ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Paulius Kilbauskas - Elements (review)
  2. interview with Gang Gang Dance ギャング・ギャング・ダンス来日直前インタヴュー (interviews)
  3. ともしび - / サンセット - 監督・脚本:ネメシュ・ラースロー
    出演:ユーリ・ヤカブ『サウルの息子』、ヴラド・イヴァノフ『エリザのために』 ほか
    2019/ハンガリー、フランス/カラー/ハンガリー語、ドイツ語/142分
    (review)
  4. Big Joanie - Sistahs (review)
  5. On-U Sound ──コンピ・シリーズ《Pay It All Back》の最新作が3月にリリース (news)
  6. STUMM433 ──デペッシュ・モードやニュー・オーダーまで、50組以上のアーティストが「4分33秒」をカヴァー (news)
  7. Allysha Joy - Acadie : Raw (review)
  8. Norhern Soul ──『ノーザン・ソウル』、この最高な映画を見たらスリムのデニムを履けなくなる (news)
  9. 山口美央子 - トキサカシマ (review)
  10. 彼女は頭が悪いから - 姫野カオルコ (review)
  11. Mars89 ──たったいま聴こう。東京新世代のプロデューサー、Mars89が新作をリリース (news)
  12. The Book of Drexciya ──ドレクシアの神話を描いたグラフィック・ノヴェルが制作 (news)
  13. BOOMBOX&TAPES ──カセットテープ愛好家に送る豪華なジンが創刊 (news)
  14. Mansur Brown - Shiroi (review)
  15. ZULI - Terminal (review)
  16. ALTZ ──DJアルツのバンド・プロジェクト、ALTZ. Pがアルバムをリリース (news)
  17. Mike - War in My Pen (review)
  18. On-U Sound ──名コンピ・シリーズ《Pay It All Back》の最新作が3月にリリース (news)
  19. Eartheater - IRISIRI (review)
  20. Mira Calix ──ミラ・カリックスが新作EPをリリース (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > ZULI- Terminal

ZULI

Avant-technoGrime

ZULI

Terminal

UIQ

disk union Bandcamp Spotify iTunes

米澤慎太朗   Jan 08,2019 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加
E王

 エジプト・カイロを拠点に置くアーティスト、Zuli のデビュー・アルバム『Terminal』が、Lee Gamble が主宰するレーベル〈UIQ〉よりリリースされた。これまで3枚のEPを〈UIQ〉と〈Haunter Records〉からリリースしてきた。その内容はインストゥルメンタルで、グリッチやノイズ、グライムっぽいうねるようなベース音も顔を見せる変則的なダンス・ミュージック。2017年にはベルリンのCTMフェスティヴァルでは地元であるカイロをテーマとした360度ヴィデオのインスタレーションを発表。活躍の舞台を着実に広げ、特に〈UIQ〉からのリリースはレコード店で売り切れるほどの人気ぶりだ。

 Zuli、本名は Ahmed El Ghazoly という。10歳まではイギリスで暮らし、グランジやブリット・ポップ、ケミカル・ブラザーズやプロディジーを聞き、両親の都合でエジプトに戻ってきたという*。所謂エジプトの伝統音楽やポップスに関心が向かず、UKの音楽に影響を受けて制作をしてきたという。また、同志のアーティストと Kairo Is Koming というコレクティヴを作り、ふたつの拠点でラッパーやアーティストとコラボレーションしながら活動をしているという。

 そうした集団での制作も方向性に反映されているのだろうか。今作『Terminal』は、これまでのインストゥルメンタル、変則テクノ的な音楽性から、トラップ、ジューク、ラップとの混交、またラッパー、シンガーとのコラボレーションが際立つ。1曲目から 6. “Stacks & Arrays”までは808ベース、残響音のようなベースとノイズが不規則に鳴らされ、不穏なサウンドスケープが展開される。7曲目の“Kollu I - Joloud feat. MSYLMA”で歌唱が、8. “Akhtuboot feat. Abyusif”でラップが初めて耳に入る。しかしどちらも3~4分の商業的なレコードのフォーマットではなく、断片的に流れていく。9. “Mazen”でも Abyusif のラップが使われているが、切り刻まれ、引き伸ばされ、あるいはピッチを変えられて、声そのものが変態していく。ラップは、11. “Ana Ghayeb feat. Mado $am, Abanob, Abyusif”でようやく聞き取れるレヴェルのラップが一瞬姿を見せる。フリースタイルする(ような)彼らのラップは素晴らしく、ソロ作品を聴きたくなる。

 『Terminal』というアルバム・タイトルから思い起こされるのは空港である。〈NON〉の Chino Amobi が一見無国籍でクリーンな空港という空間に、人種・政治的な関係を見出したのと同じように、このアルバムの不穏さもローカルな状況につなげて考えることができる。Zuli の活動の中心であるエジプトは「アラブの春」に端を発する政治・経済的な混乱が続いていて、混乱の前後でカイロの貧困率は2倍近くに増加したというデータもある。

 切り刻まれ、グリッチされた歌詞の内容は理解不能であるが、音が生み出す不規則・不穏な空気感とカイロの社会的・政治的な状況が重なる。グリッチやノイズは予期せぬ第三者からの干渉の結果に聞こえる。なにかを告発するはずだった通信・録音が遮断され、干渉され、散り散りになったデータとなって再生されているような、または、デジタル情報の残骸のような質感。12. “In Your Head”のビートレスのアンビエント、冷たいピアノの一音がさらにアルバムの緊張感を持続させる。その曲での後ろで響くのは、男の会話ともヒソヒソ声とも取れる音。密告のようにも、心の中の「勘ぐり」にも聴こえてくる。緊張や不安はアルバムの全編を通じて漂い続けている。

 このアルバムを聴くことは、生成されたデジタル情報が捻じ曲げられたり、隠されたりする痕跡を辿っていく行為かもしれない。しかしもう一方では、そうしたデジタル情報が不完全に捻じ曲げられたり、隠されきれなかったりする。そうした人間味を感じさせるサウンドでもある。音が不規則でありながら緊張感が持続する、エレクトロニックながらどこか「生っぽく」感じられる。そういった多面性を持ったアルバムだ。

 * TIGHT Magazine のインタヴューより。

米澤慎太朗