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Opitope

Ambient

Opitope

Physis

Spekk/P*dis

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野田努   Jan 27,2014 UP
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E王

 かつては理屈っぽい特殊なジャンルだったアンビエントも、今日ではすっかり感覚的かつ曖昧なジャンルとして欧米のいたるところから量産されるようになった。需要も高まっているのだろう。アンビエントはいまやカジュアルなジャンルである。
 三田格の調査によれば2006年が史上3度目のピークだというが、現在あるのは90年代のクラブ・カルチャーのサブジャンルとして拡大したアンビエントとは別の潮流だ。とは言うものの……、期待を込めて書かせてもらえば、かつてのクラブ・カルチャーを特徴付けた匿名性(スターはいらない)、共同体の再構築(その質を問う)、場の意外性(まあ、お寺とか、普段行き慣れていない場)という視座を継承している。何にせよ、相変わらずうるさい音楽が好きな人間が多数いる一方で──僕もうるさい音楽を聴いてはいるが、しかし、このところ密かに、多くの人間がうるさくない音楽のフォーマットに可能性を見ているのである。
 それこそその昔、「ハウス」と名が付けられさえすれば、あとはもう何でも好きなように音を工夫できたのと似て、「アンビエント」もすっかり雑食的な分野になった。インダストリアルでもコズミックでも、メタルでもダブでも、ギャグでもシリアスでも、素人も大勢参加して、何でもありだ(ということを三田格の『アンビエント・ディフィニティヴ』は言っている)。アンビエトはマニアのためのジャンルであることを超えて、時代のうねりのなかの切り拓かれた場となり、手段となった。

 実際、日本でもアンビエント系のクリエイターの作品は後を絶たない。そうしたアンビエントの時代において、伊達伯欣と畠山地平は、とくに2005年以降、国内外での評価をモノにしてきた人たちで、シーンの今後を占うという意味でもキーパーソンだ。
 日本のミュージシャンは「静けさ」を表すのがうまいと感じることが多々ある。彼らの「静けさ」が自分の好みに合っただけのことかもしれないし、伊達伯欣と畠山地平のオピトープを国民性になぞって紹介するのは無粋だとは思うのだが、素晴らしい「静けさ」が録音されている彼らのセカンド・アルバム『ピュシス』の収録曲は、とくに捻りもなく、ずばり率直に、自然をテーマにしている。曲名に出てくる「雫」や「朝露」や「冬の森の温かさ」は、日本で暮らしている彼らが感じている自然だろう。同じように、たびたび自然をテーマにしたエメラルズとは明らかに違った感性が広がっている。英国風ユーモアもフランス風のウィットもないが、自然と人間とを結びつける宮沢賢治的コスモロジーがあり、僕の耳には彼らのアンビエントがよどみもなく入ってくるのだ。

 2006年にシカゴの〈クランキー〉からデビューした畠山地平は、すでに20枚近くのアルバムを発表し、海外でもライヴ・ツアーをしている。自身が主宰するレーベル〈White Paddy Mountain〉では、アンビエント的感性を基調にしながらもその枠組みに囚われず、多様な音楽作品を出している(最近は、ASUNAによる美しい『Valya Letters』を出したばかり)。また、畠山地平はフットボール好きでもある。アンビエントとフットボールの両立とは、ただそれだけで実はかなり価値があるのだ。
 そして、いっぽうの伊達伯欣は、コリー・フラーとのイルハ(Illuha)でブルックリンの〈12K〉(タイラー・デュプレーのレーベル)から作品をリリースしつつ、Tomoyoshi Date名義のソロ作品も出している(彼の2011年の『Otoha』は、『アンビエント・ディフィニティヴ』においてはその年の代表作に選ばれている)。今年はイルハの新作、坂本龍一とのライヴ・アルバムなども控えているそうで、彼の音はさらに多くの耳にとまりそうだ。ちなみに彼は、某医科大学に勤務している医者でもあり、免疫学の研究者でもある。

 バイオを見るだけでも個性的なふたりによるオピトープだが、作品には、ほどよい緊張感がある。静けさのなかにも、音の「間」が際立つような、ささやかだが、衝突とためらいがある。『ピュシス』は、ただいたずらに心地良いだけの、多幸症的な音楽ではないのだ。それでも僕はこのアルバムにもっとも近いのは、『ミュージック・フォー・エアポート』ではないかと思っている。重厚さを回避していくような、音の間の取り方も似ているし、何よりも極上の静けさがある。どこかメランコリックな気配を持たせながら、とめどくなく広がり、そして決して破綻することのない平静で穏やかな雰囲気も似ている。
 録音が2008年~2011年とあるが、古さは感じられない。アンビエント/ドローンの2000年代を駆け抜けた世代のクオリティの高さというか、初期はラップトップをトレードマークとした彼らは、現在、アナログ機材──高価なヴィンテージ・シンセのことではない。オルガン、テープ、弦楽器、ミキサー等々──を使っているが、その響きは実に瑞々しいのだ。それはスキルの問題でもあるが、同時に、なにかしら社会生活で生じる抑圧から逃れたいと願う気持ちによって磨かれるものだろう。僕は長いあいだ環状八号線の近くに住んでいた。窓を開ければ昼夜問わず車の騒音が入ってくるようなところだった。ジョン・ケージのように、そうした騒音を「素晴らしい」と言えれば良かったのだが、しかし、ケージのレトリックとは別のところで、現代では騒音は拒まれることなく広がっている。アンビエントのピークは、まだまだこの先にあるのだろう。


※今週、30日、青山CAYにて、アルバム発売記念のライヴがあり。ぜひ、彼らの生演奏を見ていただきたい。

時間:OPEN 18:30 / START 19:30
料金:予約 2,500円 当日 3,000円 
☆ドリンク、フード、マルシェに使える700円分のショッピングチケット付き
席種:着席または立見
会場:CAY(スパイラルB1F)
〒107-0062 東京都港区南青山5-6-23 ACCESS MAP
出演 :Opitope、テニスコーツ+大城真、HELLL、Yusuke Date、佐立努、aus(DJ)

野田努