ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Oklou - choke enough | オーケールー
  2. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ 第二回 ボブ・ディランは苦悩しない
  3. Aphex Twin ──エイフェックス・ツインがブランド「Supreme」のためのプレイリストを公開
  4. すべての門は開かれている――カンの物語
  5. Columns ♯12:ロバータ・フラックの歌  | Roberta Flack
  6. story of CAN ——『すべての門は開かれている——カンの物語』刊行のお知らせ
  7. Lawrence English - Even The Horizon Knows Its Bounds | ローレンス・イングリッシュ
  8. new book ──牛尾憲輔の劇伴作曲家生活10周年を記念した1冊が刊行
  9. interview with Elliot Galvin エリオット・ガルヴィンはUKジャズの新しい方向性を切り拓いている
  10. Columns ♯11:パンダ・ベアの新作を聴きながら、彼の功績を振り返ってみよう
  11. 「土」の本
  12. Columns 2月のジャズ Jazz in February 2025
  13. R.I.P. Roy Ayers 追悼:ロイ・エアーズ
  14. 別冊ele-king ゲーム音楽の最前線
  15. Arthur Russell ——アーサー・ラッセル、なんと80年代半ばのライヴ音源がリリースされる
  16. A. G. Cook - Britpop | A. G. クック
  17. The Murder Capital - Blindness | ザ・マーダー・キャピタル
  18. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ 第一回:イギリス人は悪ノリがお好き(日本人はもっと好き)
  19. はじめての老い
  20. Soundwalk Collective & Patti Smith ──「MODE 2025」はパティ・スミスとサウンドウォーク・コレクティヴのコラボレーション

Home >  Columns > ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(前編)- Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024

Columns

ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(前編)

ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(前編)

Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024

オスロ、トイエン公園 2024年8月7~10日
https://www.oyafestivalen.no/

木津 毅 Oct 08,2024 UP

 ジェニー・ヴァルジャガ・ジャジストリンドストロームトッド・テリエスメーツ……。乗り継ぎを含めて計22時間のフライトのなかで朦朧としながら、僕は自分が好きなノルウェー出身のミュージシャンをあらためて思い返していた。いや、たしかに好きな音楽や映画はあるし、北欧はいいところなんだろうなあー……程度の漠然とした憧れはあったものの、まさか自分がノルウェーに来ることになるとは思っていなかった。30代のうちにひとりで海外でも行きたいなー、などと呑気なことをコロナ禍前には考えていたが、大混乱のパンデミック、そしてこの円安。なかば諦めていたところを、どういうわけか縁あってノルウェーの首都オスロで開かれる音楽フェスティヴァルに招待していただき、39歳にして生まれてはじめて北欧の地を踏むことになったのだった。いや、というかヨーロッパですらはじめてだ。だからこれは、フェス・レポートであると同時に、海外慣れしていない中年のオスロ初体験記として読んでいただければ幸いだ。

 8月6日の朝、ヘロヘロになってオスロの空港に到着。そこから街の中心地までは電車で30分足らずだ。市街地に着いてまず感じたのは、す、す、す、涼しい……。感覚としては日本の春ぐらいなんじゃないか。地獄のような暑さの日本から逃れ、一週間この気候で過ごせることにまず感動する。すっかり元気を取り戻した僕は、ホテルに荷物を預けてさっそくオスロの街を歩き回るのだった。

 今回、僕が参加したのは毎年夏にオスロの街なかで開催されているオイヤ・フェスティヴァル(Øya Festival)。聞いたことがあるというひとも多いのではないだろうか。日本でも人気のあるビッグ・アーティストが多数出演してきた、いまやノルウェーを代表する音楽フェスティヴァルだ。逆に言うと、僕もその程度の知識しかなかったので渡航前にいろいろと調べてみたのだが、1999年の初開催以降、場所を変えつつ規模を大きくしてきたイヴェントで、オスロの中心地にあるトイエン公園で開かれている現在も高い環境意識のもとに運営されており「世界でもっともグリーンなフェスティヴァル」とも言われているそうだ。
 2024年は4日間の開催で、ヘッドライナーはパルプ、ジャネール・モネイ、(クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジが病気のためキャンセルになり)ジャック・ホワイト、そしてノルウェーのポップ・ミュージシャンであるガブリエル。英米のアーティストを中心にノルウェーのアーティストをミックスしたラインアップで、日本でいうとフジロックと似た傾向の、それよりはやや規模の小さい音楽フェスといった感じだろうか。海外慣れしていないとはいえ僕も音楽フェスは数多く参加してきたので、どういうところがオイヤ・フェスティヴァル独自の面白さなのかを見極めたかった。
 と言いつつ、街のなかで開かれるフェスなので、僕は何よりオスロの街を見られることに興奮していた。それは開催側としてもそういった狙いがあるようで、今回僕がわざわざ日本から呼んでもらったのも、〈Visit Oslo〉というオスロの観光案内会社とフェスが協力しているからだ。オイヤにはほとんどオスロの住民が参加しているそうだが、国外から来るひとに向けて豊かな音楽シーンのある街としてのオスロを見せる意欲があるのだ。


オスロの街なか

 そのことがよく表れているのが、前夜祭的な位置づけとなる〈Club Øya〉というイヴェントで、まずこれが本当に刺激的だった。オスロの街なかにあるヴェニューやクラブ、さらにはオシャレなワイン・バーみたいなところでノルウェーの新人アーティストがライヴを披露するもので、ノルウェーでもまだあまり知られていない存在をアピールするショーケースであると同時に、僕のような観光客にとっては街を歩く機会にもなっているのだ。


Club Øya会場周り


Club Øya会場周り


Club Øya

 それで僕もオスロに着いた初日から、ライヴを観ながら街のあちこちを見ることができた。オスロはちょっと歩いただけで中心部の位置関係が把握できるぐらいのこじんまりした街で、ほとんどのひとが公共機関と自転車、あと電動キックボードで移動している。公園とベンチがたくさんあり、レインボー・フラッグが至るところに掲げてあり、公共的な施設のほとんどはオール・ジェンダー・トイレで、平日昼間からパパが子どもの世話をしている……。ある意味、こちらが勝手に抱いている公共意識や環境意識やジェンダー平等意識が高いとされる北欧のイメージをそのまま引き受けてくれるような都市だ。そして、首都とは思えないぐらいゆったりした空気が流れている。

 街のレコード・ショップ〈big dipper〉(https://bigdipper.no/)にもさっそく行ってみた。オスロでは最大規模のお店だそうだが、店内はワンフロアでこじんまりしている。これがオイヤ・フェスティヴァルのラインアップにそのまま通じているというか、国外のインディ/オルタナティヴ系のアーティストのレコードとノルウェーのアーティストのレコードが6:3くらいの割合で置いてあり、あとは北欧メタル、ジャズなども混ざっている。


big dipper外観


big dipper店内

 お店のひとに話を聞くと、オスロの音楽リスナーはほとんど国内/国外を分けずに聴いているそうで、ノルウェーの音楽シーンはたしかにメタルやIDM/エレクトロニカといった北欧が強いとされているジャンルは人気があるけれども、じつのところものすごく多様なのだという。そのなかで根強く人気があるのはエクスペリメンタルな傾向のあるジャズ。最近はハイパーポップ周りも話題なんだとか。ノルウェーのアーティストって英語で歌うひとも多いですけど、あれはマーケティング的な戦略なんですかと尋ねると、それもあるけど、言葉の響きがまったく違うから音楽的な理由で選択しているミュージシャンも多いと思うよと話してくれた。ガブリエルなんかはノルウェー語で歌ってビッグなポップ・アーティストになったし、と。なるほど、日本にも置き換えられる話かもしれない……などと考えていると、20代前半ぐらいの店員の若者が日本に旅行したときにレコードを買いまくったという話をまくしたててくれた。やはり音楽オタクは世界共通である。


フレンドリーに話してくれたbig dipperのスタッフ

 そのあと実際にいくつかのヴェニューを回ってライヴを観て気づいたのは、ほとんどの会場が小規模で、この〈Club Øya〉というプログラム自体がオスロの音楽シーンをサポートするものだということだ。フェスの案内を読むまで知らなかったのだが、オスロの音楽シーンはコペンハーゲンやストックホルムに比べてヴェニューの数で比較してみてもかなり大きく、「スカンディナヴィアのライヴの首都」とも呼ばれているそうだ。ただ、それらの多くはインディペンデントな規模感で運営されていて、その活気がどの会場からも感じられた。
 僕は6つほどの新人アクトを観たのだけど、総じて音楽的な水準が高く、ジャンルも多様でそれぞれ個性も豊かだ。とくに気に入ったのが洒脱なハウス・トラックにテンション低めだが流麗なラップを乗せるノム・ド・ゲール(NOM DE GUERRE)と、ムードたっぷりのシンセ・ポップを艶やかに立ちあげるグレイトフルーツ(Greatfruit)、ジャガ・ジャジストが好きなひとはきっと気に入るだろうエクスペリメンタルでコズミックな感覚を持ったジャズ・バンドのモンステラ(monstera)。ここからグローバルに人気の出るアーティストもきっといるだろう。様子を見ていると全然違う音楽をやってるバンド同士が気軽にコミュニケーションを取っており、いい意味でシーンの狭さも窺えた。


NOM DE GUERRE


Greatfruit


monstera

 夜21時過ぎまでは明るいので、すっかりフワフワした気分で1杯1500円ぐらいのビールを飲みながら音楽に溢れたオスロの夜を満喫したのだが、朝からノンストップで動き回っていたため23時で腰が限界に。ヨロヨロとホテルに戻る。こんなことで明日からのフェス本番は持つんかいなと自分にツッコミを入れつつ、しかし高揚感と充足感で満たされていたのだった。

(続)

Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

COLUMNS