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ジョン・ベルトランは、デトロイト・テクノ第2世代として登場して、もっとも地味~な存在だったのに関わらず、結局、20年後のいまも作品が楽しみにされているひとりとなった。先日リリースされたムードマンのミックスCDの1曲目が、彼の1996年の名作『テン・デイズ・オブ・ブルー』から選ばれているように、ジョン・ベルトランの繊細かつ小綺麗な音響とメロディは、タイムレスだ。
ジョン・ベルトランの中途半端なアンビエント・テイスト、中途半端なクラブ・テイストは、もうすぐ新作がリリースされるゴールド・パンダのいる領域と重なる。美しく、そして、どちらでもない感覚がベルトランの魅力であることに間違はない。10年ほど前、クラブ・ジャズからの賞賛のなかで発表した、自身のラテン・ルーツを強く意識した〈ユビキティ〉時代の作品も悪くはないが、僕は、中途半端なアンビエント・テイスト、中途半端なクラブ・テイストを持った彼の曖昧な領域で鳴っている音楽のほうが好きだ。重たくもなく、軽くもない。ごくたまに、自分のなかの嫌な部分が、闇の部分が、ある種ネガティヴな思いが、決して作品では出てこない、あるいは出さないタイプのアーティストがいるが、ベルトランは典型的なそれである。彼の音楽は何を聴いても優しい夢の国。スタイルに多少の変化があるだけだ。
ベルトランは、2011年にオランダの〈デルシン〉から彼のアンビエント風の楽曲を編集した『アンビエント・セレクションズ 1995-2011』をリリースしている。オリジナル作品ではないが、前作『ヒューマン・エンジン』から5年ぶりのことで、昨今のポスト・ダブステップにおける90年代風回帰、ないしはアンビエント・ミュージックのささやかな流行がベルトランの復活をうながしたのだろう。
7年ぶりのオリジナル作品となる『アメイジング・シングス』は、彼がソフトウェアを使って初めて作った作品だという。そして、アルバムは彼のふたりの子供に捧げられている。この7年のあいだに、彼にはふたりの子供ができた。他人事ではないように思えるし、そうしたモチヴェーションゆえか、彼の夢の国はさらにまた輪をかけて夢の国となった。クラスターで言えば『ゾヴィゾーゾー』、レデリウスの素朴な愛情。
最近は、踊ってばかりの国の下津光史から「野田さんって実はテクノ知ってるんですね」と言われ、快速東京の哲丸からも「デトロイト・テクノって何?」と言われたということもあって、書いた。
そして、最初は影が薄く、地味~にスタートした人が、20年経たとき、気がついたら最高に眩しく輝いていたということもある、そのことを23歳の君にも伝えたかった。
野田 努