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Jordan Rakei

SSWSoul

Jordan Rakei

Wallflower

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小川充   Oct 23,2017 UP
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 昨年デビュー・アルバム『クローク』を発表し、新世代のネオ・ソウル・アーティストと絶賛されたジョーダン・ラカイ。それから約1年ぶりのニュー・アルバム『ウォールフラワー』は、老舗の〈ニンジャ・チューン〉からのリリースとなった。エレクトロニック・ミュージック主体の〈ニンジャ・チューン〉にとって、彼のようなシンガー・ソングライター系は珍しいタイプでもあり、レーベルが新たな方向性を摸索していることの表われかもしれない。現在はロンドンを拠点に活動するジョーダン・ラカイだが、出身地はオーストラリアで(もともとはニュージーランド生まれだが、幼い頃にオーストラリアのブリスベンへ移住している)、音楽学校を卒業した19歳のときに処女作のEP「フランクリンズ・ルーム」(2013年)をbandcamp経由でリリース。ネオ・ソウル系ナンバーに加えてレゲエもやっており、ニュージーランドのファット・フレディーズ・ドロップやブラック・シーズ/ロード・エコーなどが持つ、ソウルとレゲエのミックス感覚の影響を感じさせるものだった。第2弾EP「コラード・グリーンズ」(2014年)はヒップホップ/R&B寄りの作風で、エレピなどインストゥルメンタル演奏はジャジーに洗練されていく。このEPはネットなどでも大きな評判を呼び、より本格的な制作活動を求めてラカイはロンドンへ移住する。

 ロンドンでの活動開始直後の2015年、ディスクロージャーの『カラカル』へ参加して“マスターピース”を歌い、彼の名前は一躍世界中に広まる。ジャイルス・ピーターソン主宰の「ワールドワイド・フェスティバル」への参加や、トム・ミッシュ、Ta-kuの作品への客演に加え、ダン・カイという変名で〈リズム・セクション・インターナショナル〉からハウス作品を出すなど、トラックメイカーとしての才能も開花させる彼だが、そんな多彩な活動を経て発表したのが『クローク』だった。ジャズ・ドラマーのリチャード・スペイヴンほか、多数のミュージシャンが参加したバンド形式の演奏によるもので、ソウルを軸にジャズ、ヒップホップ、AORなどの要素を織り交ぜ、ディアンジェロからジェイムス・ブレイクに通じるようなムードの作品までが生み出された。ラカイ自身は、アルバム制作にあたってリズムにもっとも配慮したそうで、ジャズのシャッフル・ビートからハウス、ポスト・ダブステップ系と多彩なリズムを駆使し、それが単なるネオ・ソウルの枠には収まらないラカイの奥深い個性にも繋がっていたと思う。ラカイの歌はどちらかと言えば淡々としてクールなもので、作る楽曲も複雑なメロディやコードを持ち、物憂げで陰りを感じさせるものが多い。シンガー・ソングライターという部分で見た場合、彼が影響を受けたミュージシャンのひとりに上げるニック・ハキムや、ライのミロシュやジェイミー・ウーンなどが近いタイプに感じる。

 今年に入ってからもリチャード・スペイヴンの『ザ・セルフ』、ノア・スリーの『アザーランド』といったアルバムにもフィーチャーされ、そうした中で発表された新作『ウォールフラワー』は、『クローク』の世界観がより内省的な方向へ向かっていることを伺わせる。『クローク』においてもパーソナルな部分を反映した歌詞の世界を大切にしていたラカイだが、それがより強まったシンガー・ソングライター作品と言える。アルバムにはアルファ・ミスト、ジム・マクレエなど前作から引き続いてのメンバーほか、ジ・インヴィジブルのデイヴ・オクム、ユナイテッド・ヴァイブレーションズのアーマッド・デイズやウェイン・フランシス2世らが参加し、さらに充実した演奏内容となっている。そうしたバンド・スタイルの作品がある一方で、ほぼひとりで作り上げた“メイ”や“ハイディング・プレイス”、新進女性シンガー・ソングライターのカヤ・トーマス=ダイクとデュエットしたフォーキーな表題曲では、ラカイが持つディープで繊細な感性が浮かび上がる。クールに綴っていく中で、ラカイには珍しくサビでは切々と歌いかける“カーネーション”と共に、サンファの『プロセス』にも通じるようなナンバーである。

 先行シングル・カットされた“ソーサレス”は、ジム・マクレエのシンコペーションの効いたドラムと、全体的にエフェクトを掛けた音像が幻想的なムードを生み出すソウル・ナンバー。“ケミカル・コインシデンス”もサイケデリックでスペイシーな質感の音響、テンポ・アップしながら終わるというトリッキーさを持つ。一見すると正統的なソウルであっても、こうした微妙な実験性や屈折感を織り交ぜていくあたりは、ピンク・フロイド、フランク・ザッパ、レディオヘッドなども好きだというラカイならではだ。フォーキーで穏やかな序盤から、ミステリアスでトリッピーな世界へと展開する“アイ・トゥ・アイ”も同様で、ニック・ハキムの『グリーン・ツインズ』のトリップ感覚に繋がるところもある。“ソーサレス”に続くシングル曲の“ナーヴ”は、比較的オーソドックスなソウル・マナーに基づくメロディを持ち、哀愁に満ちたムードをストリングスが彩る。“ルシッド”も哀愁に満ちた1曲で、こちらはハンド・クラップとアコースティック・ギターを交えてスパニッシュ風のムードを作り出す。“グッドバイズ”はマーヴィン・ゲイ&リオン・ウェア路線の夜の匂いに包まれたメロウ・チューン。AORの影響も感じさせ、アルバム中でもっともアーバンなナンバーである。逆に“クルーズ・ブルース”はレゲエの影響を感じさせるダビーなナンバーで、初期の『フランクリンズ・ルーム』の頃に戻ったようなところが見られる。アルバム通してみると、もはや「新世代のネオ・ソウル・アーティスト」といった形容はそぐわないだろう。実験的な試みも交えて、ラカイのオルタナティヴな個性が表われたシンガー・ソングライター・アルバムである。

小川充