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デンシノオト   Mar 10,2016 UP
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 本作は中村弘二(ニャントラ)、ダエン、中原昌也(ヘアスタイリスティックス)らが、2015年2月にYCAM(山口情報芸術センター)で行ったライヴ演奏の記録である。 その音は、まるで薄明かりの中で生まれる電子・電気のモノオト/ノイズである。全31分1トラックによる電子音生成の記録。

 3人についての説明は、もはや不要だろう。元スーパーカーでナカコーの愛称で知られる中村は、ソロから別名義のアンビエント・プロジェクトまで、音楽の領域を切り開く多様な活動を続けている。作家・文筆家でもある中原は、ヘアスタイリスティックス名義で、多くのアルバムを爆撃的にリリースし、この現代日本のどうしようもない状況にノイズと乾いた笑いによる介入を実行している。そしてダエンは、日本で随一のカセット・レーベル〈ダエン〉の主宰者で、新世代を代表する(電子)音楽家でもある。彼らの競演は世界初であり、まさに歴史に残る事件ではないか。

 しかし、真に重要な点は、貴重な競演という話題性だけではない。むろん、それだけでも十分に素晴らしい出来事なのだが、なにより、この演奏/音響が耳の興味を引きつけるのだ。一聴して誰もがわかるように、ここでの3人は互いの音に敏感に、かつ大胆に反応しあいながら、ひとつの、そして新しい音響を生み出しているのである。本作において、どの音が誰の音なのか、という問いはそれほど意味をなさない(もちろん、この音が誰の音かと想像するのは楽しいのだが)。反応と生成によって、ここにしかない音響的時間が生まれていることが重要なのである。

 冒頭の暗闇から聴こえるような微かな音、声の反復、そして微かに震えるノイズ、グリッチな高音、霞んだ音色の持続音、突如鳴りはじめる透明なコードまで、3人の音は、まるで水槽の中で群れをなして動く生命たちのように敏感に、かつ優雅に反応しあっていくのだ。その一筋縄ではいかない電子音/ノイズの饗宴を聴いた者は、この演奏/競演がCDとして後世に残す価値がある作品だと確信するはずだ。そう、この『ワイカム ライブ』には、3つの才能が交錯することで生まれる濃密な音響が収められているのだ。本作の薄明かりの中に蠢くような音を聴きながら、私は不意に谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』を思い出しもした。どこか日本的ともいえる薄明かりの美意識。

 本作をリリースするのは、日本・東京で、高品質な電子音響/エクスペンタル・ミュージックをリリースしている〈サッドレック〉である。同レーベルはこれまでもトーマス・フィリップ、フランシスコ・ロペスなどの作品を送り出しており、美しく刺激的な音を求めるリスナーたちの耳を潤して(震わして)きた。統一感のあるアートワークも素晴らしく、日本における〈タッチ〉や〈ライン〉のような存在ともいえるだろう。
 その高精度な音の秘密(?)には、サウンドに対する職人的ともいえるこだわりにあるように思えてならない。それもそのはずで、本作などはマスタリング・スタジオ〈サッドラボ〉も運営する主宰ドヴァスキーによるDSDアップコンバート・マスタリングが行われており、音そのものの存在感が凄まじいのである。この種の作品にありがちな高い音域で、いたずらに刺激させるだけの音ではなく、小さな響きからノイジーな音響まで、幅広い音域の中で、音の肌理や質感があますことなく銀盤に収められている。長く聴ける音響への拘りを強く感じさせてくれるアルバムである。

 また、本作と同時リリースされるドイツのサウンド・アーティストであるサスピションブリーズコンフィデンス『エーロゾル』にも注目だ。〈パン〉以降のエクスペリメンタル/インダストリアルな状況に投下される最新鋭のダーク電子音響アルバムで(アートワークも美しい!)、ノイズ・環境音・ビート・メロディの断片など、さまざまな音のフィギュールが交錯し、心理的影響を与えるようなサウンドの情景が生成されていくのである。まるで電子音響の劇場空間。この『エーロゾル』もドヴァスキーによるマスタリングが行われており、末永く聴き込める電子音響/電子ノイズの逸品に仕上がっている。『ワイカム ライブ』とあわせての聴取を強くおすすめしたい。どちらも限定300枚である。

デンシノオト