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PJ Harveyhttp://www.dommune.com/ele-king/upload/img/1560.jpg

合評

PJ Harvey- Let England Shake

Mar 02,2011 UP 文:野田 努、橋元優歩
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母性的な粘り強さをもった愛文:橋元優歩


PJ Harvey
Let England Shake

ユニバーサル インターナショナル

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 美しい声をひしゃげて歌う彼女のブルーズには、抜き差しならない彼女の心の現実がつねに痛々しく表現されていた。そんな彼女が41歳を迎えてリリースする8作目のフル・アルバム『レット・イングランド・シェイク』は、英国が歴史上経験してきた戦争を、それを強いられた側の視点から描く作品である。国内盤の帯にも引かれているように、「今回は、私の視点はとにかく外側へと向いている」......まさに新境地だ。
 ポップ・ミュージックが政治的な問題を扱うということは冒険だ。マスな影響力を持つ者として、発信する内容に責任を求められる。また、単純に間違いを犯す可能性も膨らむ。作品外での賛否の議論を生みかねないリスクを含んだ表現は、彼女のキャリアの中では珍しいはずである。勇気の必要なリリースだ。
 が、私にはこれはやはり彼女の物語であるように思える。いち日本人からすればちょっと驚くような愛国心が下燃えにのぞいているが、愛国とは国旗にではなく国土へ寄せる愛だ。全編を通して戦争の残酷さとパトリオティズムがリリカルに描かれている。そして「私たちの土地は戦車と行軍によって耕されてるのよ」("ザ・グロリアス・ランド")――多くの血が流れ染み込んでいった国土と歴史とをマクロに慨嘆し、「手を伸ばしているのよ/この国の汚泥のなかから/(中略)/怯むことのない、尽きることのない愛をあなたに/イングランドこそ/私がこだわるすべて」("イングランド")――まさに一大叙事詩だ。
 イングランドの土は、彼女の両足につながり、親しいものたちにつながり、彼女自身を育んだ文化につながっている。異臭を放ち、酔っぱらいが殴り合う裏路地、年中じめじめとした霧深い街、安っぽく光るテムズ川の流れ("ザ・ラスト・リヴィング・ローズ")。それらひとつひとつを愛おしむ気持ちが作品全体を通して感じられる。ポーリーがシェイクしたいのはそうしたものの総体としての英国なのだろう。そして、ひいては自らの再生のように思える。

 8曲目の"イン・ザ・ダーク・プレイシズ"まで、PJハーヴェイらしい無理に喉をきしませるようなヴォーカル・スタイルやブルージーなファズ・ギターはほとんど聴こえてこない。かわりに10代の少女のような透明な声に驚き、聴き入ってしまう。内面の吐露ではなく物語の叙述という形をとることで、ヴォーカルばかりでなく楽曲自体にもナラティヴな表情がついている。ここはジョン・パリッシュやミック・ハーヴェイ、そしてフラッドという優れた制作陣の力も大きい。小ホールのような奥行きを感じさせるクリアな録音、とくに"ザ・グロリアス・ランド"や"ザ・ワーズ・ザット・メイクス・マーダー"、"オン・バトルシップ・ヒル"などクリーン・トーンのギターにかかるリヴァーブがロマンチックで、戦闘へと駆り立てる不可解な力や鬨の声といったものを思わせる。

 "イングランド"を聴きながら、オニの昨年のアルバムを思い出した。これは、スペーシーな残響感をともなってアコースティック・ギターが爪弾かれ、トラディショナルな楽器の音やフィドル、祝詞のような唄が幻影のように重なり、あとはただポーリーの歌うたいとしてのシンプルな力を最大限に引き出す曲だ。オニの『サンウェーヴ・ハート』も、彼女の裸足のヴォーカルに静かな迫力をみなぎらせた作品だった。詞もそうだが、日本の風土や風を思わせ、それがオニという母性や母体と渾然一体となっていく。ポーリーの場合は母というモチーフこそないが、国家という父権的な想像力ではなく、英国が朽ちようとも見守りつづけ、いつかもういちど芽吹くのを待つという母性的な粘り強さをもった愛が感じられる。イングランドという言葉が、長く引き伸ばして何度も繰り返される。
 イングランドに生きて死ぬとポーリーは歌う。郷土や祖国への思慕や愛情にとくに理由など必要ないかもしれないが、アナクロニスティックにも思われるこの強い愛情には、上述のように祖国の土と自らの身体とを同一化するような視線がはさまれているのではないかと私には感じられる。それは母体であり自分だ。国を土になぞらえ、種子や果実を子孫に見立てていることにも表れている("ザ・グロリアス・ランド")。それが軍靴によって踏まれ汚されてきたことを想像し、彼女は胸を痛めている。
 「揺り起こす」ということが具体的にどのような状態を指すのか明示されていないが、人びとの精神的な向上や成熟、そして「無関心」("レット・イングランド・シェイク")の克服といったことを指すのだろう。そしてそれはもちろん、彼女自身の古くからのテーマである。自分自身に接続するイングランド、そしてイングランドに接続する自分自身の再生と前進。"グロリアス・ランド"の「グロリアス」には皮肉と希望の両方のニュアンスがこめられているが、彼女が目指すのは、あの『ドライ』の頃から常に前進だ。その点では、じつに凛として胸を打つ説得力を持っている。

文:橋元優歩

PJ Harvey / White Chalk

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PJ Harvey / Dry

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