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David Bowie

Rock

David Bowie

Sony / ソニーミュージック

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デンシノオト   Jan 12,2016 UP
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 これはジャズではない。では何か? ただの痛みだ。

 たしかに先行曲ともいえる“スー”は、新世代ジャズ・ラージアンサンブルで知られるマリア・シュナイダーとのコラボレーションが話題になった。アルバム曲には、管楽器にダニー・マッキャスリン、鍵盤にジェイソン・リンドナー、ベースにティム・ルフェーベル、ドラムにマーク・ジュリアナら新世代のジャズ・ミュージシャンを起用している。彼らがアルバム全編にわたって活躍をしており、とくにジュリアナのドラミングの凄まじさは誰しもが驚愕するだろう。だが、それにも関わらず本作はジャズではない。彼らであればいとも簡単に演奏できてしまうであろうジャズ的な和声やリズムを半ば拘束的ともいえるほど禁じているからだ。

 では本作はロックなのだろうか。たしかにときにシンプルな3コードに収まりもするボウイのソングライティングはロック的即物性を兼ね備えてはいる。だが、 ボウイは(少なくともメロディ・和声面での構造では)ビートルズの影響をまったく受けていないように思える。これは60年代以降のロック・ミュージシャンとしては、ルー・リードと並び極めて異例である。

 それでは、そもそもボウイの音楽は何なのだろうか。もともとはアマチュアのジャズのサックスプレイヤーであり、60年代にロック・ミュージシャンとしてデビューをした彼は何者なのだろうか。簡単にいえば、彼は「デヴィッド・ボウイの音楽」を「演じてきた」特異点のような存在なのだろう。むろん、彼の「演技性」と「肉体性」と「ペルソナ」の問題など、ロックの本を紐解けばどこにでも書いているし、そもそもボウイのファンならば当たり前すぎることだ。いまさら語っていいとも思えない。

 私がここでもっとも重要視したいのは2点だ。より正確には後者のひとつだ。まずひとつ。ボウイのソングライティングは、黒人音楽と白人のポピュラー・ミュージックのキマイラのようであり、それは20世紀という時代のモダニズムの象徴である点。そして、もう1点。彼の音楽はロックにテクスチャーの感覚を導入したという点である。もっともそれは彼一代限りのものでない。スコット・ウォーカーからボウイが受け継ぎ、デヴィッド・シルヴィアンに受け継がれていった感覚でもある。
 
 わかりやすい例として有名な『ロウ』を上げよう。ブライアン・イーノも参加したというこの傑作は、イーノ特有のアンビエンス/アンビエント感覚を大胆に導入し、アルバム後半(B面)のインスト曲によって、ボウイはそのテクスチャー感覚を前面化させる。淡い音色によるシンセサイザーの持続音が一定のムードを生成し、そこにリズムやサウンドが絡み合う。このB面のアトモスフィアこそ、後の電子音響からエレクトロニカなどに、たとえば、カールステン・ニコライやクリスチャン・フェネス、インダストリアル/テクノのザ・ストレンジャーまで受け継がれていく感覚でもある。

 そして本作『★』は、そんなボウイのテクスチャー感覚が久しぶりに、それこそ『ロウ』以来、前面化した傑作とはいえないか。コード進行など楽曲の変化は曖昧で、聴き手は掴みきれない曲のテクスチャーを撫でるように聴くことになる。名うてのジャズ・ミュージシャンたちは、ボウイのテクスチャー感覚を生成するために召還されたといっても過言ではないだろう。なぜか。ボウイが欲したのは、彼らジャズ・ミュージシャンの演奏情報量の豊富さであり、それをある一定のトーンに制御することで生まれるムードではなかったか。
 事実、本作において、彼らは意識的にロックの即物性に「拘束」されている。あの複雑なリズムを分割できるマーク・ジュリアナですら、8ビートのリズムを叩いているのだ。しかしそれでも彼らの持っている演奏情報量の複雑さが「漏れでてしまう」。正確に、拘束的にバッキングに徹するなかで、ときにドラムのリズムが、サックスのフレーズが、ベースラインが、ジャズ的な複雑さをもらしてしまう。そこに拘束とから生まれる官能によって、この『★』の音楽に生まれているように聴こえる。本作は非常にマゾヒティックな官能に満ちたアルバムなのだ。
 10分に渡る“★”にせよ、先行曲のリミックス曲“スー”にせよ、まるでジョイ・ディヴィジョンのようなイントロの“ラザルス”にせよ、ジャズ・ミュージシャンに「ロックを演奏させる」拘束を見事に成功している。そこから生まれる拘束の官能性は、本作の色気を象徴しているといっていい。マーク・ジュリアナのビートは複雑なリズムと単純なニュー・ウェイヴ的な8ビートを往復しながら、彼のソロ・アルバムや他の参加作品とは異質の「色気」を放っている。

 では、なぜこのようなコンポジションが可能になったのか。私見だが「拘束の響き」の基調として、本作のどの楽曲にも、(たとえ聴こえていなくとも)ひとつのの持続音が流れているように思えならないのだ。聴いてみればわかるが、管楽器もシンセサイザーもロングトーンを奏でており、ギターのコードのカッティングよりも、そのロングトーンが楽曲の中心であり、ムードを形作っていることがわかるだろう。
 この感覚こそがあの『ロウ』に近いものであり、本作がときに『ロウ』以来の傑作と呼ばれるゆえんに思える。そして、ボウイのヴォーカル・ラインは、そのロングトーンのひとつの変奏として象徴的に響いているのだ。拘束。解放。生(本作は音楽家の受難と解放そのものように聴こえるし、その意味では非常に「西洋音楽」的だ)。
 このロングトーンの感覚は、果たして彼がサックス・プレイヤーであったことに由来するのだろうか。この傑作『★』を繰り返し聴くにつけ、肉体が奏でるロングトーンの揺らぎと拘束こそが、彼の音楽の官能性の根源だったのではないかと思えてならないのだ。
 だからこそ、その拘束が外されたかのように(偽装する?)、最終2曲、“ドラー・デイズ”と“アイ・キャント・ギブ・エブリシング”のメロディは、単なるポップというだけではない死の不穏さを称えているようにすら聴こえてくる。そう、「生」の拘束以降の世界に響く、死後のポップ・ミュージックのように……。

   ***

 ここまで書いたところで、公式サイト、フェイスブック、ツイッターの公式アカウントがこのようなアナウンスをリリースした。本文は、彼の「死」を知る直前に書きあげた記録として「あえて」修正せずに提出させて頂いた。「死」のフィルターを通していないレヴューであるが、確実に「死」の影を感じていたことも事実である……。そこが芸術の力でもあると思う。

January 10 2016 - David Bowie died peacefully today surrounded by his family after a courageous 18 month battle with cancer. While many of you will share in this loss, we ask that you respect the family’s privacy during their time of grief.

http://www.davidbowie.com/news/january-10-2016-55521

デンシノオト