「All We Are」と一致するもの

Thundercat - ele-king

 待ち望んでいた皆さんに朗報です。パンデミックの影響で何度も延期になっていたサンダーキャットの来日公演、ついに振替の日程が決まりました。アーティストの強い意志もあり、今回発表するに至ったとのこと。
 なお依然として会場のキャパシティ制限があるため、各日2部制へと形態が変更されています。詳細は下記をご確認ください。

再振替公演日程決定!
来日公演形態変更[各日2部制へ]のお知らせ

先日政府より発表された水際対策の緩和を受け、大変長らくお待たせしておりましたサンダーキャット振替公演の日程が確定いたしました。ご協力いただいた関係各位、とりわけ前売チケットをご購入いただき、長期間お待ちいただきましたお客様には厚く御礼申し上げます。
指定の検査、ワクチン接種など入国に際し求められる要件をクリアすることで5月に開催する目処が立ち、またアーティストの強い意志もあり、急遽新日程を発表する運びとなりました。

ただし、コロナ禍でのイベント開催に係る規制、キャパシティ制限を踏まえて本公演の開催を実現するため、各日2回公演制(1st Show/2nd Show)への変更しなければならないことをご了承ください。安全面を最大限考慮しながら、皆様にお楽しみいただくための判断となりますので、何卒ご理解とご協力を宜しくお願い申し上げます。

THUNDERCAT 振替公演 新日程
2022/5/16 (MON) TOKYO GARDEN HALL
2022/5/17 (TUE) OSAKA BIGCAT
2022/5/18 (WED) NAGOYA CLUB QUATTRO

東京公演
2022/5/16 (月)THE GARDEN HALL
1st Show - OPEN 17:30 / START 18:15
2nd Show - OPEN 20:30 / START 21:15

大阪公演
2022/5/17 (火) BIGCAT
1st Show - OPEN 17:30 / START 18:15
2nd Show - OPEN 20:30 / START 21:15

名古屋公演
2022/5/18 (水) 名古屋 CLUB QUATTRO
1st Show - OPEN 17:00 / START 18:00
2nd Show - OPEN 20:00 / START 20:45

大変お手数をお掛けしますが、既にチケットをご購入いただいた皆様には、必ず [1st Show] [2nd Show] [どちらでも良い] のいずれかご希望のご申請いただきます。本イベントを主催するビートインクが、お客様の情報を取得・集計し、追って確定したご来場回をメールにてお知らせいたします。なお、こちらの手続きは、新型コロナウイルス感染症対策ガイドラインに定められたお客様の情報登録も兼ねております。当日のスムーズな入場の為ご協力をお願い申し上げます。詳細は各プレイガイドからのご案内メールをご確認ください。

【希望公演申請受付期間】
2022年3月23日(水)~2022年4月3日(日)

本公演は、政府、自治体および業界団体より示された新型コロナウイルス感染予防のガイドラインに基づいた対策を講じた上で開催いたします。こちらのガイドライン及び注意事項をご確認いただき、ご理解の上、ご来場いただけますようお願いいたします。

新しい公演時間の都合がつかないお客様には、下記期間、要項にてお買い求めになられたプレイガイドより払い戻しいたします。

【払戻し期間】
2022年3月24日(木)~2022年4月11日(月)

【払戻し方法】
※チケットをお買い求めいただいた各プレイガイドにて払い戻しの対応をいたします。
※上記期間外の払い戻しは出来ませんのでご注意ください。
※公演当日に会場での払い戻しの対応は行いませんので予めご了承ください。
※チケットを紛失した場合は一切対応出来ませんので予めご了承ください。
※半券が切り離されたチケットは払い戻しの対象外となります。ご注意ください。

■e+にてご購入のお客様:https://eplus.jp/refund2/
■チケットぴあにてご購入のお客様:https://t.pia.jp/guide/refund.jsp
■ローソンチケットにてご購入のお客様:https://l-tike.com/oc/lt/haraimodoshi/
■ビートインク / Zaikoにてご購入のお客様:https://zaiko.io/contactus
※上記Zaiko問い合わせフォームより、チケット払い戻し希望の旨ご連絡ください。
■SMASH friends 会員のお客さま:https://eplus.jp/refund2/

詳細はこちら
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10824

イベントに関するお問合せはビートインクまで:info@beatink.com
払い戻しについては各プレイガイドまでお問い合わせください。

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THUNDERCAT – JAPAN TOUR
New Schedule for the Postponed Performances
Notice of change in performance format

Following the relaxation of the entry restrictions recently announced by the Government, we are delighted to be able to finally announce the new schedule for The THUNDERCAT Japan tour. THUNDERCAT and his band are very big fans of Japan, and have agreed to undertake all necessary government requirements in order to make the shows happen. We greatly appreciate your understanding and cooperation in bringing THUNDERCAT to Japan and once again apologize for any inconvenience government or industry guidelines may cause.

The shows will go ahead at the announced venues on new dates below, however in light of COVID-19 considerations, we must modify the format to comply with safety regulations including venue capacity limits. In order to accommodate these restrictions and ensure that no-one that has bought a ticket misses out, Thundercat has agreed to perform two complete shows on each day of the tour. We ask for your cooperation with this and trust that all understand it is necessary for the safety of public, staff and the artist.

The new schedule is as follows:

Tokyo performance
2022/5/16 (Monday) THE GARDEN HALL
1st Show: OPEN 17:30 / START 18:15
2nd Show: OPEN 20:30 / START 21:15

Osaka performance
2022/5/17 (Tuesday) BIGCAT
1st Show: OPEN 17:30 / START 18:15
2nd Show: OPEN 20:30 / START 21:15

Nagoya performance
2022/5/18 (Wednesday) Nagoya CLUB QUATTRO
1st Show: OPEN 17:00 / START 18:00
2nd Show: OPEN 20:00 / START 20:45

We apologise for any inconvenience this may cause, but we would like to ask all those who have already purchased a ticket to follow the following preferred show selection procedures. Beatink, the organizer of these events, will collate the requests and notify you by e-mail of the result (either 1st show or 2nd show).

Following this procedure also serves as attendee recognition of the guidelines for measures against COVID-19. We will appreciate your cooperation in ensuring smooth admission on the day.

For further details, please check the guidance email from your respective ticket agency.

[Desired Show Application Validity Period]
23 March 2022 (Wednesday) - 3 April 2022 (Sunday)

All performances will take place under consideration of safety measures based on the guidelines for prevention of COVID-19, as determined by the national and local governments and relevant industry groups. Please be sure to check the “Guidelines for Countermeasures against New Coronavirus Infectious Diseases” and the precautions for purchasing tickets before making a decision regarding attendance.

For customers who cannot accommodate the new performance times, refunds will be made by your issuing agency under the following guidelines.

Refund period:
24 March 2020 (Thursday) - 11 April, 2022 (Mon)

Refund method:
Refunds will be provided from the ticket agency where you purchased your ticket.

* Please note that refunds are not possible outside the above period.
* Please note that refunds will not be provided at the venue on the day of the performance.
* Tickets with separated stubs are not eligible for a refund.
* Please note that we will not be able to reissue any lost tickets.

■ Customers purchasing via e+: https://eplus.jp/refund2/
■ Customers purchasing at Ticket Pia: https://t.pia.jp/guide/refund.jsp
■ Customers purchasing Lawson tickets: https://l-tike.com/oc/lt/haraimodoshi/
■ Customers who purchased at Beatink/Zaiko: https://zaiko.io/contactus?cid=26&type=customer
*Please use the Zaiko inquiry form above to let us know that you would like a ticket refund.
■ SMASH friends member customers: https://eplus.jp/refund2/

Click here for details
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If you have any questions, please contact Beatink: info@beatink.com

Horace Andy - ele-king

 ジャマイカの希代のシンガー、その宇宙クラスの甘い声によって、アーリー・レゲエの時代から“Skylarking” や “Money Money” といったクラシックを持つホレス・アンディ。その魅力たっぷりのヴォーカルはかれこれ半世紀近く、世界中の音楽ファンを魅了しつづけてきた。1991年、マッシヴ・アタック『Blue Lines』への参加によりレゲエ・ファン以外にもその存在を知られるようになったホレスだが、その後のベーシック・チャンネルによる一連の〈Wackies〉リイシューで彼の音楽に触れた世代もいるだろう。4月8日、このレジェンドの新作が〈On-U〉からリリースされる。
 現在、ジェブ・ロイ・ニコルズ、エイドリアン・シャーウッドとアスワドの故ジョージ・オーバンとのコラボによる “Try Love” が公開中だ。アルバムにはメッセージの込められた新曲から代表曲の再演までを収録、『Blue Lines』の “Safe From Harm” の新ヴァージョンも収められているようだ。かの名曲がどのように蘇ったのか──必聴の1枚です。

HORACE ANDY
美しいファルセットと卓越したメロディー・センスを持つ至高のシンガー
そしてマッシヴ・アタックが敬愛するレジェンド、ホレス・アンディ。

4/8 発売の最新作『Midnight Rocker』より、
ニュー・シングル「Try Love」を公開!

ジェブ・ロイ・ニコルズ、プロデューサーのエイドリアン・シャーウッド、そして亡きジョージ・オーバン(Aswad)が共同作曲!

〈On-U Sound〉は、ジャマイカ音楽の豊かな歴史において時代を超越する偉大なシンガーソングライターのひとり、ホレス・アンディによる真の傑作アルバムを紹介できることを非常に光栄に感じている。こ のパフォーマンスはまさに金色の星のごとく燦然と輝くものであり、私にとって大きな誇りである。 ──エイドリアン・シャーウッド

70年代、80年代に〈Studio One〉や〈Wackies〉などのレーベルで制作した「Skylarking」、「Money Money」他、数々の名作によって、世界中のレゲエファンから愛される存在となった伝説的シンガー、ホレス・アンディ。90年代以降はマッシヴ・アタックの作品に参加したことでレゲエ以外のシーンに衝撃を与え、彼らの全てのスタジオ・アルバムに参加、更に常に彼らのツアーを支える主要メンバーとして活躍しており、より幅広い音楽ファンを虜にし続けている。そんな彼が、エイドリアン・シャーウッドをプロデューサーにむかえて〈On-U Sound〉よりリリースする最新作『Midnight Rocker』(4/8発売)より、ニュー・シングル「Try Love」を公開!

Horace Andy - Try Love
https://youtu.be/6mDLSr4l1_c

「Try Love」ではジェブ・ロイ・ニコルズ、プロデューサーのエイドリアン・シャーウッド、そして亡きジョージ・オーバン(Aswad)が共同作曲を行った。楽曲には富と名声という虚飾を捨て、周囲の人々への愛を受け入れるという、普遍的な意識のメッセージが込められている。

『Midnight Roker』の制作に際し、プロデューサーを務めたエイドリアン・シャーウッドは、自身がリー・スクラッチ・ペリーのアルバム『Rainford』や『Heavy Rain』に携わって学んだ、円熟期を迎えたミュージシャンの作品にとってふさわしい取り組み方を踏襲した。一流のミュージシャンを集めたチームを編成し、何ヶ月もかけてパフォーマンスやアレンジやミキシングを仕上げていった。その結果完成した11曲は、優れたテクニックに裏打ちされ、丹念に作り上げられた楽曲となり、ホレス・アンディの唯一無二の歌声の魅力をより一層際立たせる結果となった。

曲目の中には、「Mr. Bassie」のように、ホレス・アンディの既存の名曲をセルフ・カバーしたものもあるが、「Watch Over Them」や「Materialist」のように、多くの楽曲は現代ならではのメッセージを込めて新たに作曲したものである。さらに、アンディにとって最も深い交流のあるグループ、マッシヴ・アタックの作品の中から、初期の大人気曲「Safe From Harm」の新バージョンまでを収録している。原曲の「Safe From Harm」ではシャラ・ネルソンがボーカルを務めていたが、ここではホレスがマイクを握っている。

今回のアルバムでバックを支えるバンドには、〈On-U Sound〉を代表する精鋭ミュージシャンが揃っており、参加メンバーには、ガウディ、スキップ・マクドナルド、クルーシャル・トニー、アイタル・ホーンズ、そして亡きスタイル・スコット、ジョージ・オーバンが名を連ねている。

リー・スクラッチ・ペリーの『Rainford』と同様に、『Midnight Roker』に関しても全曲のダブミックスバージョンを収めたアルバムの制作が予定され、2022年後半のリリースが期待されている。

待望の最新作『Midnight Rocker』は4月8日にCD、数量限定のCD/LP+Tシャツセット、LP、デジタルでリリース! 国内盤CDには解説が封入され、ボーナストラック「My Guiding Star」が収録される。LPは日本語帯付き仕様の限定盤(レッド・ヴァイナル)に加え、通常盤(ブラック・ヴァイナル)でのリリースが予定されている。



label: On-U Sound / Beat Records
artist: Horace Andy
title: Midnight Rocker
release date: 2022.04.08 FRI ON SALE

国内盤CD BRC695 ¥2,200+税
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説・歌詞対訳封入

国内盤CD+Tシャツ BRC695T ¥6,600+税
帯付き限定盤(レッドヴァイナル)+Tシャツ ONULP152BRT

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12365
Tower Records: https://tower.jp/artist/discography/174938

TRACKLISTING:
01. This Must Be Hell
02. Easy Money
03. Safe From Harm
04. Watch Over Them
05. Materialist
06. Today Is Right Here
07. Try Love
08. Rock To Sleep
09. Careful
10. Mr Bassie
11. My Guiding Star (Bonus Track)

DJ Stingray 313 - ele-king

 これは嬉しいニュース。昨年の「Molecular Level Solutions」リリース時に予告されていたとおり、DJスティングレイのファースト・アルバム『F.T.N.W.O.』が、彼自身の主宰する〈Micron Audio〉から4月11日にリイシューされる。アートワークも刷新された模様。
 もともと同作は2012年にベルギーの〈WéMè〉からリリースされていた作品で、長らく入手困難な状態がつづいていた。これを機に、ドレクシアの魂を継承する第一級のエレクトロを堪能したい。

 なお今回のリイシューに先駆け、〈Micron Audio〉からはコペンハーゲンのプロデューサー Ctrls によるEP「Your Data」もリリースされる。2月28日。そちらもぜひチェックをば。
 

Cantaro Ihara - ele-king

 70年代ソウルのマナーを取り入れたグルーヴィなサウンドで注目を集めるミュージシャン、イハラカンタロウ。彼によるウェルドン・アーヴィンのカヴァー「I Love You」が7インチで2月2日にリリースされる。イハラ本人による訳詞が印象に残る、メロウな1曲です。ミニライヴも予定されているとのことなので、下記をチェック。

 ちなみにウェルドン・アーヴィンはニーナ・シモンのバンド・リーダーだったキイボーディストで、ブラック・アーツ・ムーヴメントとリンクした“To Be Young, Gifted and Black” の作詞者として知られている。90年代にはモス・デフとコラボ、2002年の死の後にはマッドリブが丸ごと1枚トリビュート・アルバムをつくったり、Qティップがその名をシャウトしたりするなど後進への影響も大きい(ドキュメンタリー「Digging for Weldon Irvine」にはジェシカ・ケア・ムーアも登場しコメントを述べている)。

Weldon Irvineによるレア・グルーヴ~フリー・ソウルクラシック「I Love You」を日本語カヴァーした“イハラカンタロウ”最新シングル解禁! 完全限定生産7インチシングルの発売も記念してタワーレコード渋谷店でのインストアライヴも決定!

70年代以降のソウルやAORをベースに幅広い音楽スタイルやエッセンスを吸収したサウンドで現代のクロスオーヴァー・ソウルを体現する“イハラカンタロウ”。本日解禁となるWeldon Irvineの名曲「I Love You」日本語カバーは、全国各地のラジオ局でパワープレイも続々決定するなど現代のジャパニーズ・ソウルとも言うべきメロウ&グルーヴィーなサウンドで好評を得ています! さらに極上のメロディと洗練されたアレンジやコードワークで聴かせる自身の新曲「You Are Right」と「I Love You」とのカップリングによる7インチシングル発売を記念して、2/6にタワーレコード渋谷店でのインストアライヴも決定、お見逃しなく!

・「I Love You」(Official Audio)[日本語歌詞字幕付き]
https://youtu.be/dMyNM4NzAT4

イハラカンタロウ インストアイベント
■日時:2月6日(日) 15:00~
■会場:TOWER VINYL SHIBUYA(タワーレコード渋谷店6F)
■内容:ミニライブ&サイン会
■参加方法:観覧フリー

詳細はこちら
https://p-vine.jp/schedules/145605

【リリース情報】
アーティスト:イハラカンタロウ
タイトル:I Love You / You Are Right
7inch Single (2022.2.2 Release)
レーベル:P-VINE
品番:P7-6291
定価:¥1,980(税抜¥1,800)

[Track List / Digital Single]
・I Love You (2022.1.19 Release)
・You Are Right (2022.2.2 Release)

[Purchase / Streaming / Download]
https://p-vine.lnk.to/T4f5Ij

【イハラカンタロウ プロフィール】
1992年7月9日生まれ、作詞作曲からアレンジ、歌唱、演奏、ミックス、マスタリングまで手がけるミュージシャン。都内でのライヴ活動を中心にキャリアを積み2018年に1st EP『CORAL』を発表、聴き心地の良い歌声やメロディ、洗練されたアレンジやコードワークといったソングライティング能力の高さで徐々に注目を集めると、2020年4月に1stアルバム『C』(配信限定)、同年12月にはアルバムからの7インチ「gypsy/rhapsody」をリリースし各方面から高い評価を受ける。またギタリスト、ミックス&マスタリングエンジニアなど他アーティストの作品への参加など幅広い活動を行なっている。

Twitter:https://twitter.com/cantaro_ihara
Instagram:https://www.instagram.com/cantaro_ihara/

Burial - ele-king

文:小林拓音

 周知のようにブリアル*は2007年の『非真実(Untrue)』を最後に、アルバム単位でのリリースを止めている。なのでこの新作「反夜明け(Antidawn)」はおよそ14年ぶりの長尺作品ということになるわけだが……2ステップのリズムを期待していたリスナーは大いに肩透かしを食うことになるだろう。本作にわかりやすいビートはない。もちろん、これまでも彼はシングルでノンビートの曲を発表してきた。今回はその全面展開と言える。
 厳密には、冒頭 “Strange Neighbourhood” の序盤、聴こえるか聴こえないかぎりぎりの音量で4つ打ちのキックが仕込まれている。それは “New Love” の中盤でも再利用されているが、そちらではより聴取しやすいヴォリュームで一瞬ハットのような音がビートを刻んでもいる。あいまいで、小さく、すぐに消えてしまう躍動。間違ってもフロアで機能させるためのものではない。それらは数あるパッチワーク素材のひとつにすぎず、うまく思い出せない遠い記憶のようなものだ。

 明確なダンス・ビートの不在を除けば、変わっていないところも多い。トレードマークのクラックル・ノイズ。もとの素材がわからなくなるまで激しく加工されたヴォーカル。サウンドトラックなどから引っ張ってきたと思しき上モノたち。“路上生活者(Rough Sleeper)”(2012)以降のブリアルを特徴づけてきた、聖性を演出するオルガン。
 あるいは、しゃりしゃり/かちゃかちゃと鳴る金属的な音。咳払い。雨の音。虫の歌。謎めいたキャラクターの震え声。その他いくつかの、あたかも具体音のごとく響く断片たち。その大半はおそらく(フィールド・レコーディングではなく)ヴィデオ・ゲーム(の、さらに言えばユーチューブにアップされた動画)からサンプルされたものだろう。とりわけ強く印象に残るのは “Antidawn”、“Shadow Paradise”、“Upstairs Flat” の3曲に忍ばせられた、ライターで火をつける音だ。

 コラージュはブリアルの音楽を成り立たせるもっとも重要な技法である。今回もそのうち元ネタ特定合戦が開始されるにちがいない。たとえば最後の “Upstairs Flat” で二種類の音色に分散されて奏でられている旋律。下降時の音階が異なるので間違っているかもしれないが、たぶんこれ、エイフェックス『SAW2』収録曲(CD盤でいうとディスク2の8曲め、通称 “Lichen”)じゃないかと思う。直前に挿入されるたった2音のパーカッションも “Blue Calx” に聞こえてしかたがない。
 ダンスを出自とするブリアルの音楽がアンビエントとしての可能性を秘めていることはあらためて確認しておくべきだろう。クラックル・ノイズを過去性の刻印として解釈するのもいいが、それは無個性かつ無展開であるがゆえ周囲に溶けこむ音にだってなりうる。

 静寂はそして、ことばを引き立たせる。ブリアルを特徴づける闇夜と孤独は、冒頭 “Strange Neighbourhood” ですでに十分すぎるほど表現されている。「通りを歩く/夜になると/行き場がない/どこにもない/通りを歩く(Walking through the streets / When the night falls / There is nowhere / Nowhere to go / Walking through the streets)」。この「行き場がない(Nowhere to go)」は、「ひどい場所にいる(I'm in a bad place)」とのフレーズが印象的な表題曲 “Antidawn” でも繰り返され、「夜になると(When the night falls)」のほうも “Shadow Paradise” でふたたび顔をのぞかせている。どうしようもない閉塞感。それを、まったく出口の見えない資本主義と接続したくなる気持ちもわからなくはない。

 が、ポイントはそこではない。「Antidawn」にはまとまった長さが与えられている。ゆえに各曲のことばは照応し、シングルでは発生しようのなかった相互作用が際立っている。
 たとえば “Shadow Paradise” では、孤独に抗うかのように何度も「ちょっとだけ抱きしめさせて(Let me hold you for a while)」というフレーズが繰り返されている。「こっちに来て、愛しいひと/暗闇のなかへ連れていって(Come to me, my love / Take me to the dark)」「いっしょに夜のなかまで連れていって(Take me into the night with you)」と、つねにだれかの存在がほのめかされているのだ。
 この「you」はほかの曲にもこだましている。“Strange Neighbourhood” では「あなたがこっちにやってきた(You came around my way)」と、“Antidawn” では「あなたが入れてくれたら(If you let me in)」と、“Upstairs Flat” では「いちばん暗い夜のどこかにあなたがいる/そこに行きたい(You're somewhere in the darkest night / I wanna be there)」というふうに。

 最大のテーマであるはずの闇夜や孤独を凌駕するほど、本作には「あなた」が横溢している。そしてそんな「あなた」を「わたし」は求めている。「あなた」とはライターであり、星だ。「あなた」がいれば暗闇のなかでも歩いていける、と。
 いやもちろん、2007年の “Archangel” も「あなた」を求めていた。でもそれは2ステップのリズムの勢いに任せて放たれる、「きみを抱きしめる/ひとりじゃ無理、ひとりじゃ無理、ひとりじゃ無理」という、幼く、ひとりよがりで、一方的な願いだった。「Antidawn」はちがう。今回の「わたし」はどこか控えめだ。大人になったということかもしれない。なにせあれから14年のときが過ぎているのだ。
 ダンス・ビートの放棄、静けさの醸成、ことば同士の照応。かつてとは異なるアプローチで「あなた」と出会いなおすこと。いまブリアルは初めて本格的なアンビエント作品に取り組むことで、ほんとうの意味で他者に出会おうと努めているんだと思う。多くのひとが内省にとらわれたパンデミック以後の世界にあって、外からやってくるものへと向かうその姿勢はきっと重要な意味を持つにちがいない。

* 日本では「ブリアル」と表記されることが多いが、実際の発音は「ベリアル」のほうが近い。

HYPERDUB CAMPAIGN 2022
https://www.beatink.com/products/list.php?category_id=3

Next >> キム・カーン

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文:キム・カーン
翻訳:箱崎日香里

 ブリアルのブルータリストなネイバーフッドにようこそ──「Antidawn」はブリアルのこれまでで最も無防備で生身の作品だろうか?

 彼の最新作──45分という長尺を考慮すればもはやアルバムと呼ぶべきに思えるが──で、唯一聞こえてくるビートは、ポトポトという雨音だけだ。これまでのブリアル作品でもお馴染みのこの音は、彼が毎日のように雨が降り続くイギリス出身であることを物語っている。

 ひとたび「Antidawn」の世界に足を踏み入れると、その舞台セットに飲み込まれる。1曲目 “Strange Neighbourhoods” が女性の咳払いとともに幕を開けると、たちまちひとつの物語のはじまりが告げられる。いわば、ブリアルのロックダウン・サーガとでも呼べるだろう。

 「You came around my way(私のところに来たんだね)」というささやきが荒涼とした景色の中に一陣の風をかき立てたのち、きらめくチャイムに招き入れられて、共感覚によってグレーに彩られた、物語の舞台となるとある地区の姿が現れてくる。トラックは中ほどでブレイクダウンに入り(ブリアルのダンス・ミュージックのバックグラウンドがまだ完全に消失してはいない証だろう)、そのあとに聞こえる「my love」の哀しげな呼びかけが、本作の主人公と思われる人物の感情を揺さぶる。

 続くタイトル・トラックは Ronce を思わせるASMRではじまり、主人公に新たな試練が降りかかる。

I'm in a bad place / with nowhere to go
(まずい状況にいる/行く先もない)

 不穏なシンセの暗闇の中を、ときおりチャイムの輝きが照らす。

you're one of them / I'm not your kind
(あなたは彼らの仲間だ /私はあなたたちの仲間じゃない)

 ここから登場人物たちのコミュニケーションがはじまると、少しずつ物語が肉付けられてゆく。チャイムのきらめきの緊張感が高まっていく先には、ブリアルが構築したこの不毛の地の中の小休止が見えてくる。

 “Shadow Paradise” で響くオルガンの音は、ロックダウン中にブリアルは教会をよく訪れたのだろうかと想像させる。曲はブリアルが変化していくのと同じように多幸感に満ち溢れている。そこに随伴するのは管楽器風のシンセ音や母性的なヴォーカルだ。次の箇所は故ソフィーのトラックに入っていても違和感がないであろうし、まるで生温かい抱擁のようだ。

There's one / alone in our reverie / ...I'll be around
(誰かがいる/たったひとりで私たちの幻想のなかに/……わたしはそばにいる)

 登場人物たちが新たな愛(New Love)を見つけると同時に、「Antidawn」の物語も動き出す。

ever since I was young / I wanted to get away / free beyond everything / for you
(幼い頃からずっと/ここから離れたかった/全てから解放されて/あなたのために)

 若い恋人たちの逃避行を、「For you」の反復の間にちりばめられたメロディーの断片が彩る。無限に増大するような重層的な音のテクスチャに、チャイムの閃きと、そこここで鳴るヴァイナルのクラックル・ノイズが重なり合う。次の瞬間、シーンはシンプルなアンビエント・パッドの音に合わせて無邪気に踊る主人公たちへと切り替わり、やがてトラック中盤でブレイクダウンに入る。「Come unto me / Come on come on」と手つかずの野原を奔放に跳びはねるふたりの蜜月はここでピークを迎えて終息へと向かい、オルガンの厳粛な響きがシンセのアルペジオをかき消すと、ふたたびブリアルの雨が降ってくる。

 「New way / my way」の声が響く “Upstairs Flat” は傷心の主人公を映し出し、呼吸音とクラックル・ノイズが細心の注意をもって重ねられた低いドローン・シンセが、新しいフラットの未知の環境を照らし出す。

I won't be there / when you're alone
(私はそこにいない/あなたがひとりのとき)

 甘くほろ苦いヴァイオリンのメロディーが闇に響く。「Come get me」の声で曲は静まり、雨音とともに終わりを迎える。

 私たちはディストピア世界のサバービアを描いたひとつの物語を聞き終え、すべての登場人物に出会い、彼らのストーリーや名前を知り、そして彼らが一礼して舞台を去ったのち、静寂のなかに取り残される。ひょっとしたら、ビートがないブリアルは、それを失う前のブリアルと同様に素晴らしいのではないか。そんな思いを巡らせながら。

 パンデミック以降の世界で、ペリラ(Perila)やウラー(Ulla)スペース・アフリカといった多数のアーティストがサウンド・コラージュやASMRをアンビエントのフィールドに持ち込む中、ブリアルの「Antidawn」はこのアンビエント界における新世代の蜂起を静かに補完している。

HYPERDUB CAMPAIGN 2022
https://www.beatink.com/products/list.php?category_id=3

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Text: Kim Kahan

Welcome to Burial’s brutalist neighbourhood. Is this Burial at his most vulnerable yet?

The only beats we really hear on his newest EP - although at a meaty 45 minutes it can be considered an album at this point - are the pattering of rain, typical of Burial’s output to this point. Telling that he’s from England, where it rains everyday.

Heading into Antidawn, we’re struck by the mise en scene. A feminine clearing of a throat signals the beginning of the first track, "Strange Neighbourhoods". At once this appears as the telling of a story, potentially the Burial lockdown saga.

Whispers “you came around my way” stoke the wind that swirls around a barren landscape. Chimes twinkle as they welcome us to the neighbourhood which my inner synaesthesia unanimously agrees is grey. The song enters a breakdown halfway (it becomes apparent that Burials’ dance music background has not disappeared just yet) before emerging with a plaintive voice calling out “my love”, stirring emotion for what we presume is the protagonist of the album.

The title track "Antidawn" begins with a Ronce-esque ASMR fumbling and another trying time for our character “I’m in a bad place / with nowhere to go” and ominous synth is punctuated by chiming that glimmers in the darkness. We then start to see the story fleshed out with conversations as the character begins to communicate “you’re one of them / I’m not your kind”. Twinkling intensifies and we start to see the hint of respite in this barren land of Burial’s construction.

"Shadow Paradise" welcomes organs and we wonder if Burial visited church much during lockdown. The song is about as euphoric as Burial gets, with piping pads and a maternal vocal “there’s one / alone in our reverie / ...I’ll be around” which wouldn’t be out of place on a Sophie (RIP) track and feels like a lukewarm hug.

The story of Antidawn moves on as they find "New Love", “ever since I was young / I wanted to get away / free beyond everything / for you”, snatches of melody intersperse the “for you”s as the young lovers elope through the track. Vinyl crackles back and forth as chimes twinkle over a million multiplying textures. The next moment sees them dancing along innocently simple ambient pads before heading down to a breakdown mid-track. Bounding through fields of wild abandonment “come unto me / come on come on” as the lovers enter the post-honeymoon phase and it winds down, arpeggio synth disappears as the organ solemnly ploughs on and the rain comes down in true Burial style.

"Upstairs Flat" sees the protagonist post-heartbreak, “new way / my way”, entering the unknown of a new flat as deep, droney synth kicks in, breaths and crackles layered carefully on top. “I won’t be there / when you’re alone” as the bittersweet melody of violin punctuates the darkness. “come get me” and the song calms down, as rain comes in and the song finishes.

We feel like we’ve just listened to an entire story about a suburban dystopia and met all the characters and learnt all their stories and their names and then they’ve bowed out again and we feel alone in the silence. And we think that maybe Burial without beats is just as good as Burial with them.

In this post-COVID world we have seen artists such as Perila, Ulla, Space Afrika and more bring sound collages and ASMR to the ambient landscape and Burial’s Antidawn quietly complements this modern ambient rebellion.

HYPERDUB CAMPAIGN 2022 https://www.beatink.com/products/list.php?category_id=3

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文:髙橋勇人

 COVID-19が猛威を振るう中でも、ソロ・シングル「Chemz / Dolphinz」(2020)、フォー・テットトム・ヨークとの12インチ「Her Revolution / His Rope」(2020)、ブラックダウンとのスプリット「Shock Power of Love E.P.」(2021)と、コンスタントに作品を出してきたブリアル/ウィル・ビーヴァンは、45分にも及ぶ「Antidawn」で2022年の幕をこじ開けた。
 発表に際して公開された写真には、降り頻る雪のなか、楽しそうに両手を広げる本人の姿がある。マスクをしていることから、これはパンデミック中に撮られたものであることがわかる。今作は彼からの「近況報告」なのだろう。
 「Antidawn」にはビートがなく、スタイルとしては2019年のシングル集『Tunes 2011-2019』でも顕著だったアンビエント的なサウンド・コラージュであり、楽曲や映画からサンプリングされたであろうスポークン・ワードが音の流れを牽引している。前述のシングルでは、レイヴ・スタイルのハードなビートで、フロアの期待に答えつつ、自身の表現の幅を増幅させていたのに比べると、今作には明瞭な新しさはない。
 現在、電子音楽シーンではエクスペリメンタル/アンビエントの新たな光が、緩やかな木漏れ日のように、意気消沈した世界へと降り注いでいるのに気づいている方は多いだろう。ウラーやペリラ、あるいは日本のウルトラフォッグの参加作品などで知られる、ASMR的感覚、牧歌性、ときにメタリックな美学を繋ぐドイツの〈Experiences Ltd.〉(最近〈3XL〉に改名?)。イーライ・ケスラーや主宰のひとりでもあるフェリシア・アトキンソンを擁する、ミュジーク・コンクレートやエレクトロニクス/アコースティックを行き来しサウンド/ソニックの可能性を探求するフランスの〈Shelter Press〉。アーティスト、レーベルとともに、この勢いは衰えを知らない。作風的には「Antidawn」はその流れに連なっている、といえる。

 今回もブリアルのインスピレーションは彼の周囲からやってきているようだ。過去作を振り返ってみても、路上生活者(Rough Sleeper)、ねずみ(Rodent)、盗まれた犬(Stolen Dog)など、ブリアルは(特にロンドンでは頻繁に目にする)日常の構成物から楽曲のタイトルを採用してきた(そしてイルカ(Dolphinz)など彼が好きなもの)。
 「Antidawn」が奇妙深いのは、「奇妙な近所(Strange Neighbourhood)」や「上の階のフラット(Upstirs Flat)」といった日常的アクターが、造語である「反夜明け(Antidawn)」、「影の楽園(Shadow Paradice)」、「新たな愛(New Love)」といった抽象的で幻想的な面をも醸し出すタームで繋がっているという点だ。
 ブリアルは『Untrue』(2007)収録の “In Macdonalds” などがそうであるように、日常風景にかすかに存在する非日常性を サウンドで描くのに長けたアーティストでもある。「Antidawn」をその尺度で考えるならば、これらのタームが放つ印象は、ロックダウンによる隔離生活によって、日常と非日常の境目が人連なりに曖昧になっていく世界/生活と違和感なく連想できる。45分はそのサウンドスケープであり、ここでは踏み込まないが、スポークン・ワードはそこに広がるドラマツルギーとして考え得られる。ジャケットのイラストはその住人なのかもしれない。
 ブリアルは今作において一層エモーショナルになっているようだ。雨の音で緩やかにはじまる1曲目は、荘厳なオルガンを経て、徐々に電気グルーヴの “虹” のシンセ・フレーズにも似た優美なメロディにまで展開する。2曲目ではドローン・サウンド上で言葉が舞い、彼のシグニチャー・サウンドであるフィルターがかかったノイズやウィンドチャイムを機に、その表情が変わっていく。一曲のうちにいくつもの楽曲が組み込まれているような構成であり、そのアレンジも「Antidawn」を起伏のあるドラマとして醸成している。

 ここにないものはビートなのだが、それはある種、ブリアルと現実のダンスフロアを繋ぎ止めていたダンスというリアルな身体性の欠如であるとも考えられる。言葉においても、孤独や救済に焦点が当てられるものの、肝心なそこで生きる者の顔は曖昧なままだ。
 対照的に、現在のシーンでは身体や自意識への回帰、あるいはその問い直しが顕著におこなわれている。例えばブリアルのホームである〈Hyperdub〉から、2021年にデビュー・アルバム『im hole』を出したロンドン拠点のアヤは、自分の出自をラップ/詩で歌い、複雑なポリリズムとプロダクションは、入り組んだ身体のようにその言葉を基礎づけている。
 同年、先の〈Shelter Press〉からアルバム『17 Roles (all mapped out)』をリリースしたテキサスの前衛ドラマー/電子作家のクレア・ロウセイが頻繁にテーマにするのは、自身の肉声と機械によるエッセイの読み上げと、涙腺を緩やかに刺激するアンビエントを経由した、身体とそこを横切っていく人間関係だ。
 世界に再び太陽が登ろうとする2022年、私たちが聞くべきなのは、待ち受ける関係性のしがらみを再び生き抜いていくヴァイタリティに溢れたそのようなサウンドではないか。閉じきった2020年のような「Antidawn」が位置している太陽が登らない世界は、そこからは少し遠いように思える。
 愛、ドラッグ、ジェントリフィケーション、移民、階級、リズム&低音の科学が渦巻くUKガレージやダブステップとの緊張関係のなかで『Untrue』生まれたように、アンダーグラウンド主義者ブリアルは何かの中心との距離をとりつつも、そこと呼応することができる作家だ。「Antidawn」がロックダウンの世界であるならば、次はそのアフターの世界になる。「上の階のフラット」で/から彼が何を見たのか、次の長編作にその答えを待つ意味は大いにある。

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interview with Jun Miyake - ele-king

 ジャズ、ロック、エレクトロニカ、クラシック、現代音楽、フランスやブラジルをはじめ世界各地の音楽など、多彩な音楽の要素をハイブリッドに融合し、映像性も豊かに展開する作曲家、三宅純の音楽は、ユニバーサルにしてパーソナル。聴き手の五感を刺激し、自由な想像の世界へと誘う。
 80年代、10代で日野皓正に才能を見出され、USAボストンのバークリー音楽大学で学び、帰国後、ジャズ・トランペッターとして活動をはじめた三宅純は、既成のジャンルにとらわれず冒頭に記した多彩な音楽を飲み込んで、独自の音楽世界を築いてきた。この15年余りは、パリを拠点に活動し、映画、演劇、舞踏、CMの音楽なども手がけ、中でも舞踏家・振付家、故ピナ・バウシュのドキュメンタリー映画『ピナ/踊り続けるいのち』(ヴィム・ヴェンダース監)の音楽は名高い。
 海外でも高い評価を得た三部作のアルバム『Lost Memory Theatre』(2013~2017年)に続き、2021年12月に発表したニュー・アルバムが『Whispered Garden』。東京、ヨーロッパ、南北アメリカで主にリモート録音をおこない、世界各国の多彩な歌手と演奏家が参加した新作について、話を聞いた。

「時間の流れる速さや順番が、訪れるたびに異なる庭園」というところに落とし込もうと思って。その庭園に行くと同じ曲が「あれ? この曲さっき別の人が歌っていなかったっけ? でも何かが違う」みたいになってるような。

『Lost Memory Theatre』の三部作が完結して次のチャプター、この『Whispered Garden』の構想に着手したのはいつでしたか?

三宅純(以下JM):構想、コンセプトが先ではなく、2015年ぐらいから単発で思いついた曲を作っていったのですが、実はアルバム・タイトルが全然決まらなくて、ほぼ全曲、出揃った後に、これは何か庭園にまつわる作品なのかもしれないと気づいたんです。「ガーデン」という言葉が最初に出てきて、歌手のリサ・パピノーに「ガーデンを使ったタイトルを思いついたら全部教えて」と相談して、自分でもいっぱい提案して、結局5~60個は出たと思います。そうこうするうちに『トムは真夜中の庭で』という本のことを思い出して。小さい頃に読んだ本なのでディテールはあまり覚えてなかったんですけど、ウィキペディアで粗筋を読んだら、これはもしかしたらアルバムと同じ世界観かもと思ったんです。「ガーデン」という言葉をどこかから囁かれた気がしたので、『Whispered Garden』というタイトルにしました。

このアルバムを最初に聴いたときに、三宅さんの脳内を旅行しているようなイメージが勝手に浮かんできました。いまうかがった、曲から作っていったというプロセスの影響があるんでしょうか。

JM:パンデミックをはさんだ、自分の環境も含めていろんなことがめまぐるしく変わっていった時期なので、脳内光景みたいなものが変わっていったのは確かだと思います。『トムは真夜中の庭で』の粗筋で僕がいちばん「あっ!」と思ったのは「時間の流れや速さや順番が訪れるたびに異なる庭園」というところで、それは僕が描きたかった、自分の中の世界と外の世界が交わるところでもある気がして。

今回もいろんな国の、いろんな分野のミュージシャンが参加しています。中でも「おっ!」と思ったのが2曲に参加したジャズのレジェンド、デイヴ・リーブマンでした。彼との出会いからはじまる歴史を聞かせてください。

JM:最初に彼の音を聴いたのは高校生のときだったと思います。彼が入ったマイルス・デイヴィスのバンドや菊地雅章さんのユニットはじめ、いちばんよく聴いてたのは、エルヴィン・ジョーンズの『Live at the Lighthouse』、スティーヴ・グロスマンとの2サックスのバンドでした。その頃から、彼らのフレージングがいちばん好きで、僕もトランペットでああいうふうに吹きたいと思っていました。76年に18歳でニューヨークに行って日野皓正さんのお宅に2カ月ほど居候してた頃、日野さんがデイヴ・リーブマンのバンドのメンバーになり、彼のロフトでのリハーサルに連れてってくれたんです。そこで初めて間近で見て、リハーサルが終わった後、スティーヴ・グロスマンも遊びに来てセッションになり、2曲ぐらい参加させてもらったんです。太刀打ちできないなっていう印象しかなかったですけど。そこで初めて個人的な接点がありました。向こうは覚えてないですけどね、自分のところに1回来ただけの若造のことなんて。

日野(皓正)さんがデイヴ・リーブマンのバンドのメンバーになり、彼のロフトでのリハーサルに連れてってくれたんです。リハーサルが終わった後、スティーヴ・グロスマンも遊びに来てセッションになり。太刀打ちできないなっていう印象しかなかったですけど。

今回、デイヴ・リーブマンとコンタクトをとったきっかけは?

JM:流れとしては本末転倒なのかもしれませんが、宮本大路というサックス奏者が亡くなってしまい(注:2016年、ガンで他界。享年59歳)、彼が生きてたら「じゃあここはちょっと、グロスマンとリーブマンを混ぜた感じで」とお願いしてたと思うのですが、いっそのこと一足飛びに本物まで行っちゃえ、というのが発想の原点です。

アルバムにはいま話に出た宮本大路さんの演奏もあります。他にも、以前のアルバムの中で聴いていたような既視感をおぼえる瞬間が何度かあって、ベタな言い方ですが音楽にもサステナビリティがあるのかなあ、なんて感じてしまいました。

JM:サステナビリティ(笑)! 彼(宮本氏)の存在は自分の音楽にとってすごく大事で、作り込んだ青写真を混ぜ返してくれると言うか、裏を見せてくれるようなところがあって、曲を書いていると彼の演奏が聞こえてくることがあるんですね。でも新しい演奏をしてもらえないことになっちゃったので、過去に録りためたものから、いわゆるウィリアム・バロウズ的なカットアップで、嵌めていってるんです。なので既視感がそこから生まれるかもしれません。ただ “Progeny” は、2015年に録った未公開の曲です。他の人の演奏の中にも、以前の音源をまたもってきたものもあります。アート・リンゼイのノイズ・ギターとか。それなりに大変な作業なんですけどね、全部掘り起こして、ここならハマるかなあという試行錯誤……。

“Undreamt Chapter” は2020年、TOKION(webカルチャーマガジン)の依頼で作った曲ですね。近年、大活躍のピアニスト、林正樹さんが参加していて、おそらく初共演だと思いますが、彼と知り合ったのはいつ頃ですか?

JM:僕の、めったにやらないライヴによく来てくれていることを大路くんに聞いてたんです。で彼が鬼怒無月さんとアコーディオンの佐藤芳明さんとやってるバンドでパリに来たときに紹介されたのが、10年くらい前でしょうか。その後、CMで演奏をお願いして以来、折に触れて参加していただいています。とても優秀な演奏家ですね。

“Le Rêve de L’eau” で歌っているアルチュール・アッシュ。昔からいろんな関係があったと思いますが、今回の参加に至るストーリーを教えてください。

JM:アルチュールにとって、それが名誉かはわからないんですけど、この曲は最初、デヴィッド・シルヴィアンにお願いするつもりで、どんなコラボにするか、2ヶ月ほど往復書簡を続けていたんです。彼はクリエイションに関して本当に真摯で、過去の自分を再現したくないって思いが強くて、もしかしたら引退するかもってところから、「君とだったらやってみようかな」というところまでは揺り戻せたんです。でもこの曲を聞かせたら、「過去の自分が聞こえてくる」と言われて、それはそうかもなぁと、アラビック・レゲエのような曲も作ってみたのですが「それでもやっぱり歌うと自分になっちゃう」と。結局、今回のアルバム・リリースには間に合わないということになったんです。それでもこの曲は収録したかったので、事情は伏せてアルチュールに聞いてもらったところ、ぜひやりたいと言ってくれたんです。彼は表現も存在感も独特で素晴らしいですよね、音域によって声の響きが変わるのが興味深いです。

“Time Song Time” を歌っているブロン・ティエメンは、初共演ですね?

JM:この曲はそもそもイメージとして、ギャヴィン・ブライアーズの “Jesus Blood Never Failed Me Yet” や、ハル・ウィルナーがプロデュースしたウィリアム・バロウズの “Falling in Love Again” といった酔いどれの雰囲気が欲しくて、このパンデミックの世へのララバイを作ってみたかったんですね。で、リサ・パピノーを通じて、彼女と同じバンドにいたことがあるブロン・ティエメンを知りました。彼は独特のライフスタイルで生きていて、曲の最後のほうで喋ってるところは自分で作った言語だったりして。不思議な才能なんですよ。

ブラジルの音楽家では、前作に続いてブルーノ・カピナン、そしてヴィニシウス・カントゥアリアは久々の参加ですね。

JM:ヴィニシウスにはいままで、ギターでは何度か参加してもらってたんですが、歌ってもらったのは『Innocent Bossa in the mirror』(2000年)以来です。ヴィニシウスが歌った “Parece até Carnaval” と同じメロディーが、ブルーノの歌った最後の曲 “Arraiada” で、途中まで出てくるんですが、これは最初、ブルーノに作詞と歌を頼んだんです。ただ、大サビのメロディーに詞をつけられずに止まっちゃって、そのうちに彼がコロナにかかってしまいました。それをヴィニシウスに伝えたらすぐに歌詞を付けて歌ってくれたんです。しばらくしてブルーノから治ったという連絡が来たので、それならアレンジを変えて大サビ違いの曲も作ってみようと。ライナーノーツにも書いた「時間の流れる速さや順番が、訪れるたびに異なる庭園」というところに落とし込もうと思って。その庭園に行くと同じ曲が「あれ? この曲さっき別の人が歌っていなかったっけ? でも何かが違う」みたいになってるような。

究極的には時間を操作したい、支配したいっていうか。それはつまり過去と未来と現在の共存でもあり、それが混濁した世界でもあり。音楽にはそういう力があると思うので。

三宅さんの音楽には、最初にお話しした脳内旅行の面と同時に、聴き手の僕たちに、個々の幼児体験だったり風景だったり、「あれ? これって……」というデジャ・ヴ現象を引き起こす力があると思います。

JM:それは僕にとっても嬉しいコメントです。究極的には時間を操作したい、支配したいっていうか。それはつまり過去と未来と現在の共存でもあり、それが混濁した世界でもあり。音楽にはそういう力があると思うので。

作曲に関して、パンデミック以前と以降で変わったところ、違いなど、ご自身で感じられてますか?

JM:特にTOKIONの依頼で作った “Undreamt Chapter” は、打ち合わせが最初の緊急事態宣言の前夜、六本木だったんですよ。街も雰囲気が違っていて、これから何が起こるんだっていう緊迫感がすごかったですね。でも帰宅すると、窓から見える景色は全く平穏で、静と動のコントラストが面白くて、僕にとっては今回のパンデミックの象徴みたいなのがこの曲。これが分岐点でした。

こんな時代ではありますが『Whispered Garden』をライヴで展開するとしたら、『Lost Memory Theatre』のライヴと編成などは変わりますか?

JM:近年やらせていただいたライヴは、いろんなものに対応できる編成だったので、あの16人編成を許していただける境遇であれば、このアルバムも再現できます。このアルバムは、パンデミック以降に書いた曲が9曲、それ以前の曲と、7/9ぐらいの割合ですね。

2005年からパリを拠点に活動されてきて、いまはコロナ禍で長期間、日本におられますが、今後の活動拠点のプランは何かありますか?

JM:目下それが最大の悩みです。そうこうしているうちにヴィザが切れちゃったんですよ。苦労してスタジオを作りこんだ家も、再来年の2月か3月までしかいられないことになって。それと日本のインフラの整ったところに比べると、パリは熾烈な環境なんですよ。家の中で水害が起こるとか、郵便が届かないとか、暖房が止まるとか、ネットが来ないとか、あらゆることがなぜか週末に起こる。週末だと誰も修理に来てくれないんですよね。そこにもう一回、立ち向かえるかなっていう不安もあり、もうパリにも16年住んでいるから、ちょっとヴィジョンを変えたいなって気持ちも実はあるんです。じゃあどこか、というのがすごく難しくて、例えばイタリアなら、食事は美味しいし、暖かいところ、海がきれいなところもあるし、いいなあと思うんですけど、インフラ的にパリと変わらないし、言葉もわからないですからね。じゃあ英語圏となると、いまのところ40年ぶりにニューヨークっていうのが有力ではあるんですけど、ニューヨークもずいぶん変わったと聞くので、一回行ってみないとわからない。いろいろと逡巡してますが、まずはパリの家を整理しにいくのが先決かもしれません。

 インタヴューの数日後、『Whispered Garden』リリース前夜祭と銘打って全曲を試聴しながら、ジャケットに作品を提供した画家、寺門孝之氏とトークするイヴェントが開催された。
 興味深い裏話もたくさん聞けたが、ひとつだけ発言を引用しておきたい。『Whispered Garden』には、三宅純がばりばりのジャズ・トランペッターだった20歳前後の時期に作曲した “1979” があり、そこでは当時から敬愛していたデイヴ・リーブマンが演奏している。また、ニーノ・ロータやクルト・ワイル、そしてこのふたりへのトリビュート・アルバムをプロデュースし三宅純との交流も深かったハル・ウィルナーへのオマージュが感じられる曲もある、彼の個人史を垣間見ることができるアルバムとも言える。このことについて彼はこう語った。

「自分の好きなものを隠さない」

 簡潔にして正直、そして見事な説得力! 年輪とキャリアを重ねた三宅純はいま、新たなチャプターを迎えている。そんな想いがした。

稀代の音楽家 “三宅純” が大作『Lost Memory Theatre』三部作完結から4年の歳月を経て導き出した最新作『Whispered Garden』発売&LP(2枚組)のリリースも決定!

[参加ミュージシャン]
デイヴ・リーブマン、リサ・パピノー、ヴィニシウス・カントゥアーリア、アルチュール・アッシュ、コスミック・ヴォイセズ・フロム・ブルガリア、ブルーノ・カピナン、ダファー・ユーセフ、アート・リンゼイ、ヴァンサン・セガール、クリストフ・クラヴェロ、コンスタンチェ・ルッツァーティ、宮本 大路、渡辺 等、山木 秀夫、伊丹 雅博、内田 麒麟、村田 陽一、勝沼 恭子 ほか

ご購入/ストリーミングはこちら
https://p-vine.lnk.to/aXoERz

アーティスト:三宅純
タイトル:Whispered Garden
発売日:【CD】2021年12月15日 / 【2LP】2022年5月11日
定価:【CD】¥3,300(税抜 ¥3,000) / 【2LP】¥6,600(税抜 ¥6,000)
品番:【CD】PCD18890 / 【2LP】PLP-7793/4
発売元:P-VINE

-収録曲-

【CD】
01.Untrodden Sphere
02.Hollow Bones
03.Counterflect
04.The Jamestown Bridge
05.Paradica
06.Farois Distantes
07.Undreamt Chapter
08.1979
09.Fluctations
10.Seshat
11.Parece até Carnaval
12.Progeny
13.Le Rêve de L’eau
14.Witness
15.Time Song Time
16.Arraiada

【LP】
SIDE A :M1-M4
SIDE B :M5-M8
SIDE C :M9-M12
SIDE D :M13-M16

三宅純official
https://www.junmiyake.com/
https://twitter.com/jun_miyake

Brian Eno - ele-king

 去る12月15日、ブライアン・イーノがロンドンのギャラリー、ポール・ストルパーと提携し、新たなアート作品を発表している。色彩の変化するLEDを搭載したアクリル製のターンテーブルがそれだ。署名入り&ナンバリング済みの、50台限定販売(すでに完売)。さまざまな色の組み合わせが発生するようになっており、すなわちこれまた彼が長らく探求しつづけてきた “自動生成” 作品のひとつということになる。
 インスタグラムに掲載されているイーノのコメントを紹介しておこう。「壁に絵がかかっているとき、とくにそれに注意を払わなかったからといって、なにかを見逃してしまったとは思わないでしょう。ですがそれが音楽や映像だった場合、わたしたちはついそこにドラマを求めてしまいます。わたしの音楽と映像作品は変化していきますが、あくまでゆっくりとした変化です。少しくらい見逃しても気にならない程度の変化なのです」。“非音楽家” の面目躍如。考えさせられます。



Robbie Shakespeare - ele-king

 またレゲエ史が大きな曲がり角を曲がった。ロビー・シェイクスピアの死は世紀の “リディム・ツインズ” スライ&ロビーの死であり、レゲエ史上最高のリディム・マシーンが永久に操業を停止することを意味する。68歳とは若過ぎる。どこかであと5回や10回はステイジ上の2人を拝めるものだと勝手に信じ切っていた。ポスト=ボブ・マーリー世代のレゲエ愛好家であるぼくにとって、「レゲエ」とは、第一義としてスライのドラムに突き動かされ、ロビーのベイスに共振することだった。何故なら、はたち前の人生で最も多感な時期にブラック・ユフルのコンサート映像『Tear It Up』をヴィデオで観てしまったからである。あれで後頭部をガツンとやられた腫れが引かないまま生きてきた。マイク・スタンドの後ろに立つ異様な3ヴォーカリストの凄みを持ち上げつつもそれを凌ぐ、後ろのドラム&ベイスのすさまじいまでのクールさとインパクト。レゲエとは、他のジャンルにはない強烈な個性のフロントマンを “歌わせる” ドラム&ベイスが絶対的主役なのだと知った。その特異性は、宗教であり、哲学であり、生理学であり、奴隷の記憶と心臓の鼓動、自然の波動に由来するレゲエの普遍性そのものなのである。言い換えれば、特異なのに普遍、という観念上の矛盾がレゲエの “態度” であり、それが有史来の善悪、正否の価値基準を、耳から、そしてDNAレヴェルで問い直すのだ。レゲエのドラム&ベイスの振動は、だから言うまでもなく社会的、身体的な政治である。ベイス・ギターの太い弦をはじく、あのロビーの太い指は、その中で最も饒舌で快活で信用できるものの筆頭だった。
 1953年9月27日、キングストン生まれのロビーは、10代前半に音楽の世界に接近した。兄の故ロイド・シェイクスピアは当時マックス・ロミオらとエモーションズというグループを組んでいたが、それがヒッピー・ボーイズとなり、そこに加入してきたのが、のちにボブ・マーリーのバックを務めるバレット兄弟:アストン “ファミリーマン” バレット(ベイス・ギター)&カールトン・バレット(ドラムス)である。そのファミリーマンのプレイに憧れたロビーは頼み込んでボーヤ兼弟子としてとってもらう。マックス・ロミオがソロ歌手になって以降のヒッピー・ボーイズはリー・ペリーのバンド:アップセッターズとなり、バレット兄弟はその後ウェイラーズ・バンドの中核になるわけだが、その間ずっと、ファミリーマンは弟子ロビーに目をかけ続けた。自分がアップセッターズを抜けたあとは、ペリーの仕事をロビーに振り、マーリー専属となって世界デビューを果たしたボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ73年『Catch a Fire』では、あの “Concrete Jungle” のベイスを弟子に弾かせた。つまりマーリー世界デビュー作、そのアルバム・オープナーのベイスは20歳のロビーだったのである。ここまでの筋だけ見ても、彼が完全にレゲエ史の中核をなすミュージシャンとなるべき星の下に生まれてきたことが見てとれる。ちなみに、70年代中~後期の写真でロビーが弾いている(ポール・マッカートニーで有名な)独ヘフナー社製のヴァイオリン・ベイスもファミリーマンがロビーに譲ったものらしい。
 その “Concrete Jungle” は69年に16歳で最初のレコーディングを経験していた愛弟子に師匠が与えた名許皆伝の証のようなものであり、それ以降、ロビーはセッション・ミュージシャンとしてルーツ・レゲエ期に頭角を表していく。トップ・プロデューサー、バニー・リーの専属バンド:アグロヴェイターズに雇われ、重厚でバウンシーなベイス・ラインでカールトン “サンタ” ディヴィスのフライング・シンバル・サウンドを完成に導いた。その頃、キングストンのクラブ《ティット・フォー・タット》で同店の雇われドラマーだった、そして生涯の相棒となるスライ・ダンバーと出会っている。同クラブがあったのはジャーク・チキンのストリート・ヴェンダーでも有名なレッド・ヒルズ・ロードだが、その2人の思い出の通り名を冠した今年2021年のアルバムが遺作となったのも、いまとなっては運命的なものを感じさせる。
 そのスライが “サンタ” ディヴィスの代役でアグロヴェイターズのセッションに参加したときに、ロビーとスライは初めてリズム隊としてコンビを組んでいる。75年になると、バニー・リーの商売敵ジョジョ・フー=キムの〈チャンネル・ワン〉スタジオ/レーベルの快進撃がはじまり、スライはその専属バンド、レヴォリューショナリーズの核となるが、そこのセッションにロビーが呼ばれることもあった。さらにはジョー・ギブスのプロダクションの専属バンド:プロフェッショナルズ名義でのセッションも、実質その多数でスライとロビーが核になっていた。つまり70'sルーツ・ロック・レゲエ期の3大プロデューサーがこぞって2人を重用したことになり、それが、彼らが同ジャンルの発展に最も大きく貢献したドラム&ベイス・ユニットと評されるゆえんだ。
 それ以外の当時のロビーの活躍で忘れてはいけないのは、ブラック・ディサイプルズ・バンドでの仕事だ。映画『ロッカーズ』にも出演していた硬派プロデューサーのジャック・ルビーが、同主役ホースマウス(ドラムス)とロビー(の同映画での笑顔も忘れられない)を軸に編成したバンドだが、彼らのバッキング仕事の頂点に位置するのがバーニング・スピアー75年の大傑作『マーカス・ガーヴィー』。ルーツ・ロック・レゲエとは何かと訊かれたら、あのディープで黒光りする音を差し出せばよい。
 各プロダクションから引く手あまただったロビーだが、次第にスライとのコンビでの活動の比重が大きくなってくる。76年以降の2人はボブ・マーリーと別れてソロになったピーター・トッシュに雇われ、そのバック・バンド:ワード・サウンド&パワーを編成。ローリング・ストーンズはトッシュを自分たちのレーベルに迎え、78年『女たち』全米ツアーではトッシュ+ワード・サウンド&パワーを前座に起用した。さらにスライとロビーは前出〈チャンネル・ワン〉の花形ヴォーカル・グループ:マイティ・ダイアモンズ、あるいはジミー・クリフなどの世界ツアーもサポートしながら、70年代前半にスライがローンチしたものの軌道に乗らなかった自主プロダクション〈タクシー〉を今度は2人で再スタートさせるなど、70年代後半の彼らの恐るべきハード・ワークは、レゲエ史の中で繰り返し評価される重要なものばかりだ。
 新生〈タクシー〉は、70年代末以降スライ&ロビーのプロダクション兼レーベルとして、デニス・ブラウンやグレゴリー・アイザックス、タムリンズらを筆頭にそのリリースを充実させていったが、その中で最大の成功がブラック・ユフルである。ボブ・マーリーが81年にザイオンに召されると、彼を世界に売り出した〈アイランド〉レコーズの総帥クリス・ブラックウェルは、そのスライ&ロビーのプロデュース&バッキング・サポートによるブラック・ユフルを、マーリーの次の看板商品として世界に配給することを決める。その斬新な先駆的 “電化レゲエ” で世界的名声を得たユフルはレゲエ初のグラミー受賞者となった。
 そのブラック・ユフルwithスライ&ロビーもストーンズのツアーに参加するなどますます世界にその名を轟かせたリズム・コンビがレゲエ以外のアーティストから依頼される仕事もこの頃から急増する。それはロック、ソウルからハウス/ガラージ、ヒップホップと多岐にわたり、結果彼らの縦横無尽なリズムさばきは、世界市場においても揺るぎない地位を確立するに至った(70年代以降彼らのプロデュースやプレイを求めたアーティストといえば、ボブ・ディラン、ローリング・ストーンズ、ハービー・ハンコック、セルジュ・ゲンズブール、グレイス・ジョーンズ、ジョー・コッカー、イアン・デューリー、グウェン・ガスリー、シネイド・オコナー、ジェイムズ・ブラウン等A級のビッグ・ネイムが瞬時に頭に浮かぶ)。
 彼らの偉大なところは、そんな風にジャンルを超越した世界的成功を収めながら、自身の〈タクシー〉においてもオリジナルな創作を続けたのみならず、80代中期のジョージ・パンの〈パワー・ハウス〉レーベルを筆頭に、ジャマイカの他のローカル・プロダクションから依頼されたコテコテのご当地サウンド作りの仕事も嬉々として務め続けたところであり、かつ、例えばその〈パワー・ハウス〉サウンドが、35年超を経た現在、新世代ダンスホール・ヘッズを熱くさせたりするという、ヴァーサタイル感と不朽性が両立するところである。
 80年代の後半以降、打ち込みサウンドがジャマイカで主流になると、ルーツ・レゲエ期に活躍してきた演奏家たち、とりわけ仕事をドラム・マシーンやシンセ・ベイスに奪われたドラマーとベイシストにとっては受難の時代となる。しかしスライとロビーは、自分たちの四肢で産み出すフィジカルなドラム&ベイス・グルーヴを歌の伴奏としての瞬間芸術から限りなく思想芸術に近づける偉業を成し遂げながらも、そこにあぐらをかかず、風の流れが変わったとなればいち早く電子ドラムを皮切りに、ドラム・マシーンやシンセ・ベイスを使い、コンピュータライズド・リディム、サンプリング手法、ディジタル・ダブ等をこれまた嬉々として取り入れた。その頭の柔らかさ、枯れない好奇心とフットワークの軽さが彼らの偉大さを下支えしたことは間違いない。1990年を境にした一定期間はほとんど物理ドラムを叩かず、弦ベイスを弾かずに先進的なテクノロジーを楽しんで独創的なヒットを生み出していた。そんな電化期スライ&ロビーの代表的な仕事といえばチャカ・デマス&プライヤーズ “Murder She Wrote” となるだろうか。トゥーツ&ザ・メイタルズ1966年の “Bam Bam” リディムを使った曲で、その制作へのロビーの貢献度がどの程度かは分からないが、いま同曲を聴いてもスライ&ロビーというブランドがかび臭いアーカイヴ感とは無縁であることが分かる。そしてそのビート感はきっと永遠のヴァイタリティを放ち続けるだろうと確信するのである。
 永遠といえば、デミアン・マーリー “Welcome to Jamrock” にサンプリングされたアイニ・カモウジ “World-a-Music” のロビーのベイス・ラインもまた、少なくともいまこれを読んでいるレゲエ、ダンスホール、ヒップホップ愛好家が生きている間は不滅の響きを維持し続けるだろう。あのベイス・ラインは、今日まで地球の四隅で夥しい回数鳴り響いてきた間に、世界をひとつにして揺さぶる全能感を持ってしまったからだ。あるいはタムリンズ “Baltimore” のベイス・ラインはどうだろう(ロビーのベイス・ラインで最も好きなもののひとつだ)。寂寥感と憐憫と生命力が凝縮されている。音楽は世界を救える、というような考えを全くナイーヴなものだと思わないのは、ロビーのベイス・ライン単体でそれができそうだと思わせるからである。これが思想でないなら何であろうか。

 スライ&ロビーとしてだけで、生涯のレコーディング曲は20万曲を下らないと言われている(この数字は15年前には米AMG allmusic.com に記されていた)が、この数日間の訃報には50万と書いているものもあった。ロビー・シェイクスピアという音楽家に初めて興味を抱いた人はその尋常ならぬ数字にたじろぐと思うので、最後に哀悼の意とともに、老婆心ながら個人的なおすすめ(言うなれば人生の通奏低音である)の中から10点リスト・アップしておく。

Burning Spear / Marcus Garvey + Garvey's Ghost (Dub)

Peter Tosh / Live & Dangerous : Baston 1976

Rico / Man from Wareika

Serge Gainsbourg / Aux armes et cætera(フライ・トゥ・ジャマイカ)

Black Uhuru / Liberation : The Island Anthology

Bob Dylan / Infidels

Maxi Priest / Maxi

Tiken Jah Fakoly / Françafrique

Sly & Robbie / Blackwood Dub

Sly & Robbie / Red Hills Road

Pendant - ele-king

 フエアコ・エスとして知られるブライアン・リーズの別名義ペンダントの新作『To All Sides They Will Stretch Out Their Hands』がリリースされた。前作『Make Me Know You Sweet』(2018)から実に3年ぶりのアルバムだ。10年代のエクスペリメンタル/アンビエント・シーンの最重要アーティスト、待望の新作である。

 フエアコ・エス=ブライアン・リーズは2013年、当時OPNが主宰していた〈Software〉からアルバム『Colonial Patterns』をリリースした。アンダーグラウンドなハウス・ミュージック・シーンにいたリーズだが、『Colonial Patterns』のリリースによってエクスペリメンタル・ミュージックのリスナーから注目を集めることになった。このアルバムに影響を受けたエレクトロニック・ミュージック・アーティストは、ある意味、OPNと同じくらい多いのではないか。そして2016年には、ニューヨークを拠点とするカセット・レーベル〈Quiet Time Tapes〉から『Quiet Time』と、アンソニー・ネイプルズ主宰の〈Proibito〉からアルバム『For Those Of You Who Have Never (And Also Those Who Have)』の2作をリリースし評価を決定的なものとした。その霞んだ音響は不可思議な霊性のようなアトモスフィアを放っており、巷に溢れる凡庸なアンビエント作品と一線を画するような音だった。翌2017年にはブライアン・リーズは実験電子音楽レーベル〈West Mineral〉を立ち上げた。2018年には同レーベルから自身の別名義ペンダントのアルバム『Make Me Know You Sweet』を発表する。レーベルのキュレーションも格別で、例えばポンティアック・ストリーターウラ・ストラウスの『Chat』(2018)、『11 Items』(2019)などの重要作を送りだしてきた。本作もまた〈West Mineral〉からのリリースである。

 フエアコ・エス名義の作品は、現時点では2016年の『For Those Of You Who Have Never (And Also Those Who Have)』が最後だ(来年2月に新作が出る模様)。リットン・パウエル、ルーシー・レールトン、ブライアン・リーズらのユニット PDP III 『Pilled Up on a Couple of Doves』が2021年にフランスの〈Shelter Press〉から発表されいるとはいえ、ソロ作品は2018年リリースはペンダント『Make Me Know You Sweet』以来途絶えていたのだからまさに待望リリースである。とはいえ録音自体は前作がリリースされた直後の2018年に行われた音源のようだ。すでに制作から3年の月日が流れている。どうしてそうなったのかは分からないが、彼のサウンドの持っている時間を超えたような「霊性」を考えると、3年の月日が必要だったのではないかとすら思えてくるから不思議である。

 アルバムには全6曲が収録されている。アルバム前半に “Dream Song Of The Woman”、“In The Great Night My Heart Will Go Out”、“Formula To Attract Affections” の3曲、後半に “The Story Of My Ancestor The River”、“The Poor Boy And The Mud Ponies”、“Sometimes I Go About Pitying Myself While I Am Carried By The Wind Across The Sky” の3曲が収録され、合計6曲が納められている。アルバム全体は、大きなストーリーというか流れがあるというよりは、まるでアンビエントやドローンが次第に瓦解していくように音が変化していくようなサウンドを展開している。

 冒頭の “Dream Song Of The Woman” は白昼夢のようなドローンが展開するアンビエント曲だが、2曲め “In The Great Night My Heart Will Go Out” から細やかな物音のコラージュによって生まれるどこか荒涼としたムードのサウンドスケープである。曲が進むごとに音の霞んだ感触や荒んだディストピア的なムードが展開しつつも、アンビエントからエクスペリメンタルなコラージュ作品へと変化していく。そして17分45秒に及ぶ最終曲 “Sometimes I Go About Pitying Myself While I Am Carried By The Wind Across The Sky” でコラージュ/アンビエントな音響空間は頂点に達する。20世紀の残骸である音とその蘇生とリサイクル、荒涼とした光景そのものをスキャンするような持続、ノイズ、音楽のカケラ、幽玄性。それらの交錯と融解。まさにアルバム・タイトルどおり「四方八方に手が伸びる」ようなサウンドスケープである。

 最後に本作のマスタリングを手がけたは、エクスペリメンタル・ミュージックのマスタリング・マスターのラシャド・ベッカーということも付け加えておきたい。

interview with Nightmares on Wax (George Evelyn) - ele-king

 ナイトメアズ・オン・ワックスを名乗るジョージ・エヴリンと言えば〈Warp〉の古参のなかの古参、在籍年数で言えばAFXやオウテカよりも長い。そんなエヴリンと対面で取材したのは、ぼくはたったの一回だけ。1997年、まだシェフィールドにあった〈Warp〉のオフィス内でのことだった。ここでおさらいしておくと、彼の名義にある「ナイトメア」の意味を「悪夢」などとネガティヴに訳してはいけない。これは「悪夢」という言葉が反転して「ワイルドな夢」という格好良さを意味している。マイケル・ジャクソンの「バッド」が「悪い」んじゃなく「超格好いい」ということを意味するのと同じだ。「ワックス」とはレコードのことで、つまり彼の名義は「レコードのうえのワイルドな夢たち」なのである。
 1997年に「レコードのうえのワイルドな夢たち」に会うということは、かの有名な『スモーカーズ・デライト』(*至福のチルアウト感覚によって、トリップホップを再定義したアルバム)をリリースしてまだ2年しか経っていないときに会うということだ。ぼくのなかにエヴリンに対する先入観がなかったと言えば嘘になる。ところがじっさい現地で会った本人は、アシッド・ハウスと出会ったリーズのBボーイというよりは、シックな服装をした、いたって真面目な普通の青年という印象だった。そのときの取材の最後に彼が真顔で言った言葉はいまも忘れられない。「ギリギリの生活だけど、飯が食えて、良い音楽と良いウィードがあれば俺は満足なんだ」
 ジョージ・エヴリンにとっての「良い音楽」とは、オーセンティックなソウルであり、80年代のヒップホップであり、70年代のダブやレゲエ、そして官能的なジャズ……なんかである。とりわけクインシー・ジョーンズの『ボディー・ハート』(1974)のような作品や70年代のカーティス・メイフィールドの滑らかなソウル/ファンクは、オールド・スクールのヒップホップとともにNOWの出発点において大きなインスピレーションとなっている。
 いずれにしてもNOWの作品は、エヴリン独特のレイドバックしたダウンテンポというパレットの上をさまざまな「良い音楽」がミックスされることで生まれている。彼は現在のところコンスタントに8枚のアルバムをリリースしているが、それらはすべてチルアウターたちの期待に応えるものであり、快適さを約束するものという点ではすべてが同じと言えるのだが、しかし作品ごとそれぞれしっかりと色を持っているという点ではすべてが違ってもいるのである。 
 先日リリースされたばかりの9枚目のアルバム『Shout Out! To Freedom...』もある意味いつもと変わらぬNOW音楽ではあるが、しかしいつもとは違った熱が込められている。その「違った熱」について、以下にエヴリンがイビサの自宅からじつに熱心に語ってくれている。アルバム制作中に受けた手術について、今回のテーマとなった自由について、音楽を作ることの意味、シャバカ・ハッチングスへの敬意、そしてブラック・ライヴズ・マターについてなど、彼のシリアスな思考がよく出ているし、こんなにたくさん話しているインタヴューは他にないと思うので、エディットは最小限にして、なるべくそのまま掲載することにした。リラックスしながら、部屋のスピーカーから新作を流しつつ読んでいただけたら幸いだ。忘れかけていた微笑みが戻ってくるかもしれない……。 

俺は、パンデミック以来、実に多くの物事から自分を解放したからね――つまりパンデミックを機に、リセットしてみたんだ。自らをリセットし、自分自身の内面と再びチューニングを合わせ、そうやって本当に、じっくり人生を見つめ直し、再評価してみた。自分の人生や人間関係等々をね。

本日はお時間いただき、どうもありがとうございます。

GE:どういたしまして。

■この取材はele-kingという、インディ・ミュージック/エレクトロニック・ミュージック系のウェブサイト向けのものになります。

GE:うん、雑誌は憶えてるよ!

(笑)はい、紙版もありますが、現在はウェブが主体になっています。

GE:なるほど、そうだよね。

パンデミック以降、あなたのイビサでの生活はどのように変わりましたか? 

GE:そうだな、俺の生活は……思うに、自分はスロー・ダウンし、対して時間のスピードは速まった、それだったんじゃないかな? (笑)いやだから、自分の日常はいま、非常にリラックスしたものになっているってこと。常にツアーで移動、ほぼ数日おきに次の地に飛ぶフライトをつかまえる……なんてこともないし、家に留まり、家族との時間をエンジョイし、そして音楽作りも楽しんでいる。そうだね、いま、とても、とてもハッピーで満足している。

スペイン本土はたいへんでしたがイビサは島ですから、それほど影響は受けなかったのでしょうか?  

GE:あー、うん……。いや、正直、COVIDそのもの以上に、パンデミック関連の規制の方が危険だったっていうか(苦笑)? たとえば、我々もロックダウンさせられたし、家からの外出も禁止、海で泳ぐことさえ禁じられて――それって、俺からすれば理屈に合っていなくてさ(苦笑)。だって、海で泳ぐのは身体の免疫機能に良い効果があるからね。

はい。

GE:政府側は人びとに自宅謹慎を求めたけど、日光を浴びるのは身体にとって良いことだし。それに、街路での喫煙も、飲酒も禁止。管楽器を演奏する場合を除いて、常時マスク着用が義務づけられていた。

かなりガチだったんですね。

GE:(苦笑)ああ、やや過剰だった。でもさ、ほら――俺たちはまだ元気にやっているし、いまやこうしてあの頃についてジョークを飛ばせるんだから、そこはラッキーだってことじゃないかな。だけど、COVIDというストーリーはまだ終わっちゃいないと思うし、うん、まだしばらくかかるだろうな。俺たちは果たしてこの冬を乗り切れるか、そこを見極めていこうよ、ね? 冬で状況がどうなるかを見守っていこう。

ですよね。さて、資料によると今作を作る前に、あなたの健康上で大きな問題があったそうです。長年の活動(ギグや移動など)によってずいぶん身体にダメージがあり、ご自身の健康を案じたということですが、具体的にはどのようなことがあったのかを話せる範囲でいいので教えてください。

GE:ああ。っていうか、それは今年の話。今年のはじめに起きた出来事だよ。

そうなんですね。

GE:というのも、んー、そうだな、アルバムを書きはじめたのは……2018年末にはソングライティングに取り組んでいたし、そのまま2019年も継続し、で、2020年3月にパンデミック状況が本格化し出した、と。あれは今年のはじめ、2021年1月だったけど、頭の後ろに痛みを感じていたから健康診断に行ったんだ。検診の結果健康上の問題が発覚し、手術を受けることになった。頭に腫瘍があって、それを摘出する手術をね。

なんと! それはたいへんでしたね……

GE:良性の腫瘍だったし、もう大丈夫なんだけどね。ただ、あの当時は(良性かどうか)わからなかったし、生検の結果が出るまでしばし待たなくてはならなかった。それでも、その間もアルバムには取り組んでいた。だから、あの体験のおかげで非常に……非常に興味深いリアリティがもたらされたっていう。言うまでもなく自分の寿命を、これでおしまいなのか? と自問していたし、果たしてこれが自分の最後のアルバムになってしまうのか、あの段階ではそれもわからなかった……。そういう、あれこれに直面したわけ。
 けれども、そうした思いのすべてから数多くの感謝の念が生まれ、生きていることのありがたみを感じる助けになった、というか――まあ、俺はいずれにせよ、感謝の思いはかなり強い人間なんだけど――この一件は自分にとってでかいストーリーだった、みたいな。で、それはある意味このアルバムが表現しようとしていること、そことも一致するんだよ、フリーダムの別の側面、というか。だから、いまおれは自由についていろいろと語っているけれども、これは自由のまた別の要素というか……果たして自分はこのストーリー(=健康問題等々)から逃れられる(free of)のか、それともこの作品が最後のストーリーになるのか? と。というわけで、うん、あれは非常に、非常にディープでエモーショナルな時期だったね。

腫瘍が良性だったのは本当に何よりですが、そこには長年の活動もあったと思いますか? 先ほどもおっしゃっていたようにあなたは多くのギグをこなしてきたわけで、不規則なツアー生活のなかで健康管理をちゃんとしていなかった、という面も若干影響した?

GE:いやいや、あれは……何もツアー生活ばかりが要因だった、とは自分は言わないなぁ。もちろんツアー中の生活様式は、エモーション面・精神面・肉体面でヘルシーなものとは言えない。そこは認めて、いったん脇に置こう。ただ、俺自身は不健康な生活を送っていなかったしね。食生活もかなりちゃんと考えてるし、エクササイズもやってるからさ。でも、そうは言いつつ、その3つの要素のバランスをとるためには、たまに、その一部をある程度犠牲にしなくちゃならない場面だってあるわけだよね?

たしかに。

GE:だから、あの出来事が自分のミュージシャンとしてのライフスタイルのせいだった、とは言わないよ。でも、ある意味感じたな……正直、肩と首とに、苦痛・不快感は長いこと、何年も感じてきたんだ。ただ、その要因が腫瘍だったなんてちっとも知らなかった。実際、こんな風に(と、DJが肩をあげてヘッドフォンの一方を耳に押しつけ、首を傾げてモニターするポーズをとる)プレイしながら何時間も立ちっぱなしだったり――

(笑)ええ。

GE:(笑)フライトを目指して移動続きで、睡眠も食事も行き当たりばったりになったり。だから自分の背中の痛みだのなんだのは、そんなツアー生活のつけが回ってきたのかな? くらいに思っていた。ところが、これ(腫瘍)が見つかったわけで……あれは頭部/首の後ろ、しかも筋肉のなかにできていてね。そのせいで、自分の立ち方から何から、すべてに影響が出たんだ。

全身に関わりますよね、それは。

GE:そう。で、さっきも話したように、6ヶ月くらい前まで……いや、もっと前かな? それまで、要因がそれだったとは知らなかったわけで。ともかく、クレイジーな話だった。で、おれとしては……長年の活動のせいにするつもりはないし、とにかくこの体験も自分のストーリーの一部として見ている、そんな感じなんだ。それに、あれで、自分は古いエネルギーを、何かしら古くて重たいエネルギーを取り去っているんだ、そんな風にも捉えていた。というのも俺は、パンデミック以来、実に多くの物事から自分を解放したからね――つまりパンデミックを機に、リセットしてみたんだ。自らをリセットし、自分自身の内面と再びチューニングを合わせ、そうやって本当に、じっくり人生を見つめ直し、再評価してみた。自分の人生や人間関係等々をね。で、それをやることは、ロックダウン期の時間を過ごすのに実に役に立った。ほんと、あの頃は、費やせるのは時間だけだったから。でも、あの経験のおかげでとても多くの結果を、そして感謝の念を手に入れたよ。

俺は自分のレコードや音楽を「変化しつつあるコンシャスネス」と関連づけている、それは間違いない。肌の色は関係なしに、すべての人びとを集め一緒にするものとしてね。

なるほど。すでに作品作りには着手していて、その途中で腫瘍が発覚した、と。ある意味ショッキングな、人生の転換期を迎えたなかでの録音になった今作は、どのような過程で生まれたのでしょうか?

GE:うん、制作中にあの一件は起きたけど、それでも俺は音楽作りをストップしなかったんだ(笑)! うん、とにかく、中断はしなかった。だから、それがこの一連の出来事の、本当に、本当にシュールな側面だったっていうのかなぁ……要するに、健康上の深刻な問題があるからって、じっと安静して心配ばかりしているつもりはないぞ、みたいな。わかる? それは自分じゃないし、仮に事態が最悪なものになったとしても、だったら自分はいま残された時間をできるだけ活用したい、と。そこで、よりディープな地点に連れて行かれたっていうのかな、要するに「もしもこれが自分の作る最後のアルバムになるとしたら、どんな作品にしたいんだ?」と自問したわけ。

なるほど。

GE:だろ? 実際、その思いのおかげで、より深く掘り下げていくことにもなった。何も考えていないときですら、色んな思いがランダムに頭に浮かんだしね。家族のみんなは大丈夫かなとか、ありとあらゆる考えが勝手にわき上がってきて、我ながら「ワオ、一体どこから出て来たんだ?!」みたいな。音楽に関してもそれは同様だったし、非常に……とは言いつつ、俺はまだこのアルバムのストーリーを見つけようとしていたし、もちろん常に音楽を作っているとはいえ、アルバムが1枚にまとまっていく過程というのは、音楽群が形を成し、徐々に一貫性を持ちはじめ、そこで俺にも「アルバム」が聞こるようになってくる、と。そうなったところで「このアルバムは何についての作品なんだろう?」と自問しはじめるし、そうやって音楽そのものが正体を現しはじめるんだ。
 というわけで、パンデミックのはじめ頃、アルバムの30〜40パーセントができていた。で、そこから数人のアーティストの声をかけていき、「君たちサイドの内部で何が起きているか、それについて書いてくれないか」と頼んだんだ。と言っても、(パンデミック被害状況等の)統計上の数字の話ではないよ、もちろん! そうして彼らから俺に返されてきたものは、実に深遠で、本当に興味深いものだった。で、2020年も終わりに向かいつつあった頃、俺も感じはじめていたんだ、「フム、これらの歌はどれも、色んな形の『自由』を求める叫び、様々に異なる呼び声のように聞こえるな」って。それで俺自身、自分に問いかけはじめたんだ、「自由とは何か?」と。ほかのアーティストとの話し合い、あるいは自分の抱いた疑問からですら、誰もがひとりひとり異なる「自由」の定義を持っている、という点に気づいたからね。誰にとっても、各人の自由の定義は違うんだ、と。そこで俺も、おお、これはすごく面白いなと思った。
 そうして、続いて――俺自身の、「マイ・ストーリー」が起こったわけだよ、そう思った後に(苦笑)。で、俺もなんてこった! って感じだったし、じゃあ、自分は何から自由になりたいだろう? と考えた。要するに、この(自由に関する)アルバムを作っているところで、自分個人のストーリーも生じた。自由についてのアルバムを作っている最中に、自分も実際に何かから解放されたい/逃れたいと思って生きていた、みたいな。しかもその間、外の世界も同じような状況だったわけだよね? 人びとは外出したがっていたし、他者との結びつきを求めていて、でも家族親類にすらなかなか会えない状況だった。政府の動き方もかなり妙な具合だったし、うん、思ったんだよ、「みんな自由を求めてる、じゃあ、フリーダムってなんなんだ?」と。その思いはホント、このアルバムを作っていた間じゅう、ずっとこだましていたっていうのかな。遂に気がついた、「そうか、誰にだって、そこから自由になりたい何かがあるんだ」とわかったっていうか。たとえ、人びとは「自由になりたい」と口に出して言うことはなくてもね。だから、もしかしたらこれはそれについて話し合い、他の人間にも「そう思っているのは君だけじゃない」と知らせる機会なんじゃないか、と思った。誰しも何かしら、そこから逃れたいと思っているものがあるんだ。誰だって、絶対にある。それは子供時代のトラウマかもしれないし、仕事かもしれない。人間関係から解放されたいとか、なんらかの恐怖症から自由になりたい等々、いくらでもあるだろう。誰もがそれぞれの思いを抱いているし、君ひとりじゃない、俺たちみんなの抱えているスピリットについてなんだ、と。だろう? というわけで俺は……このアルバムの収録曲を通じてだけではなく、本作に関する取材やその周辺で起きる対話を通じて、この疑問から我々はなんらかの癒しを生み出すことができるんじゃないか? そう思ってる――誰に対してもね。いやほんと、このアルバムはあらゆる人に捧げたものなんだよ。

様々な要素のある作品ですが、たとえば“Imagineering”をはじめとして全体にとても温かなヒューマンさ、受け入れてくれる感じのするアルバムなのは、だからなんですね。

GE:うん、“もたらす”ってことなんだ……もうひとつ俺が大事だと思うのは――様々な問題についての歌を書くのはかなり楽なことなんだ。ただ、俺はそれはやりたくない、っていうのかな? いや、それらの問題に光を当てることはちゃんとやるけれども、それだけではなく、同時に希望ももたらせるだろうか、みたいな? というのも、肝心なのは問題それ自体じゃないから。大事なのはそれらの問題の解決、それなんだ。わかるよね?

なるほどね、はい。

GE:で、解決は、俺たちはみんな互いに繫がり合っている、そう感じたときにやってくるものであって。というわけで、俺からすれば人びとに「ああしろこうしろ」と命じるのではなく、みんなと何かシェアする形でその点をどうやって表現すればいいだろう? ということだったんだ。その問いかけは、少なくとも人びとがその点を意識する、そういう思考を彼らのなかにインスパイアするかもしれないし。

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自由についてのアルバムを作っている最中に、自分も実際に何かから解放されたい/逃れたいと思って生きていた、みたいな。しかもその間、外の世界も同じような状況だったわけだよね? 人びとは外出したがっていたし、他者との結びつきを求めていて、でも家族親類にすらなかなか会えない状況だった。政府の動き方もかなり妙な具合だったし、うん、思ったんだよ、「みんな自由を求めてる、じゃあ、フリーダムってなんなんだ?」と

これだけ長い間活動し、アルバムを出し続けるというのは決して簡単なことではないと思います。かれこれ30年近くですよね?

GE:ああ、32年じゃないかな?

アイデアの面でもそうですが、パッションの面でも若いときの気持ちを持続するのは困難です。今作『Shout Out! To Freedom…』はどのようなパッションをもって制作されたのでしょう? どんな風にパッションを維持しているのですか?

GE:そうだな……思うに、俺は常にかなり、好奇心の強い知りたがりな人間だからだと思う。だからいつだって疑問を発しているし、しかもそれらの疑問は大抵、自分自身を中心にしたものだっていう。要するに「この、俺が音楽と結んでいる関係ってなんだんだ?」みたいなことだとか、とにかく「これはなんなんだ?」としょっちゅう疑問が浮かぶし、そうなったらその答えを見つけようとする。あるいは、過去を振り返って「フム、昔の自分はいったいどうやって音楽を作ったんだ?」と思うことすらある。っていうのも、いまの自分はああいう音楽の作り方をやらないし、考え方も変わったから、ああいう音楽の作り方はもうやれっこないな、と。だから、自分の作品を聴き返してテクニカル面での細かい内訳は思い出せないし、それこそもう、自分の音楽を自分で暗号解読するのに近い。ただ、たとえそうであっても、その曲にある魔法の瞬間は認識できる。そのマジックの瞬間を、俺のなかに存在する子供は聴き取ることができる。で、その部分なんだよ、俺がなんとか近づこうとして取り組んできたところっていうのは。
 というのも、自分のなかにあるその部分は、とにかくプレイ(遊ぶ)しようとし、楽しみたがっている。でも、子供ではなく年齢を重ねた部分は、物事を見極めようとして、本当に観察型で分析派なものになるんだ。で、自分のその面があまりにシリアスになることもあるのに気がついたし、そうなると音楽作りから楽しさが奪われてしまうんだよ。で、過去にそうやってシリアスになり過ぎて音楽からFUNが失われた、そういう状況に自分が陥ったことは間違いなくあった。だからだろうね、これ(キャリア)に関しては、旅路を行くようなものだ、と捉えられるのは。たまにそうなることもあるさ、と。
 でも、俺がその旅路のなかで学んできたことは「自分が邪魔になることなしに、自然に音楽に発生させることはできるだろうか?」であって。その点は、いまの自分にはとても、とても大切だ。音楽が自然に生じる状況の妨げにならないようにすることで、俺は自分のやっていることと自分との関係についてもっと意識するようになりはじめたし、そこにエキサイトさせられる。そんなわけで、いまの自分は――もちろん、「こうだろう」という概念はあるんだよ。ただ、自分が何かを探し求め、音楽を作っているとき、俺はそこでいまだに質問を発しているんだ、「君(音楽)は俺に何を語りかけようとしているんだい?」みたいに。(語気を強め命令口調で)「これは絶対にこうあるべきだ!」、「サウンドはこうじゃないとダメだ!」云々なノリではなくてね。
 いや、俺だって確実に、そういう人間ではあったんだよ。ただし、いまの自分はそうではない。いまの自分はゲームに興じているという感じだし、そこにあるアドヴェンチャー、そして可能性は無限大、みたいに思う。で、完璧である必要はないんだよね。俺はこれまで、物事を完璧にしようとして長い時間を費やしてきた。けれども、完璧過ぎるものにしようとするあまり、逆に音楽作りの楽しさが奪われてもしまう。だから、とにかく作ってみて、できたそのままに任せよう、また後になってそれに立ち返ってみればいいさ、と。きっと「ああ、こういうことだったのか」と自分にも理解できるだろう――自分の長い旅路のなかの、どこかの時点で納得がいくはずだ、と。
 そんなわけで、10年前に作った音楽で、自分でもどういうことかいまだにわからない、というものはあるんだよ。ただ、いまの俺はそのプロセスを信じている――歌というのはおのずとある地点に達するものであって、そこでそれらの歌は一群の集まりになり、アルバムという大きな絵の一部を成していくようになる、そういうプロセスを信頼している。だからいまの俺は、音楽を作る際のプレッシャーをまったく感じないんだ。かつ、いわゆる「シーン」だとか(苦笑)、そういうものにまったく興味がない。ああいうもろもろは、若い頃の自分が関わっていたことだったからね! 
 いまの俺はとにかく、自分をもっと知るために、そして自分と音楽との関係を理解するために音楽に取り組んでいるし、それが俺を駆り立て続けている。俺にもわかったんだ、自分は、この「チャンネル」なんだ、って――なんであれ、そのときどきの自分が「これは!」と思ったもの、魅力を感じたサウンド、それを発信するためのチャンネル。で、俺はどこかからそれを受信している、と。俺にとってのそうであることの美しさというのは、いまだに「ワオ!」と驚かされるところにあるし、だからこそもっと音楽を作りたくもなるっていう(笑)。
 それに俺は、とくにインスピレーションを探すってことがないんだ。スーパーマーケットを歩いていてもインスパイアされるし(笑)、そこらを歩いていて何か閃くとか、音楽と一切関係のないことをやっていてもインスピレーションが浮かぶ。つまり、ゴリゴリに「音楽、音楽、音楽!」と、そればかり考えなくてもいいってこと。俺は「自分の実人生があり、そして自分の音楽家としての人生がある」という風に分けて捉えてはいない。ノー、ノー、そうじゃないんだ、それらすべてが俺の人生なんだ!みたいな(笑)。そのおかげで、自分はより解放され、かつもっとインスパイアされるようになったと思う。

『Shout Out! To Freedom…』というタイトルにした理由についてお話ください。この言葉はどういう風に出てきたのでしょう? 先ほども話に出てきたように、いろいろな人びとの「フリーダム観」を提示したい、ということですか?

GE:ああ、だからこの作品は、各種の「あなたたちにとっての自由」に捧げたもの、みたいなアルバムであって。そうはいっても、この1枚で自由に関するあらゆるテーマを取り上げてはいないかもしれないけど――

それはやっぱり、不可能でしょう。

GE:(笑)ああ、無理だよね。それでも、今回の作品は自由にも色んなものがあるって点を認識する機会であり、自由について対話を交わすきっかけ、でもあるんだ。というのも、我々は得てして……だから、俺ですらこのレコードを作ったことで、自由に対するアウェネスが以前よりもさらに大きくなったし。で、誰であれ、今作を聴く人にも、それと同じことが起きてくれたらいいなと思ってる。自分たちの自由を意識すること、そこは大事だと思う。どうしてかと言えば、我々の一部には満喫できている自由も、ほかの人びとには許されない、ってことはあるからね。でも、あらゆる人びと、誰もが同等の自由を享受するに値する。ただ、その状態に達するには、そこに対する人間の集団的なアウェアネスが存在しなくちゃ無理だろう、と俺は思っている。俺たちはついつい、自分たちひとりひとりのちっぽけな世界に縛られてしまうわけで――

たしかに。

GE:それよりも、俺たちがみんな、自分たちは集合的なファミリーなんだって意識に目覚めること、そこなんだ。国旗だの、国境だの、国家だの、そういう点にこだわるのはやめにして、自分たちをひとつの惑星の上で一緒に生きている存在、そういうものとして見ようじゃないか、と。俺たちには物事を変えていくチャンスがあるし、物事は物の見方、捉え方次第で変化するものだしね。だからなんだ、この「自由」っていう題材はものすごく大きなテーマだな、と思うのは。そこには実に多くの可能性が含まれている。

アルバムのタイトルもですが、“Creator SOS”や“3D Warrior”、“Up To Us”といった曲名にも何か強い気持ちや熱い思いを感じます。平たく言えば、メッセージの籠もった作品ではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

GE:うん。だからまあ、さっきから話しているように、俺はこれらの曲で、様々な自由という主題にハイライトをつけているわけ。色んな人びと、ハイレ・シュプリームとの共作曲等々で彼らの意見に光を当てているし、そうやって俺たちは質問を発しているんだ。そこなんだよね、あれらの点に対するアウェアネスを持ち込むこと、そうしたアウェアネスをより広い対話の場に持ち来たらそう、と。たとえば“3D Warrior”のタイトル、あれは、「我々は3Dリアリティのなかで生きている」、そこからきたものなんだ。で、そのリアリティのなかで生きるのは実はかなりタフでもある。3Dな現実のなかで生きている人間は、誰もがみんな戦士(Warrior)なんだ。

私も戦士でしょうか?

GE:もちろん、君も。みんながそうなんだ。だからあの曲はいわば、すべての3Dの戦士たちに捧げる頌歌、みたいな。俺たちはみんな、3Dリアリティの窮屈な縛りのなかで生きているから――現時点では。少なくとも、現時点ではそう。永遠にそうではなくて、いずれ変わるだろうけどね、フフフッ!

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この作品のために作った音楽は、パンデミック中ですら作業していたから、かなりの量になってね。それらの音源をすべて携帯に入れ、ビーチまで出かけてジョイントに火をつけ、聴いてみたんだ。で、思ったよ、「……これは2枚のアルバムだなって」って。

今作にはシャバカ・ハッチングスという強烈な個性を持ったジャズ・アーティストも参加しています。アルバムのなかに何を求めてシャバカ・ハッチングスを起用したのですか? あなたは彼のどんなところに惹かれたのでしょう?

GE:俺がシャバカの音楽と初めて出会ったのは、たぶん2017年だったんじゃないかな? で、あのときの俺は(目を丸くして)「……こりゃなんだ? いったいなんなんだ?!」みたいな反応で(笑)。文字通り彼の音楽、彼のやっているプロジェクトのすべて――とにかくそれらを全部知りたい! と思った。ほら、たまにいるだろ、「この人のことは何もかも知りたい!」とどうしようもなく思わされる、そういうミュージシャンが。俺はとにかく、彼についてもっと知りたいと思ったし、彼の音楽を聴けば聴くほどさらに知りたくなっていったわけ! 
 これは誓っていい、本当に心からそう信じているんだけど、俺たちは今まさに、「生ける伝説」を体験しているところだ、そう思う。ああいうミュージシャンが世のなかに登場することはまずめったにないし、しかも彼はまだ生きていて、しかも作品を発表し続けている最中なわけで、だからまあ、シャバカはすごいと思っているし、あるとき友人のスティーヴから「お前と彼がコラボレーションした図を想像してごらんよ、最高じゃないか?」と言われて、俺もそりゃアメイジングな思いつきだと思った。
 で、“3D Warrior”ってトラックの興味深い点は……あのトラックを、俺はまずウォルフガング・ハフナー、ドイツ人ジャズ・ドラマーである彼と一緒にはじめてね。これまで何度もコラボしてきた、仲のいい友人だ。で、俺はまずこの、ループのアイディアを彼に送り……いや、そうじゃなくて、まず俺たちはレコーディング・セッションをやったんだ。そのセッションの最後のあたりで、俺にあのループのアイディアが浮かんで、そこに付け足した。そしたらウォルフガングが「あ、そのループに合わせて演奏させてくれ、何かやらせてくれ」と言い出して、そうだなあ、それこそ10分くらい? あのループに合わせてひたすらプレイしていったっていう。俺も「うわっ、こりゃすごい!」と思ったけど、俺の手元にあったのはそれだけだったんだ。ところが、それから4ヶ月くらい経って、あれは……たしか2018年だったはずだな。うん、4ヶ月後に、俺は自分の地元のリーズで、長年の付き合いのキーボード・プレイヤー、そして若いベース奏者のアレックス・ビーンズとスタジオ入りして、そこで彼がベース・ラインとメロディを思いついた。ちょっとしたループ、ドラム、ベース・ラインができたわけ。
 それで俺は2019年10月にハイレ・シュプリームとフックアップして数日セッションをおこなって、その終わりあたりに彼が「そういえば、こんなビートがあるんだけど」と一種のトライバルなビート調な要素を持ち込んできて。彼はルーツがエチオピア系の人だし、そこで俺のイマジネーションもいろいろと広がって、ふたりで3Dリアリティについて話しているうちにあの、戦士についての歌詞を思いついた。そうやってヴォーカルができた、と。
 だから曲としての構造はなくて、いくつかの要素だけがそろっていたわけ。そしてシャバカとやったらどうか?という話が出てきて、「彼にやってもらいたいチューンはこれだ」と思った。となるとある程度の構造をクリエイトする必要があったし、自分でそれをやってね、あの作業はDJツアー先の、ホテルの一室でのことだったと思う(笑)。そうやってこしらえた音源をシャバカに送り、彼も「うん、すごく気に入った! たぶん何かやれると思う」と言ってくれて。そして11月にハイレ・シュプリームが俺のスタジオに再びやって来て、今度はそこで一緒に“Wonder”を書いた。シャバカにはどっちにせよ1月にスタジオに入ってもらう予定になっていたし、彼にその音源を送り「この歌、どう思う? 何かやれる?」と訊いてみた。彼の方も「これはいいね、自分にも何かやれると思う」という返事で、そこで俺は彼に「オーケイ。2曲ともやりたい?」と訊ねて、彼も「よし、試しにやってみよう」と返してくれて。で、あれは2020年1月15日、俺の50歳の誕生日のことだったけど、あの日俺はモルディヴにいてね。で、インボックスにあの2曲、シャバカが管楽器を演奏してくれた“Wonder”と“3D Warrior”の音源が届いて――あれはもう、これまで自分がもらったもののなかでも最高の誕生日プレゼントのひとつだった、みたいな(満面の笑顔)。

(笑)。

GE:で、さっき話した“3D Warrior”の原型であるループ&ドラムの10分半のヴァージョン、あれはいずれ、ヴァイナル盤として発表すると思う。あれについて思い出すのは、ここ(イビサの)スタジオであの音源に取り組んで……いやだから、10分半っていうのは、ひとつの楽曲をノンストップで演奏するにはかなり長い尺なわけだよね。俺たちもすっかり音楽に没入して我を忘れたし、午前4時くらいまでセッションを続けて、終わった頃には「あれ、自分はどこにいるんだ?」みたいな。ただ、あのトラック全体について驚異的な点のひとつは、あれが4つの異なる筋書きを経てレコーディングされたものだ、というところでね。だから、まずウォルフガング・ハフナー、そして地元リーズのミュージシャン、続いてハイレとのセッション、最後にシャバカがリモートでひとりで演奏を添えてくれた。それらをすべて組み合わせたわけだし、俺自身「こんなことが、どうやったら可能だったんだろう?」とすら思うよ、ほんと(笑)。ってのも、(バラバラに作っていったにも関わらず)参加した全員が同じ空間に一緒にいるフィーリングのある曲だからね。すごいな、と自分でも思うし、仮に、俺があらかじめこうなるように計画立ててやっていたとしたら――もっとも、それはやらずに流れに任せていったんだけど――きっと、自分にこの結果を生むことはできなかったんじゃないかな。
 これこそさっき話した「音楽が発生するのに任せて邪魔しない」の完璧な例だろうね、とにかくやってみよう、自然に任せよう、と。シャバカがこのアルバムに持ち込んでくれたものはとにかく……彼に参加してもらえて心から光栄だ――もちろん、今回参加してくれたミュージシャン全員に対しても本当にそう思っているけれども――彼は途方もないミュージシャンだし、まだコメット・イズ・カミングやサンズ・オブ・ケメット、シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ等を聴いたことのない人は、どうか、ぜひあれらのアルバムの世界に飛び込んでみて欲しい。素晴らしい音楽が鳴っているから。 

シャバカは政治的な演奏家でもありますよね? 今作にBLM(ブラック・ライヴズ・マター)からの影響はありますか?

GE:んー、いいや。というのも、俺はあのムーヴメント以前から、あれらの問題を考え、BLMと信じてきたから。あの物語でひとつ言えるのは、ああして様々な運動が起こり、少し経ったところで、俺も「もしかしたらこれは、歴史のなかの、何かが変わる瞬間なのかもしれない」と思うようになった。もしかしたらこれこそ、クソのような状況が終わりを告げて良い方向に向かっていく、その転換点かもしれない、たぶんその瞬間なんだろう、と。ただし、俺はまだ「たぶん」だと思うけどね。うん、俺はまだ「たぶんそうなんじゃないかな」と言うね。どうしてかと言えば、そこに至る道のりはまだ、本当に長いから。でも、俺は自分のレコードや音楽を「変化しつつあるコンシャスネス」と関連づけている、それは間違いない。肌の色は関係なしに、すべての人びとを集め一緒にするものとしてね。我々には人間の肌の色、見た目といった側面を乗り越えていく必要がある。それらを越えたところまで行って、本当に、お互いをブラザー&シスターとして眺めていかなくちゃ。誰だってみんな同じ空気を吸っているんだし、(苦笑)ほかの人よりも臭うクソをする奴もいるとはいえ、俺たちもみんな、クソはするんだからさ。アッハッハッハッハッ!

(笑)いきなり下卑た話になりましたね。

GE:ハッハッハッ。せっかくポエティックに答えはじめたってのに、回答の最後がヒドかったなぁ、アッハッハッハッ!

(笑)。また、Saultのアルバムからのインスピレーションもあるのではないでしょうか? 彼らが昨年出したアルバム『Untitled』と、どこかとても似たヴァイブレーションを感じたのですが。

GE:ああ、もちろん、Saultのことは知ってるよ。でも……んー、どうだろう? 俺たちのバックグラウンドがとても似たものであるのは知っているけどね。彼らはこの2年間でアルバムを3枚くらい出してるんじゃないっけ? いや、それとも最新作で4枚目なのかな? ともあれ、うーん(と笑顔まじりで考え込みつつ)、どうかなぁ〜、彼らの作品と俺の今作とに似たところはあるだろうか?……自分の口からはなんとも言えないね、とても答えにくい。その判断はリスナーのみんなにお任せするよ。というのも、俺は自分の音楽をそういう風に聴かないっていうか、これだけレコードとの間に距離がないと、客観的になれないんだ。でもまあ、Saultは大好きだし、それに俺はあらゆる音楽のファンであって。だからまあ、自分自身の音楽をほかの音楽と同じように聴くのはむずかしいんだ、自分に近過ぎるから。ただ、今回の作品はコラボレーションそしてそこにあるストーリーも含め、独自のユニークなものだと、俺はそう思ってる。

いまの俺は、こうして『Shout Out! To Freedom…』を作り終えて世に出して、本当に満足しているしハッピーなんだ。かつ、さて次は何をやろうか、とものすごくエキサイトしてもいる。で、これは自分のキャリアのなかで初のことなんだ(苦笑)、アルバムが出たばかりの段階で、すでに次のアルバムに取り組んでいるって状態は。

シャバカもそうですが、今回のアルバムにはジャズのフィーリングが注入されていますし、“3D Warrior”ではアフロなパーカッションがリズムを刻んでいます。ジャズやアフロという音楽は、主にヒップホップやソウル、ファンク、レゲエをミックスしてきたあなたにとって新たな挑戦だったのでしょうか?

GE:過去に出したレコードでも、ジャズ/アフロと軽く戯れたことはあったと思うけどね。たとえば『Smokers Delight』や『Feelin’ Good』といったアルバムを考えてもそうだし、それに前作『Shape the Future』ですら、間違いなくビッグ・バンド・ジャズのスタイルにトライしていたよね。けれども、今回のレコードはいままででもっともディープな作品だ、自分はそう感じている。うん、より深く入っていったね。さっきも話したように、大事なのは音楽を探究していく点にあるし、より深い領域に思い切って挑むことにある。たとえそのタイプの音楽をよく聴いて知ってはいても、実際にそれを作るのはまったく別の話であって。だから、俺は自分の限界を押し広げていけたらいいなと思っているし、プロダクション等々の面でもっと拡張したい。で、今回彼らのようなミュージシャン、そして素晴らしいアーティストたちと一緒に仕事できたことは、確実にその助けになってくれたと思う。

“GTP Call”における声、あれはグリーンティー・ペンだと思いますが、彼女は何を言っているのでしょう?

GE:(笑)あれは……俺たちが連絡を取り合ったのはパンデミック中のことでね、だからお互いにファン同士ではあるものの、実際に会ったことがなかった。というわけで電話をかけたけど取り損ねる、というすれちがいが何度かあって。携帯メールを送ったり、留守電メッセージを残したり……要するに、ちゃんと通話したことがなかったんだよ(笑)! もちろん、いまはもう彼女と話したことはあるけど、あの当時はお互いにミスりっぱなしで、実際に話したことがなかったっていう。で、たしかアリア(※GTPの本名)にヴォーカル・パートの一部をやり直ししてもらう必要があって、彼女はそれをやってくれた。その後で彼女がヴォイス・メッセージを送ってきてね、「その後どうなった? レコードの進展具合は? あのレコード、私もすごく気に入ってるんだけど」云々、問い合わせてきた。で、残されたそのメッセージを聞いて、俺は「これ、いただき。使わせてもらおう!」と思ったんだ(笑)。

(笑)なるほど。

GE:ハッハッハッハッハッ! あれは本当に、(インタールードとして「書かれた」ものではない)本物のメッセージ、とにかくとても正直な言葉だし、それだけではなく……聴き手をこのレコードにより近づけるものじゃないか、そう思ったんだ。要するに、リスナーもこのレコードの生まれたプロセスの一部になるような、そんな感覚を抱かせるんじゃないか、と。だってあれは、彼女があの曲の進行状況を確認しているって内容だからね(笑)。っていうか、あのメッセージをアルバムに入れたことすら、実は彼女はまだ知らないんだよなぁ、クハッハッハッハッ……

(笑)。そのグリーンティー・ペンやオシュン、ハイレ・シュプリームら客演は素晴らしいですが、あなたは彼らをどのようにして知るんですか? 世界のあちこちにちらばっている人びとですが、たとえばフェスでばったり行き会って知り合った、とか?

GE:いろいろだね。たとえばハイレ・シュプリームは、俺の友人の妻が、彼の歌のSpotify リンクを送ってきてくれて。あれは2019年8月のことだった。“Danjahrous”って曲を聴いたんだけど、途端に「こいつのことは探らなくちゃ」と思わされた(笑)。アメイジングなアーティストだと思ったんだよ、シャーデーやマーヴィン・ゲイのトーン、それにカーティス(・メイフィールド)も少し聴いて取れたからさ。自分が何を好きかは俺にはちゃんとわかっているし、「なんてこった、彼の声からそれらの要素を自分が引き出せたらどんなに素晴らしいだろう!」と思った。というわけで連絡先を突き止め、電話で話すことになって、そうしたら向こうも俺のファンだってことが判明してね。彼はブルックリン在住だと教えてくれて、こっちは「あ、っていうか俺、あと2週間後にブルックリンに行くんだけど」みたいな(笑)。そうしてブルックリンで彼と会い、一晩一緒につるんで、ご機嫌な一夜だった。で、俺は次の月、2019年10月に彼をイビサに呼んで5日間滞在してもらい、そこで8曲くらい共作したんだ。
 グリーンティー・ペンの場合は、彼女の“Ghost Town”っていう、イアーバッズ(Earbuds)がプロデュースしたあのトラックを聴いて、俺と友人との間で「彼女はすごい、一緒に何かやれたらクールだろうな」みたいなやり取りをしていたんだ。そうこうするうちにロックダウンが起きた、と。やっと彼女の連絡先を入手したわけだけど、さっきも話した電話のすれちがいが起きて、彼女から「うん、とにかくビート他の入ったフォルダか何かを送ってみて」って言われて、それで素材の入ったフォルダを送った。で、最初のラフなアイディアが戻ってきたんだけど、俺は「いや、君にはもっとマジにディープな歌を書いて欲しいんだ」と頼んでね。そもそも君と共演したかったのは、素晴らしい声の持ち主であるのはもちろんだけど、俺は君の歌詞の書き方が好きだしそこに惹かれているからだし、あの調子でやって欲しい、君はかなり深いテーマについて書いてるよね? と。というわけで彼女もやがて、あの“Wikid Satellites”を書いてこちらに返してくれたんだ。彼女も俺のファンでね、そこはコラボを進めるのに役立った(笑)。オシュンについて言えば、彼女たちとコラボしたいとずっと思ってきたんだ。かれこれ4年くらい追いかけていたよ。

そうなんですね!

GE:うん、なんとかフックアップしようとがんばっていたけど、なかなか軌道/タイミングが合わなくてね。やっとのことで彼女たちと話ができたのは2020年5月のことで、あの頃ちょうどジョージ・フロイド事件後の一連のデモ等が起きていて、それについて彼女たちと電話で話し合い、「(ロックダウン中のアメリカの)内側で起こっていることについて書いてくれないか」と言ったんだ。彼女たちはあの実に素晴らしい歌(“Breathe In”)を書いてくれたし、それからピップ・ミレット(“Isolated”)の場合は、彼女のマネージャーをちょっと知っていてね。マネージャーと「このプロジェクト向けにプロデューサーを探しているんだ」云々の話をしていて、そのうちに「彼女にうってつけの曲がある」と提案して、彼女に電話していろいろと話し合って。で、彼女はあの、ほかから切り離され、ひとりぼっちでいることについての非常に深い歌を作ってくれた。マーラTK(“Trillion”)、彼のことは知っていたし、俺はあのとき実際、ニュージーランドにいたんだ。あれはたしか2018年の終わり頃で、彼と一緒にウェリントンで共作&レコーディングをやった。だから知り合い方もいろいろなわけだけど……とくにいまのような時期は、色んなアーティストとコラボするのは興味深いと思う。というのも、俺はずっと信じてきたんだ――誰かとコネクトして何か一緒にやりたいと思い、それが(パチン、パチンと指をスナップさせながら)とんとん拍子で楽に進めば、それはきっと起きるべくして起きたコラボだったんだろう、と。
 過去数年で気づいたのは、コラボレーションが本当に美しい成果を生んでいるってことでね。我々は一種の「ゾーン」のなかにいる感じがするっていうか、俺たちはコネクトし、曲を書き、人びとと恊働することについて一種グローバルな考え方をしている。もう、自分の生きるコミュニティや近隣エリアの人びと、知り合いだけに限らないっていう。だって、俺は世界中の音楽を聴いているんだしね。うん、そこもあるんだろうな。先に出た「長きにわたり音楽作りへの関心をどう維持するのか?」という質問だけど、その答えには新たなアーティストを見つけ出すこと、彼らとコネクトし音楽的な冒険に一緒に乗り出すこと、そこもあると思う。

今回は、アルバムの曲数が15曲と多く、これは『Smokers Delight』以来の多さなのですが、しかしあのアルバムはほとんどがインストで、今作はほとんどが歌(ないしはラップ)があります。そう考えると、『Shout Out! To Freedom…』はここ20年のなかではもっとも特別な力が注がれているのかもしれませんね。あなた自身はどう思われますか? クリエイティヴ面での一種のターニング・ポイント的な作品でしょうか?

GE:ああ、確実にそうだと思う。というのも、今回の旅路で得たのは――この作品のために作った音楽は、パンデミック中ですら作業していたから、かなりの量になってね。それらの音源をすべて携帯に入れ、ビーチまで出かけてジョイントに火をつけ、聴いてみたんだ。で、思ったよ、「……これは2枚のアルバムだなって」って。

(笑)。

GE:(笑)俺としても驚いたし、オーライ、さて、どうしよう……と考えた。どの音源を2枚のどっちに入れるか、曲の居場所を見極めなくてはならなかったし、それ自体がひとつのちょっとした謎解きのようなものだった。でも、いまやこうして1枚まとまったわけだし、いままさにもう1枚に取り組んでいるところなんだ。それが『Shout Out! To Freedom…』パート2的なものになるのか、その正体は自分にもまだわからないけれども、とにかく取り組み続けているし、だからなんだ、俺がこの「バブル」というか、「フロー」と呼んでくてれもいいけど、そこから出ずにいるのは。とにかくこのクリエイティヴな状態にノって動き続けているところなんだ、何かが起こっているからね。それは流れ続けている。だから、間違いなく俺は以前以上にインスパイアされているけれども、いまは――アルバムを作るときというのは、最終段階に入ると、俺には手放すのが実にむずかしかったりするんだよ。いったん世に送り出してしまったらそれまで、だからね。ところがいまの俺は、こうして『Shout Out! To Freedom…』を作り終えて世に出して、本当に満足しているしハッピーなんだ。かつ、さて次は何をやろうか、とものすごくエキサイトしてもいる。で、これは自分のキャリアのなかで初のことなんだ(苦笑)、アルバムが出たばかりの段階で、すでに次のアルバムに取り組んでいるって状態は。こんなことは、いままで一度もなかった。で、俺としても「ワオ、こりゃすごいぞ、グレイト!」って感じだし(笑)、うん、いま、たしかにインスパイアされているところだね。

次作を楽しみにしています! 質問は以上です。素晴らしいアルバムですし、ファンも気に入るのは間違いないと思います。本日はお時間を割いていただき、本当にありがとうございました。

GE:応援、ありがとう。本当に、君たちには感謝しているよ。すごく、すごくありがたく思ってる。

了解です。どうぞ、お体にはお気をつけて。

GE:ああ、気をつけるよ。近いうちに、いつかまた日本に行ける日が来たらいいなと俺も思っているからさ!(と合掌する)

もちろんです、日本のファンも楽しみにしています。ありがとうございました!

GE:サンキュー&ビッグ・ラヴ! バーイ!

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