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D.A.N.+VJ AKIKO NAKAYAMA

D.A.N.+VJ AKIKO NAKAYAMA

@渋谷 WWW X

2018.2.24

大久保祐子  
photo by Yosuke Torii   Feb 28,2018 UP
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 D.A.N. oneman live Chance。入口の看板にそう書いてあった。昨年末の恵比寿リキッドルームでのライヴを終えて間もなく、東京のみの新たなライヴの告知が発表された時には随分妙なタイミングだとは思ったけれど、どうやら今夜はその日の未明に配信開始が発表された新曲"Chance"のデジタル・リリース日に合わせて企画されたパーティーらしい。しかも今回は「Alive Painting」というパフォーマンスを行う画家の中山晃子をVJに迎えて、コラボレートしたライヴを披露するとのこと。チャンス。それは曲のタイトルではあるけれど、期待が高まる。

 開始時間の直前に到着すると、フロアではSEにWünderの“Lock Out for Yourself"が流され、若くてお洒落な男女が並んで待つスタイリッシュな空間が既に整っていた。ほどなくして照明が落ち、暗闇の中にメンバーが現れる。エピローグのような浮遊感漂うオープニングからゴリッとした原始的なリズムが徐々に加わり、D.A.N.の代表曲といえる"Zidane"が始まる。1stアルバム『D.A.N.』の1曲目にして一番アグレッシブなこの曲はライヴのはじまりに相応しく、一瞬にして身も心も踊らされてしまう。そのままのテンションをキープしながらリズムは反復し続け、後方のスクリーンに映し出された煙のようなグレーは青や白と混じって流れていき、サポート・メンバーの小林うてなが操る印象的なスティールパンの音色に導かれながら、次の“SSWB"にスムーズに繋がる。以前ミニ・アルバム『Tempest』のディスク・レビューの際にも書いたのだけれど、ミニマル且つダンサンブルなこの人力サウンドに、口ずさみたくなるようなメロディアスな歌を乗せてしまうバランス感覚がD.A.N.の持ち味で、よくあるダンス・ロックのように力任せに高揚感を持たせたり、あるいはクラブ寄りなリズムに偏りすぎてメロディを減らしたり、職人的にインストに走ったりというようなことはせずに、驚くほどしっかりと歌を、しかも日本語を柔らかくフラットに乗せているところが何度聴いても新鮮。ダンス・ミュージックとポップスの二面性を持っていて、どちらにも振り切らずゆらゆらと揺れ続けているような不思議な魅力がある。いろんなアーティストの影響を公言しているなかに宇多田ヒカルの名前を挙げているところもとても興味深い。

 その後は1stアルバムの曲順をなぞるように“Native Dancer"から“Curtain"までを続けて披露していく。会場内で同時に行われていた「Alive Painting」という映像パフォーマンスは、絵の具などの液体や固体を様々な質感の紙やアクリルガラスの上で流動的に反応させていく手法で、ひとつひとつの曲に合わせながら(“Navy"では濃紺、“Curtain"では紅に)色が波のようにうねって重なり、マーブル状に動いたり、光る粒子と混ざり合ったり、またはロールシャッハ・テストのように意味深な形をしてみせたり、かと思えば水墨画のように濃淡をつけて滲んだりと非常にサイケデリックで、じわじわと心地よく蝕まれていくような感覚。ひとところにとどまらず絶えず動いている予測のできない生々しさは、バンド・サウンドのズレや隙間に生まれる肉体的なグルーヴにも似ていて、完成された緻密な作品にはないライヴならではの臨場感に目を奪われることが何度もあった。

 初期のEPの曲“Now It's Dark"を置いてから最近のダウンテンポな曲を連続して統一感を持たせた後半は、いつものD.A.N.のイメージの淡いブルーグレーや深黒の空間がピンクや白に幻想的に変化してゆき、音と映像が醸し出す不穏なムードに吸い込まれていくよう。特に楽曲としてもひとつの到達点の“Tempest"は圧巻で、後半の高揚していく音の展開に誘われて膨らんだ赤い球体がパチンと弾けて流れだす瞬間は、他者と融合し同化していくように官能的で、恐ろしいほど美しかった。そして昨年からライヴで既に披露されていた“Chance"は、歌声とシンセを強調してさらにスケールを増したライヴ映えする素晴らしい曲。ラストはもうひとつの新曲“Replica"の穏やかな音に合わせてスクリーンが静かに黄色く染まっていくエンディングで、D.A.N.の見たことのない姿を映し出したように見えた。なんて眩しくて芸術的なんだろう。これらは自然に起こるものではなく、人の手によって動かされているからこそ神秘的で、だからこそこんなにも惹きつけられる。

 本編は終了。アンコールで再び登場し、ヴォーカルの櫻木大悟が「映画のエンドロールを見るような感じで聴いてください」と説明して最後に“Pool"で明るく終わったので、客席も緊張がほぐれ、別世界から戻ったような気分になった。MCはほぼ無し、“Ghana"をやらなかったのも納得の90分、13曲。その日、その瞬間、そこで目撃したもの。もしかするとD.A.N.の一番凄まじい状態を観てしまったかもしれない。そしてそれはきっと、まだ更新され続ける。

 ライヴが終わり会場のドアが開くと、その夜の空気を纏った私たちの体は都会の夜に流れていき、急速に別の方向へと進んだり留まったり交わったりしながら、ゆっくりと世界に馴染んで別の形に姿を変えていくような、そんな気がした。

大久保祐子