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Mark McGuire

Mark McGuire

Living With Yourself

Editions Mego

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野田 努   Oct 28,2010 UP
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 少々面食らうほど、感傷的でノスタルジックな作品。オハイオ州クリーヴランドの3人組、エメラルズのギタリスト、マーク・マッガイア、今年は2007年にカセットテープで発表した『タイディングス』と2008年に同じくカセットテープで発表した『エメスィスト・ウェイヴ』のカップリングが〈ワイヤード・フォレスト〉から『タイディングス/エメスィスト・ウェイヴ』としてアナログ盤とCDで再発されている。つい先日は2008年のカセットテープ作品『オフ・イン・ザ・ディスタンス』もアナログ盤として再発され、それが日本では瞬く間に完売、そして〈エディション・メーゴ〉から待望の新録によるアルバムが本作『リヴィング・ウィズ・ユアセルフ』となる。こちらも最初のアナログ盤は即売で、僕も手に入れるのにそれなりに労をとっている。エメラルズ(およびOPN)は、欧米のメディアではこの1年あまりでけっこうな評価を受けているが、日本での人気も大したもののようだ。
 
 誰の耳にも明らかなように、マーク・マッガイアの音楽の根幹にあるのはマニュエル・ゲッチングである。ゲッチング以外の影響に関しては、本人の弁に寄ればクラフトワークと初期から中期にかけてのポポル・ヴーだというが、クラウトロックからの多大なインスピレーションは何よりも彼の音楽そのものが雄弁に物語っている。彼らの大量のカセットテープやCDRによる超限定リリースも、初期のクラスターのようなワイルドな即興性に重点を置いているがゆえに可能なのだろう。ちなみに彼らがカセットテープというレトロなメディアを使う理由は、CDよりも温かいその音質ゆえである。そういう意味で彼らは、いまふたたび音楽メディアのあり方を問うている若い世代の代表でもある。
 
 『タイディングス/エメスィスト・ウェイヴ』のテーマが題名通りの「海」であったように、マッガイアは彼の新作にも幼少期から思春期までの思い出と家族という明確なテーマを与えている。インナースリーヴには彼の育った家の写真があり、スリーヴには彼の思い出の写真がコラージュされている。つまりアルバムはきわめて個人的な自叙伝である。
 家族のざわめきが聞こえ、アコースティック・ギターの素朴なストロークがゆっくりと重なり、やがてノイズとともにフラッシュバックがはじまる。1曲目の"記憶の広大な構築物(The Vast Structure of Recollection)"は、そしてマッガイアの十八番とも言えるミニマリズムの煌めきへと展開する。よりメロウな2曲目の"アラウンド・ジ・オールド・ネイバーフッド"は多くの人がアプローチしやすい曲のひとつで、続く"クロウズ・ローリング・イン"~"ブレイン・ストーム"同様にゲッチング・チルドレンとしてのマッガイアの特徴がよく出ている。ギターの反復のうえにいくつかのギターが階層化され、そして絡み合い、いわばコズミック・ミュージックとしての華麗なテペストリーを編んでいく......というわけだ。B面の1曲目"トゥ・ディフレント・ピープル"から3曲目の"クリア・ザ・コブウェブス"まではアルバムでもっとも美しい瞬間が用意されている。記憶のなかを彷徨いながら、自分にはまだこの音楽をうまく語る言葉がないことに気がつかされる。
 最後の曲"ブラザーズ"でもまた、家族の会話が挿入される。父親か叔父らしき人物が息子にガールフレンドについて警告している(こうした会話は、歌詞カードとしてインナーに印刷されている)。そしてこの曲は、アルバムのなかで唯一ドラムの入っている曲としてノイズ・ロック・サウンドを展開する......そして"ブラザーズ"はビートレスとアルペジオの煌めきへと突入し、嵐のように過ぎ去った日々のなか、家族のざわめきとともに消えていく。良い思い出と悪い記憶が彼方へと追いやられるように。

 アルバムには「すべてを聴き逃さないようにヘッドフォンで聴いてください」と記されている。その意味するところは実際にヘッドフォンで聴くとよくわかる。テーマは 個人的なものであっても、この音楽は多くの耳を潤すことだろう。しかもそれは同時に、この先さらに多くの耳に発見されるであろう才能の存在を強く主張している。

野田 努