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野田努   Jun 28,2019 UP

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 けっこう前の話になってしまうが、GW中に木津毅君とbutaji君と代々木公園で開催していた東京レインボープライドで会って、いっしょに水曜日のカンパネラのライヴを見たのだった。コムアイ、人気者だったなぁ。オオルタイチのコズミックなサウンドをフィーチャーしたそのライヴが終わってから、おそらくその場にいたであろうケンモチヒデフミにひと声をかけようと大盛況の会場内を探したのだけれど……人びとのパワーに圧倒され……とても辿り着くことができなかった。どこいるんだ、ケンモチヒデフミ……そう思っていたら、ここにいた。

 ケンモチは足をシャカシャカ素速く動かし、フットワークに興じている。水曜日のカンパネラのサウンド面をコントロールするこの男は、去る5月に9年ぶりとなるソロ・アルバムをリリースした。それは彼がここ数年触発されていた音楽、シカゴのゲットー・ミュージック、ないしは南アフリカのゴムを咀嚼した音楽である。そう、ここにはあの殺気だったリズムをヒントにしたゲットー・スタイルの新解釈、ドリルでもジャージー・クラブでもない、言うなればその日本ヴァージョンとも呼ぶべきサウンドが創出されている。水カンでは黒子に徹しているケンモチだが、意外なことに彼は機敏なダンサーだったのだ。
 アルバムは、シカゴのゲットー・ダンスと久石譲との出会いのような曲“Aesop”ではじまる。激しさとメロウネスが溶け合うこの美しいトラックは、“Hippopotamus”や““Fish Sausage””と並んで本作において最高の曲だ。続く“BabyJaket ”はチージーな曲調のいかにもJ-Pop式のディスコといった感じで、しかしそれで相手を油断させておいてフェイントからシュートというのが今回のケンモチである。ゲームセンターで鳴っているかのような“RoboCop”においてリズムは断片化され、スピードアップする。そしてスピードに乗った状態のまままシュート、“Jaburo”ではテクノとR&Bがシュールに混じり合う。
 過剰さ、キッチュさ、小学4年生が遊んでいるかのような子供っぽさは、欧米人が日本人を見るときのひとつのステレオタイプである。お望み通りの現代日本オリエンタリズム、ハローキティのゲットー・ダンスにようこそ、そう言わんばかりの展開のなかで、“Fish Sausage”はコーネリアスの“スター・フルーツ~”の甘い恍惚にもっとも近づいた曲だ。いや、それは気のせいかもしれない。支離滅裂な“Mountain Dew”や“Fight Club”の暴走が片っ端から夢を打ち砕いていく。
 アルバムは、チルアウトな感覚を持ったメロウな“Hacienda”を経由して、最後は陶酔的な“Tiger Balm”で終わる。『沸騰 沸く』は、悪ふざけたっぷりだが、先にも書いたように奇妙な叙情性を持ち合わせている。食品まつりのフットワークが温泉街だとしたら、こちらは渋谷のハチ公前だろう。ひたすらケオティックで、キッチュで、なにごともスピーディーで過剰。ケンモチヒデフミはシカゴのゲットー・スタイルを、もののみごと現在の東京に投射させたと言える。
 
 『沸騰 沸く』とほぼ同時期にリリースされた、ケンモチヒデフミがプロデュースしたシャンユー(Xiangyu)のファースト・シングル(といっても7曲入りだが)も、音楽的にはケンモチのソロ作と連なっている。こちらはゴムを彼なりに咀嚼し、ポップ・ソングのなかで展開している。もしこれが彼にとって水曜日のカンパネラに次ぐプロジェクトだとしたら、“Go Mistake”のナンセンス・ラップとキッチュなトラックからなる世界は、現代日本オリエンタリズムとして充分に機能するだろう。しかしシャンガーンを取り入れた“プーパッポンカリー”の巧妙さは、ちょっとした新しい可能性を感じる。ここで描かれている東京は、もはや異国のような東京であり、生活感のない冗談のような都市の姿だ。シャンユーの早口ラップはゲームのようで、“風呂に入らず寝ちまった”や“ 餃子”のような曲は、このぐらい笑ってなければやり過ごせないということなのだろう。
 まあなんにせよ、コムアイは屋久島に行ったというが、ケンモチときたら……どこまでもナンセンスで、しかしながら、『沸騰 沸く』も『はじめての○○図鑑』も、目を見張るほどのエネルギーが炸裂している。ケンモチヒデフミのどこにこんなエネルギーがあるのか、今度会ったときにぜひ訊いてみよう。
 
 

野田努