曲でも可能というか。『大日本人』は全部自分で作らなきゃと思っていたけど、ヴィンセント・ギャロみたいにやってもよかったかな。

ギャロは選曲のセンスが絶妙ですよね。『ブラウン・バニー』(03年)のサントラも1曲目に60年代のTVドラマ『トワイライト・ゾーン』の劇中歌を持ってきたり、『バッファロー'66』(98年)ではイエスの隠れた名曲を持ってきたりとか。

TT :それで自分で作った曲もむちゃくちゃ良かったりするじゃないですか? ああいうのはいいですね。ということは、ハリウッド映画じゃないってことですね(笑)。

砂原:ハリウッド系は大変そうだよね。

△でも、DJカルチャーではハリウッドへ行ったひとが多いよ。デヴィッド・ホームズとかさ。あとはフレンチ・ハウスのカシアスとか。

砂原:そうか! カシアスは昔からよくできてたから、そうなるのはわかる気がする。

小山田:ダニー・エルフマン(※ロサンゼルスのニューウェイヴ・バンド、オインゴ・ボインゴの元リーダー。80年代から映画音楽を多数手がけ、特にティム・バートン監督との名コンビで知られる)とか。

エルフマンのポジションはちょうどいい按配じゃない? 仕事するときのスタンスは小山田くんに似てるかもね。ティム・バートンの他にもハリウッド大作からインディペンデント映画まで作品本位で手がけていて、アカデミー賞作曲賞ノミネートの常連だし。ダニー・エルフマンってキム・ゴードンの高校時代の彼氏なんだって。キム・ゴードンの自伝を読んでいたらそう書いてあってびっくりした。それって意外だよね。

小山田:そうなんだ。あの自伝買ったけど、まだ読んでないんだよね。

△インタヴューを始める前に、小山田くんが『スター・ウォーズ』より『未知との遭遇』派だというのを聞いて、すごく意外でしたね(笑)。だってコーネリアスのイメージって、絶対に『スター・ウォーズ』じゃないですか?

TT:そうなの?

小山田:僕は『未知との遭遇』です。

※ジョージ・ルーカス監督の『スター・ウォーズ』第1作(「エピソード4/新たなる希望」)とスティーヴン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』はいずれも77年に全米公開、78年に日本公開という同時期に上映され、SF 映画ブームを巻き起こした。

音楽的には『未知との遭遇』のテーマの、あのリフの方が耳に残るよね。

小山田:♪タララララ〜。僕、ライヴで絶対にあのフレーズ弾くんだよね。

砂原:弾いてたよね(笑)。でも『FANTASMA』の頃のコーネリアスだと、ちょっと『スター・ウォーズ』っぽい感じはあったかもね。

TT:まりん、『スター・ウォーズ』ひとつも観てないくせに(笑)。

……という感じで話は尽きませんが(笑)、最後にあらためて、お三方から見たヴォーカリストとしての幸宏さんとLEOくんについて、見解を聞かせてください。

TT:さっき言ったことと同じになりますけど、もしもO/S/Tでアルバムを作っていたとしても、LEOくんと幸宏さんは最高のヴォーカリストだと思うので、吸収合併されて良かったなということですかね。

砂原:テイさんがよく言っているんですけど、自分のヴォーカリストのデフォルトは幸宏さんの声だと。僕もYMOで幸宏さんの声を聴いていたので、そういう感覚に近いですね。

TT:「Tokio」って言ってたのは教授だけどね(笑)。

砂原:LEOくんはバンドをはじめるときのミーティングで出会ったんですけど、彼がMETAFIVEをやっていくうえでキーになるような気がしていました。最初はなんで彼を呼んだのかわからなかったんですけど、KIMONOSは知っていたので、その「わからなさ」に何かあるなと。

小山田:幸宏さんとバンド(高橋幸宏 with In Phase)をやっていたジェームズ・イハの代役で入ってきたんだよね。ユニヴァーサルで幸宏さんを担当していたひとがレオくんも担当していたという縁もあるし。

TT:ギターもキーボードも打ち込みもできて歌も歌えるから、自分に近い存在っていうことも、幸宏さんにはわかってたんだよね。だから僕らに紹介しようと思ったのかな。

砂原:“Whiteout”の歌詞を書いてもらったときも、僕は何となく「立ちくらみ」っていう情報を伝えただけだったのに、彼の解釈がすごく良かった。

TT:僕もタイトルは“Albore”って伝えただけ。夜明けに作ったということもあるし、バンドをはじめることも新しい夜明けだという気がするとか、最近は音楽にしか夢はないよね、っていう話を飲み屋で散々したので。それでできた詞を見たら、すごくポエティックだった。(テーマやイメージを)具体的に良いことばにする才能がある。

小山田くんは?

小山田:幸宏さんとLEOくんがちょうど最年長と最年少で、共通している部分も感じているし。さっきブライアン・フェリーとデヴィッド・バーンって言ったけど、両方ともブライアン・イーノが関わっている感じで(笑)。

TT:あとディーヴォもイーノだよね(※78年の1stアルバム『Q:Are We Not Men? A:We Are Devo!(頽廃的美学論)』のプロデュースをイーノが手がけた)。“Don't Move”の大サビみたいなところはディーヴォっぽく歌って、って言ってたんだけどね。

小山田:ちょっとマーク・マザーズボー(※ディーヴォのオリジナル・メンバー。ウェス・アンダーソン監督作品など映画音楽も多数手がける)が入ってる感じ。そういうイメージで僕は作ったから。

砂原:幸宏さんとLEOくんは声の混ざり方もいいし、コントラストもあるし。

小山田:静と動の混じり具合が絶妙だなって。これだけ良い素材だったら、何をやってもそこそこ良い料理が作れそうだなっていう。

まさに理想のツイン・ヴォーカルという感じがしますね。

TT:親子であってもおかしくない年齢ですよね。それでふたりともブリティッシュ・アクセントがベースにあるんですよね。幸宏さんの師匠がピーター・バラカンさんだから。そのうえでアメリカン・アクセントもいける。

小山田:LEOくんもずっとイギリス育ちだもんね。

TT:でも僕の曲で、「これはワタシ、どっちで歌えばいいですか?」って訊いてくれる。アメリカンか、それともブリティッシュ・アクセントか、って(笑)。

たしかにアルバムの全曲で、ふたりのヴォーカルの独特の混ざり方やコントラストが鮮やかに栄えているのが、成功の第一の要因だと思います。

TT:みんながふたりのツイン・ヴォーカルが好きだから、結局全曲歌ものになったっていうことですからね。それは想定していなかったでしょう?

砂原:それはすごい成果でしたね。そういう決まりを作ったわけじゃないんですよ。

そういえばゴンドウさんの役割はどんな感じでしたか?

砂原:ゴンちゃんはホーンとかスパイス的なアレンジをやってくれるし、プロダクションもできる。だから僕は悩んだときはゴンちゃんに相談してました。

TT:あと、幸宏さんはなくてはならない存在というか。幸宏さんって最初にプロダクションありきの音楽を作るひとのハシリじゃないですか? その頃ってマニピュレーターがいたんですよね。いつの間にか自分たちでやるようになって、シンセを買ったらプリセットが1000個とか入っていて。でも幸宏さんは、その分オールド・スタイルを貫きたいと思っている。自分で詞を考えたいし、衣装も考えたいし、ライヴの選曲も考えたい……そういうオールマイティなタイプなんですよ。幸宏さんだけ自宅スタジオがないじゃん? あれは美学なんだよね。家にはドラムもシンセも何もないっていう。アール・デコの鏡とかはまだあるらしいよ(笑)。

小山田:そういえば幸宏さんの家、行ったことあるな。あの時計、まだあったよ。

TT:だから、僕が軽井沢の自宅でレコードとシンセとターン・テーブルを置いて、DJをだーっとやってるのを「だせえな」って思ってるはず(笑)。

そんなわけないですよ(笑)。でも「ダンディとは美学を生きた宗教のように高める者」というボードレールの定義に従えば、ダンディという称号が似合う日本のミュージシャンは、加藤和彦さん亡きいまとなっては幸宏さんが最後かもしれない、という気もします。
METAFIVEは、パーマネントなバンドとしてのポテンシャルに計り知れないものがあるので、これからの展開次第では大化けして、予想を超える飛躍を見せてくれる予感もあってワクワクしているんです。ディーヴォが『In The Beginning Was The End:The Truth About De-Evolution』(76年/チャック・スタットラー監督)みたいなショート・フィルムを作ったように、METAFIVEならではの映像作品も作ってもらえると嬉しいですね。

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