ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Ruby Rushton - Ironside (review)
  2. WxAxRxP POP-UP STORE ──〈Warp〉30周年を記念したポップアップ・ショップがオープン (news)
  3. New Order ──ニュー・オーダー、地元マンチェスターでのライヴ盤がリリース (news)
  4. interview with Ralf Hütter(Kraftwerk) マンマシーンの現在 (interviews)
  5. R.I.P. 遠藤ミチロウ (news)
  6. Anderson .Paak - Ventura (review)
  7. interview with TwiGy さ、みんなききなっよ! (interviews)
  8. Amgala Temple ──ジャガ・ジャジストから派生したグループ、アムガラ・テンプルが来日 (news)
  9. Columns UKの若きラッパー、ロイル・カーナーが示す「第四の道」 (columns)
  10. Helado Negro - This Is How You Smile (review)
  11. Matmos - Plastic Anniversary (review)
  12. Kelly Moran ──OPNのバンド・メンバー、ケリー・モーランが〈Warp〉と契約&アルバムをリリース (news)
  13. Logos - Imperial Flood (review)
  14. interview with Kelly Moran プリペアド・ピアノの新星 (interviews)
  15. Matmos & Jeff Carey ──新作をリリースしたばかりのマトモスが来日 (news)
  16. Columns いまだ眩い最高の夜 ──ニュー・オーダーのライヴ盤『NOMC15』を聴きながら (columns)
  17. THE STALIN ──ザ・スターリンのもっとも過激なときを捉えた作品が完全復刻 (news)
  18. 『バンドやめようぜ!』 ──日本、欧州のロック・ビジネスを考える日英大討論会 (news)
  19. Flying Lotus × Anderson .Paak ──フライング・ロータスがアンダーソン・パークを迎えた新曲を公開 (news)
  20. 田我流 - Ride On Time (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Loyle Carner- Yesterday's Gone

Loyle Carner

Hip Hop

Loyle Carner

Yesterday's Gone

AMF

Tower HMV Amazon iTunes

小林拓音近藤真弥   Oct 05,2017 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加
12

 イギリス・サウスロンドン出身のラッパー、ロイル・カーナーは10歳の頃からラップをしていたという。エイミー・ワインハウスやアデルなどを輩出したブリット・スクールの出身で、しかもそこではキング・クルールと同級生になるが、専攻していたのはなんと演劇。本格的に音楽一本でやりはじめたのは2014年頃だそうだ。そこからあっという間に、期待の新人をピックアップしたBBCのサウンド・オブ・2016に選ばれるのだから、驚嘆するしかない。
 また、カーナーはADHD(注意欠陥・多動性障害)とディスレクシア(難読症)であることを公言している。そうした境遇の難しさや世間の無理解を知るカーナーは、ADHDの子どもを対象にした料理教室も主催するなど、堅実な草の根活動をおこなっている。ちなみに料理の腕前は“Florence”のMVで見られるが、テキパキと作業する姿はかなり手慣れたものだ。

 そんなカーナーを知るキッカケは、ケイト・テンペストとコラボレーションした“Guts”だった。2014年に発表されたこの曲でカーナーは、ひとつひとつの言葉を丁寧かつ鋭く紡いでいた。ケイト・テンペストを追いかけるために聴いたのだが、これは嬉しい発見だ! と心が躍ったのをいまでも鮮明に覚えている。それ以降の筆者はカーナーを熱心に追いかけるようになり、シングル「Tierney Terrace」やEP「A Little Late」など、カーナーの作品が出れば必ず手に入れた。
 もちろん、2017年度のマーキュリー・プライズにノミネートされたファースト・アルバム、『Yesterday's Gone』も手元に置いている。インタヴューでスケプタルーツ・マヌーヴァをお気に入りに挙げるなど、ヒップホップやグライムからの影響を隠さないカーナーだが、本作でもこのふたつの要素は見られる。とはいえ、オープニングの“The Isle Of Arran”では、S.C.I. ユース・クワイアの“The Lord Will Make A Way”というゴスペル・ソングをサンプリングし、作品全体としてもファンク、ソウル、ジャズの要素が色濃く表れている。ベースがリズミカルなのも特徴で、横ノリのグルーヴに合わせて踊れる曲が多い。カーナーの両親はソウル、ジャズ、ファンクを愛聴していたそうだが、その両親の嗜好を受け継いだ多彩な音楽性が本作の特徴だ。ザ・ピューリストやクウェズなど多くのプロデューサーを迎えたことも、多彩な音楽性を生みだす一助になっている。

 歌詞は、本作以前と同様に身近な題材が多い。なかでも頻繁に登場するのは母親だ。“Sun Of Jean”では母親の語りがフィーチャーされ、30秒弱の小品“Swear”はカーナーと母親の会話をそのまま収録したものだ。一方で、“Florence”では架空の妹についてラップしたりと、遊び心も見られる。しかしとりわけ目を引くのは、成熟したカーナーの姿だ。「A Little Late」に収められた“The Money”で文字通りお金を稼がなきゃとラップし、どこか焦燥を滲ませていた姿がそこにはない。日常の風景を的確にとらえる鋭い観察眼と落ち着きが際立っている。ひとつひとつの言葉は風格を漂わせ、今年で22歳になる若者だと知らなければ、ベテラン・ラッパーの新作と言われてもなにひとつ疑わないはずだ。こうした成長は、自身の信仰心に言及した“The Isle Of Arran”という名曲の誕生にもつながっている。深く内省したこの曲には、本作以前のカーナーでは込めることが難しかったであろう説得力がある。

 本作においてカーナーは、家族への愛情をこれでもかと示している。本作でも頻繁に登場することからもわかるように、母親に対しては特に熱烈だ。このような姿は、親元から離れ自立するのが“男”の理想像だと考える者にとって、珍しいものに映るかもしれない。たとえば、社会学者の平山亮による『介護する息子たち』は、庇護される立場である男性性(息子性)の姿を鮮明に描くことで、“男”の自立性は周囲のお膳立てによってもたられるものであり、自立を良しとする“男”の理想像は幻想に過ぎないと喝破した。このように旧態依然とした価値観を解きほぐす視点が、本作にもある。“男は仕事、女は家庭”という性役割に基づく家族モデルがいまだ根強い現在において、カーナーが本作で示す視点はオルタナティヴになりえるのではないか。そういった意味で本作は、現代的な問題を孕んでいる。

近藤真弥

Next >> 小林拓音

12

RELATED