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Ken Yokoyama

Ken Yokoyama

Four

Pizza Of Death Records

Amazon iTunes

岩崎一敬   Apr 14,2010 UP

 90年代後半以降の日本のラウド・ロック・シーンに最も大きな影響を与えていると思われる人物が、ロックのあり方を正面からはっきりと問う作品を発表した。その人物とは、活動休止中のハイ・スタンダードのギタリストで、現在は「Ken Yokoyama」名義でソロ活動を行っている横山健だ。ソロ4作目となる『Four』は、メンバー・チェンジを経て、よりアグレッシヴなサウンドに進化を遂げた作品であるが、その攻撃的な内容はサウンドだけに留まらない。ここでは、歌詞に込められたメッセージに焦点を当てて紹介してみたい。

「パンク」の定義も少し変わったようだ それでもオレは自分を「パンク」なんだと思っている この先にどんな変化が待っていようが関係ない オレは自分の決断を誇りに思う("Punk Rock Dream"より)

 オレは断固拒否する カッコ悪い同類だと思われたくない 本物にはなれない お前がロックだと? それならオレはロックじゃない("Your Safe Rock"より)

 これまでパンク・ロックに縁のなかったキッズたちを巻き込んで多くのコピー・バンド、フォロワーを生み、(本人たちは意図せずとも)"メロコア"というジャンルを世に広めたバンド、ハイ・スタンダード。アメリカン・ハードコア譲りのやかましくて速いサウンドにキャッチーなメロディーをのせた音楽、そしてキャップやスニーカーといったファッション。そんな新しいスタイルも、ハードコア・パンクがルーツにあることがポイントだったわけだが、いつしか、そこからパンク・アティチュードが抜け落ちた"入れ物"だけを受け継いだようなバンドが増えてしまうことになる。オーディエンスもそうだ。ライヴ会場では予定調和でモッシュサークルが生まれたり、手を繋いでフォークダンスのように回ったり。そういったものまでもが、同じく"パンク・ロック"というカテゴリーにひとくくりにされている。上記の歌詞は、そんな状況に異を唱えたものだ。
 また、こんな出来事も背景にはある。2009年の夏、十数万人を動員する〈ROCK IN JAPAN FES〉ではモッシュ、ダイヴ行為が禁止された。モッシュ、ダイヴはKen Yokoyamaが普段演奏するライヴハウスでは日常茶飯事の光景である。横山健は演奏中、たまらず「ロックが良い子でどうすんの?」と声を上げた。その瞬間、堰をきったようにダイヴの嵐が巻き起こったという。

「何しろ大きかったのは去年の夏のフェスティヴァルの光景。もうダメだ!と思って。パンクはもとよりロックがこんな健康的でどうすると思って。普通だったら出なきゃいい話なんだけど、僕はそこに進んで関わっていって、壊すなら中からブチ壊したいんですよ」「他のバンドは逃げたけど、僕はそこを隠さず出したんです。だったら歌詞でも言うしかないんじゃないかって思うんですね」(『インディーズ・イシュー』vol.51インタヴューより)

 単なるフェスであれば、特別声を上げることもなかっただろう。問題は、"ロック"という言葉を冠したフェスで、ロックな行為を規制されたことだ。そこに出演するということは、その趣旨に賛同するということ、つまりロック文化の変容を認めることになると、横山健は考えたのである。そして、傍観姿勢をとる者がほとんどのなかで、ライヴハウスでもまれながら育ち、ロック文化を愛する横山健は、はっきりと「NO」を突きつけた。
 発言の重み、といったものは痛いほどわかっているだろう。アンダーグラウンドなパンクスではなく、"横山健"という、責任ある大人の、リスクを背負った行動だということ。そこがポイントなのだ。取材などを通して接するなかで、横山健は筆者などよりずっと常識的で、見識もあり、穏やかで、バランスのとれた人物である。本人も「もともとそういう性格じゃないし、ほんとは余計なものに触りたがらない性格なんだけど」と語っていた。しかし、誰かが言わなければならなかった。その役目を代表して負ったのだ。そして、CD作品、そのプロモーションの場という、彼らが持ちうるメディアを使って、発信しまくった。そのアティチュードと行動には、大きな拍手を送りたい。
 もちろん、これは特定のフェスや人物に対して向けられたものではない。ロックを守ること、ロックが形骸化していくことに対しての愛あるメッセージなのである。大きなクサビは打たれたことと思う。しかしこれで終わりではない。

 そしてオレが死んだら あとはお前次第だ まるで心臓が大きく鳴っているかのように ビートを繋ぎ続けるんだ まるで命を繋ぐかのように ビートは死なせるな("Let The Beat Carry On"より)

 次はぼくらの番である。

参考サイト:http://www.pizzaofdeath.com/staff/column/vol.65.html

岩崎一敬