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The Mauskovic Dance Band

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The Mauskovic Dance Band

The Mauskovic Dance Band

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小川充   Aug 02,2019 UP

 かつて1950年代から1960年代にかけて、ダンスホールやクラブには専属のバンドやオーケストラがいて、その頃のダンス音楽の主流であるラテンやアフロ・キューバンの生演奏を繰り広げる時代があった。その後1970年代に入り、ダンスホールはディスコティークに取って替わられて、バンドの役割も次第にDJへと変換していくわけだが、当時のディスコ時代でもMFSBやサルソウル・オーケストラなどはそうしたダンス・バンドの系譜を受け継ぐ存在で、バンドからDJカルチャーへの橋渡しをおこなった。ヨーロッパにおいても同様で、1950年代から1970年代にかけては多くのラテン・バンドが存在していた。ベルギーやオランダではニコ・ゴメス楽団、チャカチャス、エル・チックルズ、ショコラッツといったグループが活動していて、チャカチャスの“ジャングル・フィーヴァー”はムード・ラテンにディスコを取り入れた最初の例として世界中で大ヒットした。ベルギーとフランスの混成バンドのショコラッツは、セローンやドン・レイがいたコンガスと共にアフロ/ラテン~トロピカル・ディスコを確立した。オランダを拠点とするニック・マウスコヴィッチ率いるダンス・バンドは、それらかつてのラテン・ディスコ・バンドの現代版と言える存在だ。

 ニック・マウスコヴィッチはアムステルダムで活動するマルチ・ミュージシャン/プロデューサーで、トルコ系のミュージシャンたちによるサイケ/フォーク・バンドのアルティン・ガンに参加する一方で、マルチ・ミュージシャンのジャコ・ガードナーとニューウェイヴ/バレアリック・ディスコ・ユニットのブラクサスを組んでいる。そんなニックによる5人組ダンス・バンドは、彼の兄弟のチョコレート・スペース・ドニー(キーボード、エフェクト)、マーニックス(ギター、シンセ、パーカッション)、マノ(ベース)が中心となり、そこにクンビア・ミュージシャンのフアン・ハンドレッド(ドラムス)が加わっている。2017年にデビューしてスイスのレーベル〈ボンゴ・ジョー〉からシングルを2枚リリースし、その後2018年にアフロやカリビアンなどワールド・ミュージック/辺境音楽系に強いUKの〈サウンドウェイ〉から「ダウン・イン・ザ・ベースメント」というEPをリリース。この中の“コンティニュー・ザ・ファン(スペース・ヴァージョン)”という曲がジャイルス・ピーターソンのコンピ『ブラウンズウッド・バブラーズ・13』に収録され、彼の催す「ワールドワイド・アワーズ・2018」の“トラック・オブ・ザ・イヤー”にノミネートされるなどして注目を集める。そして7インチの“シングス・トゥ・ドゥ”を経て、ファースト・アルバムとなる本作を〈サウンドウェイ〉からリリースという流れとなる。アムステルダムのスタジオで録音された本作は、現在ポルトガルのリズボン在住のジャコ・ガードナーによってミックスされた。

 ザ・マウスコヴィッチ・ダンス・バンドのサウンドは、直接的には1980年代前半頃のアフロやラテン・ジャズと結びついたオルタナティヴ・ディスコやエレクトロ、ポストパンク~ニューウェイヴ・ディスコの中でも特にパーカッシヴでトライバルなサウンド、あるいはファンクとラテンが結びついたファンカラティーナなどの影響が強い。具体名を挙げればUSならアーサー・ラッセルによるダイナソー・Lやインディアン・オーシャン、オーガスト・ダーネルによるキッド・クレオール&ザ・ココナッツやサヴァンナ・バンド、リキッド・リキッド、コンク、ワズ・ノット・ワズ、UKならファンカポリタン、モダン・ロマンス、ブルー・ロンド・ア・ラ・ターク、ファンボーイ・スリー、ピッグバッグ、リップ・リグ&パニックなどだろうか。彼らのサウンドに共通するのは、どこか特定の国の本格的な民族音楽に倣うのではなく、世界の様々な民族音楽や辺境音楽をゴチャ混ぜにしたような無国籍感が漂うもので、ある意味で本場のサウンドではない偽物ならではの怪しさが漂うものだった(さらにそれらの源にあるのは、マーティン・デニーやレス・バクスターなど1950~60年代のエキゾティック・サウンドだろう)。
 ザ・マウスコヴィッチ・ダンス・バンドもそうしたB級感覚を継承していて、それこそがダンス・バンドといういかがわしい存在を体現している。チープなドラムマシーンやアナログ・シンセにキーを外したヴォーカルがフィーチャーされる“ドリンクス・バイ・ザ・シー”や“セイム・ヘッズ”がまさにそうで、1980年代のレトロ感満載のサウンドだ。性急なビートの“スペース・ドラム・マシーン”やファンカラティーナ調の“ダンス・プレイス・ガレージ”は、パラダイス・ガレージでラリー・レヴァンがプレイしていたようなアンダーグラウンド感一杯のもの。“パーカッション・アンド・スパジオ・サウンズ”は文字通りマッドでコズミックなパーカッション・トラック。スティールパンのようなパーカッションの音色が印象的な“アルト・イン・ヴァカンザ”では、このバンドにとってダビーなテイストも重要な要素であることを示していいて、“レイト・ナイト・ピープル”や“イッツ・ザ・ロング・グッディ”にもそうしたディスコ・ダブの要素が表われている。レトロなラテン・バンド・スタイルを下敷きにしつつ、ニューウェイヴ・ディスコやディスコ・ダブの要素を交えて現代的にアップデートさせた彼らは、2010年代以降のヴェイパーウェイヴの流れの中にも位置づけられる存在と言えるだろう。

小川充