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Various Artists

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Various Artists

We Out Here

Brownswood Recordings/ビート

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小川充野田 努   Feb 09,2018 UP
E王
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野田努

 ま、とりあえずビールでも飲んで……かつてUKは自らのジャズ・シーンを「jazz not jazz」(ジャズではないジャズ)と呼んだことがある。UK音楽の雑食性の高さをいかにも英国らしい捻った言葉づかいであらわしたフレーズだ。これこそジャズ、おまえはジャズをわかっていない……などなど無粋なことは言わない。ジュリアードやバークレーばかりがジャズではないということでもない。何故ならそれはジャズではないジャズなのだから。

 そのジャズではないジャズがいま再燃している。昔からUKは流れを変えるような、インパクトあるコンピレーションを作るのがうまい。編集の勝利というか、ワープの“AI”シリーズやハイパーダブやDMZなどを紹介した『Warrior Dubz 』のように。『We Out Here』もそうした1枚だ。アルバムには、近年「young British jazz」なる言葉をもって紹介されている新世代ジャズ・バンドたちの楽曲が収録されているわけだが、その中心にいるのはシャバカ・ハッチングスである。

 いまやシーンのスポークスマンにもなっているシャバカ・ハッチングスは、同じサックス奏者であることからUK版カマシ・ワシントンなどと形容されているけれど、彼はもっと泥臭いというか、ストリートの匂いがするというか、強いてたとえるならシャバカは21世紀のコートニー・パインだろう。ロンドンに生まれ幼少期をバルバドスで過ごし、16才でブリテン島バーミンガムに移住したときにはクラリネットを手にしていたという彼は、ここ10年、UKジャズ・シーンのさまざまな場面に関わってきている。

 近年ではメルト・ユアセルフ・ダウンでサックスを吹き、ザ・コメット・イズ・カミングやサンズ・オブ・ケメトなどの別プロジェクトも手掛けている。いまもっともロンドンで熱いと思われる街、ペッカムから生まれたYussef Kamaalのアルバムにも参加しているし、2016年は Shabaka And The Ancestors名義のアルバムをリリースしている。そして、21世紀のUKジャズの現場で演奏し続けているシャバカは、自らの大きな影響としてジャズ・ウォリアーズの名を『Wire』誌の取材で挙げている。

 ジャズ・ウォリアーズは、ワーキング・ウィークやシャーデー、ジャズ・レネゲイズら80年代後半にニューウェイヴとリンクしながら注目を集めた、白いUKジャズ・シーンにおいてメンバー全員が黒人という当時としては異色の存在だった……そもそもジャズ・ウォリアーズはUKにおいて初の黒人ジャズ・オーケストラだった。コートニー・パインはそのバンドのリーダーだった人だ。

 ジャズ・ウォリアーズは、伝統的なジャズに囚われず、レゲエやアフロなど雑食的な演奏を展開した。その音楽に対する自由なアプローチがアシッド・ジャズとリンクし、そしてドラムンベース/ブロークンビーツとも共鳴した。こうしたUKにおける黒いジャズ(ノット・ジャズ)──エクレクティックで、マルチカルチュアルなその現在形のドキュメントが『We Out Here』というわけだ。

 アルバムは、2017年8月、3日間に渡って録音されている。ジャケットに貼られたステッカーには「THE NEW SOUND OF LONDON JAZZ」を記されている。参加した9組のうち7組が白黒混合、2組が全員アフリカ系だが、いくつかの演奏ではメンバーは何人か重なっているので、ひとつの音楽コミュニティの記録とも言える(つまり本作もひとつのコミュニティによる1枚のアルバムだと言える)。

 『We Out Here』には伝統と現代性、精神性と政治性が入り混じっている。アルバムはMaishaによるアリス・コルトレーン風のスピリチュアルな曲ではじまるが、続くEzra Collectiveの曲はそのままダンスフロアに繋げることができるだろう。本作には収録されていないが、Ezra Collectiveの昨年のアルバムにはベース・ミュージックを通過した感覚で演奏されるサン・ラーの“Space Is The Place”がある。そして、すでに広く注目を集めているドラマーのMoses Boydのバンドは、エレクトロニクスとアフロビートを組み合わせながらダブの境地へと突き進んでいく──。収録曲の解説は小川充さんにまかせるとして、アルバムの中核となるのはシャバカ・ハッチングの“Black Skin, Black Masks”になるわけだが、そう、この曲名は反植民地主義の先駆的思想家、フランツ・ファノンの『黒い皮膚・白い仮面』のオマージュである。

 『We Out Here』(私たちはここにいる)という、音楽的にも政治的にもどちらにも解釈できるこの堂々たる題名からもわかるように、ここには今日のUKブラックの秘めたる思いが記述されている。昔のラフトレードのコンピレーションにザ・スリッツやザ・レインコーツがいたように、女性3人を中心とするKokorokoのようなバンドもいる。また、ラフトレード時代の比較でもうひとつ言うなら、あの時代のUKはジャマイカだった。『We Out Here』はアフリカである。

 ※シャバカ・ハッチングスによるThe Comet Is Comingの新作『Channel Spirit』は〈リーフ〉からリリース予定。Sons of Kometのアルバム『Your Queen Is A Reptile』(あんたの女王は爬虫類)はユニーバサルから3月に発売。アルバム収録曲のひとつは、“俺の女王はアンジェ・デイヴィス”。また、『We Out Here』に参加した(ポスト・フライグ・ロータスの呼び名高い)Joe Armon-Jonesの新作も春頃には〈ブラウンズウッド〉からリリース予定。

野田努

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