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Mark McGuire

Mark McGuire

A Young Person's Guide To Mark McGuire

Editions Mego

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橋元優歩   Jun 13,2011 UP
E王

 ギターとはあらためて叙情的な楽器である。そしてギタリストという人種もまたエモーショナルでロマンチックな存在なのだなと思う。マーク・マッガイアの音楽とそのプレイ・スタイルは、そんなことを感じさせる。『ダズ・イット・ルック・ライク・アイム・ヒア?』で大きな支持を集めたオハイオ州クリーヴランドのコズミック・サイケ・ロッキン、エメラルズのギタリスト、マーク・マッガイア。
 エメラルズの圧迫感のあるアンビエント・トラックとは異なって、彼のソロ・ワークスには外へ外へと流れ出していくエモーションがある。どことなく腺病質で、わかりやすい起伏こそないが、切なく、情熱的な音の波が耳から心の裏側にまでひたひたと流れ込んでくる。「瞑想的」という比喩がよく用いられるのは、エメラルズのイメージに引っぱられているのだ。たとえば"ドレーン・トリーム"のギターに若々しい躍動を、あるいはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのフィードバック・ノイズに渦巻くような、うつむきがちな情動を聴きとるべきである。瞑想する静けさではなく、繊細だが音にしなければやまない熱情が、はっきりと感じられるはずだ。

 ギリシャ神話では竪琴が星座になったが、もしそれがギターが生まれた後の世界であったなら、ギターとそれを弾くマッガイアが「ギター座」として天に召し上げられたかもしれない。テープなどでおびただしいリリースを重ねる彼は、あるインタヴューにおいて「無駄にする時間はない」と言っている。2010年だけでもCD-R含め5作発表しているのだ。ギターに向かい、練習し、曲を生む。彼にとってはそれがすべてだというほど熱心に、自らの持てる時間をすべてギターに捧げる。その画はまさに神話的な想像力を刺激するものだ。そして本作は、そんなマッガイアの数多あるリリースのなかから、とくにCD-Rやカセットなどマイナーな限定リリースの音源にしぼって選曲されたコンピレーションである。昨年の『リヴィング・ウィズ・ユアセルフ』で初めて彼を知った人(私もそのひとりだ)には、タイトル通りガイドとしての役割を果たす作品となるだろう。

 マッガイアはフェイヴァリットとして中期ポポル・ヴーやマニュエル・ゲッチング、クラウス・シュルツェ、またクラフトワークを挙げている。とくにマニュエル・ゲッチングの影響は音に明らかだが、いざそう思って聴いていると、若い我々にはクラウトロックではなくシューゲイザーとして響いてくるかもしれない(シューゲイザー自体がクラウトロック的であるが)。
 とくに顕著なのが冒頭の17分におよぶ長尺ナンバー"ドレーン・トリーム"である。これは2008年発表作。下降音形のテーマがおおらかにループされ、耳にやさしめのディストーション、フェイザーの効いたメディテーティヴな音のさざ波に意識がつつまれていく。暖色系の音だが、マイブラやジーザス・アンド・メリー・チェインのような甘やかな厭世観が感じられる。マッガイアにはワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとのコラボ・プロジェクトもあり、チルウェイヴの隆盛を背景として、彼の音がいまなぜクローズ・アップされるのか、深く納得できるトラックである。これを1曲目に持ってきたことで本作が時代の1枚になり得ている、とさえ言い切りたい。
 "ザ・マルファ・ライツ"や"カルグ・ウッズ"はフェネスを思わせるきらきらとした光源を持つギター・アンビエント。はっとするほど叙情的なナンバーだ。頭でいろいろと思い描いていても、結局90パーセントくらいはインプロヴァイズドされてしまうという彼の作曲スタイルは、こうした感情のストレートな表出にうまく馴染むのではないだろうか。オペラがサンプリングされた"ゴースツ・アラウンド・ザ・ツリー"などの構築性の高いものはあまりなさそうである。
 ディスク1の後半はクリーン・トーンのトラックがつづき、前半のユーフォリックでゆったりとしたムードに比して内省的で沈潜するような色合いを見せる。ディスク2はよりギター・テクニックに特化したようなインスト・ナンバーが多く収められている。だが、やはりとてもドリーミーだ。詞こそないが吟遊詩人の佇まい。そしていずれの曲も統一された色調があって、バラバラのリリース作品から編集したものとはほとんど思えない。ギターを手にすることがマッガイアにとっては生の条件なのだ、ということが2枚20曲を通して迫力を持って顕ちあがってくる、自叙伝のようなアルバムである。

橋元優歩