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木津 毅   Aug 30,2019 UP
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 たとえば『ミス・テイクス』(2007)やEPの「テイク・エクスタシー・ウィズ・ミー」(2005年)のジャケットを思い出してほしい。ニューヨークの地下から頭角を現し始めたころの !!! は、得体のしれない猥雑さ、不気味さ、ダーティさが何よりの魅力だった。それは音もそうだ。『ミス・テイクス』などはいま聴くと、ごった煮のジャム・セッションの跡がかなりの部分で残っており、ぐちゃぐちゃと言えばぐちゃぐちゃなのだけど、世界にはまだいろいろなところにワイルドな連中がいるのだと感じさせてくれた。何かと知性派揃いの〈Warp〉のイメージのなか、より現場感を持っていたのが彼らだった。
 その後もバンドはパーティを続けたわけだが、そのなかで、より音の洗練を目指していったというのが基本的な方向性だろう。いかに「ダンス」への忠誠を保ちつつ、また反骨精神を失わないまま、サウンドを整えていくか。モダンな感覚を持ったプロデューサーを迎えたり(『スリラー』)、妙に爽やかなギター・ポップを取り入れたり(『アズ・イフ』)して、変革は続けられた。そのどこかで、初期のいかがわしさが失われた部分はある。が、音をよりポップに開かれたものにしつつ、どちらかと言うとメッセージで自分たちのアウトサイダー性を誇示してきたと言える。

 トランプ・ショックに対するかなり直接的なリアクションだった『シェイク・ザ・シャダー』を経て――ダンスをすることで飼いならされることに抵抗する――、8作めとなる『ワロップ』は !!! 史上もっとも音のヴァラエティに富んだアルバムとなった。元アリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティのコール・M・グライフ・ニール、ホーリー・ファックのグラハム・ウォルシュ、そしてこれまでもともに作業してきたパトリック・フォードといった複数のプロデューサーを迎えていることもあるだろう。インダストリアル的な高圧的なビートを持つ“Let It Change U”から始まり、カッティング・ギターとシンセ・リフのコンビネーションで聴かせるファンク・チューン“Couldn't Have Known”、ノイジーなテクノ・トラックでダークなトーンとなる“Off The Grid”と、!!! らしさを覗かせながらも序盤から様々な展開を見せる。プロダクションはやはり整っている。
 だが、とりわけ驚くのは5曲め“Serbia Drums”以降の流れだ。キラキラしたシンセ・フレーズと切ないメロディのギター・ポップが合体したこの曲では、独特のワイルドなドラムとチャーミングなパーカッションが聴けるし、どこかR&B的なグルーヴを感じさせる“My Fault”を過ぎて、音数を絞った“Slow Motion”はぐっとアダルトなムードのミドルテンポだ。!!! がこれほど大人びた横顔を見せたことはかつてなかった。ずっと踊り続けながら、そしてひとは年を取っていくのだ。
 洗練と成熟はある。しかしそのなかで耳を引くのが、初期のテクノやハウス、初期エレクトロやオールドスクール・ヒップホップといったそのジャンルの生まれたときの原初的な感触だ。アルバム中もっとも抽象的なトラックとなっている“Domino”のシンセやサンプリングのフレーズにしてもそうだし、“Rhythm Of The Gravity”の声ネタなどもそうだろう。ストリートで新しいダンス・ミュージックが誕生するときの高揚、その猥雑なムードを彼らはいま、思い出しているのではないだろうか。結局、何度でもそこからやり直すしかないのだと。軽やかなハウス・トラック“This Is The Door”からダブ・ハウスへとそのまま突入する“This Is The Dub”で迎えるエンディングも洒落ている。アレンジを変えながら進化してきたダンス・ミュージックの歴史を愛でるようだ。

もしも余裕があるのなら
このリズムで自分を変えてみないか
アレンジし直すんだ
一つ、二つ、三つ、四つ、もっといっぱい
(“Let It Change U”)

 個人的なことを書くと、ディスコ・パンクは高校とか大学のときによく聴いていた音楽で、なかでも !!! は、何ともいえず不潔な佇まいが感じられて好きだった。いまや !!! は音のほうでは不潔とは言えないけれど、姿を変えながらも地下の空気を忘れていないことに僕はいまでも勇気づけられる。アレンジを変化させ続け何度でも生まれ変わり、ときどき自分がどこから来たかを思い出して、そして、死ぬまで踊り続ける。

木津 毅