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Earth No Mad From SIMI LAB

Earth No Mad From SIMI LAB

Mud Day

Summit

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DJ HI`SPEC & J.T.F FROM SIMI LAB

DJ HI`SPEC & J.T.F FROM SIMI LAB

Round Here:MIX TAPE

Summit

二木 信   Aug 18,2011 UP

 先日、〈新代田FEVER〉でシミ・ラボのライヴを観た。PSGやラウ・デフも出演していたそのイヴェントは、彼らが所属するインディペンデント・レーベル、〈サミット〉の企画で、ムードマンのヒップホップ・セットのDJもブッキングされていた。それぞれのライヴももちろん充実していたけれど、ちょうど1年ほど前にPSGとシミ・ラボが出演したイヴェントのときより圧倒的にお客さんが入っていたことに驚いた。会場は満杯だった。熱気が凄かった。しかも、若い! 10代の若者もたくさんいた。ここ1年でこの界隈のシーンの何かが変わりはじめている。みなさん、注目しておいてくださいね!!

 シミ・ラボは神奈川県の相模原を拠点とするヒップホップ・ポッセで、彼らが2009年12月にYouTubeにアップして話題を呼んだ"Walk Man"のPVがすべてのはじまりだった。
 紙版『ele-king vol.2』のシック・チームの原稿でも書いたことだが、ここ最近の日本のヒップホップには多文化主義というコンセプトが浮上して来ていると感じている。いや、主義というほど明確な方向性を持っていないかもしれない。多文化的と言ったほうが正確だろう。最初にそのこと意識したのは、"Walk Man"のPVを観たときだった。彼らの人種的多様性がポスト・ワールド・ミュージック的な音の雑食性に直結しているとはまだ断言できないが、これからどうなるかはわからない。このテーマは今後、日本のヒップホップを考える上で重要になってくるだろう。彼らがお互いを冗談半分に「ニガ!」と呼び合いじゃれあっているのを見たときは、思わず笑ってしまった!
 シミ・ラボについて詳しくは本サイトの彼らのインタヴューを読んで欲しいけれど、ディープライド、マリア、QN、オムスビーツ、ハイスペック、ジュマがいまのところのメイン・メンバーと言っていいだろう。〈FEVER〉にもこの面子で登場していた。

 シミ・ラボのトラックメイカー、アース・ノー・マッドのファースト・ソロ・アルバム『MUD DAY』からいこう。アース・ノー・マッドはシミ・ラボのリーダー、QNのトラックマイカーの名義だ。彼は去年、QNとしてファースト・アルバム『THE SHELL』を〈ファイル〉からリリースしている。
 まず嬉しいのが"Walk Man"が収められているということだ。アース・ノー・マッドには豊富なアイディアがある。彼のプリコラージュの手法はマッドヴィレインを彷彿させる側面があるが、DJスピナやDJプレミアといった90年代の東海岸ヒップホップからの影響も感じさせる。ドゥループ・Eがシャーデーのサンプリングから作ったミックステープのメロウなサウンドと共振しているような"Skit#2"の輝きは、アース・ノー・マッドの才能がまだまだこれから花開く可能性があることを予見している。
 酒を飲んで、遊んで、映画を撮りたいと思い立ち、曲も作る。そして、いつの間にか日が昇ってくる金曜日の夜の何の変哲もない日を描いた"Flower And Money"には、青春の夢がある。「飲んだくれながら何かたくらんでる」("Flower And Money")。ああ、羨ましくなるほど彼らが輝いているように見える。シミ・ラボ&ジュマとクレジットされた"Mudness Lab"は"Walk Man"に続くようなミニマル・ファンクで、この曲には彼らの現在が刻み込まれている。

 どれだけ脱力できるかに黒いグルーヴの肝がある。そういう説がブラック・ミュージックに挑戦するこの国の音楽文化から提唱されたことがある。ファンクのグルーヴを徹底的に理論化するということを多くのミュージシャンやバンドが試みてきた歴史がある。ある時期まで日本語ラップも実のところ理論化の産物だった。
 それがどうだろう。スラックにしろ、パンピーにしろ、シミ・ラボにしろ、最近の若いヒップホップ・アーティストは当然のように理論化など必要としていない。それでも、ゆったり波打つ柔らかいグルーヴを紡ぎ出している。それは彼らの日常が"黒人化"しているということかもしれない。いずれにせよ、いつからか何かが変わったのだ。ムードマンがPSGのライヴを観ながら、「自分がかつてやろうとしていたことを全部やられている」と呟いたのは示唆的だった。

 DJ ハイスペック&J.T.F 『Round Here:MIX TAPE』は『MUD DAY』とは異なる方向性を持っている。ジュマ、QN、オムスビーツによるJ.T.Fの楽曲をDJハイスペックがミックスしたこのミックスCDで、QN、オムスビーツは別名義も使っている。プリミティヴで、チープで、エレクトロの感性があり、ミニマルな骨組みだけのトラックは、しかし、侮ることができないクオリティがある。ここでも週末に何気なく部屋に集まって、「さあ、RECしようか!」という感じで制作した遊びの感覚がパッケージされている。この緩い態度が、彼らのヒップホップイズムを体現しているようだ。下世話で、猥雑で、騒々しく、ひょうきんな彼らのフッド感覚の延長で、この魅力的な音楽は創造されているのだろう。限定生産ということだが、興味を持ったらなんとか手に入れることをおすすめする。

 エレクトロな"ラビリンス"、エキゾチックで呪術的な"キリィ"も面白い。そして、各々のラッパーの声にそれぞれ個性がある。スペース・ファンクな"スター"でギャルの声真似をしながら、延々とくだらないジョークを繰り出し続けるオムスビーツには手を叩いて笑った。「1週間に2回ぐらいアナル洗ってるし〜」だの「高いものならなんでも食える」だの、彼のナスティさには敬意を表したい。「年収1千万ないとウンコでしょ」「ウンコ! ウンコ!」というアホな会話は最高にくだらないが、ここには彼らの鋭い風刺精神もある。
 マリアをフィーチャーしたエレクトロ・ミーツ・ベース・ミュージックな"マイソング トゥ"がもっともこのアルバムを象徴している。リリックにあるように「ダラダラダラダラ......」と続いていくノリがシミ・ラボをこれからも前に進めていくのだろう。そして、"マイソング トゥ"のPVを観て、僕はスチャダラパーの「大人になっても」のPVを思い出したのだった......。

二木 信