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Carlton & The Shoes

Carlton & The Shoes

This Heart Of Mine

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野田 努   Sep 07,2010 UP
E王

 いまでもわりとマメに中古を買っている。レアグルーヴという趣味があるわけではないけれど、そのときの自分の興味の赴くままに探すこともあれば、女性と別れた度に無くしていったレコードを久しぶりに聴きたくなることもある。そういう生活を長いあいだ続けているわけだが、わりと一貫して金を注ぎ続けているのがレゲエの中古ではないかと思う。
 拭い去れない妄想のようなものがある。高校生のときに日本盤でボブ・マーリーを聴いていて、それなりに感動していたのだけれど、上京して買った〈トロージャン〉版の『ソウル・レベルズ』の音質に本当に驚いてしまった(PiLの『メタルボックス』を輸入盤で聴いたときのように)。その近所迷惑な低音の出方、ドラムの音、ギターの音色、声の聴こえ方......リー・ペリーの手腕によるそれら"音"の、自分がふだん耳にしている音楽と呼ばれるものとは違う何か、その得も知れぬ感覚に畏怖すら覚えたものだった。格好いい、迫力がある、そんな単純な言葉では割り切れない。明らかにわれわれとは違った感性によって生まれた"音"があった。そしてその"音"は始末の悪いことに妄想を大いに掻き立てるのだった。

 カールトン&ザ・シューズを知ったのは、当時出たばかりの〈トロージャン〉からのジ・アップセッターズの編集盤だった。そのなかに収録されているカールトン&ザ・シューズの"ベター・デイズ"のスウィート・ハーモニーは、なかば神秘的に聴こえるほど魅惑的に思えた。いっしょにレゲエを追っかけていた友人は早速〈スタジオ・ワン〉から出ている『ラヴ・ミー・フォーエヴァー』を買って、カセットテープに録音してくれた。それはトラックとヴォーカルが左右に分かれた疑似ステレオ・ヴァージョンの盤で、スピーカーから聴こえる"音(演奏、ハーモニーそのすべて)"は、崇高的なまでに美しく感じられた......というか、いまでも『ラヴ・ミー・フォーエヴァー』を聴くとそう思う。
 つまり、こうやって味をしめてしまうと中古でいろいろ探すようになるわけだが、まあ、それはまるで世界の秘密を探索しているかのような気分なのだ。とくに1968年あたりのロックステディから聴こえるスウィート・ハーモニーは、音楽と言うよりも魔法だ。人間のなかの最良の愛情が泉のように惜しみなく溢れ出しているような、そしてその感情が何か特別なものではなく、実に庶民的で、ポピュラーなものであったことを思うと、その音楽のなかにとんでもない夢を見ることができてしまう。
 とはいえ、ジャマイカの音楽の最大の難点は再発盤の盤質にある。たとえば、僕の家にはフィリス・ディオンのアルバムが2枚ある。1枚はジャマイカの再発盤でもう1枚はUKプレスの再発盤だ。UK盤は音質的には満足だが、アルバムのなかでもベストな1曲、"ラヴ・ザット・ア・ウーマン・シュッド・ゲイヴ・ア・マン"のイントロがどうしたことか数小節短い。ジャマイカ盤のほうはけっこうチリノイズが入るばかりか、盤の中心とレーベルの中心がずれているので、ターンテーブルを見ていると目が回る。この問題を解決するために、CD盤を買うわけである(そういう経緯によって、家にはレゲエのCDがたくさんある)。

 ファースト・アルバムの『ラヴ・ミー・フォーエヴァー』の発表が1976年だったと言われているので、およそ5年ぶりの、カールトン&ザ・シューズにとってのセカンド・アルバム『ディス・ハート・オブ・マイン』はいまとなってはクラシックな1枚として知られている。が、しかしそれはこの10数年においてリスナーたちの探求の末に発掘されたクラシックであって、これが発表されたとされる1981年(82年?)の時点では500~1000枚しかプレスされなかったためにほとんど知られていなかったと言われている。"ギヴ・ミー・リトル・モア"のこ洒落た感じのダンサブルなアレンジや(それこそフィッシュマンズが取り入れている)コーラスの入り方など、1980年代初頭の音楽のモードからはずれているとは思えないけれど、この作品がより幅広く聴かれるという観点で言えば、DJカルチャーやセカンド・サマー・オブ・ラヴを経た1990年代のほうがより適してことは事実だろう。誰もがあのチリノイズの入った再発盤を買って、この魔法のような音楽の魅力に酔いしれたのである。

 『ディス・ハート・オブ・マイン』にしろ、『ラヴ・ミー・フォーエヴァー』にしろ、もはや色あせることのないクラシックだ。今回の『ディス・ハート・オブ・マイン』は、紙ジャケ使用によるCDで、ジャケのオレンジもあのひなびた......というか粗雑なジャマイカの再発盤の写真をそのまま印刷している。本来ならこ洒落たポートレイトだが、奇妙なことにそのくすみ方が新しい物語を語っているようである。そのとき知られていなくても、何年か経ったときに信じられない熱を発するかもしれないという音楽のもうひとつの可能性についての物語である。

野田 努