「All We Are」と一致するもの

Squarepusher - ele-king

 パンデミック直前に発表された前作『Be Up A Hello』から4年──。延期となってしまった来日公演も2022年には無事実現され、あらためてその才能を日本のファンに披露してくれたスクエアプッシャー。3月1日にニュー・アルバム『Dostrotime』が送り出される。……のだけれど、今回ストリーミングでは配信されず、ヴァイナル、CD、ダウンロード販売のみでのリリースとなっている。なるほど、たしかにこれは「反逆」だ。アートワークからグッズまでみずからデザインを手がけている点から推すに、まずなにか意図があってのことだろう。とりあえずは先行シングル曲 “Wendorlan” を聴きつつ、新作の全貌を想像しておきたい。

鬼才スクエアプッシャー帰還!

反逆の最新アルバム『Dostrotime』のリリースを発表
新曲「Wendorlan」を解禁

アルバムはCD、LP、ダウンロードのみで
3月1日世界同時リリース

数量限定となるTシャツ・セットや
Beatink.com限定ピンク・ヴァイナルも発売決定

常に挑戦的なスタンスで音楽のあらゆる可能性を追求し続ける鬼才スクエアプッシャーが、最新アルバム『Dostrotime』のリリースを発表し、新曲「Wendorlan」を解禁した。3月1日に世界同時リリースされる本アルバムは、CD、LP、ダウンロードのみでの発売となる。国内盤CDにはボーナストラック「Heliobat (Tokyo Nightfall)」を追加収録。数量限定のTシャツ付セットも発売させる。音楽はもちろん、アルバムのアートワークからTシャツ・デザインまで全てを自らが手掛ける本作は、自らの強い意思と自由を貫き完成させた会心作。Beatink.comでは限定ピンク・ヴァイナルも発売される。

Squarepusher - Wendorlan (Scope Vid)
https://youtu.be/cLOd03UGmH8

label: BEAT RECORDS / WARP RECORDS
artist: Squarepusher
title: Dostrotime
release date: 2024.03.01

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13872

BEATINK.COM限定
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13873

TRACKLISTING:
01. Arkteon 1
02. Enbounce
03. Wendorlan
04. Duneray
05. Kronmec
06. Arkteon 2
07. Holorform
08. Akkranen
09. Stromcor
10. Domelash
11. Heliobat
12. Arkteon 3
13. Heliobat (Tokyo Nightfall) *Bonus Track

Julia Holter - ele-king

 いま、この世界で、エルヴィスよりもビートルズよりもコカコーラよりも有名なのはテイラー・スウィフトだそうだ。誰が言ったのかは知らない。誰も言ってないかもしれない。彼女は1989年生まれだが、その5年前にはジュリア・ホルターが生まれていることを、サウジアラビアの国王は知っているのだろうか。知らない可能性が低いとは言えないので、やはりこれはニュースにする必要があるだろう。
 私は昨年、ケイト・ブッシュの『Hounds of Love(邦題:愛のかたち)』を聴き、ジョニ・ミッチェルの『Court and Spark』(イーノのフェイヴァリット)を聴き、そしてジュリア・ホルターの狂おしい記憶の横断旅行、大作『Aviary』を聴いた。彼女はこのアルバムからいっきに、かつてブッシュやミッチェルがジャンルの束縛から逃れるように向かった荒野に進んで、政治化された強烈かつ複雑なサウンドを表現した。昨年末、ホルターは来日し、私は取材の機会を得るものとばかりに準備をしていたが、結局は、なにごともおこらなかった。私はただ、ただひたすら音楽を聴いていただけだった。ところが、ここに、彼女の新作のニュースを公開しても良いという、お達しのメールが届いたので、いま、かような文章をしたためた次第である。
 青緑のこの惑星は誰のモノでもあって誰のモノでもない。私はこの年末年始、世界で最初の音楽批評と言われるニーチェの『悲劇の誕生』(デイヴィッド・ボウイとイギー・ポップの愛読書の一冊)を読もうと思って、数ページで挫折した。このまま読み終えることなく、また本棚に戻すのか、それとも……ジュリア・ホルターのデビュー作は『悲劇(Tragedy)』だ。そして、彼女の新作の発売は3月22日。ポップとロックの難民たちは記憶すべし。

Julia Holter - Spinning (Official Video)
YouTube >>> https://juliaholter.ffm.to/spinning-yt


artist: Julia Holter
title: Something in the Room She Moves
release: 2024.03.22
label: Domino / Beat Records

商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13856
配信リンク:
https://juliaholter.ffm.to/sitrsm

KOD Vol.1 TRACKLIST - ele-king

This TRACKLIST was created by VINYL GOES AROUND.
Reproduction prohibited.


□Peace Is Not The Word To Play

山崎:前回の続きになりますが、まずB面の1曲目から。

水谷:このネタはMFSBの「T.L.C. (Tender Lovin' Care)」ですね。

山崎:これもカッコいい使い方をしていますね。イントロの部分を分割してる感じはすごいですね。

水谷:ゆったりした部分を使っているのにこんな疾走感のある曲に仕上げている。

山崎:イントロのビートはMilly & Sillyの「Getting Down For Xmas」を使ってます。
原曲もめっちゃカッコいいクリスマス・ソングですね。

水谷:この鈴の入ったビートの感じはラージ・プロフェッサーはよく使います。

山崎:この鈴が入ると疾走感が倍増するというか、勢いが出ますね。

水谷:話が『Breaking Atoms』から脱線しますが、彼の手掛けたNASの「Halftime」でもこの感じを出してますね。そっちはAverage White Bandの「School Boy Crush」のビートですが。

山崎:De La Soulは「D.A.I.S.Y. Age」で同じ曲のギターのフレーズ入りを使ってますが、ラージ・プロフェッサーはよりネタ一発にならないような部分を使用し、そこに『Hair - The Original Japanese Cast Recording』の「Dead End」にフィルターをかけて重ねている。ここではベースラインを使用してますが、当時のサンプラーでできることを120%駆使してまとめる技がすごいですね。一つのトラックとして調和が取れています。

 

水谷:これはNASのデビュー・アルバム『Illmatic』リリース前の曲ですね。『Illmatic』にも入っていますが、『ゼブラヘッド』という映画のサントラに収録されている曲です。『Illmatic』についての解析もまたどこかでしましょう。

□Vamos A Rapiar

山崎:曲名はスペイン語ですね。意味は「ラップをしよう」です。

水谷:これはピート・ロックとの共作なんですよ。ピート・ロック主導のせいなのか、ネタをあまり重ねていないですが、ピート・ロックが活動を始めた初期の仕事です。

山崎:これはThe Three Sounds一発ですね。一番単純なサンプリング方法を使用した曲かもしれません。

水谷:ラージ・プロフェッサーは有名なネタであればあるほど原曲の形跡を残さないのですが、“分かりやすい”ネタをそのまま使っているのはこのピート・ロックとの共作だけ。でもピート・ロックもここでラージ・プロフェッサーから学びを得て、その後SP-1200(初期サンプラーの名機)の操作技術が向上するんですよ。

□He Got So Much Soul (He Don't Need No Music)

水谷:これはラージ・プロフェッサーにしては珍しい、ネタ一発な使い方の曲ですが、Lou Courtneyの「Hey Joyce」、1967年に7インチでリリースされた作品です。同時代ではこのネタを他に使っている人はいませんし、チョイスはずば抜けていますね。ここでも60年代ソウルをサンプリングしています。Main Sourceの特徴的な部分です。

山崎:確かに前述の「Vamos A Rapiar」と違って切り取り方にセンスを感じます。

□Live At The Barbeque

水谷:Melvin Van Peeblesの『Sweet Sweetbacks』のスキットのイントロからVicki Andersonの「In the Land of Milk and Honey」で始まる。

 

山崎:この始まり方も違和感がなく、スムースに切り替わる感じが印象的ですね。

水谷:この曲はもちろんこのイントロの使い方も凄いのですが、もっと衝撃的だったのはビートが実はBob Jamesの「Nautilus」だったって事なんです。

山崎:サンプリング・ネタとしては古くから有名な曲ですよね。

水谷:そうなんですが、普通はあの有名なイントロを使いますが途中のブレイクを使用しています。ここでも他の人のやっていることとは違う事をあえてやっている感じがある。ラージ・プロフェッサーのプライドが垣間見えます。

山崎:これは全然Bob Jamesってわからないですね。けど確かにこのブレイクはかっこいい。そこに目をつけるのはさすがです。

□Watch Roger Do His Thing

山崎:この曲はベースとオルガンは演奏していますね。ドラムはFunkadelicの有名なネタ曲、「You'll Like It Too」です。

水谷:このベースを弾いているアントンていう人がキーマンでして、本名、Anton Pukshanskyって言うんですけど、白人のロック系のエンジニアでレコーディング・スタジオの人だと思うんですけど、HIP HOP系では馴染みの深い人ですね。

山崎:確かにレコーディングのクレジットにも入っています。

水谷:この曲はアルバムリリースの前にシングルで出ているんですよ。その前に「Think」と「Atom」という曲のカップリング・シングルが89年にリリースされていて、これはわりとランダムラップに近いサウンドなのですが『Breaking Atoms』には収録されていません。で、90年にでたこの曲が2ndシングル(B面は「Large Professor」)で、これらは全てActual Recordsからリリースされています。このレーベルは Sir ScratchとK-Cutのお母さんが経営しているレーベルです。Main Sourceの活動はこのお母さんがかなり主導権を握っていたようで、息子でないLarge Professorはその部分で揉めたことが原因で脱退したようですが。

 

山崎:駆け足でBreaking Atomsの収録曲のサンプリングを解析しましたが、総じて言えるのは仕事が細かいってところですね。

水谷:ラージ・プロフェッサーはチョップ・サンプリングの先駆けかもしれません。チョップで有名なDJプレミアは、誰もラージ・プロフェッサーから影響を受けたって言っていないですが、時代を遡ると、この刻んだ感じはラージ・プロフェッサーが最初だと思います。そして重ねる技術や展開も上品で、音楽的です。

□Fakin' The Funk

水谷:それとラージ・プロフェッサー脱退前の超重要曲は「Fakin' The Funk」です。

山崎:映画『White Men Can't Jump』のために作られた曲ですね。レコードはそのラップだけを集めた『White Men Can't Rap』に収録されています。

 

水谷:『Breaking Atoms』のリリース後に(シングルも)出たのですが、メイン・ソースの到達点は前述のNASの「Halftime」とこの曲かもしれません。

山崎:メイン・ソース・ファンにも人気の曲ですね。

水谷:そうですね。この曲、Kool & the Gangの「N.T.」のサンプリングから始まりますが、「N.T.」の原曲を聴くとすごいところから取っているのがわかります。

山崎:普通に「N.T.」を聴いていてもそのまま流してしまいそうな部分ですが、ここをサンプリングしてループするとこんなにかっこいい。しかも一瞬使ってすぐに次のサンプル、The Main Ingredientの「Magic Shoes」に展開している。サンプリングって言わば既存曲のコラージュだと思うんですが、ひとつの曲として完成している。

水谷:常人ではできない組み合わせですよ。デタラメに組み合わせてもこんな曲は生まれない。この2つの組み合わせは簡単なようで、とてもハイレベルだと思います。もはや魔法です。

山崎:そして「Looking At The Front Door」でも触れましたが、やはりコーラスの使い方がうまい。

水谷:ラージ・プロフェッサーはこの後、メイン・ソースを脱退してしまうのですが、その直前に手掛けたのが『The Sceince』です。1992年の『The Source』に2ndアルバムのリリースについての記事が出たんですね。それを当時見て、気持ちが昂ったことを覚えています。でもお蔵入りになってしまった。

山崎:2023年のヒップホップ50周年に『The Sceince』がようやくリリースされた事は大きな話題になりました。そしてここでは「Fakin' The Funk」の別テイクが収録されていますが、ここではESGの「UFO」のイントロを使っています。この曲、ヒップホップのブレイクの定番曲で、回転数を45RPMから33 1/3RPMに下げて使用するのが、ヒップホップのセオリーですがその通りに使用しているのも良いですね(Ultimate Breaks & Beatsにもその回転数で収録されていることは有名)。

水谷:これを最初に聴いたときはテンションが上がりましたね。

山崎:シンプルな使い方ですが、その分ラップが前に出て、彼らはラップも素晴らしいことがよくわかります。

水谷:やはり全方位でレベルが高いんですよ、この頃のメイン・ソースは。もう後にも先にもこんなグループは出てこないかもしれません。

山崎:VGAでは『The Sceince』のテスト・プレスもごく少量ですが販売中です。このアルバムのサンプリング・ネタの解析も、いつかこのコーナーでしたいと思います。お楽しみに。


Main Source / Breaking Atoms
https://anywherestore.p-vine.jp/en/search?q=main+source


MAIN SOURCE / THE SCIENCE Limited Test Pressing
https://vga.p-vine.jp/exclusive/vga-5012/

Squid - ele-king

 ロックの死については、勝利のときも、嘆きのときも、度々宣言がなされてきたが、それはまだ死んではいない。何が起こったかといえば、ロックは、ポピュラー・カルチャーの中心としての立ち位置を失い、ジャズやカントリーのように、音楽の多数のニッチのひとつに落ち着きはじめ、ブランド志向のポップ・スターが利用する一連の記号や象徴となってはいるが、もはやスターたちが煌めく星座の中心に位置するものではなくなったのだ。

 これには多くの含みがあり、そのひとつが、威張って闊歩するようなロック・スターの伝統的な感覚は、ますます不条理に見えはじめていることだ。死んだ時代の寂しい遺物は、手に入れたパワーとシンボリズムにしがみつくが、それらが自らの指の間からこぼれ落ちるのを目にしながら、過去へと遠ざかっていく。

 スクイッドは、この立派で新しい世界には理想的なバンドなのかもしれない。ステージ上では5人がフラットな形で一列に並び、フロントマンにもっとも近いのは、歌うドラマーのオリー・ジャッジだが、その玉座は他のバンド・メンバーと同じ高さにあってそれ以上には上昇せず、どのメンバーも真の中心的な存在であることを示そうとはしない。ジャッジはロック・スターとしての存在感を、フリックするような軽いたたきや、華麗な身ぶりで表現するが、それも音楽の絶え間なく変化するダイナミクスに気を引かれて観客の意識がステージ上を行ったり来たりする瞬間に、通り過ぎてしまう。

 たまに音楽家が口にする、「音楽だけがすべてだ」という、用心深さからくる、回りくどい主張がある。それは決して真実ではないし、達成するのが不可能で矛盾した純粋さであるかもしれないが、おそらくスクイッドは、誰よりもこの主張が似合うバンドではないだろうか。彼らのライヴ・セットは、5人のメンバー全員がリズムを奏でることからはじまり、ベース、ドラムスとパーカッションに何層にも重なる強烈な焦点が当てられることで、観客の注意を、彼らが音響的にどのようなことをしていて、次の70分ほどをどう設定するかの役割を担っていることに向けさせる。徐々に役割分担が変わっていき、ひとつのセットでひとつの楽器に留まる者はおらず、ときには1曲中に2回、3回と楽器を持ち替えることもある。彼らは皆、自らをマシンの交換可能な部品として、ステージ上でのエゴよりも音楽に奉仕するのだ。

 絶えず繰り返される役割分担の変化による副次的な影響として、バンドにはもったいぶったロック・スターのフロントマンや、名人芸を披露するギター・ヒーローも存在しない。それは決して、このバンドが緊密なプレイをし、必要なときには爆発的な力を発揮することができないというわけではない。彼らは、その音楽性を売りにしているわけではなく、その激しさと、完全無欠に訓練された編成による、絶妙なバランスを売りにしているのだ。

 このことが、スクイッドを冷血なマス・ロックの音楽エンジンのように見せているとしても、UKで過剰なほどの宣伝がなされ、〈Warp〉のようなレーベルがバックにいるバンドにしては、限りなくクラブに近い体験ができるほど小さな会場に詰め込まれた観客からは、そのような反応は感じられない。オープニングでの強烈なリズムで観客を魅了したバンドは、一度も彼らに直接呼びかけることなく、ほぼセットを通して、彼らを乗せていく。かわりに、ダイナミックな変化とギア・チェンジを頼りに、錯乱したカーディアックスのヒステリックなプログ・パンクから、恍惚としたアンビエント・ウェーヴまでの広い範囲の先端に触れていく。スクイッドに、いわゆるロック・ヒーローのような役回りの者がいないことが、複雑で絶え間なく変化する音の波の中で、私たち全員を彼らとともに音楽に乗せていくのに役立つのかもしれない。ステージ上での集団的なダイナミズムは、私たちをロック・スターのキリストのような人物の受け身なフォロワーへと導くのではなく、ギャングとしてプレイしているゲームの中へと誘い込むのだ。

 もちろん、彼らのバンドとしての成功もその助けになっている。デビュー・アルバム『Bright Green Field』が、爆発するようなアイディアと音楽的な野心との間の、鋭さと厳しいコントラストの中で、自分たちのコントロールが効かないことを楽しむ若いバンドのサウンドだったのに対し、ニュー・アルバム『O Monolith』は、自分たちのツールをよりよく使いこなす(楽器とソング・ライティングの両方で)アーティスト集団であることをさらけ出している。ステージ上では、それが音楽の両極間で、そのつなぎの部分をほぼ感じさせずに観客を翻弄するというパワフルな才能へと転化される。曲たちは融合し、キャッチーなヴォーカルのリフレインは、実験的なシークエンスから飛び出し、インダストリアルな激しい鼓動の中からフックが立ち現れて、馴染み深い曲の到来を告げる。

 とはいえ、スクイッドは、いまでも全く “音楽だけがすべて” というわけでない。重要なのは、音楽が何をするかであり、彼らの場合は、衝撃的で、眩暈を起こすほどの強烈な、フィジカル(身体的)な体験を生み出すことなのだ。そして、スクイッドのメンバーが、派手なプレイをするのを控えたとしても、彼らは舞台裏に隠れて見えないような操り人形的なグループからはほど遠い。むしろ、彼らのパフォーマンスの多面的な相互作用は、マシンをより人間的で、歓迎され、より楽しく、孤独ではないものにしていく。それは、現代のロック・スターをも嫉妬させてしまうかもしれない。

Squid at Shibuya WWWX
on 27th November 2023

written by Ian F. Martin

The death of rock music has been proclaimed many times, either in triumph or lament, and it’s not happened yet. What has happened is that rock has lost its position at the heart of popular culture and started to settle into position as one of music’s many niches, like jazz or country — a set of codes and symbols for the brand-driven pop stars to draw from, but no longer a core part of that constellation of stars.

This has many implications, but one of them is that the idea of the rock star in the swaggering, traditional sense begins to look more and more absurd — a lonely relic from a dead age, grasping for a power and symbolism that is visibly slipping between his fingers, away into the past.

Squid might be a band ideally suited to this brave new world. Lined up onstage in a flat row of five, the closest thing they have to a frontman is singing drummer Ollie Judge, raised up on his throne only to the same elevation as his bandmates and no higher, and no individual member presents as a true focal point. Judge communicates his rock star presence, such as it is, in flicks and flourishes that blink past in a vanished moment as your attention flickers back and forth across the stage, tugged this way and that by the music’s constantly shifting dynamics.

There’s a cagey and circular claim that musicians sometimes make, that “it’s only about the music”. It’s never true, and might be an impossible and contradictory sort of purity to achieve, but Squid could perhaps make as good a claim as anyone. Their set opens with each of the band’s five members on rhythm, the intense and layered focus on bass, drums and percussion forcing the crowd’s attention onto the what they’re doing sonically and the role it plays setting up the next seventy minutes or so. Gradually, they begin to shift roles, no one sticking to a single instrument for the whole set, sometimes changing two or three times within a single song. They make themselves interchangeable parts of the machine, serving the music ahead of any onstage ego.

One side-effect of this constant shifting of roles is that, just as there’s no strutting rock star frontman, there’s no virtuoso guitar hero either. That’s not to say that the band aren’t tight, and explosive when needs arise, but it means that they don’t sell themselves particularly on their musicianship but rather on this fine balance of intensity and immaculately drilled organisation.

If this makes Squid seem like a cold-blooded math-rock musical engine, it doesn’t feel like that from the crowd, packed into a venue small enough to provide something as close to a club experience as you can get — at least for a band with such UK hype and a label like Warp behind them. Having hooked the audience in those opening, intensely rhythmical moments, the band carry them along for nearly the whole set without once stopping to address the crowd directly. Instead they rely on the dynamic changes and gear shifts, ranging from hysterical prog-punk that touches the deranged peaks of the Cardiacs to blissed-out ambient waves. Squid’s lack of anyone in any of the obvious rock hero roles might even be what helps them bring us all along with them through such complex and constantly-changing sonic tides, the collective onstage dynamic inviting us into a game they’re playing as a gang rather than leading us as passive followers of some rock star Christ figure.

Their own growth as a band surely helps too, though. Where debut album “Bright Green Field” was the sound of a young band delighting in the edges and harsh contrasts between their exploding ideas and musical ambitions, luxuriating in their own lack of control, new album “O Monolith” reveals a group of artists with greater command of their tools (both in instruments and songwriting). Onstage, that translates into a powerful ability to tease the audience between the music’s extremes while barely seeing the join. Songs merge together, catchy vocal refrains bounce off experimental sequences, and hooks emerge out of throbbing, industrial pulses to announce the arrival of familiar songs.

That said, Squid are still far more than “just about the music” because what matters is what the music does — in this case create an electrifying, dizzying and intensely physical experience. And while Squid’s members might shy away from showboating, they’re far from a group of puppeteers, invisible behind the scenes. Rather the multifaceted interplay of their performance makes the machine more human, more welcoming, more fun, and less lonely. A modern day rock star might even be jealous.

12月のジャズ - ele-king

 年末になるとリリースも減ってくるので、今月は少し前に発表されたものから紹介したい。


Daniel Ögren
Fastingen -92

Sing A Song Fighter / Mr Bongo

 ダニエル・エグレンというスウェーデンのギタリストの『ファスティンゲン92』というアルバムで、UKの〈ミスター・ボンゴ〉から秋口にリリースされたのだが、もともとはスウェーデンの〈シング・ア・ソング・ファイター〉というレーベルから2020年にリリースされていたもので、正確にはリイシューとなる。ダニエル・エグレンはジャズやロック系のギタリストで、ソフト・サイケやフォーク・ロックなどを演奏するディナ・オゴンというバンドや、スウェーデン、エストニア、デンマークの混成ポップ・バンドであるマニエックで演奏するほか、ジョエル・ニルス・ダネルの匿名グループであるスヴェン・ワンダーでもギターを弾いている。ソロ・アルバムは2011年の『ラポニア』から定期的にリリースしており、ジャズからフォーク、カントリー、サイケ、スウェーデンの民謡などが入り混じった独特の世界を見せる。

 『ファスティンゲン92』でダニエル・エグレンはギター、ギター・シンセ、ベース、ピアノ、シンセ、パーカッション、クラヴィネットを演奏し、ヴォーカルもとるなどマルチ・プレイヤーぶりを見せ、まわりをディナ・オゴンやマニエックのメンバーがサポートする。“アナレナ” をはじめバレアリックでレイドバックしたムードに包まれた作品集で、クルアンビンあたりに共通したものを感じさせる。ディナ・オゴンのアンナ・アーンルンドがスウェーデン語で歌う “イダギ” は、フォーク・ソング調の作品ながらエフェクトを交えてコズミックなムードも醸し出し、ステレオラブやゼロ7あたりを彷彿とさせるところもある。エレクトロな中に独特のエキゾティックなムードを湛えた “クリスティンハム・バイ・ナイト(フォー・クリストファー)” など、スウェーデンの電子音楽の始祖で、1970年代に宇宙をテーマにしたアンドロメダ・オール・スターズを率いたラルフ・ルンドステンを思い起こさせるアルバムだ。


Greg Foat & Eero Koivistoinen
Feathers

Jazzaggression

 スウェーデンの隣国フィンランドも昔からジャズが根付いている国だが、そんなフィンランド・ジャズ界の大御所サックス奏者のイーロ・コイヴィストイネンと、ロンドンのピアニストのグレッグ・フォートが共演した『フェザーズ』。グレッグ・フォートと言えば、ブラック・ミディのドラマーのモーガン・シンプソンと共演した『サイコシンセシス』(2022年)が最近でも印象深いが、今年もココロコのドラマーのアヨ・サラウと共演した『インターステラー・ファンタジー』ほか数枚のアルバムをリリースするなど、精力的に活動している。ザ・グレッグ・フォート・グループのファースト・アルバムはスウェーデンでも録音するなど、昔から北欧のジャズ・シーンとも縁が深く、2021年にはフィンランドのドラマーのアレクシ・ヘイノラ、ベーシストのティーム・オーケルブロムなどのミュージシャンと共演した『ゴーン・トゥ・ザ・キャッツ』をリリースしてきた実績もあり、今回のイーロ・コイヴィストイネンとの共演も極めて自然な流れと言える。リリース元の〈ジャズアグレッション〉はノルウェーのレーベルで、これまでも『ゴーン・トゥ・ザ・キャッツ』はじめフォートの作品をいくつか制作してきたところだ。

 一方、イーロ・コイヴィストイネンは1960年代にハード・バップやモードから出発し、フリー・ジャズからジャズ・ファンクと時代によって幅広く演奏してきたプレーヤーである。数年前のレコーディングにはアレクシ・ヘイノラが参加していたこともあり、今回のグレッグ・フォートとの共演が実現したのだろう。『フェザーズ』にはそのアレクシ・ヘイノラやティーム・オーケルブロムも参加している。クールなフェンダー・ローズが光る “インコンシークエンシャル・ナラティヴ” など、全体的には1970年代のジャズ・ファンクやフュージョン的なムードを感じさせる作品が多い。いろいろなタイプのジャズを演奏するグレッグ・フォートだが、今回のアルバムはそこにフォーカスしているようだ。“ライディング・ザ・ブリーズ” はスペイシーなムードのシンセを用い、ハウスやテクノなどとの親和性も見せるエレクトリック・ジャズ。ほかにロニー・リストン・スミス張りのアンビエントな世界観を見せる “フェザーズ” などいろいろなナンバーが並ぶが、イーロ・コイヴィストイネンのエモーショナルなテナー・サックスはどんな展開でもしっかりと存在感を示し、大ヴェテランならではのいぶし銀のようなプレイを聴かせる。


Hailu Mergia
Pioneer Works Swing (Live)

Awesome Tapes From Africa / Pioneer Works Press

 エチオピアのキーボード奏者のハイル・メルギアは、ムラトゥ・アスタトゥケと並ぶエチオ・ジャズの最重要人物だが、アスタトゥケに比べてファンク寄りのミュージシャンであり、ジャズ・ファンク・バンドのザ・ワリアスを結成した。1977年の『チェ・ベレウ』など、レア・グルーヴの文脈で再評価されて世界に広まったミュージシャンである。アメリカのワシントンDCに移住して、1990年代は音楽活動を停止してタクシー運転手をしていた時期もあったが、そうした再評価によって復活し、2018年に20数年ぶりの新録となる『ララ・ベル』をリリースした。『ララ・ベル』をリリースしたのはアフリカ音楽のリイシューやカセット・テープなどのレコード化で知られる〈アウェイサム・テープス・フロム・アフリカ〉で、『チェ・ベレウ』はじめ多くのメルギアの音源をリリースしている。今回は〈パイオニア・ワークス〉という教育や実験を支援する出版社と組み、2016年にブルックリンでおこなわれた〈パイオニア・ワークス〉主催のコンサートに出演したメルギアのライヴ音源をリリースした。

 演奏はメルギアのキーボード、アコーディオン、メロディカ、ヴォーカルのほか、ベースとドラムスによるトリオというシンプルな編成。『ララ・ベル』や2020年リリースの『イエネ・ミルチャ』など近年のアルバム収録曲から、1985年にカセット・テープでリリースされた音源の楽曲などまでやっている。メロディカを演奏する “ティジア” はエチオピア特有の音階を持つメルギアならではのエチオ・ジャズ。もともとアメリカのファンクやジャズに影響を受けたメルギアだが、“ベレウ・ベドゥバイ” に見られるようにエチオピア民謡などと結びつくことにより、独自の発展を遂げていったことが彼の演奏を聴くとよくわかる。


Blaque Dynamite
Stop Calling Me

Dolfin

 ブラック・ダイナマイトことマイク・ミッチェルは、アメリカのダラス出身で現在28才のジャズ・ドラマー。若い頃から天才ドラマーとの呼び声高かった彼は、エリカ・バドゥ、ノラ・ジョーンズ、ロイ・ハーグローヴらを輩出したブッカー・T・ハイ・スクールに進み、在学中に大御所のスタンリー・クラークのバンドに抜擢される。その後グレッグ・スピロ率いるスピリット・フィンガーズやDJのベン・ヒクソンらが参加するグループのラッヘなどで活動し、エリカ・バドゥほか、ハービー・ハンコック、クリスチャン・スコット、デリック・ホッジ、カマシ・ワシントンといった面々と共演してきた。2015年にラッヘがバックを務めたブラック・ダイナマイト名義でのソロ・アルバム『Wi-fi』を皮切りに、『キリング・バグズ』(2017年)、『タイム・アウト』(2020年)とリリースを続けてきた。同じテキサス出身のロバート・グラスパーがそうであるように、ブラック・ダイナマイトもジャズのほかにヒップホップ、R&B、ファンク、ソウル、ゴスペルなどの要素を併せ持つブラック・ミュージックのアーティストである。

 今回リリースした『ストップ・コーリング・ミー』は通算4枚目のアルバムで、ダラスのほか、ロサンゼルス、ニューヨークなどでレコーディングをおこなっている。ベン・ヒクソンはじめラッヘのメンバーが演奏に参加しており、ブラック・ダイナマイトはドラムやパーカッション以外にもピアノやヴォーカルをとり、またベン・ヒクソンのプロダクションによるエレクトリックなアプローチやプログラミングも取り入れ、ジャズだけでなく多方向から聴くことができるアルバムだ。例えば “パッション” はベン・ヒクソンがアディショナル・プロダクションをおこなうハウス調のナンバーで、ここでのブラック・ダイナマイトは完全にシンガーに徹している。“ブルー・ウィッグ” や “スクラフ” など、ハウス、フットワーク、ゴム、ベース・ミュージック系の作品がある一方、ブラジル音楽を取り入れた “サンバ” と幅広いアプローチを感じさせる。ドラマーとしてのブラック・ダイナマイトを聴くのであれば、ジョー・ザヴィヌル作曲でウェザー・リポートやマイルス・デイヴィスが演奏した “ダイレクションズ” のカヴァーだろう。ブラック・ダイナマイト自身が歌詞をつけ、新たにヴォーカル曲として生まれ変わっているのだが、まるでウェザー・リポートとファンカデリックが共演したような強烈なジャズ・ロックとなっている。ここでのブラック・ダイナマイトの演奏は往年のトニー・ウィリアムスやビリー・コブハムあたりを彷彿とさせるもので、スペース・オペラ風の曲調をドラマティックに彩っている。

Mighty Ryeders "Help Us Spread The Message"の謎の巻 - ele-king

 マイアミの小さなレーベルからリリースされたMighty Ryeders "Help Us Spread The Message"は謎多きアルバムであります。オリジナル盤はプロモ盤しかないとか、「Evil Vibrations」が曲の途中でスロー・ダウンする盤もあるなど口コミで多くの逸話を残し、そもそもの希少性もあって今日(こんにち)までミステリアスな入手最難関アイテムに君臨し続けています。
 その不明瞭な部分をVINYL GOES AROUNDチームで検証し、2023年12月20日に発売された本作CDのライナーノーツに執筆/掲載させて頂きました。
 ここではその一部とオリジナル盤と呼ばれる4種類のヴァージョンの音質についても検証した動画を公開します。

□ジャケット

・ファースト・プレスのプロモ盤は表面に「PROMOTIONAL NOT FOR SALE」の印刷。

・ファースト・プレスは張り合わせ式で、セカンド・プレスのジャケットはワンピース。

・ファースト・プレスとセカンド・プレスではレーベルのロゴマークとタイトルのHelp Us部分の網点の質感の印刷が違う(ファースト・プレスの方が印刷が細かい)。

ファースト・プレスプロモ盤ファースト・プレスプロモ盤

ファースト・プレス市販盤ファースト・プレス市販盤

セカンド・プレスセカンド・プレス FULLERSOUND盤

セカンド・プレス・スローダウン盤セカンド・プレス・スローダウン盤

□マトリックスと盤

・ファースト・プレスのプロモ盤と市販盤ではB面のマトリックスの筆跡が違う(音質も若干違う)。

・セカンド・プレスのマトリックスの横に「FULLERSOUND」という刻印の入っているものと入っていないものが2種類あり、入っていないものは「Evil Vibrations」のピッチが後半でスローダウンする。

ファースト・プレスプロモ盤ファースト・プレスプロモ盤

ファースト・プレス市販盤ファースト・プレス市販盤

セカンド・プレスセカンド・プレス FULLERSOUND盤

セカンド・プレス・スローダウン盤セカンド・プレス・スローダウン盤

□音質の分析

やはりファースト・プレスの2枚が優れている。プロモ盤と市販盤ではB面のマトリックスが異なり、音質も若干違う(どちらかに優越をつけ難い)。セカンド・プレスのFULLERSOUND盤の音質は初回リリースに近いが若干レベルが低い。スローダウン盤の音質はさらに少しこもっているように思われる。

動画

さらに詳しい詳細はこちらのライナーノーツをご参照ください。

マイティ・ライダース
マイティ・ライダース
ヘルプ・アス・スプレッド・ザ・メッセージ

PCD-94170

 2024年2月に東京および大阪での公演を控えるワンオートリックス・ポイント・ネヴァー。そのスペシャル・ゲストとして、なんとなんと、ジム・オルーク石橋英子の出演が決定! オルークは最新作『Again』にも参加していたわけだけれど、ここ日本でついに彼らがおなじステージに立つ、と。
 またこのアナウンスに合わせ、『Again』収録曲 “Nightmare Paint” のMVが公開されている。監督はアンドリュー・ノーマン・ウィルソン。目から出る光線でCDを焼く? なんとも印象的な映像なので、こちらもチェックしておこう。

L’Rain - ele-king

 ブルックリン育ちのミュージシャン兼キュレーターのロレインことタジャ・チークは、3作のアルバムを通じて、彼女が「approaching songness(歌らしさへの接近)」と呼ぶ領域間で稼働してきた。その音楽は、記憶と連想のパリンプセスト[昔が偲ばれる重ね書きされた羊皮紙の写本]で、人生のさまざまな局面で作曲された歌詞とメロディーの断片が、胸を打つものから滑稽なものまで、幅広いフィールド・レコーディングと交互に織り込まれている。それはつねに変化し、さまざまな角度からその姿を現す。ニュー・アルバム『I Killed Your Dog』の “Our Funeral” の冒頭の数行で、チークはオートチューンで声を歪ませて屈折させ、息継ぎの度に変容させていく。焦らそうとしているわけではなく、一節の中に複数のヴァージョンの彼女自身を投影させるスペースを作り出そうとしているのだ。高い評価を得た2021年のアルバム『Fatigue』のオープニング・トラックは、「変わるために、あなたは何をした?」との問いかけではじまっている。ロレインは確かな進化を遂げながら、その一方でチークは、これまでの作品において、一貫性のある声を保っているのだ。ループするギター、狂った拍子記号、糖蜜のようににじみ出る、心を乱すようなドラムスなど、2017年の自身の名を冠したデビュー盤でみられた音響的な特徴は、『I Killed Your Dog』でも健在だ。同時にロレインは、これまでよりも人とのコラボレーションを前面に打ち出している。今回は、彼女とキャリアの初期から組んできたプロデューサーのアンドリュー・ラピンと、マルチ・インストゥルメンタリストのベン・チャポトー=カッツの両者が、彼女自身と共にプロデューサーとしてクレジットされているのだ。チークが過去の形式を打ち破ることを示すもっとも明白なシグナルは、気味が悪くて注意を引く今作のアルバム・タイトルに表れている。『I Killed Your Dog』の発売が発表された際のピッチフォークのインタヴューでは、これは彼女の「基本的にビッチな」アルバムであり、リスナーの期待を裏切り、意図的に不意打ちを食らわせるものだと語っている。また他のインタヴューでは、最近、厳しい真実を仕舞っておくための器としてユーモアを利用するピエロに嵌っていることに言及している。これは、感傷的なギターとピッチを変えたヴォーカルによる “I Hate My Best Friends(私は自分の親友たちが大嫌い)” という1分の長さの曲にも表れている。(念のため、実際には彼女は犬好きである。)
 メディアは、ロレインの音楽がいかにカテゴライズされにくいかということを頻繁に取り上げている。だが、チークが黒人女性であり、予期せぬ場で存在感を発揮していることから、これがどの程度当たっているのかはわからない。その点では、彼女には他のジャンル・フルイド(流動性の高い)なスローソン・マローン1(『Fatigue』にも貢献した)、イヴ・トゥモア、ガイカやディーン・ブラントなどの黒人アーティストたちとの共通点がある。「You didn’t think this would come out of me(私からこれが出てくるとは思わなかったでしょ)」と、彼女は “5to 8 Hours a Day (WWwaG)” で、パンダ・ベアを思わせるような、幾重にも重ねられたハーモニーで歌っている(「この歌詞の一行は間違いなく、業界へ向けた直接的な声明だ」と彼女はClash Musicでのインタヴューで認めている)。
 『I Hate Your Dog』 では、チークがこれまででもっともあからさまにロックに影響された音楽がフィーチャーされているが、彼女のこのジャンルとの関係性は複雑なものだ。最初に聴いたときに、私がテーム・インパラを思い浮かべた “Pet Rock” について、アルバムのプレス・リリースにはこう書かれている──2000年代初期のザ・ストロークスのサウンドと、若い頃のロレインが聴いたことのなかったLCDサウンドシステム──これには、一本とられた。
 彼女の初期のアルバムと同じくシーケンス(反復進行)は完璧で、各トラックを個別に聴くことで、その技巧を堪能することができる。これは、トラックリストに散りばめられたスキットやミニチュアに顕著で、アルバムのシームレスな流れに押し流されてしまいがちだ。33秒間という長さの “Monsoon of Regret” は、微かな焦らしが入ったような、混沌とした曲であり、“Sometimes” は、アラン・ローマックスがミシシッピ州立刑務所にループ・ペダルをこっそり忍び込ませたかのような曲だ。
 “Knead Be” がアルバム『Fatigue』の言葉のないヴォーカルとローファイなキーボードによる1分間のインタールードで、ヴィンテージなボーズ・オブ・カナダのようにワープし、不規則に揺れる “Need Be” をベースにしている曲だと気付くには、注意深く聴き込む必要がある。この曲でチークは、そのトラックに沈んでいたメロディーの一節を、小さい頃の自分に、物事がうまくいくことを悟らせる肯定的な賛歌へと拡大した。ただ、その言葉(「小さなタジャ、前に進め。あなたは大丈夫だから」)はミックスの奥深くに潜んでいるため、歌詞カードを見ないと、何と歌っているのか判別するのが難しい。
 初期の “Blame Me” のような曲では、チークはひとつのフレーズのまわりを、まるでメロディーの断片が頭の中に引っかかってリピートされているかのようにグルグルと旋回する。『I Killed Your Dog』では、何度かデイヴィッド・ボウイの “Be My Wife” のようなやり方で、一度歌詞を最後まで通したかと思うと、またそれを繰り返して歌う。あらためて聴き返すと、彼女が足を骨折した後に書いたバラード調の “Clumsy(ぎこちない・不器用)” ほどではないが、歌詞は、その歌詞に出てくる問いかけ自体に回答しているかのように聴こえる。“Clumsy” では曲の最後に、冒頭で投げかけた問いへと戻る。「想像もつかないような形で裏切られたとき、(自分が足をついている)地面をどのように信頼しろというの?」
 彼女はまだ、答を探り続けているのかもしれない。
 終曲の “New Years’ UnResolution” は、チークがアルバムを「アンチ・ブレークアップ(別れに反対する)」レコードと表現したことを端的に表している。この曲でも、歌詞がループとなって繰り返されるが、今回はその繰り返しの中で、歌詞が大きく変えられているのだ。彼女はその言葉には、別れた直後と、かなりたってから、後知恵を働かせて書いたものがあると説明している。バレアリックなDJセットで、宇多田ヒカルの “Somewhere Near Marseilles -マルセイユ辺り-” と並べても違和感のない、ダブ風のキラキラと揺れる光のようなグルーヴに乗せて、チークは、陰と陽のような、互いを補いあう2つのヴァースを生み出している。

ひとりでいるのがどんな感じか忘れてしまった
雨を吐いて 雪を吐き出す。
日々は、ただ古くなっていく
何も持たないということがどんなものか知っている?
どんなものかは知らないけれど
あなたは今夜ここに来る?
私から電話するべきか あるいは無視するべき? 私は……する
恋をするということがどんな感じか忘れてしまった
太陽を飲み込んで 雪を吐き出す
日々は、古くはならない。
何かを持っているということがどんなことか知っている?
ふたりともそれを知っている。
ただ真っ直ぐに私の目を見て
あなたから私に電話するべきか あるいは私を無視するべき? あなたは……する

 彼女はいまや、人生を両側から眺めることができたのだ。


L’Rain - I Killed Your Dog

written by James Hadfield

Across three albums, L’Rain – the alias of Brooklyn-raised musician and curator Taja Cheek – has operated in an interzone that she calls “approaching songness.” Her music is a palimpsest of memories and associations, interleaving fragments of lyrics and melodies composed at different points in her life, with field recordings that range from poignant to hilarious. It’s constantly shifting, revealing itself from different angles. During the opening lines of “Our Funeral,” from new album “I Killed Your Dog,” Cheek contorts and refracts her voice with AutoTune, morphing with each breath she takes. It isn’t that she’s playing hard to get, more that she’s making space for multiple versions of herself within a single stanza.

“What have you done to change?” asked the opening track of her widely acclaimed 2021 album “Fatigue.” L’Rain has certainly evolved, but Cheek has maintained a consistent voice throughout her work to date. Many of the sonic signatures from her self-titled 2017 debut – looping guitar figures, off-kilter time signatures, phased drums that ooze like treacle – are still very much present on “I Killed Your Dog.” At the same time, L’Rain has become a more collaborative undertaking: She’s quick to credit the contributions of producer Andrew Lappin – who’s been with her since the start – and multi-instrumentalist Ben Chapoteau-Katz, both of whom share producer credits with her this time around.

The most obvious signal that Cheek is breaking with past form on her latest release is in the album’s lurid, attention-grabbing title. As she told Pitchfork in an interview when “I Killed Your Dog” was first announced, this is her “basic bitch” album, pushing back against expectations and deliberately wrong-footing her listeners. She’s spoken in interviews about a recent fascination with clowns, who use humour as a vessel for hard truths. In this case, that includes a minute-long song of gooey guitar and pitch-shifted vocals entitled “I Hate My Best Friends.” (For the record, she loves dogs.)

Media coverage frequently notes how resistant L’Rain’s music is to categorising, though it’s hard to say how much this is because Cheek is a Black woman operating in spaces where her presence wasn’t expected. In that respect, she has something in common with other genre-fluid Black artists such as Slauson Malone 1 (who contributed to “Fatigue”), Yves Tumor, GAIKA and Dean Blunt. “You didn’t think this would come out of me,” she sings on “5 to 8 Hours a Day (WWwaG),” in stacked harmonies reminiscent of Panda Bear. (“That line is definitely a direct address to the industry,” she confirmed, in an interview with Clash Music.)

“I Hate Your Dog” features some of Cheek’s most overtly rock-influenced music to date, although her relationship with the genre is complicated. According to the press notes for the album, “Pet Rock” – which made me think of Tame Impala the first time I heard it – references “that early 00’s sound of The Strokes and LCD Soundsystem that L’Rain never listened to in her youth.” Touché.

Like her earlier albums, the sequencing is immaculate, and it’s worth listening to each track in isolation to appreciate the craft. That’s especially true of the skits and miniatures scattered throughout the track list, which can get swept away in the album’s seamless flow. The 33-second “Monsoon of Regret” is a tantalising wisp of inchoate song, reminiscent of Satomimagae; “Sometimes” is like if Alan Lomax had snuck a loop pedal into Mississippi State Penitentiary.

It takes close listening to realise that “Knead Be” is based on “Need Be” from “Fatigue,” a one-minute interlude of wordless vocals and lo-fi keyboards that warped and fluttered like vintage Boards of Canada. Here, Cheek takes the wisp of melody submerged within that track and expands it into a hymn of affirmation, in which she lets her younger self know that things are going to work out – though her words of encouragement (“Go ’head lil Taja you’re okay”) lurk so deep in the mix, you’d need to look at the lyric sheet to know exactly what she’s singing.

On earlier songs such as “Blame Me,” Cheek would circle around a single phrase, like having a fragment of a melody stuck in your head on repeat. Several times during “I Killed Your Dog,” she runs through all of a song’s lyrics once and then repeats them, in the manner of David Bowie’s “Be My Wife.” Heard again, the words sound like a comment on themselves – no more so than on the ballad-like “Clumsy” (written after she broke her foot), when she returns at the end of the song to the question posed at its start: “How do you trust the ground when it betrays you in ways you didn’t think imaginable?” It’s like she’s still grasping for an answer.

Closing track “New Year’s UnResolution” – which best encapsulates Cheek’s description of the album as an “anti-break-up” record – also loops back on itself, except this time the lyrics are significantly altered in the repetition. She’s explained that the words were written at different points in time, both in the immediate aftermath of a break-up and much later, with the earned wisdom of hindsight. Over a shimmering, dub-inflected groove that wouldn’t sound out of place alongside Hikaru Utada’s “Somewhere Near Marseilles” in a Balearic DJ set, Cheek delivers two verses that complement each other like yin and yang:

I’ve forgotten what it’s like to be alone
Vomit rain spit out snow.
Days, they just get old.
Do you know what it’s like to have nothing?
I don’t know what it’s like.
Will you be here tonight?
Should I call you or should I ignore you? I will...
I’ve forgotten what it’s like to be in love
Swallow sun spit out snow
Days, they don’t get old.
Do you know what it’s like to have something?
We both know what it’s like.
Just look me in the eye.
Should you call me or should you ignore me? You will...

She’s looked at life from both sides now.

様々な話題作・注目作が公開された2023年を振り返り、さらには公開が待たれる2024年の注目作の数々を情報通たちが厳選して紹介。

見逃してしまった2023年の重要作に改めて出会い、見逃せない2024年の注目作に備えよう!

目次

対談 ハリウッドの現在、そして映画の未来 町山智浩×宇野維正
Pick Up Review
 ただ走る映画――『レッド・ロケット』 上條葉月
 #MeToo ムーヴメントに連なる重要作――『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』 児玉美月
 スクリーンの向こう側にも楽園などなかった――『Pearl パール』讃 高橋ヨシキ
 ハラスメント加害者の視点――『TAR ター』 戸田真琴
 配信で絶大な人気を保つアダム・サンドラー――『バト・ミツバにはゼッタイ呼ばないから』 長谷川町蔵
 令和のグラインドハウス映画―― 『プー あくまのくまさん』 ヒロシニコフ
 昼メロ世界が描き出す映画とドラマの複雑な隔たり――『別れる決心』 三田格

アンケート 2023年間ベスト&2024年の注目作
 伊東美和/宇野維正/大久保潤/大槻ケンヂ/片刃/上條葉月/カミヤマノリヒロ/川瀬陽太/北村紗衣/木津毅/児玉美月/堺三保/佐々木敦/佐々木勝己/侍功夫/品川亮/柴崎祐二/城定秀夫/高橋ターヤン/高橋ヨシキ/田野辺尚人/月永理絵/てらさわホーク/戸田真琴/Knights of Odessa/中沢俊介/夏目深雪/ナマニク(氏家譲寿)/西森路代/長谷川町蔵/はるひさ/樋口泰人/ヒロシニコフ/藤田直哉/古澤健/堀潤之/町山智浩/真魚八重子/三田格/三留まゆみ/森直人/森本在臣/柳下毅一郎/山崎圭司/吉川浩満/涌井次郎/渡邉大輔

鼎談 「観たい映画を観るだけだから」――2023年総括&2024年の展望 柳下毅一郎×高橋ヨシキ×てらさわホーク

2024年の注目作
 2024年注目アクション映画 高橋ターヤン
 2024年の注目ホラー映画 伊東美和
 2024年注目のSF映画 堺三保
 2024年注目のアメコミ映画 てらさわホーク
 2024年公開予定 ヨーロッパ映画注目作 渡邉大輔
 アジア映画2024年注目作 夏目深雪

対談 反=恋愛映画の2023年 佐々木敦×児玉美月

*レコード店およびアマゾンでは12月15日(金)に、書店では12月25日(月)に発売となります。

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
12月15日発売
amazon
TOWER RECORDS
12月25日発売
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
ヨドバシ・ドット・コム
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SPECIAL DELIVERY

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 ※書店での発売は12月25日です。
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