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心地よくレイドバックした2011年の『ゲット・ロスト』とくらべ、新作『アロング・ザ・ウェイ』はいくらかドラマチックで、ユーフォリックなアルバムだ。曲によっては、彼の師のひとり、アシュラ(マニュエル・ゴッチング)の『ブラックアウツ』(1977年)を彷彿させる。マーク・マグワイヤはギター・ソロを弾きまくっている。アルバム全体ではない。ときを見計らって、ある曲のある時間帯のみにそれは噴出する。
このアルバムを僕がまだ聴く前、橋元は「スピってます」という謎めいた言葉を発していたのだが、マグワイヤ自身が記したライナーノーツを読んで意味が解せた。『アロング・ザ・ウェイ』はスピリチュアルな作品だ。
マーク・マグワイヤに限らず、パティ・スミスからフライング・ロータスまで、アメリカのミュージシャンがスピることは珍しくない。1ドル紙幣からしてスピっている(ダビデの星、ピラミッド、etc)。いや、「スピる」などという言葉を使うのは止めた。『アロング・ザ・ウェイ』のマグワイヤは、感情をコントロールしながら、自然の崇高な美しさと人間との関係を捉えようと立ち向かっている。大きな主題を持った作品だ。
マーク・マグワイヤは、2010年の〈エディションズ・メゴ〉からの『リヴィング・ウィズ・ユアセルフ』のときから、家族を曲の主題にしていたし、その背後には、言わば宗教的な愛の主題も内包していたと言える。お涙ちょうだいの家族愛ではない。超越的な愛だ。
日本では批判された『ツリー・オブ・ライフ』がその年『TNT』が選んだ映画のベスト・ワンだったことを思い返しても、日本とアメリカでは何か現象学に関する意識の差があるのではないかと思うのだが、ともかく、『アロング・ザ・ウェイ』のマグワイヤの文章は、そのままテレンス・マリックの生命の物語をなぞっているようでさえある。地球の誕生、燃えたぎる地下のマグマ、ジュラ紀、恐竜、それから......アメリカの退屈な町の平凡な家庭の「父親」へと話が展開する。そして、地球規模でいえばほんの瞬間でしかない現代文明から関心をずらして、この大地と人間(生物)との関係性へと重点を移動させる。このアルバムには、あの映画のコンセプトと重なる点が多々ある。
とはいえ、過去のトラウマを克服するかのような『ツリー・オブ・ライフ』におけるクラシック音楽と断片的なナレーションの重さと違って、『アロング・ザ・ウェイ』の音楽的な魅力は、楽曲の繊細な優しさにある。曲によってはハウス(ディスコ)のリズムまで挿入されているが、アンビエント・ミュージックとしての開かれた感覚は通底している。瞑想的と言うよりも、ある種の軽快さがあり、70年代のスピリチュアル・ジャズと呼ばれる音楽の多くが平穏な響きを有しているのにも似ている。そもそも「父親」は、マグワイヤにとってのトラウマではないだろう。
野田 努